王族会議
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人の目は曇りやすい。ありえないと思っていると脳が認識を拒否する。後になってみれば、アイルが肖像画にある初代王妃とうり二つというのは明らかだと誰もが思ったのだが、転入時から授賞式の間まで誰も指摘しなかった。
違和感を覚えた者ももちろんいたが、良くて他人の空似と思った程度。勘の良いものは王家の遠戚と考えた者もいたが、不敬罪を恐れて賢く口をつぐんでいた。
しかし装いを整え、しかも王族のジルフォードの隣に立ったその時、アイルのその容貌の酷似は放っておけるレベルではなくなっていた。肖像画をそのまま抜き出したかのような二人。多くの者に目撃されていることもあり、あの少女は誰なのだと貴族連で取りざたされることとなった。
国王はジルフォード、ランサム、オーランドとともにアイルを詔勅した。王宮の中、要人の話し合いで使われる会議室にていかにもな風貌をした国王が問う。
「ランサム。お前は昔からよく、わけのわからないものを拾っていた。虫やら動物やら竜やら。子ども一人拾ったところでいつものことと入念な調査をしていなかったのがいけなかった」
国王はその鋭い視線を、実弟からその横に控える者へ移す。
「オーランド。お前は子供の調査を任されていたはずだ。途中報告では身元不明の孤児とのことだったが、いまだに身元不明なわけではあるまい」
そう告げられ、だらだらと冷や汗が流れる。オーランドは事務仕事に優秀なだけで、王族との丁々発止などできるわけもない。
「わかったことと未だ分からないことがあります」
「それは何だ」
「彼女は影です。これはランサム様の影に確認を取ったので確実です。しかし、我が国のどの派閥にも属さないそうです。祖国の方へも探りを入れているのですが、いまだに回答にたどり着けていません」
「……影か。しかしそれだけではあの容姿の答えにはならぬ。なぜ王族の特徴を有しているのだ。それに探りを入れるなどとまどろっこしいことをする必要がどこにある。本人から聞き出せ」
ミスリル王はそう言って自身の影を呼び出し、あれの正体を尋問してでも吐かせろと命令した。しかし、すげなく断られる。
その対応に驚いたのは王だけではない。王族会議に参加している主要な王族たちと、貴族連も目を見開いた。いついかなる時も従順で命を落とせとの命令も一瞬も躊躇しないで実行するとされる影の一族。その長が、国の長たる国王に歯向かったのだ。
「なぜだ」
「申し上げます。アイル様は我が国ジルコニアの影でも祖国アラトニアの影でもありません。さらに深い技術を持っており、我々は遥かおよびません。そのため皆、既にアイル様の傘下にはいっています」
その返答に国王は口元をひきつらせた。
「ランサム。お前はこの国に何を引き入れたのだ」
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