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エピローグ ぼく達の夏は始まった


 夏休みも中盤に差し掛かった。

暑さの盛りを迎える中で、陽炎に揺らめく外の様子を眺めながら、マンションの下にあるコンビニでアイスを買う。


(……よしと、割と安っぽい味が好きなんだよな)。


 一番安いかき氷状の棒アイスを複数本買って、そのまま自分の部屋に繋がるエレベーターに急いだ。

あんまり遅いと拗ねてしまう。


「ただいま」


「おかえり〜祐介」


 自分の部屋に戻ると、だらけながらもきちんとおかえりと返ってくる。最近ではそれが当たり前になってきて、そんな些細なことに幸せを感じた。


 今の愛美は、以前のようにひらひらやリボンのついたかわいい服ではなく、タンクトップにショートパンツと言った格好で、ショートヘアの髪型によく似合っている。

まあ俺としては、愛美がどんな格好をしていても、きっと気に入ってしまうんだろうけど。


「アイス〜アイス〜おっ流石だね祐介。褒めて遣わす」


「明日はお前の番だからな」


「わかってるって……いやあアイス美味しいね〜」


 結局、愛美はあの家出の後も俺の家に頻繁に足を運んでくるようになった。

いや、どちらかというと日用品やお小遣いをせびるために実家に帰っているので、半ばこの家に住み着いているも同然だ。


「夏休み前までは海水浴とかキャンプとか考えてたけど、やっぱり至高なのは家でゆっくりすることだよ」


「……まあ、そうだな。家で過ごすに越したことはない」


 ふとテレビをつけると、暑い中で野球に勤しむ高校生達の姿が映し出される。

汗をかきながら野球ボールを追う姿は、いかにも青春と言った感じで眩しく見えた。

愛美にとってはあまり楽しい光景では無いのでは?と一瞬思ったが……。


「……不思議だね。祐介」


「どうかしたのか?」


「いやね、前まではこういうスポーツの試合を見ると、自分もああいうふうになりたいなぁとか思って、ちょっと憂鬱だったんだよ」


「今は違うのか?」


「うん。暑そうだなぁって」


 アイスを齧りながらそう端的な感想を呟く。

まあ、確かに彼らのユニフォームといい、炎天下の中での試合といい、過酷なのは伝わってくるのだが。それにしたって、何ともご無体である。


「たぶんもうどうでもいいんだろうなって。

わたしには祐介がいるから、それ以外はほんと」


「……お前、それ外で言うなよ。恥ずかしいから」


「事実だしなぁ……あ、でもこう見えても親に無理言って、野球クラブにも入ってたんだよ。

……1週間ぐらいで足を捻ってやめちゃったけど」


「……身体を動かせるゲームでも買うか?」


 あ、いいかもねと軽く了承される。

実のところ、最近はお金に困ってはいないのだ。


 愛美のご両親に愛美を送り届けた後、その場で結婚を前提にお付き合いをしていると宣言した。


 加えて、浅海家の方にもそう言った旨を伝えたところ、非常に喜ばれたうえ、愛美との交際費という名目で月毎に使えるお金が跳ね上がったのだ。


「……言っちゃ悪いけど、働かなくても食べていけるよね」


「それをした義次さんは今は海外で勤務中だ」


 うへーっと愛美が嫌そうな顔をする。

とはいいながらも、きちんと夏休みの宿題を終盤まで終えているので、とりあえずは堅実な道を進む気ではあるらしい。


「あーでも、運動はいいかな。ちょっと心配だし」


「……?」


「いやだってさ。毎日汗流してるじゃん」


「……それとこれとは別だろう。俺は体力をつけたいから買うよ」


 頼もしいじゃん、と座っている俺の胸の中にぴょんと飛び込んでくる。いやまあ……もっと体力をつけないとと俺はどうにも倒れてしまいかねないので、割と死活問題だ。


「たくさん食べて、いっぱい愛してね〜祐介」


「愛美も運動しろよ。最近ちょっとダラけすぎだぞ」


 男の子って少しぐらいお肉がある方がいいんじゃないの?とふにふに自分のお腹を摘んでいる。

いやまあ……好きだけどさ。健康面でね?


 すると突然、携帯のコール音が鳴る。

珍しいなと思って画面を見てみると、久しぶりに母親の理華からの連絡だった。


『よお祐介、元気してる〜?』


「母さん……ああ、こっちは大丈夫だよ」


『いやあーこっちは相変わらずだわ〜、本家の方にはエアコンないんだよー?! 信じられないでしょ?』


「その割には元気そうだけどね」


 俺の母親 浅海理華は、三郎さんの前では猫を被っているが実際のところ、こういう竹を割ったようなあっけらかんとした性格である。


 何が何でも三郎さんに気に入られようとした結果だそうで、それでも女手一つで俺を養おうと、手段を選ばずに生きてきたその姿を俺は尊敬している。


『あ、そうそう。三郎さんからの伝言! 早く孫の顔見せろー!ってさ。やばいよ? このままだと愛美さん学校辞めさせられそうな勢い。信行さんとかと必死で説得してんの』


「今月の仕送りが多かったのはそれか……?

わかったよ。使わずに貯めておくから」


『ああうん。でもそっちのタイミングでいつでもいいからね。早いとたぶん三郎さんが喜ぶってだけだし』


「わかった……お元気そうで何よりだよ」


 期待されてるところ悪いが、そういうことは節度を持っている。まだ人の親になれるほど自分ができた人間ではないし。

適当に話を聞き流して、母との電話を切った。


「ぼくは別にいつでもいいからね」


 すると、電話の内容が聞こえるぐらいまで近くに密着していた愛美がそう耳元で漏らした。


「いやあそれにしても、ぼくは恵まれてるなって」


「……そうなのか?」


「だって……ぼくの身体はきちんと女の子でしょ?


だったら……祐介との子供も、作れるじゃん」


 むふーっと正面から抱きついてきて、そのまま頬擦りをし始める。暑いので少しやめてほしかったが。まんざらでもなくてそのまま抱き返した。


「ねえ……ちょっとアイスでお腹冷えちゃった。

……温めてくれる?」


「……お前はいつにも増して元気だな」


 ──案外、三郎さんを喜ばせる日はそう遠くないのかもしれない。


 深いキスを交わしながらも、ずっとこんな日々を続けられるように努力しようと思った。


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