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忍リクルート  作者: 枝久
十、

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76/90

策謀

 ざっ!


「「「若ーー‼︎‼︎‼︎」」」


 風を身に(まと)い、庭に駆け込んできたのは……梅丸、鉢ノ助……そして、幹兵衛の追跡に出していた鋼太郎!

三人が同時に声を発した。


 ざっと彼等の顔を見回す。

皆、一様に険しい顔をしている……当然だ、信頼する仲間が己に何も告げることなく、里から消えたのだから……。


 梅丸は丑ノ組からでも事情を聞いたのだろう……そして鉢ノ助と連れ立ってきたな。

畑作業や鍛錬がない時、梅丸には青葉邸で花鳥衆の指示に従うよう伝えてある。

 

 一月(ひとつき)後は早稲(わせ)刈りで忙しくなる頃なので、花鳥衆に今は割と(いとま)を与えている。

この一時(ひととき)くらいは、くのいちとしてではなく、年頃の娘衆として過ごしてほしい……今朝のような騒ぎはちと困るが、な。


 私は視線を動かし、左端で最も顔を歪める少年の名を呼んだ。


「鋼太郎……」

「は、はっ! ほ、報告です! 幹兵衛を戌ノ組、駒と共に追いましたが、川を渡られ、気配が途切れました……し、周辺を引き続き探っております!」


 報告の為に、里へ鋼太郎だけが帰されたな。

まだ元服前の半端者(はんぱもの)を里外へ出したままにしてはおけない、戌ノ組の判断は妥当だが……鋼太郎の身体からは悔しさが滲み出ており……彼、本来の性格が僅かに顔を覗かせた。


 すると、顎に手を当て報告を聞いていた里長が、静かに声を発する。


「胡桃……捏……」

「はっ!」

「くるっくー!」


 ばさささっ!


 里長の一声、頭を下げた胡桃の肩に、屋根の上にいた河原鳩が舞い降り、そっと止まる。

 

「行け……だが深追いはするな……それと……」

「……はっ!」


 最後、里長が胡桃にそっと耳打ちした言葉は、私には聞こえず……捏を伴い、彼は音もなく姿を消した。

胡桃の言惑操術『樹区(いつく)』……樹々の力を借りるのだろうが……父上、一体何を伝えたのだ?


 そっと見上げ、父上とばちっと視線が交わるが、にこりと笑顔を返され……はなから私に教える気がないのがその瞳から伝わった。


 改めて、社の方角の空を仰ぐ。

幹兵衛が馬鹿な真似をする前に、どうか連れ戻してくれ……。

目を閉じ、心の中で祈り……再び、そっと目を開く。


「じい、ばあ! 樹丸と泉丸をそちらへ……」

「「はっ!」」


 私の一声で、翁達が胡桃と入れ替わるかのように同じ位置に現れ、頭を下げる。

二人に少年達を任せ、囲炉裏部屋は私と里長、辰ノ組の四人だけとなった。


 どすん!


「はぁ……全く、里に戻った途端に次から次へと……」


 大きな音を立てて着座した父上が、大きく溜息を吐き出した。

その様子を見て、私は皆を振り返る。


「お前達、楽に話せ。幹兵衛は何か言っていたか? 覚えていること、何でもいい、知ることを……」


 彼等に話を振るが、一人の口も開かず。


「誰にも……何も言わず……か。幹兵衛らしいが……」


 ぎりっ!


 思わず、握った拳に力が入る。

これは……己に対する『怒り』……全てに遅れを取る、愚かしさ。


「っつうか、若。さっきの話、本当か? (まじな)いだなんて……」

「蘇芳……」


 素直な少年は腕を組み、首を傾げた。


「『呪詛(じゅそ)』による厄災で村人が全滅した話や、『魂呼(たまよ)びの儀』で死者が息を吹き返したという逸話も風に聞く。此度も、城の若君達の命を使い、奴等が『何か』を謀っているのは、ほぼ間違いないだろう……」

「なっ⁉︎」

「はぁ?」

「え? え? え?」


 まだ事情を知らぬ三人が揃って驚きの声を上げた。

無理もない……私だって眉唾(まゆつば)ものだ。

そんな摩訶不思議(まかふしぎ)なことがそうそう有ってたまるものか……だが、求める事象が起こるかどうかは、さておいても……何かしらの『儀式』を執り行う可能性は高い。


 呆けてる三人に、地図を見せて指し示し、筑貢の策謀(さくぼう)の仮説を唱えた。


「ち、筑貢の里の……ふ、復活? も、もう死んだ忍びを、い、生き返らせようとしてるのかな……こ、こ、こ、怖いよぉぉぉっ!」

「肉は朽ち果てて、粉々に砕け散った骨は土に還ってるでしょう? 無理無理ぃ〜〜!」


 鋼太郎と梅丸が口々に声を上げる……ん?

おい、待て待て。

筑貢が里の再興を企んでいるやも……とは言ったが、死者の黄泉(よみ)がえりの話はしておらんぞ?

先程の例えと混同しておるのか?

思考が飛躍しすぎだ。


「屍を生き返らせたって……仕方ねえのに……」


 悲しげに、そう呟く鉢ノ助……彼の脳裏には小松殿、牡丹、菊の三人の顔が浮かんでいるのだろう。


 ぎりぎりと見えない何かで、胸が押しつぶされているような感覚……呼吸を阻害されるかのようだ。

……だが、私の心は何一つ悟られぬよう、ふいっと視線を逸らす。


 そして、鉢ノ助は続ける。


「よっぽど時でも戻せるなら話は別だろうが……」

「「時を……戻す……?」」


 勘の鋭い彼の言葉を聞き、私と父上が同時に呟いた。

  

 ………………


 あぁ……そうか。

芹殿と草兵衛殿は……脅されているわけではない。

どこで繋がったかは分からぬが、筑貢の奴等と協定を結んだのだ!

同じ目的を果たす為の『同志』として……。


 なんて……なんて、愚かだ。


 時を操るだなんて……人間ごときに出来るはずもないのに……。

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