嫌がらせ
サブリナは気に食わなかった。
「なんでたかが子爵家の、しかも養子風情が王族と会話できるのよ」
プリプリしながら学園内の控室で軽食を食べる。ストレスには甘いお菓子が適している、サブリナはそう認識していた。口元を扇で覆いながらも貴族らしからぬペースで口に甘味を投げ込む。その愚痴を聞いているのは令嬢ひとりだけ。
アイルはランサムの関係者ではあるものの、ほぼ除籍されたような存在なので、サブリナにとっては重視する項目ではなかった。
「命の恩人とか言うけど、助けを呼んだだけじゃない。尊い王家の方が危険な目にあっているのなら身を挺してでも助けることなんて国民の義務よ。恩人でも何でもないわ」
「そ、そうですわね、サブリナ様」
最近ではトゲトゲしさが増し、取り巻きの令嬢たちから距離を置かれてしまっているサブリナだったが、気にしている様子はない。唯一そばに残ったのは、何も考えていないご令嬢だけだった。
「目にもの見せてあげるわ」
「そのセリフを実際に耳にする日がくるとは思いませんでしたわ、サブリナ様」
その日からサブリナはアイルに対し、思いつく限りの嫌がらせをした。悪評をばらまくことに始まり、ものを隠す、人前で批判をする、わざと服を汚す。もしくは自分自身が被害者であると自作自演することもあったのだが、なぜかアイルに対してどれも効果があるように思えない。
悪評は本人の耳に届かず(そもそもアイルが他人と交流をしていない)、ものを隠してもすぐに元の位置に戻っており、人前での批判はどこ吹く風。わざと服を汚そうと、取り巻きにランチタイムのドリンクをこぼさせたり、二階からバケツで水をかけたりしたのだが、一滴もかかった様子がない。徐々に怪奇現象だと噂になるほどだった。
被害者であるという自作自演には周囲は同情してくれたが、アイルもジルフォードもその訴えに首をかしげるだけ。
不本意なその結果にサブリナは歯噛みするのだった。
邸宅に戻ったサブリナは分析した。自分の作戦の何が悪かったのか。原因は敵を知らなかったことにあるのだが、平凡な公爵令嬢にはそこまでわかるわけもなく。
「初心に帰る必要があるわね。根本を考えなきゃ。アイルのどの要素が、ジルフォード様を腑抜けにしてしまったのか」
しばし考えるサブリナ。
「……外見ね」
サブリナはそう結論づけた。しかし自室でひとり作戦を練っているため返事をする者はいない。
「なら、やることが見えてきたわ。あの済ました顔をみっともなく取り乱した顔にすればいいのよ」
ニヤリと笑うサブリナ。せっかくの美貌が台無しであることに気がついていない。
「そうね。今回の作戦は、『カエル』にするわ」
ジルフォードが、またしてもサブリナとの二人のランチタイムにアイルを連れてきた。婚約者のそんな様子を見て憎らしさが極限にまで高まるサブリナ。憂さ晴らしにいい機会であると作戦を敢行した。
(おやりなさい)
テラスの窓の向こう側にいる男子生徒に目配せをして伝える。
言うことを聞かせられる男子生徒に手伝わせて、カフェテリアにカエルを大量にぶちまけたのだ。
しかし、量が多い。多すぎる。手伝いの男子生徒は公爵令嬢に頼られて頑張りすぎてしまったのだった。あまりの量に、あまりカエルが苦手ではないはずのサブリナですら顔を引つらせて、椅子の上に逃げる。
ジルフォードまで椅子の上に逃げているのは残念な姿だったが、そんなことは言っていられない。
そんな中、アイルの周りにだけ、不自然なほどカエルがいなかった。
(なんでよ。意味が分からないわ)
失敗を悟ったサブリナは、後始末を男子生徒に丸投げし、撤退した。
その後も多種多様な生き物やら得体のしれないものやらをアイルに投げ付けさせるサブリナだったが、旗色が悪いことに気づいてきた。まったくもってアイルにはダメージがないように見えるのだ。無駄な労力を使っているだけのような気さえしてきた。
事実、ありきたりないじめなどアイルにとっては何の影響もなかった。サブリナとその手下が物を隠しても、アイルの傘下に下った影がすぐ探し出して持ってきてくれる。おそらくアイルは所有物がなくなったことすら頓着していないだろう。身の回りのことはすべて支配下に置いた者たちがやってくれているから。
ついにはサブリナは自身の影たちにたしなめられるようになった。王家の分家の令嬢である彼女は、王家同様に祖国より護衛として影を引き連れてこれた家系である。そのためサブリナにも影がついている。
「サブリナ様。あれに手を出してはいけません」
「なによ。まさかあなた達までジルに忖度してるの? それともあの顔だけ令嬢にほだされたの?」
「違います。彼女は危険です。サブリナ様の一族どころか、我ら影の一族にまで影響をおよぼします」
「なによ……」
自身の影たちに説得されようとも納得のできないサブリナだった。
ギャグ回になってしまいました。




