決闘三昧とピラミッドxレリック
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
アゼルチン星域で護衛依頼をこなしつつ、俺と電子頭脳は貴重な魔石の行方を追いかけた。まあ最初のササキ氏の魔石以外は、今のところ所在が判明し、管理状態からヤマト級レリックシップの解放に使われる危険性は無いと判断した。
そう、魔石の行方に関しては問題は無かったのだが…。
『帆船型のレリックシップを乗りこなす傭兵。貴殿がシンデン殿で間違いないであろう。貴殿は、星域軍でも勇猛果敢と噂のミヤモト殿を倒されたと聞いている。シンデン殿であれば、決闘を申し込みたい』
『今は護衛依頼の途中ゆえ、決闘は別の機会にさせて貰いたい』
『では、護衛依頼を終えるまで、貴殿の船について行かせて貰おう』
まあ、こんな風にシンデンに決闘を申し込む連中が、やって来るようになった。どうやら傭兵が決闘でミヤモトを倒したことが、アゼルチン星域の気功術士の間で話題となっているらしい。傭兵が星域軍の気功術士を決闘で倒したと聞き、血気盛んな連中がシンデンと決闘するために押しかけてきているのだ。
流石に星域軍の連中は来ないが、在野の気功術士が、「シンデンを倒して名を売りたい」という目的で挑んでくるのだ。そしてシンデンは、正式な決闘許可書を持っている。シンデンの評判(主にシオンからの期待の目線が原因だが)を落とさぬよう、シンデンは決闘を受けるしかなかった。
まあ、そんな連中が一人二人ならまだしも、四人五人と増えていくと、流石にシンデンも対応が面倒になってくる。
気功術士は稀少な存在だが、優れた人物ならとっくに星域軍にスカウトされている。つまり、在野でシンデンに挑んでくるような連中は、気功術士として星域軍にスカウトすらされないレベルの連中か、性格等の面で問題のある連中である。中には自称気功術士なども混じっていた。いや気功術士同士なら決闘が成り立つが、気も使えない自称気功術士と決闘をしてしまうと問題である。
とにかく、そういった有象無象の連中を斬っては捨てる(もちろん殺してはいない)日々が続く。そしてその決闘の合間に、目的の惑星に立ち寄っては、シオンやレマの目をかいくぐり、何とか言い訳を考えて魔石の行方を追う日々が続いた。
★☆★☆
「疲れた。もう決闘などしたくないでござる」
シンデンは、響音に膝枕をされて、私室で寝っ転がっていた。シンデンは、決闘と魔石探しで肉体的にも精神的にも限界が来ていた。
>『シンデンが疲れているな~。というか、もうシンデンは、シンデンでいる事に慣れてしまったな』
「そうだな、もう体に違和感などほとんど感じない。多分一月ぐらいはこのままで行けそうだ」
>『本来、他人の肉体に別人の霊子を書き込む事など不可能なのです。バックアップ霊子が、そこまでマスターの肉体になじむというのは、おかしい事なのです』
>『俺達、シンデンの肉体になじもうと努力したからな』
シンデンは、気が狂いそうになる度にバックアップ霊子から書き戻すという行為を繰り返してきた。その成果がこれである。俺の血と汗と努力の結果だ。
「…シンデンの体にこれだけ耐えられるなら、俺のクローンを作成して、霊子を書き込んだら、俺は肉体を取り戻せるんじゃないか?」
シンデンが突然そんな事を言い出す。まあ俺も「可能かも?」とは思っていた。
>『試してみる価値はあります。バックアップ霊子本体のクローンを作成しますか?』
>『試してみたいが、成功したとして、突然見も知らぬ男が、シンデンの仲間に加わる事になるんだぞ。俺本人が仲間になる理由を、シオンやレマにどうやって説明すれば良いんだ?それにクローンでも、最初はあの気持ち悪さを繰り返して、体になじませる必要があるんだ。あの狂気に陥る感覚を、最初からやりなおすとか、絶対にやりたくないな』
>『残念です。貴重なデータが取れると思ったのですが…』
電子頭脳には、あの気持ち悪さは分からないだろう。貴重なサンプルデータ収集ぐらいにしか考えていなかった。
>『クローンで実験するより、俺の本物の脳を修復出来るレリックを探す方が良いな。カエデが研究しているレリックの中にも、もしかしたら使える物があるかもしれないだろ』
