第三十話 柳城愛美
少なからず衝撃を受けた。
柳城が実は、自分のことを男だと認識していると。
「……気持ち悪いでしょ?
がんばってしゃべり方を女の子みたいにして、好きでもないのにかわいい服を着て、言われるがままに髪を伸ばして。
それでも自分は男なんだって、諦めきれないんだ」
正直、柳城の言うことは俄かには信じられない。
柳城はどこからどう見ても可愛らしい女の子なのだ。突然そんなことを言われても、答えに窮する。
けれど、なんとなく柳城の言葉なら信じてもいい気がした。
それに──彼女が男性でも、俺には何の問題も無い。
「……そうか。大変だったんだな」
どことなく他人事ではあるものの。
自分にはかけられる言葉がそれしか見当たらなかった。
「ぷ、くくくく…… あっははははははは!」
すると耐えきれないと言った様子で柳城が笑い出す。そしてそのまま深呼吸した。
柳城が起き上がり、仰向けになった俺の上に馬乗りになる。
「ねえ祐介、ぼくを見てよ」
俺はそのまま薄暗がりで柳城を見上げた。髪の毛が短くなったものの、相変わらず柳城は柳城で、柳城以外の何者でもなかった。
「……うん。やっぱりそうだ。
君の瞳には、ぼくがきちんと写っている」
「お前が? ……当たり前じゃないか?」
「普通はそうじゃないよ。
かわいい女の子を見れば、その瞳には欲望が写る。
ぼくみたいな人間を見ると、嫌悪感が写るもの」
柳城の言うことはさっぱりわからないが……。
つまるところ、柳城は俺に何か他の人にはないものを見出したのだろう。
だとしたら、俺にとってそれは僥倖だ。
すると、柳城は顔をさらに近づけて、もはや鼻と鼻がくっつくほどの距離になる。
「ねえ祐介、今は何が見える?」
「……お前しか、見えないが?」
「……そうだよね。わたししか見えてないよね」
「祐介の中には、わたしだけがいればいい」
深くキスを交わされる。
それは貪るようで、自分の歯形を残すような激しいものだった。その間にも、柳城は瞬きもしないでこちらを見つめてくる。
まるで、そこにあるものを確かめるように。
突然のことで頭が真っ白になった。
だが手は無意識に柳城のことを抱き締めていた。
「ぷはぁ……はぁ……これ、初めてしたけど、すごいね」
「その、いきなりこういうことをされると、困るんだが」
「……こんなのは困るうちに入らないくらいのことをこれからするんだ。観念してね」
すると、そのまま着ていたスウェットを脱ぎだしていく。下着は着けていないようで、生まれたままの身体で再びこちらに馬乗りになる。
「……正直な話なんだけど、ぼくにも自分が何なのか最近わからないんだ」
「……どういうことだ?」
「祐介のことを想うと、胸が苦しくなるし、側にいると幸せな気分になるんだ。……もうぼくたちは友達じゃいられないのかな?」
「……友達でいたいなら、この行為をやめてほしいんだが?」
そんなことを言う俺にだって限界があって、それはもうとっくに超えていた。
「それは駄目だ。祐介はわたしのものにするってもう決めたからね」
「お前、思った以上にめんどくさいな……」
そうして、手探りでこちらの衣服に手をかけはじめる。俺はその手を掴んで止めて……自らの意思で衣服を脱ぐのを手伝う。
その行為に自分でも驚いてしまう。
あんなにも彼女を傷つけないように苦心していたのが嘘のように、もう俺の中では覚悟が決まっていた。
「はいばんざーい。……うん男の子の身体だね」
「そうだろうな……お前は女の子の身体だ」
柳城に上着を脱がされて、下は俺が脱いだ。
ついに二人とも裸になって、見つめ合う。
俺はどうしたって男だし、柳城はどうしたって女だ。ベッドの上で男女が向き合って座り、少しの間お互いの身体に見惚れた。
「ねえ……さっきまでの話、全部ウソって言ったら、信じてくれる?」
「……まあ、柳城ならそういうこともあるだろう」
「本当に、なんでも受け入れてくれるんだね」
「なんでもってわけじゃない」
俺は本心を口にする。
「柳城、お前の言うことだから俺は信じられる。
お前のためなら命だって惜しくない」
「……ぼくも同じことを想うよ。祐介、君を愛してる。でも……少しだけ不満があるかな?」
なんだ?と言いかけたところで、口を人差し指で止められる。すると悪戯っぽく微笑んでこう言った。柳城のこの表情は俺の好きな顔の一つだ。
「愛美。今度からは愛美って呼んでよ。
美しい愛だなんて、大っ嫌いな名前だけど。
たぶん祐介に呼ばれたら、蕩けそうになるから」
それが、最後の確認作業だと思えた。
俺が、柳城のことをどう思っているのかを決める。
ここで引き返せば、まだ友人でいられる。
だが、俺の孤独を埋めてくれた彼女に対して
俺が抱いた想いは──
友人という関係では、もはやいられないものだった。
「──愛美」
声に出した瞬間に、愛美に勢いよく抱きつかれ、そのまま口づけを交わされた。




