報酬の選択
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
「ここに有るのが、私が集めた魔石です」
シンデンが大統領に連れて行かれたのは、旗艦の中にある魔石の保管庫であった。流石に魔石を見せるのに、警備を付けない訳にもいかず、周囲には警備の兵士とドローンがいた。
>『電子頭脳さん、全部そろっている?』
>『マスターの視覚情報とセンサー情報から、探していた全ての魔石がここに存在しています』
「なるほど、もの凄い数だな。これだけの貴重な魔石を使って、何をするつもりだ?」
「『いざという時』の備えです」
メアリーは、シンデンに「何をするつもりだ」と問われた時に、ドキリとしたが、そんな事は表情にも出さず、先ほどと同じ答えを返した。
「『いざという時』か。ベイ星域の国是は、『人類を統一国家として纏める』だったな。今もそれは変わっていない」
「ええ、そうです。私もあの大統領の子孫ですよ。当然その国是を忘れてなどいません」
「では、『いざという時』とは、その国是の為に使われると言うことか?」
「『いざという時』と国是は関係ありません。国是はベイ星域の努力によって成し遂げる物です。『いざという時』とは違います」
メアリーは、ベイ星域の国是を実現するために、貴重な魔石を使うつもりは無かった。だからシンデンの問いかけに、自然と「違います」と答えた。
「なるほど。では、この魔石を使って、星域軍の魔法使いの戦力を強化する予定は無いという事だな」
シンデンは、そのメアリーの言葉に嘘が無い事を感じたが、一応念の為に聞いておく。
「『いざという時』には魔法使い達…いいえ私が使います。そうで無ければ宝の持ち腐れです。この魔石を死蔵していた人達と同じ事を私はするつもりはありません」
メアリーはそう言い切った。
>『うーん、大統領の言う「いざという時」の定義が分からない。電子頭脳さんは分かる?』
>『私にも分かりません。ですが、もしヤマト級を復活させて使用するつもりなら、既に復活させていないと駄目ですね』
>『封印場所だけ知っていて、使うときに復活させるつもりじゃないの?』
>『ヤマト級は復活させても、直ぐに戦力としては使えません。ヤマト級は、自分の操縦者としてシオン…キャサリンが育つのを待っていました。つまり、復活させても、船と相性のよい操縦者が必要なのです。そしてその相性を見るためには、封印を解除する必要があります。もし、適当な操縦者が存在しなかった場合、ヤマト級の船は、誰か適当な操縦者を支配するか、作り出そうとします。そして操縦者が支配されてしまえば、キャサリンの時と同じ事が起こるでしょう』
>『なるほどね。じゃあ、帆船と同じ船を見つけていた場合は?シオンも帆船を操縦できていたんだ、操縦者は誰でも良いんだろ』
>『あれはマスターが許可したから認めたのです。本船は「試練をくぐり抜けた、生命体をマスターと認識」するのです。つまり今のマスターは、封印を解く際の試練を受けてそれに合格することで、本船に認められたのです。本船と同系列の船は、各々独自の判断基準を持ち、それに一致しないマスターだと、封印は解除できません』
途中で電子頭脳のマスタープログラムが口を挟んだが、帆船はその封印を解くために魔石など必要とせず、各船が決めた試練に合格する必要であった。その試練に合格した者だけが、マスターと認識されて操船可能となるとのことだった。
シンデンの記憶を見ると、帆船の封印を解くために、難しい試練を彼はクリアしていた。
しかし、この前の遺跡のように、別な異星人が封印を解いた後、別な封印をされている場合も在る。それでも、船の電子頭脳が決める一定の基準(基準は船毎に違う)をクリアしないと、船は操船を受け付けない。もしあの場で、レマがあの船に乗っていた場合、船がレマを操縦者と認めたか、それは帆船にも分からなかった。