>『今のところ、初代マスターの集めたレリックは、使い道の少ない物ばかりですけどね』
シオンやスズカが傭兵として活動している中、カエデは帆船に閉じ籠もりレリックの研究を行っていた。最初は使い道の分かっているレリックを研究させていたが、最近は機能が不明な物とか、既に壊れているようなレリックの研究をしてもらっている。もちろん、機能が不明といっても、カエデが研究しても問題は無いと電子頭脳が判断したレリックを選んでいる。カエデは研究者の素質があったのか、幾つか使い方が不明だったレリックの使用法を見つけていた。
>『「無限に水が取り出せる壺」とか、エネルギー保存の法則に反している気もするが、最大でも毎分一リットルの水しか出せないなら、使い道が限られるよな』
>『その水を出すのに、大量のマナを消費するのですから、使い道はありません。まあ、調べて貰いたいレリックは大量にありますので、ドンドン研究して貰いましょう。ただし、霊子力に関する物は駄目ですよ』
電子頭脳とそんな会話をしている間に、帆船はアゼルチン星域では最後の魔石が眠るサフア恒星系に到着した。
「もう休憩も終わりか…」
響音の膝枕で休んでいたシンデンが飛び起きる。まあ、この恒星系に来る途中で、決闘を挑んできた気功術士がついて来ている。護衛依頼を完了させたら、彼らの相手をしなければならない。
>『データを見る限り、大した相手ではない。また気絶させて終わりだろ』
>『星域軍にスカウトされていない段階で、雑魚確定ですね』
シンデンは元キャリフォルニア星域軍の軍人で、しかも特殊部隊に選抜されるほどの気功術の使い手である。アスカの父のササキ氏の様な気功術士でもない限り、まず負ける要素は無い。
「そりゃそうだが、気功術士を気絶させるだけって、手加減が難しいんだよ」
気のフィールドで防御している気功術士を「殺さず」に倒すのは面倒である。相手の気のフィールドを切り裂き、それでいて体に致命傷を与えずに気絶させるのは、シンデンでも細心の気のコントロールを必要とする。まあ、その気のコントロールを繰り返すことで、シンデンは気功術士としてのレベルが上がったように感じる。まあゲームでは無いので、レベルとか有るわけでは無いが、気功術が目指す高次元への存在にいたる道が見えてきた気がするのだ。シンデンには悪いが、修行だと思って気功術の修練を頑張って欲しい。その先に俺が俺でいられる道があるような気がしているのだ。
それにシンデンの苦労は、霊子を同期すると、バックアップ霊子も味わうのだ。決してシンデンだけに苦労させているわけではない。
「それじゃ、さっさと片付けて、最後の魔石の行方を捜すぞ。シオンやレマの言い訳は考えておいてくれ」
>『分かったよ』
サフア恒星系の第二惑星のステーションに到着した帆船は、傭兵ギルドへの依頼完了報告と、それから決闘をするための準備に取りかかることになる。今回は傭兵ギルドの訓練室(ちょっとした体育館サイズ)を借りて、そこで決闘を行う事になった。予想通り大した相手でもなく、三人を纏めて相手にして、開始の合図から十二秒で三人を気絶させて、決闘は終わった。「三人纏めてかかってこいと」言ったら、怒るどころか喜んで応じたので、彼らも自分の実力は分かっていたのだろう。しかし三人あわせてもアスカさんにも届かない連中だった。
★☆★☆
「それじゃ、俺は地上に降りるが、お前達はどうするつもりだ?」
「私はついて行くよ」
「シオンさんが行くなら私も行きます」
シオンとスズカは、今回は別の依頼を受けるつもりが無いようで、シンデンに付き合うつもりだった。
「当然、私もついて行きますよ」
レマも当然付いてくる。まあ監視だから仕方ないだろう。
「私も行くわ」
「カエデ、研究室から出てきたのか」
「たまには出てくるわよ」
驚いたことに、カエデがリビングに現れ、シンデンについてくると言う。いつの間に準備したのか、カエデは、研究用白衣の下にタクティカルスーツも着込んでいた。
「カエデもついてくるのか。古代遺跡を見に行くだけで、遺跡は研究は出来ないぞ」
「分かっているわ。ちょっとこれの研究が上手くいかないから、気分転換について行くだけよ」
