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第九話 実家へご挨拶をしよう


 期末テストが返却されて、悲喜交々な声でクラスが包まれた。だがそれ以上に皆は来る夏休みに向けての解放感で浮き足立っていた。


 高校生活はじめての夏、喧騒に眉を顰めつつ、それも仕方ないと思い、個人的にはこれからしなくてはいけないことを考えると憂鬱にならざるを得ない。


 そんなことを思いながら昼休みに食事をしていると、案の定といった具合に柳城が切り出した。


「浅海。夏休みはどこ行くとか決めてるの?」


「ああ、実家に帰る予定だ」


 そういえばそうか、長期休暇だもんね〜と柳城が納得したような相槌をうつ。

というかたぶんだけどこいつの中では夏休みも俺と一緒に遊ぶことは確定してるんだろうな。


「いつ帰るの? それが終わったらどっかに遊びに行こうよ」


「夏休み初日から最終日までずっとだな」


「えっ!? じゃ、じゃあその間ずっと遊べないじゃん……?」

 

 よほど予想外だったのか珍しい大声。

いや、夏休みなんだから光熱費等を抑えるためにそのほうが効率がいいだろう。こちらだって別に帰りたくて帰るわけではないのだが、誰かのおかげで補修等の予定も無し。地元でのんびりするのが今年の夏の予定だ。


「う……うぐぅ……な、夏はずっと遊べないの?」


「無理だな。俺の実家まで来るなら話は別だけど」


 流石にそこまで遠くの場所まで追いかけてはこない。そう思ってたかをくくっていると、おずおずと言った様子で柳城が聞いてくる。


「ちなみに、ご実家はどこに……?」


北海(きたみ)市のほうだけど。あの温泉地で有名なところ」


北海(きたみ)? 一応県外じゃないんだね。遠くはあるけど……」


 北海市は全国でも有数の温泉街のある街だ。

それに都心からのアクセスもそれなりのため、海岸沿いのホテル群とあわせて、夏になれば多くの海水浴客が観光に訪れる場所だ。


 ただ流石に電車通学するには遠いので、俺は実家からではなく一人暮らししている。まあ、主たる理由はそれだけではないのだが。


「……北海、北海かあ……うう……行きたいな……」


「北海に観光に行きたいなら少しは口利きしてやれるぞ。旅館とかを格安で紹介できるんじゃないか?」


「……そうなの? 地元民すごいなぁ

……うん? あれ? 北海市……北海で浅海?」


 しまった。口を滑らせた。

もしかして気づかれたか?


「もしかして……浅海グループと何か関係あるの?」


 ……遅かれ早かれこうなるとは思っていた。

隠してはいないし別に構わないけど。

 浅海グループ……浅海家は北海市を中心としてホテル業や観光業を主軸に、主にアミューズメント系の運営を行う財閥系企業である。とはいってもその傘下企業はかなりの規模であり、県内では飲食系や物流系など幅広い分野での活躍を見せる総合複合企業と化している。


「……まあ、俺はその浅海の縁者なんだよ」


「し、知らなかった……てっきり名字が同じだけかと思ってたよ。浅海ってお坊っちゃんって感じ全然しないし」


 柳城はその事実に目を丸くした。

 まあ、それはそうだろうなと思う。

俺はどこからどうみても冴えない高校生だし、浅海の本家の人間とは雰囲気からして違う。

それに厳密にいえば俺は浅海家の人間ではないのだから。


「じゃ、じゃあ浅海のおうちって相当なお金持ち……なのかな?」


「そうなる。結構伝統的な家だから、挨拶するために帰らないと怒られる」


「大変だね……うーん……。……ん?」


 すると、何か妙なことを思いついたらしい。

にやっとしたかと思うと、むふふ〜とまたへんなことを企みはじめたようだ。

こうなると止められないのは今までの経験でわかっている。


「浅海、ホテルとかの口利きってどのくらい安くしてくれるの?」


「……とりあえずやってみないとわからないが……。

お前、まさかとは思うけど着いてくるつもりか?」


「うん! 浅海がお得にしてくれるなら、今年の夏は北海で観光でもしようかなって。

それにまあ北海なら少し面倒ではあるけど、何度か遊べるだろうし」


「はぁ……いや正直北海からここまでけっこう遠いから億劫なんだけどな……」


 まあ、観光して地元に金を落とさせるなら本家のほうでも悪い扱いはされない……のだろうか?

正直一度もこういった機会がなかったからわからない。


 でもまあ北海はここからはかなり遠い。

1日かそこら泊まらせたら、後はなぁなぁにして誘いを断る口実にもなるだろう。

夏ぐらいは1人でゆっくりする時間を作れそうだ。


「よーし。じゃあ浅海さん。できるだけお安くなるようにおうちの人を説得してくれたまえ」


「おう、3割安くなっても一泊3万数千円程度だろうが、まあなんとかやってみる」


「3、3万円? それは……むぅ……」


 いや、うちの直営してる旅館ならそれぐらいはするからな。まあ来るならお客さまとしてきちんとおもてなししてやろう。

流石に出費が痛いのか唸り始めた柳城は置いといて、これから連絡する親族のことを考えた。


 このときはどうせたいして安くもできないだろうし、高校生の財力では断念するだろうと安請け合いしてしまったのだが。

この判断は間違いだったと、早々に後悔する羽目になる。


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