表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍リクルート  作者: 枝久
十一、

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/90

川の字

「……か、若? おーい?」

「はっ!」


 呼びかけてくる声に気づいて顔を上げると、目の前には里長屋敷があった。

ぼんやりとしたままに足だけは動かし、いつの間にか到着していたようだ。


 私の顔を覗き込みながら、蘇芳丸がにやにやと笑う。


「なんだ? お前、歩きながら寝てたのか? ははっ、夜中まで起きてらんないなんて、小せぇ(わっぱ)と同じじゃねぇか……ぐはっ!」


 ごん! ぐしゃ!


 私を揶揄(からか)う蘇芳丸は、言葉の途中で父上と胡桃の二人から同時に潰された。

……いつも通りの軽口を叩くからだ。

もう少し周りを見てから発言しろ、阿呆め。


「ひゃっ!」


 蘇芳丸の隣で見ていた梅丸は、無惨にも潰された少年を見て驚いた……ような素振りを見せている。

だが、口元を手で覆い隠しているが……その手の下は、小馬鹿にしたような顔を浮かべているはず。

……お前も、もう少し上手くやれんもんか?


 小さく溜息を吐き出してから、蘇芳丸の腕を掴み、ぐいっと引き起こした。


「痛ててっ……」

「寝る前に着物を汚す奴があるか、馬鹿たれ」

「……」


 『俺のせいじゃねぇ!』と言いたげな目をしているが、余計なことを言わぬよう、口を真一文字にして噤んでいる。


 草履を脱ぎ、框を上がると、今度は梅丸が私に向けて小首を傾げながら声を発した。


「ねぇ、若。あの二人に術かけたから、また空っぽになっちゃったの? 言ってくれれば、梅が背負ってあげたのにぃ〜〜」

「……」


 私は無言で、梅丸の小さな額を指先で弾いた。


 ぺしんっ!


「きゃんっ!」

「阿呆なこと言ってないで、さっさと休むぞ。父上、胡桃、どうぞお休みください」

「うむ」

「では、明朝に……」


 頭を下げ、廊下で別れ、其々が自室へと進む。


 簡素な寝支度をして、布団を敷き、床に入って目を閉じた……が、なかなか寝付けない。


 真夜中、静かな屋敷の中には、深い眠りについている子供らの寝息が耳に響いてきた。

これから、泉丸を狙いにまた刺客が来る。

彼の命を奪うまで、幾度でも幾度でも送り込んでくるだろう。


 里を守る者達と、筑貢達の策略を潰しに行く者と……編成が必要になる。


 これは、(いくさ)だ。


「私は……どちらに組まれるか……」


 (まぶた)を開き、天井を見つめ……布団からそっと身体を起こした。



 布団を抱え、廊下を進み、目的の部屋前で足を止める。


 こんこんっ……


  戸を軽く叩き、まだ起きている様子の室内の者に声を掛けた。


「……入るぞ」

「「⁉︎」」


 返事を待たずに戸を開けて中へ入ると、暗闇で二人揃って首をこちらに向けたのが分かった。

……珍しく、大声を上げなかったな、蘇芳丸。


「な、何してんだよ?」

「若、どぉしたのぉ〜〜?」

「……」


 すたすたすた……とすん!


 ひそひそと小声で掛けられた問いには答えず、二人の布団の間へと進み、己の布団で真ん中を陣取った。

三つの布団が川の字に並ぶ。

中央の布団に横たわって、私は静かに口を開いた。


「お前達はまだ元服前だが……稲刈りを終わらせたらすぐ、任務に出てもらわなければならぬと思ってな……」


 私の言葉を受け、蘇芳丸が力強く答える。


「おう! 任せとけ! 絶対、筑貢を倒す!」

「……お前一人で乗り込ませるわけじゃないから、とりあえず、まぁ落ち着け……」

「仲間の幹兵衛が行方知れずなのに、梅達を里にお留守番させるわけないもんねぇ? でもさぁ……」


 ふいに梅丸の声が陰る。


「何だ、梅?」

「ねぇ、若。幹兵衛達は……捕まえたら……殺すの?」

「……私が……彼奴等を殺したがってるように見えるのか?」


 逆に問いかけると、梅丸はふるふると首を横に振るように頭を転がした。


「彼奴の毒は……私の身代わりで負ったものだ。まだ私は……幹兵衛に償いすら出来ていない」

「そっかぁ……」

「なぁなぁ。幹兵衛の父ちゃん母ちゃんも、あいつを助けたくって敵に寝返ったんだろ? だったらさぁ……筑貢も風魔もぶっ倒して、幹兵衛の解毒方法を聞き出して、そんでもって木賊家の皆を里に連れ帰れば、家族揃ってお(とが)め無しでもいいんじゃないか?」


 真実はまだ、里の皆には伏せてある。

集会ではあくまでも『間者が草兵衛殿と芹殿だ』ということだけを伝えた。

幹兵衛の犯したこと、二人が筑貢と手を組み医術を利用して暗躍していること……それらを知らせては皆の統率が乱れる。

何よりも……全てを(つまび)らかにすることで、心を痛める者達が大勢いる。

……まだ、言えない。


「お咎め無し、か……そうだといいんだがな」


 素直に語れる蘇芳丸を少し、羨ましく思った。


 私は言葉を曖昧に濁し、ごろりと身体を動かして彼に背中を向けた。

先程から静かになった梅丸も戸の方を向いて身体を丸くしている……もう、眠いのだろう。


「私は……ただ……また、里の皆と平穏に暮らしたい……それだけが願いだよ。蘇芳、梅……」


 ………………


「ぐぅ」

「すぅすぅ……」

「……寝たか」


 二人の寝顔を見遣ってから、私も夢の中へと落ちていった。



◇◇◇◇



「ここは……一体……?」


 ぽつりと呟き、ぼんやりとした(まなこ)で辺りを見回す。

どこまでも深く深く……切れ間のない闇が広がりゆく空間……だが、不思議と寒くも怖くも無い。


 ………………


 あぁ……きっとここは……夢の中なのだろう。


 どこか冷静な頭の一部がそう私に囁き教える。


『和迦……』


 ふいに私の名を呼ぶ、よく知る声が聞こえた。


「……これも幻聴なんだろう? なぁ、幹兵衛」


 声のした方を振り向くと、眼鏡の少年が闇の中で佇んでいた。


罪人(つみびと)である僕の……こんな屑のような命を()して……それでも……朽ち果てる最期まで闘うと誓うよ』


 いつもの辿(たど)々しげな口振りとは違う。

聡明な本来の彼とも言うべき声音。


『ごめんねぇ、若ぁ……』

『すまぬ……』


 また、別な二つの声が聞こえ、はっと振り返るとそこには草兵衛殿と芹殿の姿があった。

肩を寄せ合い、申し訳なさそうに俯いている(さま)が、なんとも痛々しい。


 ……これは……夢なのか?

それとも……これが、何かの術であり、私の夢を通して伝えてきているのか?

何方(どちら)かは分からぬな。


 かしゃん……からから……


「?」


 乾いた音が響き、視線をそちらに動かすと、無数の髑髏(しゃれこうべ)の山からその骨片が崩れて転がる。

……数多(あまた)(しかばね)の上に成り立っている世界。

それが我等、忍びの生きる道。


 私はそっと一歩、足を踏み出す。

すると三人の姿は、ふうっと闇に溶け、消えた。


「見つけるよ、すぐに……私から会いに行くから……」


 ……ただただ、今は……血が通った貴方達と、面と向かって話がしたい……それだけを、切に願うよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