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忍リクルート  作者: 枝久
二、
14/89

鉢ノ助③ ー父ちゃんー

 合同弔儀が過ぎて、里には少しずつ日常が戻ってきていた。

いつまでも哀しみに暮れているわけにはいかない、生活は続いていくのだから……。


 うん、分かってる。


 俺は幹兵衛の家にお礼を言って、またあの家に戻り、一人で父ちゃんの帰りを待つことにした。


 持ち主がいなくなった畑を、目的も無くただぼんやりと耕す毎日。


 織部の爺さんの畑、実が大分大きくなってきたな。

もう収穫できそうだ……今年は豊作だよ、爺ちゃん……一緒に食いたかったな。


「鉢ノ助……久しぶりだな。ちょっといいか?」

「……若」


 かたんっ!


 (くわ)を置いて、声の主にぺこりと頭を下げた。


 若に会うのは、竹藪で穴から助けてもらったあの日以来、半年ぶりか。


 里の寵児(ちょうじ)は、疫病から守る為という名目で、籠の鳥のように長らく幽閉されていたと聞く。

元々、白い肌がさらに透き通ったように見える。


「あ、そうだ……若、ごめん」

「?」

「貰った手拭い、始末されてしまったんだ」


 看病に使った品物は疫病の根絶の為、全て処分された。


「鉢、謝らないでくれ……」


 若が哀しげな顔で、次の言葉を選んでいる。


「これから……庚辰(かのえたつ)衆が里に戻ってくる。お前も屋敷に来てくれないか?」

「えっ! 父ちゃんが‼︎」


父ちゃん……父ちゃん……‼︎

やっと帰ってくる‼︎ やっと会えるんだ‼︎



◇◇◇◇



 里長屋敷……若に呼ばれ、囲炉裏部屋の戸の隙間から、こそっと中の様子を覗き見る。


 囲炉裏端に五人の忍びが片膝を付き、里長に礼を向けている。


「庚辰衆、只今、帰還しました!」

「うむ、よくぞ戻った」


 胡座(あぐら)をかき、頬杖を付いている汎様。


 しーんと、空気が……怒りを(はら)んでいる。


 静かに父ちゃんが声を絞り出す。


「長……何故我らを……帰還させなかったのですか?」


 里長の命令は絶対だ。

帰還の許可を出さなかったのは、汎様の判断。


「納得いかないか? (ろく)ノ助」


 冷たい瞳を父ちゃんに向ける。


「殴れば良い、ほれ」


 汎様はくいっと顎を上げ、右の頬を突き出して……父ちゃんを挑発した。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」


 がんっ!


 父ちゃんの拳が汎様の頬を殴りつける!

だが、重い一撃を受けても、その場から胡座を崩すことなく、汎様は微動だにしない。


 あの父ちゃんの拳を受けて、何で平気なんだ⁉︎ 化け物か⁉︎


「陸よ、その程度か?」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 がんっ! がんっ! がんっ!


 (あお)られて、さらに拳が入る。

一発、また一発……。


 がらっ!


「父ちゃん、もう、やめてよーーっ‼︎」

「鉢ノ助⁉︎」


 俺は思わず、戸を開けて飛び出していた!


「父ちゃん! うぅっ! 父ちゃんっ!」

「は、鉢ノ助……すまなかった……」


 しがみついた俺を父ちゃんがきつく抱き締めた。


「お前が生きているっ‼︎ 生きているっ‼︎」


 頭の上からぽたぽたと水が落ちてきた。

……泣いているの? 父ちゃん?


「分かってる……あのとき……里に戻って俺達が全滅するわけにはいかなかった……分かってる……分かってる……が……」


 さらに強く、ぎゅうっと抱き締められる!


「それでも、俺は、俺は……お前達の元に駆けつけたかったのだ……」

「と、父ちゃぁぁぁぁぁぁん‼︎」


 内に溜まっていた涙が枯れ果てるまで、俺と父ちゃんは泣き続けたのだった……。

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