カエデはそう言って、白衣のポケットから、金色の目のようなレリックを取り出した。電子頭脳も何に使うか分からないレリックで、今カエデが何に使えるか研究中の物だ。そのレリックが霊子力に関係しない物という事は、電子頭脳が保証している。
「…まあ、良いか。じゃあ、全員で向かうぞ」
「「「「はーい」」」」
「カエデさんも行くのですね」
今回はカエデを含めて五人+一体(響音)で移動することになった。
レマはカエデの持つレリックを見ていたが、彼女に見せても問題は無いと、電子頭脳が判断したから、研究室から持ち出せたのだろう。まあ、どんな機能を持つレリックか電子頭脳も解析できない物だ、レマが諜報部に報告するような話にはならないだろう。
★☆★☆
シンデンが今回向かうのは、サフア恒星系の第二惑星に存在する、巨大な古代遺跡だった。巨大なピラミッド型のその遺跡は、帆船も知らない未知の異星人が作った遺跡である。シンデンが、何故そんな遺跡に向かうかというと、そこに目的の魔石があるからだ。
人類がこの恒星系に辿り着いた時、第二惑星は人類が生存可能な大気を持っていたが、砂漠しかない不毛の惑星だった。しかし、惑星を調査したところ、砂の中からピラミッド型の遺跡が見つかった。遺跡を詳しく調査したところ、魔石を設置することで、惑星の天候を制御可能と判明した。大規模なテラフォーミングをせずとも、魔石を設置するだけで人類が居住可能となると判明し、アゼルチン星域は、遺跡に魔石を設置して天候を操作して緑豊かな惑星にすることで、植民惑星としたのだ。
遺跡は定期的(数十年単位)に魔石が必要であり、今設置されている魔石は、数年前にロスア星域から送られてきた物で、俺と帆船が行方を捜している魔石の、最後の一つである。魔石の存在を帆船からスキャン出来れば簡単だったが、遺跡は帆船のスキャンを通さない物質で作られていた。惑星の天候が正常な状態であることから、魔石は設置されているはずだが、「実物を確認することが必要」と、電子頭脳に言われては断れない。
軌道エレベータで地上に降りたシンデン達は、タクシーでこの星唯一の観光名所でもあるピラミッド型の古代遺跡に向かった。
「それで、今度はどんな理由で遺跡に向かうの?」
「いや、単に興味があったから見に行くだけだが」
「シンデン、アゼルチン星域に入ってから、いろんな所を見て回っているよね。シンデンってそんなにアクティブな人じゃないでしょ。この前も勝手に、私も知らない人に逢いに行ってたよね。あの女性、シンデンとどんな関係だったの?」
>『流石シンデンのストーカー。シンデンが何をしているか詳しく調べているな』
>『バックアップ霊子、レマに行動を把握されてますよ。もう少し注意深く行動して下さい』
>『ストーカーには、諜報部が協力してるからな~。シンデンも頑張っているけど、ステルススーツを使って鋳ないときの行動を、全て隠蔽するのは無理だよ。もう、レマには「魔石の行方を捜している」と話して、協力させるか?キャリフォルニア星域軍は、ヤマト級のレリックシップの封印を解くのに、魔石が必要って知っているだろ』
>『それだと、キャリフォルニア星域が、本船がヤマト級の封印を解くのを邪魔していることに気づいてしまいます。そうなれば、我々の先手を打って新たなヤマト級を探し始めるでしょう』
>『あの長官なら、既に調査していそうだが。多勢に無勢、協力した方が良い気がするけどな』
>『本船は情報は隠すべきと判断しています。キャリフォルニア星域が敵に回るなら叩きつぶすだけです』
>『キャリフォルニア星域は、一度ヤマト級を復活させているからな。長官、自重してくれよ…』
結局、電子頭脳とのやり取りではレマに「魔石の行方を探っている」という話はしないことに決まった。結局、俺は苦しい言い訳を考えなければならない。
「俺が誰と会おうとレマには関係あるまい。彼女とは傭兵の依頼で知り合っただけだ。それに、この遺跡を見に来たのは、イエル星域での事件があったからだ。俺は、あのような事件が起きる可能性があるか、この惑星の遺跡を調べたかっただけだ」
「…ふーん。シンデンが何かを隠しているのは分かっているけど、私には話してくれないのね。それで、その事はシオンやスズカ、カエデには、その事を話しているのかしら?」
「えっ、シンデンって、私に隠し事しているの?」
