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忍リクルート  作者: 枝久
十、

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75/90

五芒星

 囲炉裏横の床板上に、ばさりと地図を開く。

それをぐるりと囲うように、私達は皆で頭を突き合わせる。


「樹丸は地図が読めるか?」

「い、いえ……申し訳ありません」

「いや気にするな……では言葉を変える。今まで移り住んだ村の周りに、何か目印になるような目立つ物は無かったか?」

「目立つ……?」

「山だったり、大きな川だったり、砦だったり……何か気づいたことは……」


 私の言葉を受けて暫し考えるように、読めない地図上で視線を泳がせてから樹丸がはっと顔を上げた。


「あ……寺と……大きな沼です!」

「ん? それはどういう……?」

「む、村を転々と移動したのですが……一時的に定住している間も美都利様は寺へと足を向けていたと思います。そして、それは沼からもそう遠く離れていない距離だったかと……」

「……そうか」

「で、それと戌ノ組の妙な報告とやらに何の関係があるんだ?」


 (しび)れを切らせた父上が口を挟んできた。

私は指をそっと地図の上に置く。


「戌ノ組の報告……彼等には亡き若君達についての情報を集めさせていたのですが、どうも毒殺だけではないようで……」


 とん、とん、とん……


 南方の城を順に指差す。


「どこまで正確かは分かりませぬが……密やかに弔いを行った城の者が『御身があまりにも軽かった』という言葉を漏らしたと……」

「幼子の身体なら軽くて当然だろう? 死体は硬くなった後に弛緩すれば糞尿を垂れ流す。中身が無くなればその分、軽くなるだろうに……」

「もしくは……身体から『何か』を抜き取られていたのではないか……と」

「何かとは?」

「臓物かもしれませんし、血かもしれません……」


 私の言葉に父上が顔を(しか)める。


何故(なにゆえ)そのようなことをする必要があるのだ?」

「憶測ではありますが……北の羽行(はご)城、西の瀬能(せの)城、東の吉伏(よしふせ)城……そして此度は失敗に終わった東南に八郷(やさと)城……」


 そっと、一つ一つの城を指差す。


「そして仮に……ここ、西南の沢狭(ざわせ)城……これらを繋ぐと……五芒星の形になります」


 素早く地図をなぞり、繋げる。


「まさか……筑貢の忍びは、(まじな)いか何かを仕掛けようとしている……とでも言いたいのか?」

「まだ分かりませぬが……その可能性も考えられるかと……目的の為にこの五つの城とその他の城も含め、若君達が(にえ)にされたのではないかと……そして……」


 とん!

 

 丁度、五芒星を描いた中央に指を置く。

指の下……そこには武蔵国内でも大きい沼『浦沼(うらぬま)』が存在する。


「これは……果たして偶然なのでしょうか?」

「……ここに筑貢の里を再度、創り出そうとしている……ということか?」

「……」


 肯定も否定も出来ぬ、まだ仮定の話だ。

だが……気がふれた人間が何をしでかすかなぞ、こちらからでは予想がつかない。


 そっと懐から胡桃が(したた)めた報告の書を取り出し、項を(めく)る。

毒女の似絵(にせえ)を開き、樹丸へと向けて面通しすると、彼はびくりと身体を揺すった。


「うぅ……美都利様……」

「彼奴らの思うようにさせてなるものか」


 思わず、握る拳に力が(こも)る。


「なぁなぁ、若。泉丸が生きているんだから、あいつらの術だかなんだかは完成しねぇんじゃねぇの?」


 蘇芳丸が思ったままに言葉を口に出す。


「……まだ泉丸と樹丸が浅緋の里にいると気付かれていないだけ……知られればこちらに命を狙いにくるやもしれんぞ?」

「ははっ! そうなったら全員ぶっ倒すまでだ!」


 がんっ!


 蘇芳丸が両拳を胸の前で打ちつけ、にやりと笑う。


「……そういえば父上。卜寸殿ですが……噂に聞いていた性格とは大分異なっていたのですが……」


 荒くれた武将だと聞いていたが、千鳥の話ぶりから小姓や家臣から信頼を得ていたように思う。


「あぁ、それ? 俺が以前、卜寸に言ったんだ。『敵を欺くにはまず味方から』ってなとこだ。愚者のふりをすることは、己を(あなど)ってかかる者を蹴散らすに都合が良いからなぁ」

「なるほど……」


 父上の言葉に合点がいった。

本来の八郷城は利発な城主が指揮を取る城なのだな……これは筑貢の忍びも誤算だったのではなかろうか?

しかし父上……城主殿の名を不敬にも呼び捨てるとは……交友関係、ほとほと謎である。


「しかし……浦沼の辺り……寺なんてあったか?」


 ぶつぶつと顎に手を置き、首を傾げている。

その視線が一瞬、蘇芳丸に向いた。


「‼︎」


 蘇芳丸が急にぴしっと姿勢を正しくしたが、視線はその隣の樹丸に向けられたものだったよう、父上が少年に声を掛けた。


「おい小僧! (かぞ)え名で呼ばれる者はお前の知る限り何人だ?」

「ひっ! し、知る限りでは、じ、十二に御座います!」


 震える声で樹丸が言葉を返し、頭を下げた。

仇だと教え込まれた恐ろしき忍びを前に、怯えるのは当然か。


 その時、屋敷へと俊足で走り来る忍びの気配が風に乗って舞い込んだ。

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