第十九話 サンオイルに身を焼かれて
水平線に白い入道雲。
海の香りは風に乗って、波と共に砂浜にぶつかった。カラッと晴れた日の光に身を焼かれ、そして今俺はどうしようもない内からの欲望に心を焼かれていた。
海に家で買ったレジャーシートに、旅館で貸し出しているというパラソルを差して。
申し訳程度の日陰の下。手にヌルっとしたサンオイルを塗って立ち膝で固まってしまう。
一応はしっかりと日焼け止めできるものなので、これでひどく肌が焼けることは無いはずだが。
「ねえ祐介? 早く塗ってよ?」
「……すまん。少しぼーっとしていた」
落ち着け。
何も昨日の背中洗いっこと変わらない。
特に違いがあるとすれば、今の柳城は昨日よりも露出が多いビキニを着ていて、そしてうつ伏せになった背中の横からは潰れた大きなものが見えるぐらいで。
あとその細くて両手で掴めてしまうような腰に、形の良い丸いお尻が続いてなだらかな曲線を描いているのが──。
(いかん、意識が持ってかれる……!)
油断するとやばい。
全てを無にして彼女のためにやれることをしなくては。
「……祐介〜? はやく〜?」
「おう……すまない、俺が男なせいで……」
「全く……別に祐介ならどこ触っても良いからさ。パパッとやってよ」
……そうだ、パパッとやってしまえばいいんだ。
何も考えずに、ただ手を動かして仕事を終えればいい。
それに昨日も何か遠慮すると余計にくすぐったいと言われたし、ここはなけなしの勇気を振り絞ってこの試練に打ち克たなければ。
気合を入れて手を背中に乗せて。
すぐに後悔する。柳城の身体は柔らかくて、フニっと浅く指が埋まって、滑らかな肌にサンオイルの滑りがあわさり、艶が増すと同時にどうしようもなく扇状的に見えてしまう。
「ん……! ひゃ……! つめた……!」
さらには聴覚まで攻撃するかのように柳城が微かに声を漏らしているのを耳が拾ってしまって、どうにも落ち着くことなんかできそうにない。
(……俺はなんて……無力なんだ──)。
自身の理性の弱さを嘆きながらも、そのまま黙々と作業を進めていく。とてもではないが気の利いたことはしてやれそうに無かった。
「──終わったぞ」
「んぅ……お疲れ様、ありがとう、ね……?」
「おう、もう二度とやりたくない」
「……どうして体育座り?」
どうか今の俺には近づかないでくれ……。
自分の醜い部分が顔を出していて、鎮めるのに少し時間がかかるから。
「──えい!」
「……ちょ、何して……?!」
追撃。すぐにその正体がわかって、きっとサンオイルを俺の背中に塗ったのだろう。
ひんやりとした冷たさと柔らかい感触で刺激されて、鎮まりかけていたものにまた再び薪を焚べられるようだ。
「おお〜塗りがいがあるね。しかもゴツゴツしてる」
「まあ……その、男だからな」
「わたしとは違うね〜」
ぺたぺたと割と遠慮がなく塗り広げられていく。
心地いいけどこれは拷問の類いなのではないだろうか?
「えいやっ」
「──!!!」
すると何故が柳城が背中に抱きついてくる。
えっなんで?
「ああ、ごめんねびっくりさせちゃって。オイル余ってて勿体無いからわたしに分けようかなって」
「手で、分けてくれ」
「ん〜……恥ずかしがり屋さんだなぁ。前は自分でやってね?」
それはもう貴女には見せられないのでそうしますとも……ようやく解放されて、サンオイルを身体に塗り込んでいく。
なんだろうか?
どうしてこんなにも柳城は無防備なのだろうか?
むしろ昨日よりも悪化してないだろうか?
「さて、はやく海に入ろうよ祐介! キラキラしてて綺麗だよ!」
「俺はもうのぼせたから少し休んでから行くわ……」
「え、大丈夫? お水飲もうか?」
結局そのあと数十分ほど休んだ後も、海に入って遊び始めたら、はしゃぐ柳城の姿にまた何度か日射病を発症してしまって。
それはそれとして彼女と一緒に海の匂いが水着に染み込み、日が暮れるまで遊んで──。
迎えに来た運転手の方にお小言を言われるぐらいには、それこそサンオイルを塗った意味が無いぐらいには、日に焼けてしまった。




