ピラミッドといえば…
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
「カエデ、レリックを出すんだ」
「あっ、はい」
慌ててカエデは白衣のポケットからレリックを取り出した。金色の光を放つレリックは、カエデの手から飛び上がり空中に浮かんだ。
警備ドローンが、光り出したレリックと俺達を警戒して包囲する。
「(このままでは不味い。このままでは殺される)」
警備ドローンは、俺達とレリックを危険物として認識したようで、レーザー中の照準を俺達に合わせていた。このままでは俺達は、「遺跡に危険物を持ち込んだ犯罪者」として射殺されてしまうだろう。
「レマ、理力フィールドを張れ!」
「分かったわ」
このような状況では、シオンよりはレマの方が判断が速い。警備ドローンが射撃を始める前に、レマが俺達全員を包む理力フィールドを張る。
レマが理力フィールドを張ると同時に、警備ドローンが一斉にレーザー銃を発射するが、発射されたレーザーが俺達に命中することは無かった。
レーザーが命中する前に足下の床が消え去り、俺達はレリック共々、遺跡の地下に落下していった。一瞬のできごとのため、警備ドローンには、俺達が消え去ったように見えただろう。
★☆★☆
「どうやら、侵入者排除の為の落とし穴では無かった様だな」
カエデ以外は、落下に備えて身構えたが、全員レリックが張ったフィールドに包まれていた。落下開始時は足が引っ張られたように、ガクンと落ちた感じだったが、それも途中からエレベータで降下するぐらいの速度になっていた。つまり、地面に激突して死ぬような事はないと思われた。レマも既に理力フィールドを解除している。
「シンデン、私達これからどうなるの?」
シオンとスズカは、怖いのであろうシンデンにしがみついて来た。
「このレリックは、この遺跡に由来する物だったのですね~。ようやく使い道が分かりました」
カエデは光り輝くレリックを興味深そうに観察していた。なかなか度胸がある。
「暢気なこと言ってないで、周囲を警戒しなさい」
レマは、周囲を警戒している。もちろんシンデンも気を放って警戒をしているが、俺達を包むフィールドは、気を通さないので、落下しているだろうという状況しか分からない。
「殺すつもりなら、こんな手の込んだ事はしないだろう。しかし、この遺跡にこのような仕掛けがあったとは、観光ガイドにも書かれてなかったな」
この古代遺跡は念入りに調査が行われたが、魔石を利用して惑星の天候を操るという事ぐらいしか、外部には公開されていない。いや、警備ドローンの対応を見る限り、今俺達が体験している現象は、調査した学者達も知らない仕掛けであろう。遺跡に入った所から、霊子力通信も妨害されているので、帆船に状況を知らせることも出来ない。
「このレリックが原因なのは確かですが、一体何処に私達を連れて行くつもりなのでしょう」
カエデは研究者らしく、状況を分析している。
「どうやら、終着駅に着いたようだ」
移動する気配が消え、フィールドが解除されると、金色に彩られた部屋に俺達は移動していた。上を見ても金ぴかの天井が見えるだけで、落ちてきた穴も見当たらない。
「レリックも光るのを止めたようね」
空中に浮かんでいたレリックは、その輝きをなくすと床に落ちた。カエデはレリックを拾うと、丹念に調べたが、光らなくなった以外、特に変わった所は見つからなかった。
「シンデン、これからどうするのですか。この部屋、出口が見当たりませんよ」
レマの言う通り、部屋には人が通れそうな通路が無かった。部屋の大きさは二十メートル四方でかなり広い。天井まで五メートル程有るため、圧迫感は感じられないが、出入り口は何処にも見当たらない。
「どうするも何も、ここから脱出するしかないだろ。俺は出口が無いか調べてみる。シオンとスズカとカエデは、そこで待っていろ。何かあったら、シオンは魔法で二人を守れ」
「私は?」
「レマは俺と一緒に出口を調べてくれ」
