「太陽の赤ちゃん」
眠る君をおぶって、坂を駆けあがる。
夕陽が照りつけて、汗が止まない。
てっぺんに着くなり君をベンチに座らせて、
芝生に倒れこむ。
陽が沈む。空にはいくつかすじ雲、叢雲が
黄昏色に浮かぶばかり。
向かいの山から滝の音が届く。
空から暖色が失せ、浅い紺が雲を塗る。
とんと眠りこむ君を、このまま寝かせてあげたいな
と思いながらも、肩を揺すって起こす。
「朝だよ。」
細くうめいて瞼が開く。
その長い欠伸一つで、僕の息は詰まる。
「もうじき、さ。」僕が言うと、
君は眼をぱちくりさせて、ふぅと微笑む。
「座りなよ。」君が言う。
言われなくとも、僕が予約したファーストクラスは
ここです。
手をつないで辺りを見回していると、
東の夜空に彗星が現れる。
西の夜空に流星が現れる。
握りあう手と手が力む。
君の頭をくしゃっと撫でると、
君の口元が綻ぶ。
僕の口元も綻ぶ。
彗星と流星は引き合うように落ちてゆき、
君の頭と僕の頭は引き合うように傾いてゆき、
一点で交わる。
光が点から放射する。光景を目に焼きつける。
10秒もしない内に光は闇に飲まれたが、
確かにそれは輝いた。
「太陽の赤ちゃん見たい。」僕が言う。
おもむろに、君が抱きつく。
君の頭を、ゆっくり、ゆっくり撫でる。
大丈夫。きっと涼しい夜風が涙を乾かしてくれる。
眼をつむりきこえるのは、滝の音と、風の囁きと、
あまりにも愛しい嗚咽。
(6/25 土)




