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忍リクルート  作者: 枝久
五、
40/89

鼠取り③ ー仕上げー

 胡桃の説明を聞き、事がひと段落したことに安堵する。


「手間をかけたな」

「貴方様の為なら、この程度の労力なぞ(いと)いませんよ」


「そうか……おい。お前達も、もう入って来て良いぞ」


 私の一声で、天井裏にいた皆がこの客間へと瞬時に降り立つ。


「おい若! 俺の活躍見たか⁉︎ どうだ! 見直したか? 俺のことすぐに元服させたいだろ⁇ な? な?」

「わ、若、か、身体は大丈夫なの?」

「酔い、効く、薬」

「流石の若にも弱点があったんだなーー」

「今度、諜報帰りに美味しいお酒、持ち帰ってきてあ・げ・る」


 見舞いのつもりなのか……五人がわらわらと集まり、私の周りで好き勝手に話を始める。


 ………………


 忍びなのに、お前ら、ちと(やかま)しいぞ。

それとも興奮しているのか? 

初めての辰ノ組としての活動に……。


 そして……もう少しくらい、私に対しての敬意というものは無いんだろうか?


 隣の美しい青年をちらりと見上げる。

あぁ、胡桃のこめかみの血管、今にもぶち切れそうだ。

……それとも緊張感が欠けるのは、この着物のせいか?


「お前達、気を抜き過ぎだ」


 ばさっ


 布団を剥がすのと同時に、着物からいつもの忍び装束へと着替えた。


 ……胡桃よ。

何故そんなに残念そうな顔をする?


 かたん!


「……和姫は随分と皆に慕われているなぁ」


 戸が開き、腕を組みながら入ってきた一蜂殿がにやりと笑う。


「お恥ずかしい限りです」


 次期城主殿に頭を下げる。


(おもて)を上げてくれ。皆のお陰でこの城は護られたのだ」

「はっ! 有り難きお言葉……」

「……もしもこの先、我が城が潤ったなら……其方(そなた)に改めて婚姻の申し込みをしても良いか? 今度は正式な……花婿として……」


 私の頬をそっと触りながら、一蜂殿が尋ねてくる。

予想外のお言葉だ。


「「「「えーーーー⁉︎⁉︎」」」」


 私が返事するよりも早く、皆が大声を上げる!

……幹兵衛以外。


「婿……? 嫁……」


 言いたいことは分かるが、とりあえずお前は黙っていてくれ。


「お前達! 不敬だぞ‼︎」

「良い良い」


 けらけらと笑いながら、大目に見て下さる一蜂殿。


「その時が来たら、また、ね」


 最後に蓮姫様の声色を出し、貴人は部屋を後にした。



「我らも……最後の仕上げをせねばな」


 そう言って私は立ち上がった。



◇◇◇◇



 ざっ!


 全員揃って、本曲輪へと出る。


「出てこい!」


 城壁近くに潜ませた鼠達が胡桃の指示で姿を現す。


 流戸の忍び鼠六匹と、大鼠……元上級家臣一匹の計七匹だ。

全員、(うつ)ろな瞳、光を反射しない暗い洞穴の様だ。


 蘇芳丸が不思議そうな顔で聞いてくる。


「忍びはともかく、家臣の野郎は屋敷も財産も役職も剝奪(はくだつ)されたんだよな?……もう価値なんてこれっぽっちもないだろ?」

「噂を広げる役目は一匹でも多いに越したことはないんだよ。此奴らを(ほう)々に散らせ『吉伏城に次期城主が誕生した』と吹聴させるのだ」


 蓮姫様の当初の願い通りに……。



◇◇◇◇



 吉伏城主の冬実殿と私、一対一で向き合う最上階の間。

胡桃も辰ノ組五人も下がらせた。

城主殿が貧乏な忍び里の若造に耳を傾けてくれること事態、有り得ない事なのだが……冬実殿は気にする素振りはない。


「もっと気楽に話そうぞ」


 ご機嫌が宜しい様で……顎髭をしきりに撫でているから毛並みが(つや)々だ。


「はっ!」


 気楽にと言われた(そば)から深々と頭を下げてしまった。


 条件反射とは恐ろしい……。

だが、私の態度を然程(さほど)気にせず、城主は続ける。


「先程は実に見事であった! 流戸の忍びを捕らえ、蓮姫の願いを叶え、源泉まで掘り起こすとは……」

「勿体ないお言葉に御座います」


 私はそっと頭を下げる。


 ……最後のは忍びの仕事では無いがな、(むし)ろ失態……たまたま鉢ノ助の運が良かっただけ。


「儂に二言は無い。褒美を取らそう……其方(そなた)、何が望みだ?」


 そして私も運が良い。

今朝方に里を出る時は、冬実殿の口からこのお言葉が出るなど予想もしていなかった。


 此度、城へ来た目的……。

ふうっと一息吐き出してから、申し上げる。


「これから半年後……我が里で新たに元服する予定の忍び達がおります。……どうか、その者達を吉伏城のお抱え忍びにして頂きとう御座います!」


 深く深く、頭を下げた。


 今回の騒動で辰ノ組の危うさを見た。

考えが甘く、術は未熟で、一歩間違えれば命を落とす者もいたかもしれない。

今の段階では、元服は……まだ遠い。


 ……それでも、彼らに可能性を……光を見た。

忍びが……辰ノ組が命ある限り生き抜いていく為に、良き城主殿と(えにし)を結びたいのだ。


 忍びの単発の仕事、報酬度合いにより任務の危険度は大きく左右される。

浅緋の忍びの命が軽んじられぬよう、こちらは手厚く戦略を立て、里の者を守れるよう智略を巡らしてきたつもりだ。

適材適所で任務を命じてきたが、依頼の中には一癖も二癖もある雇主も紛れる……私が守るには限界があった。


「過保護ではありませぬか?」


 ……普段、私の行いに口を挟まぬ胡桃が苦言を呈したことがあった。


 当然だな……忍びの里長に、私は向いていない。

それでも、私の望みは……ただ、皆が幸せに生きてくれることだ。

まだ、五人の素直な気持ちは聞けていないが……。


 (かす)かでも良い……彼等が食っていける様に、単発の仕事では無く永続的に仕える繋がりを……。


 その点、吉伏城の冬実殿は良き城主だ。

城の懐具合では、浅緋の忍び全てをお抱えには出来ないが、五人だけならば可能だろう。


「面を上げよ……若……そんな事で良いのか?」

「⁉︎」


 顔を上げると、呆気に取られた顔をする冬実殿の顔が目に入る。

きっと私も似た様な顔をしているのだろう。


「よ、良いのですか? 粗暴に瓦を破壊したり、敷地に大穴を開ける様な奴らですよ⁉︎」

「……若は勧めたいのか、(けな)したいのか、どちらなんだ?」

「そ、それは……」


 聞かれて、思わず(こぶし)を握り込む。


「殿に勧めたい忍び達です!」


 瞳を真っ直ぐに向け、言葉を放った。


「うむ、良かろう。こちらとしても好都合だ。半年後、楽しみにしておるぞ」

「はっ! それまでに奴らを鍛え上げ、吉伏城へ仕えるに値する忍びへと育てましょう!」


 心より御礼申し上げ……下がる前にあと一つ……。


「あの……ご無礼承知で……もう一つ確認させて頂きたいのですが……破壊した物の弁償は如何様に……?」


 恐る恐る尋ねる私を見て、城主は大声で笑った。

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