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忍リクルート  作者: 枝久
十二、

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武士②

 蘇芳丸の反応に、嶽山がぴくりと眉を動かした。そして己の顎を撫でつけながら、狼狽(うろた)える少年に問い掛ける。


「ほう……小僧。どうやら、お前はこの顔に見覚えがあるようだな?」

「うぐっ! お、お、俺は何も知らないぞーー!」

「正直に言えば、命だけは助けてやる……命だけ……」


「つ・ま・り、手足の一本二本は覚悟しとけってさ、蘇芳」


 汎が蘇芳丸の後ろから補足する。そう、嶽山の言葉……裏を返せば、五体満足は保証しないという意味だ。己の欲する情報を相手方から吐かせるまで、拷問により身体を斬り刻むことなぞ(いと)わない、と。


「ようやくの手掛かり……儂はこの機を逃すわけにはいかぬのだ」


 そう(うな)るように呟くと、嶽山は低く腰を落とし、抜刀の構え。左の親指が刀の(つば)をかちゃりと鳴らした。

 それを見て、汎が口を開く。


「ははっ、気合い入ってんな。おい、お前ら。奴の間合いに入れば即斬られる。取っ捕まるんじゃねぇぞ」

「「「はっ!」」」


 三人は忍刀を構えた姿勢で、揃って声を返す。それをちらりと見遣ってから、汎が突如、一足飛びにその場を離れた。


 ひゅんっ……すとっ!


 着地したのは、木陰で(うずくま)る梅丸のすぐ真横。


「?」

「そこの……嶽山と言ったな? ちょっと待っておれ、よっ!」


 言いながら、右拳を振りかぶると、理性を失った少年の頭部に、汎が重い一撃を振り下ろした。


 どごんっ!


 殴られた少年はそのまま顔面を土に付け、ぴくりとも動かなくなった。


 ………………


「な、な、な、な⁉︎」

「えーーっ⁉︎ う、梅ーーっ⁉︎」

「汎様っ! な、何を⁉︎」

「何って……此奴に舌を噛み切られたら困るだろ? ただ眠らせただけだ。二人は全力で梅を守れよ」


「あ、いや、今の一撃のがだいぶ問題かと……」

「なんか言ったか、鉢?」

「いえ、何でもありません」

「で、で、で、では、敵方をお願い致します!」


 鋼太郎が鉢ノ助の腕をぐいっと引っ張り、梅丸の元へと駆け寄る。それと入れ違いに、汎はまた蘇芳丸の横へと戻った。


「汎様が……保護を優先するなんて……」

「うちの子に土産話を聞かれた時、みすみす見殺しにしたとなれば顔向けできん。誰一人、欠けることなく里へと戻る。はぁ……引率ってのは面倒くせぇな。……っと、お前ら! 今のうちに着物は絞って乾かしておけよ! 感冒(かんぼう)やら咳病(がいびょう)になったら、ただじゃおかねぇからな!」

「「は、はいっ!」」


 汎の思考の中心は常に若だ。それ故か、若不在の現状にて言い方は雑だが、配慮はかえって手厚い様相。

 以前の汎では考えられない行動だが、愛しい我が子の存在が、鬼神をも人へと戻すのやもしれない。


 己の言う通りに二人が行動するのを見遣り、汎はまた視線を前方の敵方、嶽山へと向ける。

 

「おい、待たせたな。いいぜ、始めろよ。お前の相手は……浅緋の忍び、この蘇芳丸だ」


 名乗った武士への礼儀として、相手に名を伝え、少年の背をとんと押した。


「汎様……」

「お前は、ただ戦えばいい。単純な話なら、得意だろ? 死にそうになったら助けてやる、たぶんな」

「は、はいっ!」


 蘇芳丸は改めて忍刀を構え直し、数歩前へと足を動かす。だが、武士と真っ向の斬り合いにおいて、忍びは分が悪い。刀の尺寸、忍びの刀は直線的で短い為、敵の間合いに一歩踏み入る必要があるからだ。苦無投げで隙を突いてから斬り込むにしても、相手が手練れであれば容赦なくいなされてしまう。そして……投げの精度が低い蘇芳丸は、最初(はな)からその選択肢を設けてはいない。


 一度『待て』をされ、姿勢を戻していた嶽山も、再度構えを取る。律儀な武士と忍びが対峙し、二人は静かに向き合う。


「浅緋の者と相対し、刀を交えるのは……これで三度目か……」

「えっ?」


 その言葉で、蘇芳丸の脳裏に、今は亡き大樹と亥ノ組の面々が思い浮かんだ。


「同志に、なんでも拾ってくる者がおってな……其奴(そやつ)が瀕死の忍びをわざわざ連れ帰ってきおった。儂は秩父の山中で斬り殺したと思うたのだが、なかなか屈強な身体をした奴でな……」

「大樹……」

「頑丈だからか、色々と薬を試されておったな。四肢を切断した身体で、どれだけ生き永らえるか……とか」

「てめぇーーーーーーっ‼︎」


 嶽山の(あお)りで、蘇芳丸が容易く冷静さを失う。


「よくも大樹兄をーーーーっ‼︎」


 ばっ! ひゅんっ! かきんっ!


 怒りで正面から猪のように突っ込む蘇芳丸! だが、即座に反応した嶽山の抜刀で、少年の身体は側方へと派手に吹き飛ばされた。


「ぐあっ!」

「「蘇芳ーーーーっ⁉︎」」


 鉢ノ助と鋼太郎が仲間の名を叫ぶ!



「くそっ!」


 吹き飛ばされつつも空中で身を捻り、蘇芳丸は木の幹への直撃を免れる。そこを足場にして、またしても敵方へと斬り掛かる!


 かきん! かきん! かきん! かきん!


「甘いな、小僧」


 忍刀は斬り払うよりも突きに適する為、蘇芳丸の攻撃は嶽山に(ことごと)く刃で防がれ、弾かれる。

 飛び掛かる際、地面から片足が離れる瞬間を見抜かれ、踏ん張りの効かない蘇芳丸はまたしても嶽山に飛ばされた。


 ずささささささーーーーっ!


 大地に片手と膝をつき、後方へと滑る身体を制動し、敵を下から睨みつける。


「くそっ! この馬鹿力め!」

「お前は猿か? ちょこまかと小賢しい……」


 そう言いながら、嶽山がぐいっと袖を(めく)ると、傷だらけの太い前腕が露わになる。蘇芳丸に似た顔面は三十路くらいに見えるが、首や手元の皺がそれよりも刻まれた年輪を感じさせた。


「だいたい、俺に何を聞こうってんだよ⁉︎」

「……探し人だ」

「は?」

天道丸(てんどうまる)様……いずれは天下人になると告げられた御子。()の御方の忘れ形見……」

「おこ?」


 首を傾げる蘇芳丸に見せつけるように、嶽山は自分の前髪をざっと掻き上げた。その額と生え際の間には、なにやら細かい縫い目のような傷痕。


「⁇」


 すると、まるでぴんとこない少年とは異なり、汎がいきなり笑い声を上げた。


「はははっ! なるほどな。おい、お前のその面は……()()()()()()()?」

「え?」


「あぁ、そうだ。鬼神、お主も何か知っておるのだな?」

「は?」


 二人の言っていることの意味が全く分からずに、蘇芳丸は嶽山と汎を交互に見比べるのだった。

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