悪どい方の王弟エンツォ
前話から大変間が空いてしまいました。
全話、大幅には変わりませんが少しずつ修正しております。
何卒、よろしくお願いします。
第一王子ジルフォードは幼少期、命を狙われていた。王族にはよくある話だ。しかし本人にしてみればよくある話では済まない。その頃の彼はいつ、誰に何をされるのか分からない状況下にあったため、常に緊張を強いられ憔悴していた。その状況を一変させたのが、アイルだった。
今アイルが過ごしている国――新興国ジルコニアは大陸中央から流れ着いた、とある公爵一族によって興された。風光明媚な開けた土地で資源も豊富。一族は名前の通り宝石類の産出される土地に目をつけ、祖国の熾烈な勢力争いから逃れて新たなその土地で仕切り直しを図ったのだ。
ちなみに現王は初代国王より三代目にあたる。大陸には未開の土地が多くあり、このように貴族が国を離れて新たな国を興すことはそう珍しいことではなかった。
現地人や移民の意見を取り入れて加工技術を磨き、付加価値をつけて一大産業として国の価値をも上げた初代国王。たかが宝石の加工だけで国を維持しようとすることに異を唱えて、加工技術を軍事産業用に転化させ軍事力を押し上げた二代目。そしてその二人には似なかったが外交が得意で新興国ながら国際的存在感を強めることに成功した三代目、現ミスリル王。
その現王の唯一にして正当な後継者ジルフォードは今でこそ安泰な地位にいるが、幼少期は派閥争いに意図せず巻き込まれていたのだ。
争いの中心にいたのは現国王の弟。変人と名高い王弟ランサムとは別の、若き末弟エンツォ。彼にとっても悲劇だったのは、彼の兄である若くはない現国王になかなか世継ぎが生まれなかったこと。
王には長いこと有望な後継者がいなかった。第二王位継承権を持つランサムは変人なので実質的に対象外。自然と歳の離れたエンツォが次期国王の最有力候補として育てられていた。優秀な彼は期待に満ちた眼差しの下で育てられ、彼自身もそれに報いようと懸命に務めた。
それなのに。
国王に念願の世継ぎが生まれた。エンツォ十二歳のころ。
「生まれてしまったか」
「はい、エンツォ様」
「女か」
「いえ」
彼は自身の影に問いかける。後継者として周りから扱われ、厳しい教育を受けてきたエンツォ。そんな彼を差し置いて、周囲の者の関心を一瞬に奪っていった新たな後継者ジルフォード。
「俺の護衛を減らしてでも赤子の監視を強化しろ」
「承知しました」
十二歳のエンツォにとって許しがたい存在となっても不思議はないだろう。彼はジルフォードが生まれた時から、否、生まれる前から影に動向を探らせた。
荘厳だが、ゆえに冷たさを感じさせる王宮の中。頭のキレるエンツォは策略を巡らしジルフォードを愚鈍な王子と貶めた。噂をばらまき工作員を送り込む。その策略は見事にはまり、ジルフォードの扱いは日に日に悪くなっていった。
一方で、王位継承権の順位が下がったからと言って、国政から退いたわけではないエンツォはその優秀さを披露し続ける。
「やはりエンツォ様の優秀さには舌を巻く」
「後継順位ではなく実力で次期国王は決めるべきです」
エンツォの思い通り、彼を推す貴族は日に日に増えていく。エンツォの優秀さには嘘はなく、ただ多少その性が邪なだけ。周囲は正しく彼の才能を認めていき、彼は華やかな表舞台に返り咲こうとしていた。
そしてとうとう暗殺を遂行するという段で謎の存在に阻止された。それは件のジルフォード暗殺未遂事件。
エンツォの放った刺客を排除したアイル。そのアイルを目撃したのはジルフォードのみであり、彼はその存在を伝えていないし、伝えたとしても誰も信じなかっただろう。そのため暗殺を阻止した者についての記録は残っていない。
しかし始末された暗殺者に関しては証拠が残っていた。
こうしてエンツォは失脚。エンツォを煽った貴族たちも失脚または謎の存在に恐れをなしておとなしくなり、勢力を失っていった。
今ではジルフォードには正体不明の勢力が加勢しているのではと、まことしやかに噂されている。
※新興国ジルコニア……ジルフォードやアイルの暮らす国。若く歴史が浅い国。
※祖国アラトニア………ジルコニアを興した初代国王の母国。敬称として『祖国』を冠して呼ばれている。
※『件のジルフォード暗殺未遂事件』……第7話 『薄幸王子ジルフォード』にでてきます。




