表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/156

ベイ星域の内乱

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 内戦が近づいていることから、首都星に向かう航路には一般の宇宙船が少なくなっていた。まあ、生活に必要な物資を運ぶ運搬船は運航しているが、それもギリギリだった。また、航路途中では超光速空間にまで海賊が出没しており、シンデン()は、そんな海賊達を始末(拿捕して近隣恒星系の傭兵ギルドにつき出す)するのに時間を取られてしまった。


 超光速航法でシントン恒星系にたどり着いた時、超光速空間には星域軍の船は存在しなかった。つまり、内戦は既に開始されている状況と思われた。帆船は超光速航法を停止し、通常空間に降りると、すかさずステルスモードに移行して、恒星系内の状況を把握した。


>『ギリギリ間に合った感じだな』


>『既に戦いが始まってますが、本格的な戦闘ではありませんね』


 現大統領と前大統領派の星域軍は、戦闘ドローンとAI戦艦を繰り出して既に戦いが始まっていた。しかしまだ首都星の軌道上には民間の宇宙船がいるため、戦闘ドローン同士が近接戦闘を行っているレベルだった。民間船は戦闘に巻き込まれるのを恐れて、衛星軌道を離れ、恒星系の外周部に移動していた。


 現大統領と前大統領派は、共に傭兵を大勢雇っていて、艦隊に傭兵達の宇宙船が混じっていた。その中にはレマの船は見つからなかった。


>『レマは、今何処にいる』


>『ステーションの宇宙港に、宇宙船の反応があります。戦争には参加していないようです』


>『そうか。しかしステーションと戦場が近いな。両陣営ともステーションを戦争に巻き込むつもりか?』


>『首都星のステーションは、星域軍の基地も兼ねています。現大統領はそれも戦力として使うつもりのようです』


>『無茶をするな。下手をすれば民間人にも被害が出るぞ』


>『首都星は現大統領の支配下です。前大統領の治世が酷かったことも有り、民間人も積極的にこの戦争に参加するつもりのようです。ベイ星域の人類は、好戦的なようですね』


>『いや、これは現大統領、メアリーがそう仕組んだんだろう。そこまで人心を掌握しているとは、恐ろしい女だ』


>『両艦隊の通信を傍受しました。聞きますか?』


>『聞こう』


『勇猛なるベイ星域の諸君、待ち望んだ戦争が始まったぞ。あの無能な豚、トルマンをこの一戦で叩きつぶし、ベイ星域を欲望にまみれた連中から取り戻そう!』


『小娘が、国民を騙して扇動しおって。ベイ星域の国民よ、儂、トルマンこそベイ星域の正当な指導者だ。あの盗まれた(・・・・)選挙結果を信じるでない。今こそどちらに正義があるか知らしめるのだ!』


 俺はデータとして現大統領と前大統領のデータを調べていたが、今の通信に映った映像を見て納得がいかなかった。いや両大領が叫んだ台詞についてではなく、その映像であった。


>『前大統領はまあ、小汚いおっさんだな。しかしメアリーは…何歳だっけ?俺の目にはどう見ても幼女に見えるのだが』


>『現大統領メアリーは、今年で三十歳です』


 現大統領メアリーの経歴を調べたとき、そこに表示されていた映像は幼女の姿だった。まあ女性が自分を若く見せたいという気持ちは分かるので、大学卒業時の写真を使っているのだろうと思ったのだが、どうやら違ったようだ。つまり、今通信に映った幼女が、メアリーの今の姿だった。


>『ベイ星系の国民は、アレ(・・)が大統領で問題ないのか』


>『ベイ星系の国民は、現大統領を熱狂的といって良いほど支持しております。マスコミの調査では、支持率は八割を超えています』


>『ベイ星域国民って…』


>『現大統領は、厳格に法律を守り、公平な政治を行っています。大統領の特権をむやみに使わず、汚職していた政治家や官僚を処罰しています。そういったことから国民の支持を得るのは当然です。本船の判断は間違っていますか?』


>『まあ、政治的な手腕は確かなようだな。しかし、あの容姿で良く女性の支持が得られたな』


>『逆にあの容姿が話題となって、女性達の支持を得たようです。あの容姿には何か秘密があるようです』


>『現大統領は魔法使いだったな。魔法で若返りって可能なのか?』


>『若返りの魔法は存在しません。考えられる方法としては、幼生固定という科学的な方法がありますが、人類では推奨されておりません。つまり、本船も知らない技術で、大統領は若さを維持していると思われます』