それから十数分かけて、レマとシンデンは出口を探して壁と床を調査したが、何処にも出口となるような場所は見つからなかった。部屋全体が一体成形の箱のようになって居り、継ぎ目も見つからなかった。空気穴も無いとなると、窒息死の恐れも出てきた。まあタクティカルスーツは簡易宇宙服にもなるから暫くは持つが、限界はある。
「こういうときは、そのレリックが鍵で、ここで使うのがお約束だろうな。カエデ、俺にレリックを貸してくれ」
シンデンはレリックを受け取ると、それを右手でかざしながら再度壁と床を調べる。すると壁の一部が音もなく開き、通路が現れた。
「どうやら、このレリックがキーとなって道を開いてくれるようだな。初心者向けダンジョンのキーアイテムと同じような物だろう」
「初心者向けダンジョンのキーアイテムと同じものですか。じゃあ、この先に進むと、生体ドローンが出てきたりするのでしょうか?」
「それは分からないな。とにかく道を進むしか無い。ダンジョンと考えて進むとすると、隊列は…俺とシオンが先頭で、スズカとカエデは真ん中、最後尾はレマだな。とにかく注意しながら進むぞ」
各自シンデンの指示通りに隊列を組み、金色に光る道を進み始めた。
★☆★☆
しばらく道なりに進むと、前方に人影が見えてきた。警備ドローンなら発砲してくるかもしれない。シンデンは気のフィールドを纏って、シオンを自分の後ろに下がらせた。
「警備ドローンでは無いか」
人影は、包帯を全身に巻き付けた人形だった。所謂マミーという奴だ。両手を前に差し出して、通路を塞ぐように左右にうろうろと歩いている。今のところ襲ってくる気配は無いが、マミーを無視して通り抜けられるほど通路は広くない。
「声を掛けてみる…」
「シンデン、気を付けて」
「シオンは、魔法の準備をしておけ」
「分かった」
シンデンはマミーに近づくと、声を掛けた。
「ここは一体何処なんだ?」
マミーは、シンデンが声を掛けたことで、俺達の存在に気づいたのか、立ち止まるとシンデンの方に向き直った。
「やはり襲ってくるのか」
マミーはカサカサと音を立てて、シンデンに殴りかかってきた。マミーの体内を気で探ったところ、生体とメカを融合させたドローンのような物と判明した。生体パーツは既に干からびており、メカの部分だけで動いているようだ。
「マミーと言えば病気と呪いか…。素手で戦うのは危険だな。この手の奴は燃やすに限る。シオン、ファイア・アローで攻撃してくれ」
「分かったわ…マナよ我が敵を滅ぼす炎の矢となれ、ファイア・アロー!」
マミーの攻撃をシンデンが躱すのと入れ違いに、ファイア・アローがマミーに命中する。マミーの包帯と乾燥した肉体は、たちまち炎に包まれ燃え上がった。
人型の炎はしばらくもがいていたが、一分ほどで燃え尽きて倒れた。タンパク質とプラスティックが燃えるような嫌な臭いが辺りに広がる。タクティカルスーツのセンサーでは有害物質は検出されていないが、あまり近寄りたくはない。
「みんな、煙を吸わないようにしてくれ。とにかく先に進むぞ」
タクティカルスーツの簡易マスクを被り、煙を吸わないようにして通り過ぎた。カエデが燃え尽きたマミーに興味を持ったが、おさわりは禁止だ。とにかく安全第一で進む。
しばらく進むと、またマミーがいた。先ほどと同じく、シオンのファイア・アローで燃やす。そうして進むと、道は行き止まりとなっていた。
「ここも、レリックの出番だな」
シンデンがレリックをかざすと、道を塞いでいた壁が開く。今度は上に登る階段が現れた。どうやらこのダンジョンは、下から上に登るタイプのダンジョンらしい。
階段を上ると、道が続いていた。仕方なく道を進むと、同様にマミーが彷徨いていた。マミーを倒しながら七階ほど階層を登った所で、今度は左右の分かれ道に出会った。
「さて、どちらに進むか…」
RPGゲームなら、「右手の法則」で進むとかこだわりがあるが、リアルダンジョンでは、それが正解とは限らない。
「私は右かな」
「私も右ですね」
「私は左だと思います」
