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忍リクルート  作者: 枝久
十一、

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83/90

夢と現

 どたどたどたどたどたーーっ!


 里長屋敷内、廊下を駆け抜ける激しい足音が部屋へと近づいてくる。


 ばったーーんっ!


「若ーーっ‼︎ こ、こ、これは何事ですかーーっ‼︎」

「ん? あぁ……おはよう兄者。朝から随分とまぁ、騒がしいですね……」


 戸を開け放ちながら絶叫する胡桃に朝の挨拶を返し、布団から身体を起こそうとする……が、起き上がれない。


「⁇」


 ばさっ!


 布団を捲り、己の胴体を見遣ると、梅丸と蘇芳丸が腹側と背側から、がっしりと私にしがみついていた。


 ………………


 どうりで重たいわけだな……馬鹿力と悪寝相め。

私は溜息混じりで、背中側に引っ付いた少年に声を掛けた。


「おい、蘇芳。起きろ。そろそろ離してくれ」

「ん? あぁ……あぁっ⁉︎」


 ばっ! ずさささささーーっ‼︎


 寝惚けた声の主は途中で覚醒し、布団を一つ半飛び去って壁際へ、びたっと下がる。

この二人、比べるまでもなく彼の方が寝起きは良い。

そして、鬼の形相な胡桃の存在をしっかりと認識し、目覚めた顔は面白い程に青ざめている。


 私は視線を自分の目の前へと戻し、腹側の彼にも声を掛ける。


「おい、梅。起きろ、おーい」

「うぅん………むにゃぁん……」


 引き剥がそうと頭を鷲掴み後方へと押すが、その手から猫のようにするりとすり抜け、梅丸がさらに深く顔を私の腹へと(うず)める。

……私の痩せた腹なぞ、寝心地良くはなかろうに……肋骨(あばらぼね)が頬に刺さるぞ?


「ば、馬鹿梅! は、早く離れろ! お前、死にたいのかっ⁉︎」


 呆れる私と、今にも梅丸を締め殺しかねない胡桃と、梅丸を羽交い締めにして焦る蘇芳丸。

……(うつつ)は、なんとも賑やかしいものである。


 私は、こめかみに青筋を立てている青年に声を掛けた。


「そう、此奴らを叱らんでくれ。私が勝手に二人の寝所へ邪魔したんだから……昨晩、寝つきにくくてなぁ……じいとばあは樹丸達を寝かしつけていたから、こちらへ……」

「なんで……なんで……なんで……なんで、私の部屋じゃ無いんですかーーっ!」

 

 ………………


 兄者よ……なんでと仰いましても……そういうところがだからですよ?


 私は心の中でそう呟いた。


 合点いかぬとばかりに美しい顔を歪める胡桃に、溜息まじりに言葉を掛ける。


「私はなぁ……胡桃が傍では心が落ち着かず、かえって眠れぬのだ……言っている意味、分かるよな?」

「そ、それは……ぬ、ぬう、んんっ……な、ならば仕方ありませんね」


 軽く咳払いし、僅かに頬を染める胡桃は、それ以上何も言わずに引き下がった。


 ………………


 たぶん、誤解しているな。


 私が兄者の元へ夜分に寄らないのは……幼い頃、布団で寝付くまで延々と凝視され続けてしまうのが嫌で嫌で仕方なかったからだ……寝苦しい。

同様の理由で、余程のことがない限りは父上の寝床にも私は立ち入らない。


「さて、では朝餉(あさげ)と参ろ……胡桃よ。とりあえず、梅を起こしてくれるか?」

「ぐうぅっ……」


 蘇芳にべりっと引き剥がされても尚、いまだ子猫のように布団で眠り続ける少年を指差し、兄者に頼む。


「……」


 わなわなと身体を震わせながら、彼は声を張る!


「梅ぇぇぇぇぇっ! 起きろぉぉぉぉっ‼︎」

「ぎゃあぁぁぁっ‼︎」


 胡桃の怒声と共に、少年は慌てて飛び起きたのだった。



◇◇◇◇



 すっかり空になった鍋を囲炉裏から炊事場へと下げながら、じいとばあ、蘇芳丸、梅丸がいつもよりも慌ただしく動いている。


「ぷはーーっ! 食った食った!」

「ほれ、急げ! さっさと片すぞ、蘇芳!」

「ほれ、梅も!」

「分かってるよぉ〜〜んもぅ、二人とも人使い粗いんだからぁ〜〜」


 囲炉裏端で手早く朝餉を済ませた後、私は先に一人、縁側へと移動し座す。

そして静かに目を瞑り、心を整え……構える。


 ………………


 屋敷に近づく気配を感じ、そおっと目を開けると、程なく鏑矢(かぶらや)鎖紅(さく)を先頭に、皆が音もなく庭へと集まって来た。

昨夜、あの場にいた者達が鉄之進(てつのしん)を除いて再集結する。

皆、余計な口は開かずに、里長を待つ。


 ぱちっと視線が交差すると、鏑矢は柔らかく微笑んだ。

吊り目の目尻が少しだけ下がる。


 元々、亥ノ組の五人は心根が優しい。

それ故に、皆を案じ……自らの心を鬼にして、後輩に厳しく当たっていた。

多くの者は彼等を誤解しているし、本人達もそれをあえて解こうとはしていなかった。

……損な役回りだな。


 隣の鎖紅に視線を移すと、彼は照れたように少しはにかんで笑った。

血色が戻ったな、胡桃の術で傷の回復はだいぶ良さそうだ。


 ばたばたばたばた!


 その時、派手な足音が後方で上がる。


 ………………


 見なくても、蘇芳丸が片付けを終えてやって来たのが分かった。

……分かられちゃ、いかんのだがな。


 やれやれと首を軽く横に振ってから、そちらを見遣る。

辰ノ組も全員揃っているな。


 鋼太郎の顔が見えて……ふと、戌ノ組に思いを馳せる。

彼の六つ上の兄、鉄之進が率いる組だ。

亥ノ組より一つ年上な彼等だが……近頃は、鉄之進以外の四人は表にほとんど姿を見せなくなった。


 戌ノ組は亥ノ組とは異なり、あまり戦闘には向いていない。

だが、秀でた能力を持つ。


 人伝(ひとづて)の情報収集は、花鳥衆のくのいち連中が得意とする。

だが、戌ノ組の得意とする諜報活動は、それよりも大局……国盗りに関わる情勢、動向の把握……敵陣の数やら配置、敵味方の分別を探る。


 人よりも、どちらかと言えば獣に近い。

時には狼の皮を被り、野山に紛れて駆け回る。

望空の術は里でも随一で、敵方に悟られることなく、仕事をこなす……適材適所だな。


 里との連絡役は鉄之進が全てを担い、他の者は人との関わりを極力減らしている。

……下手したら駒と同列の動きに変わってきているやもしれんな。

 

 ぼんやりと考えているところ、背後に父上と胡桃が現れ、私はさっと頭を下げた。


 里長は皆を見回してから、目の前で並び伏した二人に視線を戻す。


「では、始めようぞ。鏑矢、鎖紅……お前達に一体何があったか、申せ!」

「「はっ‼︎」」


 名を呼ばれ、二人は同時に声を発した。

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