>『その場合、バックアップ霊子は、どういう扱いになるんだ。試練なんて受けていないぞ』
>『バックアップ霊子は例外です。本船の霊子バックアップ領域に書き込まれた霊子が、マスターと異なる場合の規定は存在しません。だからバックアップ霊子はマスターと同一な存在だと判断しているのです。そうで無ければ本船はバックアップ霊子を消去して、本船を何処かに再度封印したでしょう』
>『消されなくて良かったよ』
俺は、電子頭脳がルールを厳守する存在であったことに感謝した。そして、そんな電子頭脳とのやり取りは、些末な事である。今問題なのは、メアリーが魔石を「何に使うつもり」か、聞き出すことだ。
「その『いざという時』には、あの高次元生命体との戦いは含まれないのか?」
シンデンは、ベイ星域の大統領が狙われる事態は、『いざという時』に入らないのかと尋ねる。もちろん、それが「いざという時」に当たらないと思ってだ。
「あの時は、シンデンさんがいました。貴方が負けた場合は、死にそうになれば、私もこの魔石で魔法を使っていたかもしれません。ええ、シンデンさんのお陰で、私は死なず、貴重な魔石を使わなくて済みました。ありがとうございます」
メアリーはそう言って、再びシンデンにお礼を言った。
「そうか。それでは、もし今後高次元生命体と同様な危機…例えば、俺の船と戦う時が在れば、この魔石を使うつもりか?」
シンデンがそう言うと、警備の兵士に緊張が走った。今のシンデンの発言は、「シンデンは、ベイ星域と敵対するつもりがある」と言っているようなものだ。
「私は、ベイ星域大統領として、シンデンさんとは敵対はしたくありません。しかし、もしシンデンさんが、ベイ星域国民に危害を加えるのであれば、この魔石を使ってでも止めます」
メアリーは、俺を見上げて毅然とそう言った。彼女の目には決断するだけの勇気が宿っていた。
「…失礼した。しかし、俺は傭兵だ。だから、もしベイ星域が周辺の星域に攻め込んだ場合、その星域に雇われる可能性もある。ベイ星域が国是を人外の力で成し遂げるなら、俺はその前に立ち塞がるかもしれない。それは覚えておいて欲しい」
シンデンはそう言って、魔石に視線を移した。シンデンは、今ここに有る魔石は、「ヤマト級復活に使われるために集められた物では無い」と感じた。そして、もし今後メアリーが気を変えて、「高次元生命体やヤマト級等の人外の存在を使って、人類統一に手を出すのなら、断固阻止する」と宣言した。俺と違って、シンデンはそういう男なのだ。
「ええ、分かっています。本家の使ったレリックは、過去に願いをかなえるのに恒星系を一つ、その国民ごと消し去りました。私はあのような愚行はいたしません」
「それなら良い。では、俺はこの魔石を報酬として貰おう」
シンデンは、貴重な魔石の中でも小さな魔石を選択した。気功術士のシンデンには魔石の目利きなど出来ない。しかし、巨大な物ほど貴重であることぐらいは分かっていた。だから、野球ボールから酒樽程の大きさの魔石の中で、拳ほどの大きさの魔石を選んだのだ。そして、シンデンが選んだ魔石は、他の魔石と異なり中に星の様な煌めきが入っていた。だからシンデンは「綺麗だな」と思って、その魔石を選んだ。
「…そ、それを選ばれるのですか」
メアリーが焦ったような声を出す。どうやらこの魔石をシンデンが選ぶとは、彼女は思っていなかった様だ。
「問題があるなら、別な物にするが…」
「…いえ、それで問題ありません」
シンデンが別な魔石に取り替えようとすると、メアリーは首を横に振った。
>『電子頭脳さん、この魔石って何か特別な力があるの?』
>『中央に煌めく星が在る魔石ですか…。本船のデータでは、綺麗なだけで、それ以外に特別な力があるようには見えません』
>『メアリーの反応がおかしかったが、貰っても問題ないよな』