「床に何か通った跡があるな、多分左に行けば、何か居ると思う」
シオン、スズカ、レマがそれぞれ好きな方向を言う中、カエデは通路の床を調べていた。確かによく見ると、左の通路だけ微妙にすり減ったような跡があった。どうやら何かがこの通路を通った跡のようだ。カエデは、このメンバーの中で戦闘力は無いが、調査や分析では、研究者である彼女の方が信じられる。
「左に向かえば、何かと出会う可能性が高いか。この場合、守られている方が重要な区画だろう。左に向かうぞ」
全員が頷くのを確認して左の通路を進む。しばらく進むと、通路を銀色の球体が塞いでいた。
「まさか、あれは…」
「その『まさか』のようですね…」
銀色の球体は、俺達めがけて転がり出す。「この遺跡を作った異星人は、○ンディージョーンズの映画ファンかよ」と叫びたくなったが、そんな暇は無い。レマ、シオン、スズカは自力で逃げ切れるだろうが、カエデは足が遅い。シンデンはカエデを抱きかかえると、通路を全力で走る。後ろには銀色の球体が迫るが、何とかそれを振り切って、俺達は分かれ道まで逃げ切った。球体は俺達の横を通り過ぎると、階段の方に転がっていった。
「もう少ししたら、あれが戻ってくるんだろうな。それでも左に行くべきか…。それとも右を試すか」
「左に進んで、あれが戻ってきたら不味いですよね。左が行き止まりだったら、押し潰されますよ」
「それじゃ右に進むか。いや、今度は俺が一人で進んでみる。みんなは俺が戻ってくるまで、球体に注意して待っていてくれ」
今度はシンデン一人で、右の道を進んでいった。左と違い道には球体が通った跡は無いので、恐らく挟み撃ちされることはないだろう。
「ん、あれはマミーじゃないな。…もしかしてあれはスフィンクスか?」
通路の先に見えたのは、象ぐらいのサイズの四つ足の獣だった。地球では石像だったが、このダンジョンでは、男性の顔をした巨大なライオンという姿だった。その人面獣身の化け物が道を塞いでいた。マミーと異なり、スフィンクスは生体パーツが朽ちる事無く残っていた。
ピラミッドに加えて、マミーとスフィンクスが出てくる辺り、この遺跡を作った異星人は、過去に地球に訪れたことがあると思われた。もしかしたら、太古のエジプトの人達が、ピラミッドやスフインクスの像、そしてミイラを作ったのは、この異星人の影響かもしれない。
そう考えてレリックをよく見ると、エジプトの「ホルス神の目」というレリーフに似ている事にようやく気づいた。
『お前は、何故ここにやって来た?』
スフィンクスはシンデンに話しかけてきた。いや、スフィンクスの口から出た言葉は聞いたことも無い言語であったが、スフィンクスは喋ると同時に、霊子力通信でシンデンに思念を送ってきたのだ。霊子力通信を使われた事にシンデンは驚いたが、ここまで来たら退くわけにも行かない。特に霊子力を使う相手に対しては、シンデン以外は係わらせたくない。
『レリックを持ってこの遺跡に入ったら、ここに続く部屋に飛ばされたんだ。お前はこのレリックが何か知っているか?』
シンデンはスフィンクスに霊子力通信で思念を送ると、レリックを見せつけた、スフィンクスはシンデンが霊子力通信を使う事に驚き、そしてレリックを確かめるかのように目を細めた。
『「ホルスの目」だな。お前は何処でそれを手に入れた。それにお前は霊子力通信を使えるがここに来た者はみな霊子力通信を使えるのか?』
スフィンクスは、今度は声を出さずに霊子力通信でシンデンに問いかけてきた。どうやら俺以外の四人の存在にも気づいているようだ。
『このレリックは「ホルスの目」というのか。入手経路は俺も知らない。俺が乗っているレリックシップに在ったのだ。そして霊子力通信が出来るのは、今のところ俺だけだ。それでこの「ホルスの目」にはどんな機能があるのだ?』