レマの発言に、シオンが食い付いてくる。魔石調査に関しては、シオンやスズカ、カエデには話していない。事情を話せば、シオンは絶対「協力する」と言い出すだろう。しかし、シオンは魔法使いだが、隠密行動など出来ない。早々にレマに見つかってしまうだろう。だからシオン達には事情は話していないのだ。
「お前達に隠し事などしていない。少しは俺を信じろ」
「「分かったわ」」
「うーん、信じても良いかな」
「…信じられません」
シオンとスズカは素直に頷く。カエデはそこまで俺を信用していない。そしてレマは、シンデンをあからさまに疑っていた。
まあ、そのようなやり取りをしている間に、タクシーは目的の遺跡に到着した。
タクシーから降りた俺達は、遺跡の大きさに驚く。宇宙では、ステーションや、数キロもある輸送船を見ているが、地上で自分の目で見上げるのは、それとは違った感じがするのだ。
「うぁ~大きいね。これって、イエルの遺跡より大きいよね」
「これで惑星の天候を制御しているのですか。凄いですね」
シオンとスズカは遺跡の大きさに驚いていた。
「船のスキャンも通さない材質って、どんな物かしら。欠片ぐらい貰っても良いかな?」
カエデは、何処から取り出したのか、金鎚の様な物で遺跡を砕こうとしていたので、響音が拳骨を入れて止めさせていた。カエデは目を離すと危険なので、響音を連れてきて正解であった。
>『確かに大きいな。イエルの聖地のあった遺跡と同じくらいか?』
>『あの遺跡の頂上までの高さは一キロメートルです。あの遺跡の倍の大きさです』
「観光ガイドだと、中腹まで登らないと内部に入れないようだ。俺は歩けるが、カエデは…」
「無理だわ。響音、運んで~」
「了解しました」
まあ、こうなることも考えて響音を連れてきたのだ。何しろカエデは、研究室に籠もりっぱなしで体力が無い。遺跡には階段しかなく、自分の足で階段を上るしかないのだ。シンデンは気で体を強化して登る。シオンは魔法を使い、レマは理力で体重を軽くしているのか、シンデンと同じペースで登っていく。響音はカエデを抱えながらも、後を付いてくる。そうなると遅れるのは、スズカとなる。まあ、途中から響音が、右手にカエデ、左手にスズカを抱えて登ることになった。
>『この奥に魔石があるのか』
>『マスター確認をお願いします』
ピラミッドの中腹に、魔石を設置している場所まで通じる通路がある。この惑星の天候を操る遺跡なので、もちろん警備は厳重だ。あちこちに警備のドローンが立っている。本来なら観光地として解放しない方が良いのだろうが、この惑星には他に売りになる場所が無い。まあこれだけ厳重に警備されているのだ、問題は無いのだろう。
『ここからは、武器を所持したままの入場は認められません。ドローンも入場は認められません』
警備ドローンが、俺と響音が通路に入るのを止める。響音に愛刀を渡して、全員念に入りに体をスキャンされる。カエデの持っていたレリックは特に危険物として認識されなかったが、金鎚は取り上げられてしまった。
「じゃあ、響音、俺達が戻ってくるまで待っていてくれ」
「Yes Master」
響音を残して、俺達は中心部に続く通路を歩いて行く。ピラミッドの通路だから狭いと思ったが、普通の道路並の広さがあった。まあ巨大な魔石を運び込む事が可能なのだ、通路も広くて当然だ。
通路は少し上り坂だったが、この程度ならカエデでも登っていける。
「これが中央か」
「凄い、大きい魔石ね」
「はい、凄く大きいです」
「流石に…これだけの大きさの魔石は、私も見たことがありませんね」
「(ヤマト級が内蔵していた魔石より大きいな)」
遺跡の中央部、巨大な魔石が中に浮かんでいた。周囲には警備ドローンが多数立っており、俺達を警戒していた。シンデンは警備状況を見て、「この警備状況なら、勝手に魔石を持ちだす事はほぼ不可能」と判断した。
「凄い物を見せて貰った。だが、この遺跡には危険性はなさそうだな」
シンデンは、魔石の存在を確認すると、通路を戻ろうとした。
その時だった…。
「えっ、これ、何が起きてるの」
カエデのポケットから金色の光が漏れ出す。それは帆船から持ち出したレリックが発する光だった。
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