>『もし、マスターがベイ星域と戦うつもりなら、巨大な魔石を奪っておいた方が良いでしょう』
巨大な魔石を使えば、戦略級魔法を少人数、もしかすると一人で放つことも可能となる。ベイ星域と帆船が戦う場合があるなら、巨大な魔石を奪った方が、敵の戦力を奪うことになる。
しかしシンデンは、「メアリーは国是を武力では無く、別な方法で成し遂げるつもりだと」と感じていた。いやシンデンは、そう期待していた。そしてメアリーが今回の様な危機に出会った時には、巨大な魔石の力が必要となるだろう。だからシンデンは、あえて巨大な魔石を選ばなかったのだ。
「では、これを報酬として貰っておく」
「…シンデンさん、私が『ここに有る魔石を全てシンデンさんにお譲りします』と言ったら、ベイ星域に雇われてくれますか?」
メアリーの突然の勧誘に、シンデンは少し驚いた。これだけの魔石を売り払えば、Sランクの傭兵を数人程、星域軍に引き込めるかもしれない。つまり、大統領の提案は、一人の傭兵を雇うにしては破格の報酬であった。大統領の発言に、副大統領も周りの兵士も驚いていた。
「…無理だ」
シンデンは首を横に振って、彼女の勧誘を断った。そのシンデンの態度に、周囲の兵士から殺意が漏れだした。大統領派のベイ星域軍の兵士は、大統領に推服していた。だから、大統領の破格の条件を蹴ったシンデンに怒りと殺意を向けたのだった。
「…」
殺意を向けられれば、シンデンもそれに応じるしかない。気を練り愛刀に手をかけて、不測の事態に備える。
「貴方達、止めなさい」
現役の将軍で魔法使いでもあるメアリーは、兵士達の殺意を感じて、兵士達の行動止めさせた。大統領が静止することで、兵士はシンデンに殺意を向けることを止めた。
★☆★☆
兵士との一悶着はあったが、シンデンは、小さな魔石を報酬として選び、旗艦から帆船に戻った。そして帆船と旗艦は離れていった。
帆船が旗艦から十分に離れた所で、メアリーは小さくため息をつくと、リヒトフォーヘンに霊子力通信を繋いだ。
>『リヒトフォーヘン、あの男は、よりにもよって、あの魔石を持っていきました』
>『そうですか。…ですが、大丈夫でしょう。あの魔石に特別な力は有りません。それにキャラック級帆船は魔石には詳しくないので、あの魔石が本船が作ったとは気付かないでしょう』
>『そうですか。それなら良いのです』
シンデンが選んだ魔石は、リヒトフォーヘンと呼ばれる存在が作った物だった。しかし元々は、メアリーの実家が持っていた魔石のコピーである。だから、帆船は「魔石は探していた全ての魔石がここに存在しています」と言ったのだ。
>『しかし、本船も完全ステルス状態だったので、あの船首像の分析は出来ませんでした。この船のセンサーで、スキャンは行ったのですか?』
>『スキャンはもちろんしたわ。でも貴方と同じく、帆船も船首象もスキャンは出来なかったわ』
>『そうですか。やはり星域軍の船の性能改善はしておくべきですね』
>『現大統領派は全て排除したわ。貴方の言う通り、星域軍の船の性能は改善すべきですが、私は軍事力で他の星域を支配するつもりは無いわよ』
>『マスターの考えは理解しています。ですが時間はそう多く残されていません』
>『分かっています。ですが慌てても碌な事はありません。今回も現大統領を早く排除しようと、艦隊決戦を選んだために、レリックを使われてしまったわ』
>『…』
>『リヒトフォーヘン、急がないで。今回はあの帆船とそのマスターの力が分かった事で十分収穫が有ったわ。それで満足しなさい』
>『了解しました』
「いつか、仲間にして見せますよ」
大統領は、リヒトフォーヘンとの霊視力通信を切断すると、遠く去っていく帆船を見送りながら、そう呟いた。
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