『そうか霊子力通信ができるのはお前だけか。その「ホルスの目」は、我の創造主達が作った物で、この遺跡に入るための鍵となるアイテムだ。だが、「ホルスの目」を持った創造主達がこの惑星を去って久しい。まさか異星の知的生命体が、「ホルスの目」を持ってやって来るとは思わなかった。しかも霊子力通信を使いこなしているという事は、お前達は、創造主と同じだけの力を持っているという事か?』
このスフィンクスはどれだけ長い時を過ごしてきたのだろう。懐かしそうにシンデンの手に握られた「ホルスの目」を見つめていた。
『いや、霊子力が使えるのは、俺だけだ。それで、この「ホルスの目」はピラミッドに入る鍵と言ったが、それなら何故途中でマミーが襲ってきたんだ?』
『このピラミッドが、惑星の天候を操作できることは知っているだろう。それ以外にも、このピラミッドには、我らの創造主が残した遺産が残っている。我らは、それを守っているのだ』
『なるほど。途中のマミー達もお前も遺産の番人なのか。ではお前も俺と戦うのか?』
『いや、「ホルスの目」を持っている者を襲うことはしない。長い長い時間が過ぎて、我以外の存在は、もう正常な判断が出来ない程に壊れてしまったのだ。だからお前達を襲ったのだ』
マミー型のドローンは、生体パーツを使いメンテナンスフリーなドローンとして作られたのだが、それでも数千年という時間を耐えることはできなかった。次第に生体パーツが損壊し、正常案判断が出来なくなったドローンは、「ホルスの目」を認識できず、シンデン達を侵入者として排除しようとしたのであった。
『お前は壊れていないという事か。しかし、左の道には銀の球体の罠があった。あれも壊れていたのか?』
『創造主なら、その「ホルスの目」が「ラーの目」であることを知っている。左右の分岐で、左を選ぶことなどあり得ない。お前達はそんな事も知らないのか?』
スフィンクスが呆れるが、シンデンはエジプトの知識など持っていない。俺もゲームの設定で出てきたような知識しか持っていない。
『お前の創造主達の知識は持っていない。俺が知っているのは、よく似た物が俺の故郷にあった事だけだ。しかし、「ラーの目」か、確かラーは太陽の象徴だったな。それが右を指し示しているとは知らなかった』
『そうか、故郷に似た物があったのか。創造主達は、お前達の故郷に訪れた事があったのかもしれないな』
『ああ、俺は、お前がスフィンクスと言う想像上の生物に似ていると思っているが、その認識で合っているか?』
『我はスフィンクスで合っている。では、我がここで謎かけをすることも知っているか?』
『謎かけをすることは知っているが、それが俺の知っている謎かけかと同じかは、聞いてみないと分からない』
『では聞いてやろう、朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これは何か?』
スフィンクスは、逸話通りの謎かけを出してきた。これが俺の知っている謎かけ通りなら、答えは「人間」である。しかし、このピラミッドを作ったのは異星人だ。「人間」が正解とは限らない。だが、途中で襲ってきたマミーは人間に近い手足を持っていた。シンデンは戦いに備え気を練りながら、問いかけに答えた。
『答えは「人間」だ。まあ、もしかしてお前達の「創造主」というのが正解かもしれないが、俺が知っている答えは「人間」だ!』
『…正解だ』
『問いかけに正解したら、どうなるのだ?』
『「ホルスの目」を持ち、謎かけに正解を答えたのだ、ここを通してやる。だが、創造主の眠る棺には手を出すな。この先の部屋の奥に、地上に通じる昇降装置がある。そこで「」ホルスの目」をかざせば、地上に戻れるだろう』
『俺には他に四人の仲間がいる。彼女達もここを通って良いか?』
『…認めよう』
スフィンクスはそう言って、眠るように目をつむった。ここを抜け出すには、こいつの言葉を信じるしかない。シンデンは通路を戻り、四人を連れてくる。スフィンクスは俺達をちらりと見たが、何も言わなかった。
「シオンさん、こんな大きな猫、初めて見ました」
「スズカ、これは猫じゃ無いよ。シンデン、これなんて生き物なの」
「これも生体ドローンなのか?興味深いな」
