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はぐれ影、令嬢になる~隠密一族の生き残り アイル・キングストン~  作者: 成若小意
第三章 学園編

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◇五年前の話③

よろしくお願いします

「私はこの里の翼竜使い」




 隠密の住まう谷『ゲノムの里』においても、アイルは常に任務に就いていたわけではない。任務のない時間の大半は訓練に費やされたが、残りの時間に割り振られた仕事があった。それは翼竜の世話。このころ里で育成されている翼竜の大半がアイルによって孵化させられたもの、またはアイルの世話を受け絆ができていたものだった。


「そんなことは知っているよ、フィー」


 共に逃げているシュウは、アイルことフィーの頭がおかしくなったのではないかと怪訝そうな顔をしてその幼馴染を見た。


「だから、翼竜はみんな私の言葉を聞く」


 そんな会話をしながらも、二人は常人にはありえない速度で移動をしていた。そして、無人の家を通り抜けようとしたとき。中にはアイルの母親がいた。


「なんで……! 先回り?」


 しかし、アイルは慌てず懐に手を入れる。


「フィー! 無駄だよ。お前の母親に勝てるやつはいないって!」


 シュウはそう言うが、アイルには秘策があった。父親に聞いていた、母親の苦手なもの。それは、蛙。アイルはそれを知ってから、お守り代わりに蛙の干物を身に着けていた。


 それを投げつけると、母親は普段見せない取り乱し方をし、二人はそのすきを見て逃げ出した。


 その無人の家はゲノムの郷の端の家。その裏手は延々と続く白樺の森。二人はその森に逃げ込んだ。


 壊滅した故郷。そして故郷最凶の人物を背にしながら。






 命からがら逃げる二人。

 追う母親。

 砲撃王もこちらに標的を変えたようだ。もしくはもろとも攻撃しようというのか。


 アイルはこの地で翼竜の飼育係だった。懐かないと言われる翼竜を天才的に飼いならした。呼べば来るほどに。


 翼竜は森を泳ぐと言われる。

 木立の並ぶ森を、まるで海を泳ぐ海鳥のような速さで縫うように飛んでいく。


 竜の中では小柄な彼らは、大空を舞うのではなく森の中を高速で移動することに特化することで生き延びていた。


 その翼竜を特殊な笛で呼び出すアイル。


 混乱のさなか、来てくれたのは二頭だけ。しかしそれで十分だった。


「二頭? 迎え撃つことはできないな」


 シュウは残念そうに頭を振る。


「今日は嫌な予感がしていた。他の子は皆あらかじめ逃がしてある」


 二頭戻ってきてくれただけでも運がいい。アイルはそう言う。


 大きな翼竜の方には赤ん坊を抱えたシュウが乗り、一回り小柄な方にアイルが飛び乗った。これでこの地獄から抜け出せる。なんとか二頭が飛び立ち、そう思った矢先、森に砲撃が複数打ち込まれた。


 その砲撃は大きな方の翼竜に当たる。


「フィー!」


 もろにその腹に砲撃をくらい、崩れ落ちていく翼竜。直撃はまぬかれたものの赤子を抱えたシュウもろとも落下していく。


 必死で差し伸べられたその手。しかし握ることはかなわなかった。引き返せば自分も死ぬ。そもそも自分の乗る翼竜もそれをよく知っており、引き返せと言っても指示に従わなかっただろう。


 嫌だ。死にたくない。そう叫んだのはシュウだったのか、自分だったのか。望む形ではなかったが、実力と運によって逃げ延びたアイル。


 翼竜は三日三晩飛びつづけ、やがて森を抜け、大陸の端、海が望めるところまで飛び出してもまだしばらくは飛び続けた。


 ようやく大地に降り立った時、アイルの頭は既に冷めていた。戦闘兵器として育てられた彼女はこんな状況でもすぐに適応し、自身にとっての最適を導き出した。


「翼竜はすべて逃がした。誰も私を追えない。とりあえず、海を渡ろう」





 そうしてアイルは海を渡り、ジルコニアにやってきた。

読んでくださりありがとうございます。

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