居ない
今話は蘇芳丸視点です。
翌朝。
隣で眠る梅丸を起こすことから俺の朝は始まる。
夜は寝相が悪いし、朝はなかなか起きやしない。
囲炉裏前には既に食事の準備がされていた。
「はい、朝餉じゃよ」
「箸取ってきてくれ」
じいちゃんとばあちゃん、いつも早起きで……ありがたい。
「わかったよ、ばあちゃん」
「おおっ⁉︎ そうだ、ばばあだよ! どうした蘇芳⁉︎ 今日は勘が冴えてるな! 」
どうやら、当たりだったらしい。
……あれ? もしかしたら当たるの初めてかも⁉︎
「今日は雨が降るか、槍が降るか……。なんまんだーー」
ばあちゃんじゃない方……じいちゃんが手を合わせて激しく拝み始めた。
……なあ、ちょっと俺に失礼じゃ無いか?
やっと長寿の双子の見分けがついただけで、そんな扱いって……。
「ふわぁ〜〜……なんで分かったんだ?」
梅丸が後ろから声をかけてくる。
「なんでって……なんとなく?」
表現が難しい。
ばあちゃんだと思ったから、そう声が出た……ただそれだけ。
「ふ〜ん……若のお陰じゃない?」
「⁇⁇ なんで若? 関係なくねぇ?」
「……分かんないなら別にいいや」
ふいっと顔を背け、梅丸はすたすたと台所へと行ってしまった。
何なんだ? いったい。
がらっ!
「あっ、汎様おはようございます!」
「……おはよう」
戸が開き、着物が裸けた状態の汎様も囲炉裏部屋に現れる。
相変わらず朝は弱いようで、気怠そうな動き……だが、いつも以上にむすっとした表情。
なんだかとても機嫌が悪そうだ。
里長屋敷内、夜の挨拶後に朝餉が終わるまでは家族として暮らす習慣。
その間は汎様から殺気は放たれない……余程のことを俺がやらかさなければ……。
………………
……ん? ……あれ? おかしい。
いつも最初に居て挨拶を交わす存在が、未だ部屋に現れない。
なんだか調子が狂う。
「……若と胡桃は?」
「あぁ、二人なら今朝早く出掛けた」
俺の問いに、じいちゃんが答える。
「ちっ」
舌打ちをする汎様。
「……いつ帰るかもわからん」
そう言って、懐からそっと竹の皮を取り出した。
◇◇◇◇
急ぎ朝餉を腹に流し込み、里長屋敷から幹兵衛の家に向かう。
あいつなら何か知ってるはず!
いつも何でも知っている。
「蘇芳? 何してんのーー?」
「羽筒?」
途中、呼び止めてきたのは、くのいち花鳥衆で一番の噂好き。
樫の木の上から軽やかに飛び降りる。
すたっ!
「何急いでんのーー?」
「あぁ? 別にいいだろ?」
出鼻をくじかれ、つい言い方が荒くなる。
「つれないなぁ。顔に出過ぎ。若に怒られるよ? あ、若と胡桃出かけてるんだったっけ」
「えっ⁉︎ 何で知ってんだ⁇ っつうかどこ行った?」
若が浅緋の里にいない……これは異常事態だ。
俺が覚えている限り、若が里を出たのは茸狩りや近隣の城への挨拶等で動く際の数回のみ。
汎様は若を里という檻の中に、大事に大事に閉じ込めて、まるで何かから護ろうとしている様相。
今回、その御人が何も言わないというのがまた何とも不気味。
企み……そんな気がしてしまうのだが、考えすぎか?
「それが人に頼む態度かい? うん?」
にやにやと嫌な笑い方をするくのいち。
こいつは情報に対して、いつも対価を求めてくる。
そして、だいたい……
「……何が目的だ?」
「梅ちゃんの秘密を一つちょうだい! そしたら、知ってること教えてあ〜げる」
そう毎回、梅丸の事を聞き出そうとしてくる。
……強請りたいのか? 梅丸、恨まれてるのか?
全く何やらかしたんだか……。
「いいだろう……そうだな、梅丸は……寝る時、丸まって寝る!」
「やだ、可愛いーーーー‼︎‼︎ よし、私の知る事を教えてあげよう!」
……こんなので満足か? よくわかんねぇな。
「若と胡桃はね……吉伏城から書状で呼び出しがあったみたい。暁に出掛けるのを見かけてね……聞き耳立てたら、そんな話してた」
吉伏城?
よく浅緋の里に仕事を寄越してくれる得意先ではないか。
そこまで遠くない城に、何でそんな朝早くに立った?
「それ以上は知〜らな〜い。じゃあねーー!」
そう言って、羽筒はすっと姿を消した。




