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第十三話 君となら一緒の部屋で


 受付の人の言葉に頭が真っ白になる。

しかし、今更キャンセルすることも出来ない。

とりあえず、チェックインを済まして部屋の鍵を受け取った。


 絶賛頭の中は混乱中ではあるものの、一旦部屋に入ってから今後のことを考えよう……今は一番面食らっているであろう柳城へのフォローをしないと──。


「……うん。まあ祐介と相部屋なら大丈夫かな?

とりあえず部屋に行こうか?」


「──え? どうしたお前……」 


 予想外の反応に困惑したのは俺の方だった。

というか、恋人扱いならまだしも、これでは本家の方からはほとんど婚約者として見られているようなものなのだが……?

もしかして柳城は事の重大さをわかっていないのか?


 年頃の女の子にしては警戒心が無さすぎる。

前にも俺の部屋に来たときに思ったが、こいつは箱入り娘すぎてそこらへん疎いのか……?


 呆気に取られつつそのまま部屋に着くと、柳城のものと思われるだろう荷物と共に、自分の荷物の鞄が部屋に置かれていて、これはもうどう足掻いてもこの部屋に泊めるつもりだとわかった。


「あー……どうやら信行さんあたりが変に気を使ってくれたのかもな。

……安心しろ。俺は別に宿に予約を入れてるから」


「んー、そうなの? でもその予約って、私のものと一緒に信行さんに頼んでるんだよね? もしかして……」


 嫌な予感がする。

信行さんに頼んだときには彼の方から手頃なホテルを用意すると言われたのだが、どこのホテルかまでは詳細に聞いていなかった。

てっきりこちらに着いたときに柳城を送り届けた後、そのまま自分のホテルへと案内されると思っていたからだ。


「信行さんに連絡をとってみる……今からだとかなり迷惑になってしまうが、それでも安い旅館なら……それにいざとなれば俺が実家に部屋を借りればいい」


「じ、実家なのに祐介の部屋が無いの?」


「……無いな。中学まではこことは別の場所に暮らしてたし、その部屋も高校進学の時に引き払ってる」


 まあ、話は簡単だ。

実家に帰るのは正直かなり居心地が悪いのだが、こうなってしまった以上は仕方がない。


 それに運が良ければ別の部屋も……毎年、海水浴客で賑わう北海でも、安宿であればどうにか部屋が空いてるのでは無いだろうか?


 早速、この混乱を巻き起こした張本人である信行さんに連絡を取ろうと携帯を手に取ると、柳城がそれを制止してくる。


「あー、色々とめんどくさそうだし。いいよ別に。

他の人ならまだしも祐介なら同じ部屋でも平気だから」


「は? お前……俺、一応男なんだけど……?」


「? 知ってるよそんなこと。あ、着替えるのは恥ずかしいから襖の奥で着替えるね。祐介もついでに着替えちゃえば?」


 あっけらかんと言ったかと思うと、そのまま備え付けられた浴衣を持って襖を閉めてしまう。

そしてスルスルと布切れの音。本当にそこで着替えているらしい。


(な、舐められてるとは思っていたけども、ここまで異性として意識されていないとはな……)。


 そんなことを思いながらも、まあ柳城本人がそれでいいのであればとかなり強引に納得して、自分も浴衣に着替えはじめる。


 ……いや、そんなに軽々と男との相部屋を認めるものか?

柳城は世間知らずなところがあるが、流石に女子高生としてそこまで無頓着になれるものなのだろうか? 信頼されている……ということか?

それとも……そういうことをされても構わないということなのだろうか?


「着替え終わったよ〜っと……まだ着替えてる途中じゃん。ごめんね、終わったら声かけてね」


「あ、ああ。ぼーっとしてた。へんなもの見せてすまない」


 いくら普段からつるんでいる相手とはいえ、そういったことを許すような相手ではないはずなのだが……?


 ぐるぐると思考が回る中、どうにか着替え終わり、襖の奥にいる柳城に声をかける。


「柳城、本当に俺がこの部屋に泊まってもいいのか?」


「ん〜さっきから言ってるでしょ、祐介なら別に良いよ」


「……あのな? 男と一緒の部屋に泊まることを了承するのは、さすがに無防備すぎやしないか?」


 すると、柳城がゆっくりと襖を開けてこちらを見てくる。

いつもとは異なり、長い髪を緩く結んで右肩に靡かせている様子は、見慣れない浴衣姿と合わせて大人っぽく見える。首元から覗く白い肌を見ると、外の熱気に当てられたのかまだ少ししっとりとしている。見てはいけないものを見てしまったと目を逸らす。


「ん……じゃあ、ちょっとこっち見てよ。祐介」


「……見る? どういう意味だ」


 するとぽてぽてとそのままこちらに近づいてきて、上目遣いでこちらの眼を見つめてくる。

こちらとしては、少し緩い胸元を見下ろしてしまわないように、意識して柳城の瞳を見るしかない。


 十数秒そのまま……お互い無言で見つめあった。

いつかの日にも想ったが……柳城の瞳は美しく、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。


「……うん。やっぱり大丈夫だね。

口ではそんなふうに言うけど、祐介はそんなことをするような人じゃないでしょ」


「あ、当たり前だ。誰がそんな不埒なことをするものか」


「ふ、不埒って。ふふふ、なんかかわいいね祐介。

……それよりもはじめてのお泊まり会、楽しもうよ!」


 とりあえずはお風呂入ろうか。汗かいちゃったし。と何事も無いかのように言ってのける柳城を見て。何故だか自分よりもずっと背が低い彼女のことが、自分よりもずっと大人に見えてしまった。

そして俺は改めて、この女はよくわからないという想いを強く抱いたのであった。


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