策謀
ざっ!
「「「若ーー‼︎‼︎‼︎」」」
風を身に纏い、庭に駆け込んできたのは……梅丸、鉢ノ助……そして、幹兵衛の追跡に出していた鋼太郎!
三人が同時に声を発した。
ざっと彼等の顔を見回す。
皆、一様に険しい顔をしている……当然だ、信頼する仲間が己に何も告げることなく、里から消えたのだから……。
梅丸は丑ノ組からでも事情を聞いたのだろう……そして鉢ノ助と連れ立ってきたな。
畑作業や鍛錬がない時、梅丸には青葉邸で花鳥衆の指示に従うよう伝えてある。
一月後は早稲刈りで忙しくなる頃なので、花鳥衆に今は割と暇を与えている。
この一時くらいは、くのいちとしてではなく、年頃の娘衆として過ごしてほしい……今朝のような騒ぎはちと困るが、な。
私は視線を動かし、左端で最も顔を歪める少年の名を呼んだ。
「鋼太郎……」
「は、はっ! ほ、報告です! 幹兵衛を戌ノ組、駒と共に追いましたが、川を渡られ、気配が途切れました……し、周辺を引き続き探っております!」
報告の為に、里へ鋼太郎だけが帰されたな。
まだ元服前の半端者を里外へ出したままにしてはおけない、戌ノ組の判断は妥当だが……鋼太郎の身体からは悔しさが滲み出ており……彼、本来の性格が僅かに顔を覗かせた。
すると、顎に手を当て報告を聞いていた里長が、静かに声を発する。
「胡桃……捏……」
「はっ!」
「くるっくー!」
ばさささっ!
里長の一声、頭を下げた胡桃の肩に、屋根の上にいた河原鳩が舞い降り、そっと止まる。
「行け……だが深追いはするな……それと……」
「……はっ!」
最後、里長が胡桃にそっと耳打ちした言葉は、私には聞こえず……捏を伴い、彼は音もなく姿を消した。
胡桃の言惑操術『樹区』……樹々の力を借りるのだろうが……父上、一体何を伝えたのだ?
そっと見上げ、父上とばちっと視線が交わるが、にこりと笑顔を返され……はなから私に教える気がないのがその瞳から伝わった。
改めて、社の方角の空を仰ぐ。
幹兵衛が馬鹿な真似をする前に、どうか連れ戻してくれ……。
目を閉じ、心の中で祈り……再び、そっと目を開く。
「じい、ばあ! 樹丸と泉丸をそちらへ……」
「「はっ!」」
私の一声で、翁達が胡桃と入れ替わるかのように同じ位置に現れ、頭を下げる。
二人に少年達を任せ、囲炉裏部屋は私と里長、辰ノ組の四人だけとなった。
どすん!
「はぁ……全く、里に戻った途端に次から次へと……」
大きな音を立てて着座した父上が、大きく溜息を吐き出した。
その様子を見て、私は皆を振り返る。
「お前達、楽に話せ。幹兵衛は何か言っていたか? 覚えていること、何でもいい、知ることを……」
彼等に話を振るが、一人の口も開かず。
「誰にも……何も言わず……か。幹兵衛らしいが……」
ぎりっ!
思わず、握った拳に力が入る。
これは……己に対する『怒り』……全てに遅れを取る、愚かしさ。
「っつうか、若。さっきの話、本当か? 呪いだなんて……」
「蘇芳……」
素直な少年は腕を組み、首を傾げた。
「『呪詛』による厄災で村人が全滅した話や、『魂呼びの儀』で死者が息を吹き返したという逸話も風に聞く。此度も、城の若君達の命を使い、奴等が『何か』を謀っているのは、ほぼ間違いないだろう……」
「なっ⁉︎」
「はぁ?」
「え? え? え?」
まだ事情を知らぬ三人が揃って驚きの声を上げた。
無理もない……私だって眉唾ものだ。
そんな摩訶不思議なことがそうそう有ってたまるものか……だが、求める事象が起こるかどうかは、さておいても……何かしらの『儀式』を執り行う可能性は高い。
呆けてる三人に、地図を見せて指し示し、筑貢の策謀の仮説を唱えた。
「ち、筑貢の里の……ふ、復活? も、もう死んだ忍びを、い、生き返らせようとしてるのかな……こ、こ、こ、怖いよぉぉぉっ!」
「肉は朽ち果てて、粉々に砕け散った骨は土に還ってるでしょう? 無理無理ぃ〜〜!」
鋼太郎と梅丸が口々に声を上げる……ん?
おい、待て待て。
筑貢が里の再興を企んでいるやも……とは言ったが、死者の黄泉がえりの話はしておらんぞ?
先程の例えと混同しておるのか?
思考が飛躍しすぎだ。
「屍を生き返らせたって……仕方ねえのに……」
悲しげに、そう呟く鉢ノ助……彼の脳裏には小松殿、牡丹、菊の三人の顔が浮かんでいるのだろう。
ぎりぎりと見えない何かで、胸が押しつぶされているような感覚……呼吸を阻害されるかのようだ。
……だが、私の心は何一つ悟られぬよう、ふいっと視線を逸らす。
そして、鉢ノ助は続ける。
「よっぽど時でも戻せるなら話は別だろうが……」
「「時を……戻す……?」」
勘の鋭い彼の言葉を聞き、私と父上が同時に呟いた。
………………
あぁ……そうか。
芹殿と草兵衛殿は……脅されているわけではない。
どこで繋がったかは分からぬが、筑貢の奴等と協定を結んだのだ!
同じ目的を果たす為の『同志』として……。
なんて……なんて、愚かだ。
時を操るだなんて……人間ごときに出来るはずもないのに……。




