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忍リクルート  作者: 枝久
六、

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里長と蘇芳丸④ ーあの時の赤子ー

今回は前回部分に重なる里長、汎視点のお話です。


「あ〜! 汎様が帰ってる!」

「どうなるか楽しみだなぁ」

「蘇芳、怪我すんなよ〜〜!」


 周囲には俺と蘇芳丸の手合わせ見物に、里の者達がわらわらと集まってきていた。


 皆、懐かしい顔ばかりだ……奥州へ行く前はまだ幼かった子らも、二年経てば面影はあるものの随分と様相が変わる。



 ……四年前のあの疫病以降に亡くなったのは……大樹だけ、か。

俺は里を離れていたから和迦の側に居られなかった。

きっと……その小さな肩を震わせて、泣いたのだろうな……お前は……あまりにも優しすぎる。


 忍びに向いていないのは、蘇芳丸よりも……むしろ和迦の方だ。


 愛する我が子よ……こんな荒れ果てた戦国の世であっても、出来るだけ争いから遠ざけた綺麗な場所にお前を置いてやりたい。

その為には、どんなにこの手が汚れようとも(いと)わない……たとえお前がそれを望んでいないとしても……。



 ざっ……


 和迦に蘇芳丸の中の氣を消させて、改めて生身の奴と対峙する。


 うちの子と唇を重ねたのは万死に値するが、一思いに首を()ねるわけにもいかん……そんな事をすれば、俺は愛娘に嫌われてしまう! 

ええい、もどかしい!


 ぎっ!


 睨みつけると一瞬、びくっと怯んだが、すぐに少年は仔犬のように瞳を輝かせて俺を見返してくる。


 ……阿呆か? 

俺を買い被りすぎだぞ、蘇芳丸。


 拾ってくれた恩人とでも思っているんだろうが、お前の命を……俺はなんとも思っていない。

その辺に転がる木の枝と遜色(そんしょく)無し。

あの日、拾ったのは……ただの気まぐれだ。


 ちらりと、梅丸の横に立つ眼鏡の少年を見遣る。

……しかし、幹兵衛や……蘇芳丸に一体、お前は何を飲ませたのだ?


 さっき削り取った体力が、もう回復しているだと⁉︎

……俺が言うのも何だが、こいつは化け物だ。

腕っぷしだけなら、既に胡桃を凌駕(りょうが)している、か。


 まぁ……だが、あいつは言惑操術が使えるからな……単純な蘇芳丸では、胡桃にはどうやっても勝つことは出来ないだろう……俺ですら、氣を抜くと危うい。



「蘇芳……」

「はいっ!」

「死ぬ気で来いよ?」

「よろしくお願いしますっ‼︎」


 ひゅっ!


 挨拶直後に、全速力で跳び、間を詰め、一閃を振るう‼︎


 がっ!


「ぐぁっ!」


 和迦の氣が抜けた蘇芳丸は、俺の一撃を左脇腹にもろに喰らった!


「はっ! なんだ……拍子抜けだな」

「ぐふっ‼︎」


 口から吐瀉(としゃ)液を撒き散らす蘇芳丸。


 弱ぇっ。

なんだ、がっかりだな……ん?


 ひゅんっ!


 瞬間、蘇芳丸の一突きが俺の頬をかすめる! 

速いっ!


 ………………


 なるほど。

肉を切らせて骨を断つつもりか……。


 俺の気配は掴めないと(はな)から認め、代わりに、攻撃を喰らった瞬間に木刀を脇に挟み固め、反撃を繰り出してきたのだ!


 捨て身な戦法……頑丈なお前だから出来る……と、でも思ったか?


「誰がお前の相手をしてると思ってんだ? あぁ?」

「っ‼︎」


がん! がん! だん! ごきっ! がごんっ!


 幾度の打撃を加えただろうか?

その度に、中々良い攻撃を返してきたが、俺には届かない。

どんな技でも当たらなければ何の意味も無いのだ。


 頑丈な蘇芳丸がようやく地に膝をつき、ぐらりと前方へ崩れるように倒れこんだ……。


 ざすっ‼︎


 蘇芳丸の首の両側に、木刀を二本突き立てる。


「……本当……お前は面白ぇな」


 気を失った少年からは、俺への返事は無かった。



◇◇◇◇



 十四年前ーー



「はぁ、はぁ、はぁ……ど、どうか……この子だけは……」


 遠く、炎に包まれた天守閣が見える。

俺の目の前には、今にも絶命しそうな血塗(ちまみ)れな女が、木陰で息も絶え絶えに言葉を吐き出す……と同時に血も吐いた。


 女の後ろには引き摺った足で描いた血の跡が奥まで続く。

……あの城から、よくここまで逃げてきたな……既に目もやられていそうだ……もはや執念か。


 しかし胸糞悪い……女を滅多刺(めったざ)し、か。

臆病者、弱い輩の仕業だな。

……俺だったら、苦しまないように一瞬で首を斬り落としてやるのに……。


「……分かった。もう眠れ」


 俺の言葉で、女は少しだけ微笑んだ。


 ひゅん! すとん……


 首を落とし、命を終わらせたが……女の肉塊は丸い包みを抱えたまま。

死んでも尚、守るかの如く……。


「子供?」


 女は実母か乳母か……最早どうでも良いか。

……包みを開くと、眠った赤子の顔がちらりと見えた。


「……うちの子と同じくらいか」


 俺は……どのくらい浅緋の里に帰っていないだろう?


 次々と依頼を受けてはこなして、戦場を渡り歩き続けている。

此度の依頼は、焼け落ちた城から逃げる残党の殲滅(せんめつ)だ。

任務はほぼ遂行した……この赤子を除いて……。


「さて、では殺すか……恨んでいいぞ? ……次に生まれ変わったなら、太平の世で多幸ある人生を送ることを祈る……」


 ひゅん!


 言い放ってから、刃を突き刺す寸前で、赤子の瞳がばちりと開いた。


 ぴたっ!


「?」

「……っ!」


 俺を見返してくる純粋無垢な瞳に、不覚ながら狼狽(うろた)えてしまった。

……狼狽える? まさか、この俺が?


 この感情は……一体、何だ?


 最愛の妻、茉莉を失い、現実を受け入れることができず、我が子に向き合うことからも……俺は逃げて逃げて……今、戦場(ここ)にいる……その俺の前に……赤子だと?


 『逃げるな』って言いたいのか……茉莉?

俺は……本当に弱い男だ。


「ははっ、皮肉だな……」


 包みをそっと閉じ、懐に捩じ込んだ。

これで窒息するのなら……この餓鬼(がき)の人生、そこまでよ。

だが、もし生き残ったなら……里で育ててやるさ。


 ぽんっ!


 俺は腹の膨らみを軽く叩いたのだった……。



◇◇◇◇



 和迦は必死に、蘇芳丸を生まれに帰してやりたいと手掛かりを探していたが……それは無駄なこと。

奴の故郷は、とうに燃え落ちた瓦礫(がれき)の城だ。


 蘇芳丸……お前には和迦の為に生きる以外、道は無いんだよ……捨て駒の……忍びの軽い命だ。

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