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王弟ランサム

 話は一年前に戻る。


 アイルが()()されたのは、変わり者で有名な王弟ランサムが研究所として居を構えている森、その中にある翼竜の巣の中だった。


「おーい! オーリー!」


 そう叫び声を上げて走ってきたのが、現王の弟である変わり者ランサム。癖のある髪の毛は半端に伸ばされボサボサ。メガネはだいたい傾いている。彼が王族だとは言われるまで信じられないだろう。いや、言われても信じられないだろう。


「大変だ。翼竜が人間の子供を産んだよ!」


 オーリーと呼ばれたのは、ランサムの助手をしているオーランド子爵。助手と言うよりは生活全般を含めた面倒見役だった。見た目で年齢がわかりにくい、すっきりとした容姿をしていた。落ち着いた20代か、若く見える40代か。しかしランサムは人の年齢を気にしなかったので、オーランドに年齢を尋ねたことはない。変わり者のランサムと付き合えるだけあって、オーランドも変わり者の部類ではあったが、本人は自身がいたってまじめだと思っている。


 ランサムがとうとうおかしくなったか。いや、元々おかしかったか。そう思いながらオーランドはランサムを見やる。彼はランサムに言われた薬の調合をしていたところなので、作業の手も止めずに返事をした。


「そんなことあるわけないでしょう」


「でも、ほら」


 ランサムに樹上を指差しながらそう言われ、子供みたいに手を引かれるオーランド。


(呆れた主だ)


 そう思いながらも、素直について行った。






 ランサムは正当な王位継承権を持ちながらも、その研究者としてのさがを抑えきれず、研究対象である翼竜と『一緒に暮らす!』と言って王宮を飛び出した、かなりの変わり者である。


 飛び出す前は、軍で使用される翼竜の活用に役立つからと、彼のその熱心すぎる研究癖には目をつぶられていた。しかし翼竜と共に寝泊まりをするという変態ぶりを披露してからは、王家の品格を落とすとして王宮からの追放、王位継承権の剥奪を多数の貴族連中から陳情されるというありさま。しかし、本人が飛び出してしまったことで、有耶無耶にされて現在に至っていた。







 そんなランサムの元にお目付け役として配属されたオーランドは、ランサムの住む白樺の森に手伝いに通っていた。それは普通の白樺ではない。大人が十人ほど手をつないでようやく一周出来るほどの太い幹の白樺。高さもあり、下から見上げると梢が見えないほどだ。


 ランサムたちはそんな白樺の森の中、木に直接小屋を取り付け、翼竜観測所を作っていた。オーランドはランサムに引っ張られながらきしむ階段を上り、その観測所から望遠鏡でランサムの指差す翼竜の巣を覗き込む。



「っっっ! 大変だ。子供が翼竜にさらわれたんだ!」



 オーランドはランサムの言葉を信じていなかったのだが、望遠鏡を覗き込むなりそう叫んだ。


 オーランドの覗く望遠鏡に、巨大な翼竜の卵の殻の中に丸まるようにしてすやすやと眠っている少女が映り込んだ。それがアイルだった。

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