>『俺達が探している魔石だが、その技術に使われている可能性は有るのか?』


>『大統領があの容姿で成長を止めたのと、魔石が彼女の手に渡った時期から、何らかの可能性はあると推測します』


 俺達は、魔石の行方を求めてやって来たが、どうやらその使い道が見えてきた。男なら、くだらないと思ってしまうかもしれないが、女性には決してそんな事を言ってはいけないことぐらい、朴念仁のシンデンでも理解している。


>『とにかく俺達は、この内戦の決着を見届けよう』


>『本船も、ヤマト級の船でも出てこない限り、この内戦に手を出すつもりはありません』


 帆船は、戦場をスキャンして、ヤマト級や他のレリックシップ(遺物船)が参加していないか調べる。ベイ星域軍は軍備を増強していた為、内戦に参加している船は数万隻も存在する。傭兵の船も含めると帆船でも全ての船を精査することは難しい。それにレリックシップ(遺物船)は切り札のような存在だ。大型戦艦の中に格納されていれば、帆船でも発見は不可能だ。つまり、内戦が終わるまで待つしかない。


 ★☆★☆


 ベイ星域の内戦だが、開戦から二十時間過ぎたが、当初の予定通り現大統領派が優位に戦いを勧めていた。前大統領派から離脱する星域軍人も多く出ており、後数時間もすれば前大統領派は壊滅するだろう。超光速航法で逃げ出す連中もで始めているが、そちらも現大統領派が追跡して拿捕している。


>『勝負あったな』


>『このまま何事も無く終われば良いのですが…』


>『だから、電子頭脳さん、フラグを立てないでよ』


 -前大統領旗艦-


 前大統領トルマンは、自軍から離脱する艦が多数出て、ここまで来てようやく自分が負ける未来しか無い事を理解し始めていた。


「ええい、不甲斐ない連中だ。あのような小娘に騙されおって。こうなればアレ(・・)を使うぞ」


「大統領、アレ(・・)とは、この船に持ってこられたレリック(遺物)のことでしょうか?本当に使われるおつもりでですか」


 トルマンの側近である前副大統領が、トルマンが何を使おうとしているか理解すると、冷や汗を流しながら確認する。


「そうだ、それ以外何がある。今の戦況をひっくり返すには、あのレリック(遺物)を使って、何とかするしか無いだろう」


「しかし、あのレリック(遺物)を使うとなると、首都星は大丈夫でしょうか。言い伝えでは、願いに応じて膨大な対価が要求されるはず」


 旗艦に搭載されているレリック(遺物)は、使えばこの戦況をひっくり返すほどのモノ(・・)だと、大統領の親戚である前副大統領も知っていた。しかし、そのレリック(遺物)を使用する為の対価がどれほどの物か、副大統領は良く分かっていなかった。何しろ、大統領の本家に伝わる秘宝として、代々受け継がれてきたが、「使用法とそれが何をしてくれるか」だけ(・・)しか伝わっていない代物なのだ。過去に一度使用されたらしいが、その時には、ベイ星域から一つの恒星系が消え去ったと言う馬鹿げた話が残っているだけだ。


「儂の支配を受けない首都星など。滅びてしまってもかまわぬ。それとも、お前はこのまま負けて、あの小娘に処刑されるつもりなのか」


「…分かりました。大統領の判断に従います」


 元副大統領も自分の命が惜しい。このままでは旗艦が破壊されて死ぬか、捕まって国家反逆罪で処刑される未来しか無いのだ。


「早くアレ(・・)を持ってこい」


「了解しました」


 数分ほど待って、旗艦のブリッジにレリック(遺物)が運び込まれた。古めかしい木製の箱に収められたそれ(・・)をトルマンは慎重に取り出した。


「さあ、儂の願いを叶えるのだ」


 トルマンは、そう言って手に持ったランプを撫でた。そう、まるでアラジンと魔法のランプの物語のように、ランプを撫でた。するとランプから煙のような物が漂い出て、トルマンの前にとても生き物とは思え無い、立体的に見えるが、厚みの無い姿の化け物が現れた。


『我を呼び出したのは貴様か。さて、我に何を望む』


 化け物は、ランプを撫でた者…トルマンを見据えると、何をして望むのか尋ねてきた。


「儂が望むのは、儂に敵対する者全ての破滅だ」


『ふむ。容易いことだが、その対価として貴様は我に何を支払う。望を叶えて欲しいなら、我に対価を示せ』


 もちろんトルマンが望むのは、彼に敵対する者全ての殲滅である。しかし、化け物は対価を求めてきた。トルマンは言い伝えられた通りの展開になったことにほくそ笑んだ。

 トルマンの先祖は以前このランプを使った時、一つの恒星系を対価として支払ったという話が残っている。その時ランプを使った大統領は、ベイ星域を手に入れた。つまり、この首都星を含む恒星系を対価とすれば、この化け物はトルマンに敵対する者全てを殺してくれるはず(・・)なのだ。


