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忍リクルート  作者: 枝久
十、

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72/90

馬鹿者

「蘇芳、樹丸……」


 二人の背後から私は静かに声を掛けた。

同時に彼らが振り向き、私と胡桃に驚いた顔を見せた。


「思いの外、戻ってこないと思ったら……蘇芳。水浴びさせろとは言ったが、衣のまま泳げとは言っていないぞ?」


 溜息と共に呆れた声が己の口から漏れた。


 隣の胡桃は言葉を発するのを控え、無言でうんうんと頷いている。

樹丸に配慮してなのだろう。

彼が不用意に言葉を紡げば、容易くこの少年の身体の自由を奪ってしまう。


「わ、若! そんなことより大変なんだ! 大樹のこと!」


 慌てる蘇芳丸を手で制し、隣の少年に視線を向ける。


「樹丸……お前が知ってること全て、私達に話して欲しい……が、その濡れた着物のまま屋敷に上げるわけにはいかない。代わりの着物を引っ張り出そう。とりあえず戻……」


 その時、後ろから走り来る気配……四つ⁉︎


 ばっ!


 言葉の途中だが、里の中央通りを振り返る!


「わんわんわんっ!」

「駒⁉︎」

「若ーー! 大変です!」


 犬の駒を先頭に、丑ノ組の三人が後に続く。

いつも優美な元が焦った声を上げた!


 千鳥は私への報告後、青葉邸へと向かった為まだ三人と合流していないようだが……何かあったか⁉︎


「み、幹兵衛がっ‼︎」


 常吉が顔を歪めて声を上げた!



◇◇◇◇



 ざざっ!


 炎天下、急ぎ里を走り抜け、木賊の家に向かう!

皆、一言も発せず、私に続く。

先程の志麻の悲鳴の時と同様、この暑さなのに冷たい汗で身体が凍っていく感覚だ。


 ……どうか杞憂であって欲しい。

心からそう願いながら、足を一段速めた。




 ばんっ!


「幹兵衛ーーっ‼︎」

「わ、若……」


 激しい音を立て、家の木戸を開け放つ!


 だが、その家の中にいたのは、眼鏡の少年ではなく、辰ノ組の鋼太郎だった。

……今にも泣き出しそうな顔だ。


「み、幹兵衛が……」

「⁉︎」


 彼の両手の中に握られているのは、竹皮でできた(ふみ)が一枚。

その手が微かに震えている。


「見せてくれ!」


 ばっ!


 奪い取るかのように文を掴み、ざっと視線を走らせる。

幹兵衛の書いた文字……久々に見たが……ははっ、汚いな。

蚯蚓(みみず)が這い回ったようで、ひどく読みにくい。

読めないでほしい。

この目が間違いであってほしい。


 目の前の現実が……私には受け入れ難い。



『己の責任を取る為、筑貢を追います  幹兵衛』



「幹兵衛っ! ふざけるな、あの馬鹿者め!」


 ぐしゃ!


 思わず手に力が入り、握り潰した竹皮が裂ける。

文を左手に持ち替え、右手を土間に突く‼︎


「顕霞!」


 どんっ! ぶわっ!


 己の霞を広げ、里中を全力で探る!

……だが、どこを探しても眼鏡の少年の姿は見当たらなかった……。


 あの瀕死な身体で浅緋の里を出ただと⁉︎

幹兵衛よ……お前一人で一体何ができるというのだ?

なぜ、私達を頼らない?

どうして……どうして……お前達は……。


「若?」


 丑ノ組の三人も、樹丸を小脇に抱えた蘇芳丸も、状況が分からず困惑の表情を浮かべている。


 ただ一人、冷静な胡桃だけがじっと部屋を見回した後、足元にいる犬の駒を見つめ……理解した。


「若、私の方からよろしいでしょうか?」

「……胡桃……いいだろう、頼む」


 彼の表情から、私が隠そうとしていたものが露呈してしまったことを悟る。


「これは緊急の事態。浅緋の全忍びの召集を願います」

「……そうだな。まずは里内にいる者に周知させようか……だが、その前に一度、どうしても里長と話がしたい。それが済み次第、号令を掛ける」

「はっ!」


 皆に視線を走らせ、指示を出す!


「丑ノ組三名は千鳥と合流し、暫し休息を取れ! 鋼太郎は駒と戌ノ組に幹兵衛の捜索を指示し、お前も同行を! あの身体ではそう遠くへは行けないはず……。蘇芳と樹丸は里長屋敷へと一旦戻れ!」

「「「「「はっ!」」」」」

「わん!」


 すたっ!


 皆が一斉に飛び出し、胡桃と私の二人きりとなった。


「……この前、若が隠していたのは……このことだったのでしょう?」


 けして責めるつもりではない柔らかな声が兄者の口から溢れる。


「あぁ、あの時は……確証がなかったから、言えなかった……すまん」


 私はそっと頭を下げた。

すると、彼の指が私の顎をくいっと持ち上げる。


「貴女の頭を下げさせたい訳じゃない。どうか……一人で抱え込まないで……」


 その言葉でまた涙が込み上げる。

 

 情け無い……己が本当に情け無い……。

目を(こす)ってから、彼に視線を返した。


「胡桃に言われた通りだ。この前、井蔵から聞かされた『浅緋の里に間者がいる』と……」

「誰か……既に若には見当がついていらっしゃったんでしょう?」

「あぁ……だが、その名を出して弁解の余地なく消されては困ると思い、濁した……それがこんなことになるとは……幹兵衛……彼奴(あやつ)も気付いたのだ」

「つまり、それは……」

「あぁ、間者は芹殿……そして恐らくは草兵衛殿も……」


 主が不在、もぬけの殻となった木賊の家の中で、私の声だけが妙に響いたのだった……。

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