「シンデン、本当に大丈夫なのですか。急に襲いかかってきませんよね?」
まあ、四人の感想はそれぞれだが、こいつについて詳しく話すことは出来ない。なぜなら、この生体ドローンが「スフィンクス」だと教えることは、俺がシンデンでは無い事に繋がる情報だからだ。
「こいつがどういう生き物かは知らない。ただ、レリックがあれば通してくれるようだ。そうだな?」
『スフインクスよ、頷いてくれないか』
『分かった』
シンデンのお願いにスフィンクスは応じて、大きく頷いてくれた。
「どうやら本当のようですね」
レマはシンデンの説明が本当であると理解した。
「こちらの言葉が分かるのでしょうか。異星人のドローンなのにどうやって理解しているのでしょう。研究したい…」
問題は、カエデだ。こいつを研究するとか研究馬鹿らしい事を言い出した。
「カエデ、研究など出来ないぞ。さっさと帰るんだ」
シンデンはカエデを引きずって、先に進んだ。残る三人も恐る恐るという感じでスフィンクスの横をすり抜けていった。スフィンクスが見えなくなる間際、スフィンクスはシンデンに問いかけてきた。
『創造主が旅立ってから、我は長い間眠りについていた。そして待てども待てども、創造主達は戻って来ない。創造主はこの惑星に帰ってくるのだろうか?』
この遺跡を作った異星人が地球に訪れていたと仮定すると、この惑星を去ってから少なくとも七千年は過ぎている。そして、人類が宇宙に飛び出してから千年の間、知的生命体とは遭遇していない。つまり、スフィンクスの創造主達は、人類が進出した領域には存在していないのだ。
『お前が待っているんだ、いつか帰ってくるだろう。もし何処かで出会ったら、お前が待っていることを伝えよう』
『…ありがとう』
シンデンは、スフィンクスに気休めの答えを返すことしか出来なかった。
★☆★☆
スフィンクスの言う通り、通路の先に部屋があり、昇降装置と思わしき小部屋があった。また、部屋の中には金銀財宝に埋もれるように多数のレリックが眠っていた。冒険者なら大喜びするだろうが、俺はそれがスフィンクスの創造者達の遺産というか、埋葬品であることを知っている。何故なら部屋の壁際には、エジプトのファラオのミイラを収めるような棺が多数並んでいたからだ。あの中にはスフィンクスの創造主達の亡骸が眠っているはずだ。つまり、ここは墓地なのだ。
墓地である部屋は大きく、財宝とレリックだけではなく、中央には「太陽の船」と思われる全長百メートル程の木造の船が浮いていた。
「凄い…お宝だよ」
「綺麗ですね~」
「レリックが一杯ある~」
シオンとスズカ、カエデはお宝とレリックに目を奪われていたが、レマは違った。
「あれはレリックシップですよね。しかも帆船に似ていますね」
レマがシンデンに尋ねてくる。まあシンデンもレリックシップだと思っていだ。もしかしてレマは、レリックシップを奪おうと思って居るのだろうか。
「レマ、もしあれがレリックシップだとして、どうするつもりだ?ここからどうやってあれを運び出す?俺はこれ以上アゼルチン星域で問題を起こすつもりは無いぞ。それにここに存在する物は、墓に供えられた埋葬品だ。俺は墓泥棒をする奴を仲間とは認めないからな」
「墓泥棒ですか。普通の傭兵なら気にしませんが、シンデンはそんな事を許しませんね」
星域軍人であるレマは、レリックやレリックシップが欲しいのだろうが、そんな事をすれば、シンデンが許さない。それに、レリックシップを持ち出せば、アゼルチン星域国も気づくだろう。そうなれば、レリックシップを巡って争いが起きる。あの船はヤマト級とは違うレリックシップだ。ここに眠らせておく方が良いのだ
「お前達、ここで起きたことは秘密だ。誰にも喋るなよ」
「「はーい」」
「うう、見たことも無いレリックがあんなに在るのに~」
「…報告したいけど、証拠が…」
