戻りし者、帰らぬ者①
稽古場の集会に、その者達は姿を現した。
ざっざっ……じゃらん……
「はぁ……はぁ……」
「……うぐっ」
体力の限界か……忍び足は叶わずに愛用の鎖の音を鳴らしてしまった忍びと、腹を抑えて足を引き摺る忍びの二名が、暗闇から出づる。
纏った装束からは血がぽたぽたと滴っていた。
ざっ……
構えていた忍び達が皆、二人に道を開けるように両側へと開き、里に戻りし両名を花道で迎え入れるような形となった。
皆、里長より先に言葉を掛けることが憚られ、ただ無言で傷だらけの仲間を見守る。
「鏑矢! 鎖紅! 里長の御前だ、その場で止まれ!」
「よい、よい……おい、他の亥ノ組はどうした?」
里長が制し、二人に話を促す。
満身創痍で帰還したのは、里長の指示で任務に出ていた亥ノ組の五名のうちの二名。
がくっと、膝を大地に付き、二人は荒い息を上げながら、言葉を発する。
「も、申し上げます! 亥ノ組の井蔵、右近、左近は……敵衆に捕縛される寸前で……じ、自害致しました……」
「っ⁉︎」
ざわっ!
皆の不安が波紋のように伝播し、その波は瞬く間に大きくなる。
ざりっ……
鏑矢の言葉で、群衆の中、一人の忍びがその場に崩れ落ちた。
だが、両膝が地面に落ちる寸前で周囲の者達が拾い、彼女を両脇から支える。
花鳥衆長の芽吹……目は虚い、完全に血の気の失せた顔は、重力に抗うことなく下を向いていた。
ぎりっ……
もう一人、己の拳を強く握り締めている青年は……丑ノ組の千鳥だ。
亥ノ組の右近、左近の両名は彼の実の兄達。
まだ未熟な弟とその仲間達を里に留まらせたくて、随分と手厳しい扱いを繰り返していた。
「そうか……」
報告に対し、そう一言だけ呟き……里長が沈黙した。
頭の中で言葉を選ぶ為、眉間を指でつまみ、目を閉じている。
それは……刹那……
ひゅんっ……じゃらんっ‼︎
突如、鎖紅の手から鎖分銅が目にも止まらぬ速さで爆ぜ、一直線に獲物の元へと飛び出した!
くいっ! かくんっ!
伸び切る手前で、反対方向に力を掛けられた鎖は急直角に曲がり、分銅は妖のように対象を捉え、ぐるぐるとその身体を絡め取る‼︎
「えっ?」
「なっ⁉︎」
「鎖紅っ⁉︎ 貴様、な、何をっ⁉︎」
驚きの声が上がるのと、鎖の反対に繋がれていた鎌が、重なる樹丸と泉丸の身体を貫いたのが……同時だった。
ざしゅっ‼︎‼︎
「ぐがっ……」
「ごぼぉっ……」
小さな二人の口からは苦悶の言葉と血が吐き出され、ぼたぼたと大地が紅く染まる。
「はっ!」
じゃらんっ!
いつの間にか彼等の傍らに立った鏑矢が、その突き刺さった鎌の柄にそっと手を掛け……それを一気に動かし、二人の身体を縦に引き裂いた‼︎
ぶしゅぅっ‼︎‼︎
「「ぎゃぁーーっ‼︎」」
小さな身体に似合わぬ縦穴が空いた二人の胸からは、多量の鮮血が空に向かい勢いよく吹き出した!
「八郷城の若殿……泉寿……ここに討ち取ったり……」
じゃらん……
鎖に巻かれたままの二人を粗雑に掴んだまま、鎖紅と鏑矢は、にやりと笑った。