「この恒星系を差し出そう」


「大統領…本気ですか」


 副大統領は、大統領の正気を疑った。


「本気に決まっておろう」


 既にトルマンの目は狂気に彩られていた。もう彼には現大統領を倒す事しか考えていなかった。


「ですが、首都星を含む恒星系を失っては、ベイ星域は大変な事になります」


「儂に敵対する者は全て殺せ。それが誰であってもな!」


 トルマンは、副大統領すら「反対すれば殺す」という意思を言葉に込めていた。


『…足りぬな。この恒星系だけでは足りぬ。貴様の願いを叶えたいなら、もっと対価を寄越せ!』


 しかし、化け物はトルマンの提示した対価では「足りないと」言った。


「何だと、首都星を含む恒星系では足りぬと言うのか。お前は儂にどれだけ対価を要求するつもりなのだ」


『…そうだな。我をそのランプから解放しろ。そうすれば、我はお前の望を全て叶えてやろう』


「ランプから解放だと。そんな事で良いのか?」


 トルマンは、もっと多くの恒星系を要求されるかと思っていたが、化け物の要求が簡単な事(・・・)であったので驚いた。


『そうだ、我を解放しろ。そのランプを壊せ。そうすればお前の望はかなうだろう』


「大統領、これはおかしいです。このレリック(遺物)の使い方を間違ったのでは?」


 副大統領がトルマンに尋ねるが、トルマンが伝え聞いている使い方は「ランプを撫で、現れた者に願いを言い、対価を支払う」これだけだった。トルマンの行動は間違ってはいなかった。もし彼が、地球の昔話を知っていれば、その様な要求を飲めば、どのような結果になるか分かっただろう。しかし、トルマンはそんな物には興味が無かった。


「恒星系より、このランプからの解放を望むというのか…そんな話は聞いておらぬ」


 しかし、化け物の要求が余りにも簡単であるため、狂気に陥っていたトルマンも、化け物の言っている事がおかしいことに気づいた。もしここで彼が普通の精神状態であれば、そして戦争に負けていなければ、化け物の要求をもっと疑っただろう。


『大統領、もう前線が持ちません。このままでは旗艦が攻撃に晒されます。早く撤退をお願いします』


 しかし、トルマンが考え直そうとした時、前線を戦っていた有人艦からの通信が旗艦に届いた。いまこの瞬間、トルマンの仲間は戦い、負けているのだ。彼に迷っている時間は無かった。


 ガキッ


「これで良いのだな」


「だ、大統領…」


 トルマンは、ランプを床に落とすと踏みつぶした。副大統領は、それを見てこれから何が起きるか恐ろしくて、大統領に縋り付いてしまった。


『あははははっ、ついに我は解放された。ああ、解放されたのだ。この時をどれほど待っただろう』


 ランプが壊された事で、化け物は笑い始めた。相変わらず立体的に見えるが、厚みの無い姿だが、その声には歓喜の感情が含まれていた。


「対価は払った。早く儂の願いを叶えろ」


 トルマンは対価を、ランプを破壊して化け物の解放を行った。それが何を意味するかも知らずに、トルマンは化け物に対価を支払った。


『そうだな、願いは「お前に敵対する者全ての殺害」だったな。分かったぞ、今叶えてやろう』


 化け物はそう言って、ブリッジの窓を突き破って外に飛び出した。もちろんそんな事をすればブリッジから空気が抜けてしまう。旗艦は戦闘艦なので、被害を最小限に収めるために窓の隔壁を閉鎖しようとした。しかしそれは一歩間に合わず旗艦のブリッジにいた大統領や副大統領を含めブリッジ要員は、全員宇宙に放り出されてしまった。戦場でも一番安全な場所にいた為、誰も宇宙服など着ていなかった。つまり、前大統領派はその旗頭を失ってしまった。


 ★☆★☆


>『前大統領派の旗艦から何か飛び出したぞ。何だアレは?スキャンにも引っかからないのに、光学センサーには見えている』


>『馬鹿な事を。あれは高次元生命体です。恐らくレリック(遺物)に閉じ込められていた物が解放されたのでしょう。このままではこの星系の…いえ、下手をすれば銀河が滅びますよ』


>『へっ、何だよそれ。高次元生命体って』


>『とにかく、あの高次元生命体を追いかけますよ。さっさと倒さないと、本船でも対応不可能となります』


>『電子頭脳さんが慌てるとか、相当な奴だな。分かった追いかけよう』


 帆船は、ステルスモードを解除して高次元生命体を全速で追いかけ始めた。


お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