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第十五話 言葉も無く二人で過ごす


 しばらく広縁に座った。

ひぐらしの音と夕日に染まった海。

それを眺めていると、柳城も徐々にではあるが気持ちも落ち着いてきたようだ。


 男である俺としても、あの粗暴な風貌の義次さんは苦手としているので、女性であり男性に苦手意識を持っている柳城は相当に恐怖を感じたに違いない。何度かお茶を淹れてあげて、備え付けられていたお茶菓子を食べる。


 いつものように二人で静かに無言の時間を過ごして、お互いの存在だけを感じて時間を過ごす。

いつからだろうか? 彼女と過ごす時間が……言葉が無くとも心地良いと感じ始めたのは。

夕日に照らされた彼女の横顔を見ると、帰省して良かったと思えた。


 そんな緩やかだがあっという間の時間が過ぎると、いつのまにか夕食の時間になったようだ。

中居さんが次々と食事を運んできてくれて、その煌めくような料理の数々を見るころには、すっかり柳城はいつもの調子を取り戻したかのように思えた。


「お、美味しい……何これ……すごいお出汁が効いてる……」


「ああ……いや改めてこれはすごいな……美味い」


 料亭もかくや、というレベルの食事には流石に驚かされる。味の複雑さと深みは一般的な家庭では到底出し得ないものだと感嘆するが……。

しかし、これはたぶん……。


「う、うう……もっと食べたいのに、もう……」


「……まあ、美味しそうなものを一口でもいいから、少しぐらいは俺が食べるよ」


 やはりというべきか、柳城にはこの量は多すぎたようだ。実に悔しいといった様子で渋々こちらに齧ったものを任せてくる。

……もう当たり前になってはいるのだが、柳城は間接キスとかに全く頓着しないのだろうか?


「ごめんなさい……せっかくこんなに美味しいのに……」


「……今回はお茶菓子でお腹が膨れてたから仕方がないが、できるだけ腹は空かせておけよ。

朝もたぶんこんな感じの食事だぞ」


「これどのくらいの値段になるんだろう……」


「考えると無理して食べ過ぎるぞ。こういうのはとりあえず、感じたままに厚意に感謝したほうがいい」


 浅海家ってやっぱりすごいんだね……。

と膨れたお腹を二人で抑えてしばらく食休みをした。


 せっかくの北海での旅行なのに、二人して特に何をするでもなく俺の家で過ごすのと同じように携帯をいじっている。

ダラダラと寝ころんでいるとたまに柳城が足で俺の腹を突いたりしてくるのもいつものことだ。

 

「柳城、いつも言ってるがはしたないぞ」


「へへ〜じゃあ、正々堂々手でやってやる〜」


 えい!えい!と掛け声と共に脇腹に指が刺さって、こしょばゆくて思わず笑ってしまう。


「こ、この、いい加減にしろ……!」


 パシっと手を掴んでその勢いを削ごうとする。

すると──。


「うわぁ、ちょっ?!」


「あ、やば──」


 そのままバランスを崩して。

小柄な柳城の身体を押し倒してしまった。

はだけた浴衣の胸元にはフリルが見えて。

そして蒸気した顔には俺の影が落ちていた。


「す、すまない……柳城」


「あ、あはは……これは一本取られたね」


 ……柳城は夕方に怖い目に遭ったばかりなのに情けない。すぐに立ち上がって彼女から離れた。

弾みとはいえまた何かトラウマになっていなければいいが……。


 そんなこと考えていると、ふとそろそろ遅い時間だというのに気づく。

俺は逃げるように焦って言葉を発した。


「柳城、俺、風呂に入ってくる……」


「あ、そうなの……?」


 すると柳城は何故だかモジモジとしていて、どこか様子がおかしい。

どうかしたんだろうか? もしかしてどこか怪我でも……? そう思ったら、意を決したのか少し顔を赤らめて頼み込んできた。


「その、で、できればでいいんだけど……。

一緒にお風呂、入ってくれない?」


「え? ……いや、その……それはどういう?」


「えっと、その……今日は久しぶりに怖い目にあったから、一人でお風呂入るのが、ちょっと怖くて……」


 ……んんん? つまりどういうことだ?

聞く限りでは俺と柳城が同じ風呂に入ると聞こえる。いやどう解釈してもそうとしか思えない?

つまりは部屋に備え付けられた家族風呂に一緒に入ろうとそう言っているのか?


「い、いつもはこういう時、お母さんと一緒に入るんだけど。今日はその、祐介しかいないから、ね」


「いや、それは……さすがにまずいだろう」


「そ、そうだけど……でも、祐介なら大丈夫かなって」


 いや、微塵も大丈夫ではないだろう。

俺、男だよ?

……しかし、男性に対して恐怖を抱いている彼女に、少しでも安心してほしいというのはある。

いやでも一応、俺も男なんだけどな?


「だ、駄目そうなら今日はお風呂入らなくてもいいから……」


「ぐぅ……しかしなぁ……」


 浅海家の問題で色々と苦労を強いてしまった手前、できるならばこの旅行で日々の疲れを癒してほしい。何故だかは全く理解できないが、俺はどうやら異性として見られていないみたいだし、一緒にいれば気が休まるというなら……。

少しは償いになるだろうか?

要は……俺がへんなことをしなければいいのだ。


「……タオルは巻いてくれよ。予備のタオルを持って来てくれるようにフロントに電話してみるから」


「……いいの? わたし、結構すごいこと頼んでるんだけど?」


「ああ、自覚してくれると助かる……今回は特別だぞ」


 そういうわけで……。

いや一体どういうわけだか。一緒にお風呂に入ることになった。

柳城、お前ほんとに俺以外の男子と旅行に行かないでくれよ。心配でもうどうしようもないから。


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