超光速空間での攻防(2)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
>『理力フィールドで船を絡め取って超光速空間から離脱できないとか、そんなことは聞いてないんだけど』
>『ピッ、多数の理力術者が協力して巨大な理力エネルギー波を発生させる事例有。それと同様な現象と推測』
>『多数の理力術者…まあクローン脳だけど、それを用意したキャリフォルニア星域軍、いや企業が優秀だったという事か。…と言うかそんな分析している間に被害が拡大している』
>『ピッ、自己修復を上回る速度で第一装甲の被害が拡大中。このまま回避行動を続ける場合、追跡する戦艦に接舷される可能性大』
木造に見える帆船だが、実際のところフィギュアヘッド以外は木でできている。しかし木と言っても地球の木ではなく特殊な環境で育った木のような植物に近い生命体をそのまま帆船の形にした物だった。特殊な環境に生える木とは、超新星爆発の後に残った中性子星、その周囲を巡る惑星で育った木である。中性子星から放射される様々な放射エネルギーや果ては重力エネルギーまで糧として成長するその植物生命体は、とても強固な体組織と自己修復能力を持っていた。帆船はそんなレアな素材を駆使して作られているため、レーザーやブラスター攻撃、対艦ミサイルの攻撃すら受け付けない強度を持っていた。その装甲も物理法則を無視する現象を起こす理力攻撃まで防御はできない。
>『このままでは拿捕か破壊されるかだな。俺に気が使えれば…』
赤い戦闘ドローンとの戦いでは、シンデンが気功術によるフィールドを張ることで防いだ。しかしバックアップ霊子である俺は、肉体を持たないことから気を扱うことはできない。
>『ピッ、現在の状況の継続は当船の機能損失に陥る可能性大と判断。マスターによる対処を検討』
>『だから、俺には無理だって。シンデンもリビングデットだろ、どうしろって言うんだよ』
>『……ピッ、マスターに判断能力無しと判定。以後、当船の防衛行動は電子頭脳に移乗される』
>『えっ、電磁頭脳さんが何かしてくれるの?』
危機的状況にあたふたする俺に対して、電子頭脳は見切りを付けたのか勝手に行動を開始した。
>『ピッ、敵攻撃を理力による物と判定。理力による防御フィールドの発生を検討。…理力術者不在のため不可能』
>『ピッ、気功術による防御フィールドの発生を検討。…マスターの霊子が不在。バックアップの書き込み…霊子不適合により失敗。マスターの自己意思による気の発動は不可能。…強制的に気功術の発動シーケンスを起動』
電子頭脳がそう言うと、コクピットにて響音によって介護中のシンデンの体が、操縦席に固定され操縦席が外骨格のように変形する。赤い戦闘ドローン戦の時は、この状態でシンデンが気を使ってフィールドを発生したが、今のシンデンには意識がないので不可能なはずと俺は思ったのだが、電子頭脳は帆船の船首像を展開する。
>『シンデンが気を使う?…いや、無理矢理、シンデンの体を使って気を練るのか。マスターの意思すら無視してそんな事をやらせるのか』
気功術では、気とは生命エネルギーである。機械では増幅はできても最初の気は人間が発生させる必要がある。シンデンに意識があれば、彼の自分の意思でそれを行うのだが、現在シンデンに気を発生させているのは電子頭脳であった。もしシンデンに意識があれば気功術士の尊厳を冒涜する行為に怒り狂うだろうが、電子頭脳は淡々と気功術をシンデンに使わせようとする。
>『ピッ、錬気に成功。防御フィールド発生。引き続き攻撃シーケンスの再生を実行。…生成された気の量が不足のため失敗』
電子頭脳による強制的な?気で船体を気のフィールドで覆うところまでは成功したが、赤い戦闘ドローンを破壊した気の刀身での攻撃まではできなかった。どうやら強制的な気功術の行使では、刀身を作る気の量が足りなかったようだった。そして気のフィールドで攻撃は無効化できたが、理力の網による船体拘束は解除できなかった。
>『ピッ、気功術による攻撃を断念。次の手段を検討。ブラスターによる攻撃…超光速空間のため不可能。魔弾による攻撃を検討。…超光速空間のため不可能』
>『魔弾でも駄目か』
魔弾であればもしかして超光速空間で使えるのではと俺は期待していたが、電子頭脳は不可能と判断した。
>『ピッ、船首像による格闘戦を検討。…マスターによる操作補助が必要。成功確率10%。…一時保留』
電子頭脳は船首像による直接攻撃を選択したが、シンデンの操作補助がない限り成功確率は低いと判断した。電子頭脳が俺の剣道の腕を見込んで補助を依頼しても「刀が無ければ駄目だ」と返しただろう。
>『ピッ、超光速空間専用弾による攻撃…弾切れのため不可能。弾頭の製作…二つの在庫有り。マスターに製作を提案』
>『おい、超光速空間専用弾って。在庫が二つって、あの航法装置が材料か。そんな物拒否に決まっているだろ』
>『…ピッ、バックアップ霊子により超光速空間専用弾の製造が却下』
>『ふう、俺はキャリフォルニア星域軍やあの企業と同じレベルになるつもりはないぞ』
電子頭脳はクローン脳の航法装置を使った超光速空間専用弾の製作を提案してきたが、俺は却下した。そしてシンデンが生きていたら同じ答えを返すだろうと俺は思っていた。
>『ピッ、霊子力兵器による攻撃を選択』
>『霊子力兵器って、それはシンデンの魂を破壊して俺がこの船に入ることになった兵器じゃないか。そんな物までこの船は搭載しているのか?それに霊子力って、バックアップ霊子を使うつもりか。そんな兵器を使うのは禁止だ!』
>『…バックアップ霊子を使用した場合、本船は機能停止。却下。貯蓄霊子を使っての攻撃を検討。弾頭作成のための貯蔵霊子は存在。霊子力兵器の攻撃を選択』
超光速空間専用弾を作成することを俺は断った。それはクローン脳とはいえ精神力…つまり生きた人に等しい物を兵器として使う事に拒絶を感じたからだ。しかしその代わりに電子頭脳が選択したのは、俺がこの帆船に書き込まれることになった霊子力兵器だった。超光速空間専用弾は製作許可を取りに来た電子頭脳だが、霊子力兵器に関しては俺の言うことを聞かずに使用を決めていた。
>『ピッ、霊子保管庫の解放を実行。弾頭に霊子弾の装填開始』
電子頭脳によって、霊子保管庫が解放された。電子頭脳と繋がっている俺には、帆船の奥に存在する巨大な樹木とセフィロト樹のイメージが伝わる。そしてその樹の奥にある扉が開き、霊子が流れ出すのを感じ取ることができた。
>『おい、あの霊子を使うのか…それはやって良いことなのか。止めろ、俺はそんな物を使いたくない』
霊子保管庫から流れ出した霊子は全て狂っていた。肉体から切り離され、何も感じられないままどれだけ放置された霊子は狂って当然なのだ。どす黒い怨念のオーラを纏った霊子が、特別製の弾頭に封じ込まれる。
>『ピッ、霊子力弾の装填完了。『止めろ、待つんだ』対霊子力フィールドの展開を確認。『止めろ…』発射』
三連装砲塔から真っ黒な砲弾が発射された。超光速空間では回路を駆動していない物体は存在しないはずなのに、その砲弾は青いドローンと背後に迫る戦艦に向かっていった。そして超光速空間は霊子力による光に包まれた。
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