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忍リクルート  作者: 枝久
十、

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73/90

推察

 ばさばさばさっ‼︎

 

 木賊の家中の書棚に並ぶ書物、片っ端から読み漁る。

彼女は言っていた……調合をする者は何かしらの記録を残す、と……。

探せ……何か、何か手掛かりがあるはず……!

()く気持ちで取り損ねた書が、棚の上から雪崩(なだれ)落ちる。


 ばさばさばさっ……!


「くっ!」


 己の手から……何もかもがすり抜けていくような錯覚。

脳裏には大地に倒れ込む幹兵衛の姿が浮かび、背筋が凍る。


 こんこんっ!


 その時、戸口の柱を軽く叩く音が鳴り、はっと振り返る。

木戸は先程、派手に開け放した時に、無惨にも外れていた。

その戸口、顔は逆光で見えないが、よく知る存在が声を掛けてきた。


「どうした? そんなに慌てて……」

「ち、父上!」

「汎様……」


 ずかずかと土間に踏み入り、(かまち)にどかっと座ると、私と胡桃を交互に見比べた。

父上……夕刻までお戻りにならないかと思ったが……心が少しだけ、ほっと平静を取り戻す。


「幹兵衛が……里を出ました」

「何?」


 ぴくりと、彼の片眉が上がる。


「和迦……お前が知ることを全て話してくれ」

「はっ!」



◇◇◇◇



 一通り私の話を聞き終えると、父上はわなわなと拳を震わせ、その顔は鬼の形相へと変わる。


「井蔵め……俺への報告を怠るとは、後で折檻(せっかん)だ! そして、木賊の二人! 何としても引っ捕らえる‼︎」


 父上としても理由くらいは吐かせたいのだろう、意外にも『二人の首を()ねろ』とは言わなかった。


「折檻はおやめください。井蔵はあの段階では確証が無かったのでしょう……里の仲間を疑うなど……」

「では、いつ気付かれたのです?」


 胡桃が私に問い掛けた。


「井蔵に言われて、考えたのだ。まずは、里を出入りする者……ふと、ある者に対して疑念を抱いたのは、ここでだ」


 私は地面をすっと指差す。


「この前、芹殿に会った時、彼女は無邪気に私に抱き付いてきた……が、里長代理に対してそれは無礼な行為。いくら乳母とて、良識ある彼女の行動らしからぬ、と」


 私に対して無礼なのは蘇芳丸くらいだ。


「あの時、私の氣は空だったので、察することはできず、さして気にも止めなかった……が、私を……その手に掛けようとしたのではないか、と……幹兵衛が側にいたので、踏み止まったのやもしれません」


 あれがもし、彼女と二人きりだったら……完全に油断している私の首など簡単に()じ切れただろう。


「そして、樹丸の身体中に仕込まれた物を見た時、高い医術を施せる者がこの件に関わっている……と」

「筑貢の美都利は、過去に片眼も頭も半分潰している。奴には到底無理でしょうね」


 胡桃は眉を(ひそ)め、視線を少し遠くに向けている。

あの夜に遭遇した敵方の忍びを思い返しているのだろう。


「現に、樹丸の身体から出た手掛かりを探るよう伝えた丑ノ組が、鼻のきく駒と共にここ木賊邸を訪れています」


 父上が腕組みをし、何やらじっと考え込んでいる。


「もし……芹と草兵衛が間者だとすれば……あれは、また話が違ってくるやもしれん……」

「「?」」


 神妙な顔で口を硬く(つぐ)んでいる……何を躊躇(ためら)っておいでか?


「どうか構わずに、仰ってください」

「……四年前、疫病を赤もがさと特定したのは……誰だ?」


 その言葉で、はっとする。


「そう、草兵衛だ……あの後、混乱が落ち着いてから、近隣の状況も調べさせた。周辺でも疫病は確かに流行っていたが……浅緋の里の致死率はとりわけ高かった」


 父上の言葉で、四年前の記憶が一気に思い出され、思わず私は頭を抱える。


「わ、和迦⁉︎」

「だ、大丈夫だよ胡桃……そ、それよりも……これは……彼奴(あやつ)には知られてはならないな……」


 里の罹患者の為にと届けた薬草粥……あれが……もしも薬ではなく、毒だったなら……?

流行り(やまい)に侵され弱った身体は、呆気なく散ってしまう。


 愛する家族に、己が毒を与え死に追いやったと彼が知ってしまったら……手拭いを巻いた少年の笑顔を思い出し、私の胸はぐっと締め付けられた。


「鉢ノ助……」


 無意識に、口から彼の名が(こぼ)れ出ていた。

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