表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍リクルート  作者: 枝久
三、
25/89

夕暮れの座談

 夕暮れの空は好きだ。

曖昧さが混じり合って、やがて夜を連れて来る。


 里長、胡桃、私の三人で囲炉裏を囲むように座る。

暗くなる室内に火を灯し、鉄瓶を掛けた。


 屋敷内では、蘇芳丸が目を覚ました気配を感じる。

後で様子を見に行かねばな。


「まあ、気楽に話そうではないか。で、此度(こたび)のかくれんぼはどうだった? 楽しかったか? ん?」


 小さい子供に問うように、父上がにこにこと私に尋ねる。


「はい。大変……楽しゅうございました」


 私も幼な子のように、本心を告げた。


 それを聞いて、父上も胡桃も一瞬驚いた顔をし、そして、ふっと笑った。

二人とも心の何処かで、私が子供らしく居られないことを気に掛けていたのだな。

忍びなのに……ほとほと私に甘いなぁ。


「里長代理を任せてから、皆と遊ぶこともなかっただろうからな。お互いの成長も見られたようで何より何より」


 湯が沸き、胡桃が淹れてくれた茶を(すす)る父上。

熱かったのか、口元を押さえている。


「父上のお眼鏡には叶いましたか?」

「う〜ん、まずまずだね」


 のらりくらりな躱し言葉。


「それにしても胡桃……俺の居ぬ間に、全くうちの子に何を教え込んだのやら」


 じろりと胡桃を見遣る。


 まぁ、面白くはないのだな。

不在の二年の間に変わった事、変わらぬ事、それらを共有できていない疎外感。

父上は元来、寂しがり屋だからな。


「ふふっ、若は筋が良いので、物にされましたね。素晴らしい。他の者では到底無理でしょう」


 穏やかに胡桃が微笑む。


 褒めて貰って恐縮だが、まだまだ、私の術は未熟だよ。


「基本である『氣』の操作、若は格別。そこからさらに発展させて、型を作っておられます。応用できれば、かなり有益かと……ただ、誰がどれだけこの術を扱えるかは、まだ見当もつきませぬが……」


 もし、実践で使用できるなら、浅緋の忍びが生き残る確率は格段と上がる。


「実際、どのように使ったか、教えて貰おうか?」


 そう父上が催促する、好奇心が抑えられぬ輝く瞳。



 私は草叢での蘇芳丸とのやり取りを思い出す。


「大地に手を突き様子を探ったところ、僅かですが、具合の芳しくない様子が感じ取れました。早目に終わらせねばと思い、蘇芳丸を捕縛するには如何に? と考えました。」

「蘇芳は気合い入れ過ぎ、空回りだな」

「うつけですね。体調管理も出来ぬとは……」


 笑う父上と溜息を出す胡桃。


 私は続ける。


「捕まった者は音鳴玉を鳴らす様、辰ノ組は決め合っていたようです。三つ目の音鳴玉を響かせれば、一瞬気が逸れ、隙が生まれると思い、奪った玉を鳴らしました」


「で、その瞬間に術をかけた、と?」


 父上の言葉に、頷く。


「私の術はまだまだ不完全。蘇芳や鉢ノ助のように勘のいい輩では『氣』を送り込んだことを察知されてしまう。逆に条件が合えば、まんまと術中に嵌められます。」

「ああ、馬鹿だからな」

「……」


 父上も辛辣(しんらつ)だ。

こういう所、胡桃と父上は何故だかよく似ている。


「顕霞の術の応用……鉢ノ助には『新月』暗闇を見せる術、そして蘇芳には『(おぼろ)』をかけました。」

「『朧』?」

「はい。悪夢を見せる術……とでも言いましょうか?」


 蘇芳丸が何を見たのか、本人しか知り得ない。

見たくないものを見せてあげられたはず。

……これで、また一つ嫌われたかな?

 


 私達が扱う『氣』とは……何とも摩訶(まか)不思議なものだ。

様々な性質を持つが、陰氣、陽氣に大別され、それに加えて、色を持たせることもある。


 不調な蘇芳丸に敢えて、混じり色の陰氣を送り込んだ……『朧』は幻覚術だ。


「弱っているとはいえ、私との力量差は大きい。幻を見て蘇芳が暴れ回り消耗した所を捕らえようと図っていたら、彼は勝手に意識を失いました」


 私の説明に頷く二人。


 あくまで、私は見せる側。

何を見たのかは本人のみぞ知る。


「気絶し、泣いて怒る程とは、如何なる酷い夢だったのか……気になるねぇ」


 父上が、にやにやと悪い笑みを溢す。


「いくら朦朧としていたとはいえ、夢か現実か分からぬ状況へ追い込めるとは……その術は今後、試していく価値がありますね」


 胡桃が神妙な面持ちで呟く。


「あっ……」


 鋼太郎達が、屋敷から出ていく気配……帰るのか。

蘇芳丸が起きたな……ん? また寝たか?


「あいつら挨拶ぐらいしていきゃ良いのに……」

「里長の談話中には、入って来れませんでしょうに」

「あぁ、それもそうか」


 父上は里長としての自覚が薄くなる時があるが、そういう場合は大抵、胡桃にお小言(こごと)を言われる。


「蘇芳が起きたら、話しておけ」


 父上がこちらに向き直る。

先程とは打って変わって真剣な眼差し。


「覚悟を決めろ、と」

「はっ!」


 ……それは果たして、どちらの意味なのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