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第十八話 変わりゆく二人


 柔らかな感触。

顔に当たるそれは肌触りが良くて。


(──ん……? なんだこれ……?)


 ふわふわとしたそれに埋もれた顔を離すと。


「あっ……んぅ……」


「!?」


 聞き覚えの無い艶やかな声。

そして、柳城の泣き腫らした顔が目の前にあって。


 驚いてすぐに眠気が吹き飛ぶ。

自分の体勢をよくよく確認すると、二人で抱き合って脚を絡めているようだ。


 それに柳城のはだけた浴衣から、ちらりとフリルのついた下着が見えてしまったので、この状態で起きてしまわれるとかなりまずい。

そして先ほどの感触の正体は……いや、やめよう。


 今だに寝息を立てている柳城を起こさないように静かに身体を起こして、そのまま顔を洗った。

先に起きたのが俺で良かったかもしれない。

男性特有の昂ぶりを見られることがなくて。


「ん……? おはよう。アレ? なんで裕介がいるの?」


「おはよう。柳城。とりあえず顔を洗ってきたほうがいいぞ。俺と同じで涙の跡が残ってるから」


「……あっ、そ、そうだったね……。

か、顔洗ってきます……? なんでこっちみないの?」


 わかってたけど、やっぱり気づいていないようなので指摘をせざるを得ない。


「……寝てるときに服が乱れるから、直しておいたほうがいいぞ」


「あっ……な、何から何までどうも……」


 寝室の扉がピシャリと閉められたので、顔を背けておいて正解だったようだ。

 おかげで俺の目はすっかりと冴えてしまった。



 その後は二人で朝の身支度をして、のんびりと寛いでいると、中居さんが朝食を持ってきてくれた。

予想通りの量と質だったものの、昨晩は色々と精神的に疲れていたせいか、はたまた泣いてスッキリしたせいか、二人とも全て美味しく頂くことができた。


「それで……どうする? 柳城がよければこの夏はずっとここで過ごすこともできるけど」


「うーん…ずっとはいいかなぁ。お世話になってばかりだと悪いし」


 さすがにずっとここに居ても良いというのは方便だろうから、こちらとしてもそうしてもらえると嬉しい。


「でも……海は行きたかったなぁ」


「海、か……」


 だが海となると必然、人気が多い場所に行かなくてはならなくなる。そうすると柳城の見た目だと目立ってしまって、もしかしたらナンパとかで怖い目に遭わせてしまうかもしれない。


 それに、義次さんがいたらと思うと、どうにも憂鬱な気分になる。


「……少し待っててくれ。信行さんに相談してくる」


「え、いいよ? 無理してわたしの願いを叶えなくても……」


「俺がお前に喜んでもらいたいんだ。やれるだけやってみる」


 この時は特に意識していなかったが──。

人嫌いな俺が、柳城のためという理由で能動的になって物事に取り組み始めたのは、この時からだったかもしれない。


 いや、実は既に無意識のうちにそうしていたのかもしれないが、兎に角あの一夜を経て、俺の彼女への想いは着実に変わり始めていた。


「もしもし──はい、その、相談なんですが……」


 そして信行さんに連絡してみると、うってつけの場所があると言われて思わずグッと拳を握った。


「本当ですか?! ……はい、では是非──」


 そうして信行さんに頼んで、どうにか柳城の望みを叶えられそうなことに胸が高鳴る。


「柳城、海に行けそうだぞ」


「え? それ本当? あっ……でも……」


「安心してくれ。とっておきの場所だから」


 ?とどういうことか追いつけていない様子の柳城に今の電話の内容を説明する。


 これも全て、浅海の家の為せる技だった。


 

 浅海家は北海に根付いた名家であるので、私有地は市内のそこら中にある。

そしてその一つがこの小さな砂浜で、いわゆるプライベートビーチというものだ。


「ほ、本当にあるんだ……漫画の世界みたい……」


「まあ、俺も来るのは初めてだけどな」


 信行さんには大きな借りができてしまったが……柳城の反応を見るに、どうやら喜んでくれたらしい。


「そ、それにいいの? 今更だけどこんな水着まで買って貰っちゃって……」


「ああ、まあそれくらいは痛くも痒くも無い……と思う。あの旅館の宿代の方が数倍するし」


 柳城が持ってきた水着は、昨日のお風呂で使って今はまだ乾かしている最中なので、運転手さんに一旦海の家に寄ってもらって、新しく水着を買った。


 俺の分も買って、ついでにお昼ご飯も何品か買って食べたので元気いっぱいだ。


 今の柳城はシンプルなビキニを着ていて、彼女の抜群のスタイルが遺憾無く発揮されていてとても……目のやり場に困ってしまう。

なんでも昨日のものは母親が選んだものらしくて、今回のそれは柳城が好きで着ているとのことだが、結構露出が多いのでドキドキする。


「ねえ祐介、この水着似合う?」


「あ、ああ……よく似合ってる」


「ふーん……? やっぱ男の子はこういうの好きなんだ。祐介もきちんと男の子なんだね」


 にしし〜としてやったりといった感じでニヤッと八重歯を見せて笑う。もしかして俺を揶揄うためにあえて買ったのか?


 だとするとその作戦はかなり効果的面だ。

俺はもう彼女のことを正面から見ることができない。


「あんまりそういうのは俺以外にはするなよ?

その……柳城はスタイルが良いからな」


「祐介以外に? ……ふーん……」


 ……何やら眉を下げている? 変なこと言ったかな? そう思ったら柳城が海の家で買い込んだ袋から何かを探してゴソゴソとし始めた。


「お、あったあった……ねえ、祐介、海に入る前にしなくちゃいけないこと、あるよね?」


「……? 準備体操?」


 いやそうだけどさ。となんとも拍子が外れたような反応をされる。けれど俺にはそれ以外は思いつかなかった。


「ね? お願い祐介?」


「な、なんだ?」


 柳城が上目遣いでこちらに近づいて、手元のものを渡してきた。それはどうやら──。



「日焼け止め、塗ってくれない?」


 ──俺の理性への、新たなる試練のようだ。


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