まあ、レマは諜報部にこの遺跡について報告しなければならないと思っている。しかし、この遺跡には、「ホルスの目」が無ければたどり着けない。そうでなければピラミッドが見つかった時点で、この場所は発見されているはずだ。つまり、遺跡について報告しても意味は無いのだ。もちろん俺は「ホルスの目」をレマや諜報部に渡すつもりは無い。
スフィンクスやレリックに未練たらたらのカエデを引きずるようにして、俺達は地上に帰る昇降装置に入った。シンデンが「ホルスの目」をかざすと、ここに運ばれた時のように、俺達は「ホルスの目」のフィールドに包まれた。そしてフィールドは上昇を始めた。
★☆★☆
「ホルスの目」のフィールドが解除され、俺達が解放されると、そこは魔石の置かれた部屋であった。そして俺達が消えた所に向かってドローンがレーザー銃を撃っているその瞬間でもあった。つまり、俺達が消えてから戻ってくるまで、一秒もかかっていなかったのだ。もし戻ってくる場所が同じ地点であれば、俺達はレーザーで蜂の巣になっていただろう。だが、俺達が現れたのは、魔石を挟んで反対側の地点だった。
『!?』『!?』!?』『!?』
警備ドローン達には、俺達が瞬間移動したように見えただろう。シンデンも他の四人も時間が一秒程しか経過していないことに驚いていた。
その後、俺達は警備ドローンに囲まれ、遺跡の外で星域軍人に事情聴取された。もちろん、全員「何が起きたか分からない」としか答えなかった。星域軍人に「ホルスの目」を証拠物件として奪われ掛けたが、シンデンがミヤモトと決闘した傭兵だと知ると、途端に敬礼して丁寧に見送られて帰ることが出来た。
★☆★☆
>『あのレリックシップは放置で良いんだな』
>『あの船の製作者は本船の仲間です。しかしこの惑星に存在した異星人が、あの船の封印を解放した後に、この惑星に再度封印していたと分かったのは良かったです』
レマの想像通り、「太陽の船」は帆船と同類の船であった。ヤマト級と違って、帆船側のレリックシップだから、俺は放置してきたのだ。
>『あの船に霊子力兵器は搭載されてないんだよな』
>『はい。あの船は本船より小型で、ヤマト級で言うところの駆逐艦に相当する船です。今は雪風がいますので、あの船の封印を解いて使用する必要はありません』
>『船については分かったが、あの遺跡に在ったレリックや時間を加速させる技術は必要なかったのか?』
>『時間を加速させる技術は本船も持っています。しかしあの技術を使用するには、惑星規模のシステムが必要です。つまり帆船で運用することは不可能なのです。レリックに関しても、あの惑星の異星人は、「太陽の船」を超える船を作り出せなかったようです。マスターの視覚記憶から得られた情報から、本船が必要とする技術は無いと分析できています。霊子力も通信のみに使っていた様です』
あの遺跡で起こった出来事だが、タクティカルスーツに搭載されていた科学的な記録装置には記録が残っていなかった。時間を操るレベルのテクノロジーを持った遺跡だ。それぐらい出来るのだろう。帆船も同じ事は出来る。おかげでレマは、諜報部に遺跡の存在を報告しようにも、自分の記憶以外証拠が無いため、苦労しているようだ。
>『あの遺跡と地球のエジプト文明が繋がっているなら、ミイラを作る技術はあっても、俺の脳を復活させるような技術はなかっただろうな。しかし、遺跡を作った異星人達は、何処に行ったのだろう』
>『現生人類が遭遇していないという事は、文明を維持できず滅びたと推測します。母星を離れた途端、急に種としての限界が訪れて滅びてしまう生命体がいるのです』
人類は、地球を離れても特に問題もなく生存している。時々植民惑星から未知のウィルスが広まり、大災害になったりする。しかし人類はそれでもくじけずに、銀河に生活圏を広げている。
それに対して、ピラミッドを作った異星人は、母星を離れては生きていけない連中だったと思われる。もしかして地球に住み着いていたかもしれないが、たとえそうであっても歴史の中に埋もれて消えてしまったのだろう。
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