決闘の決着と魔石の行方
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
地元は大雪で大変です。明日の更新どうなるか不明です
周囲を囲まれて、逃げ道の無くなったミヤモトは、諦めたのか刀を抜いた。それに合わせシンデンも愛刀を抜いた。
「卑怯な奴め、全員ササキの門下生じゃないか」
「お前の言う事か。それに俺はササキ氏の門下生では無い」
「ササキの娘に稽古を付けているから、関係者だろうが」
「はーい、私は関係者じゃありませんよ~」
レマが、そう言って手を上げる。そして彼女の手にはカメラが握られている。レマのカメラは公式な決闘記録用の物であり、決闘の内容に不正が無いことを記録するために、レマがわざわざ役所で借りてきた物だ。
「では、双方決闘を始めて宜しいか」
ササキ氏の門下生では無い、星域軍の軍人の一人が、見届け人としてシンデンとミヤモトに確認を取る。
「大丈夫だ」
「畜生、こうなれば俺が勝てば良いんだろ」
そう言って、決闘開始の合図も待たず、いきなりミヤモトは斬りかかってきた。もちろん不意打ちを狙っての行動だ。まあ、そんな事ぐらいシンデンもお見通しなので、余裕を持って受け流す。
「傭兵のくせに、星域軍のような剣を使いやがるな」
ミヤモトがそう言って、斬りかかってくるが、シンデンは余裕でそれを全て受け流す。ササキ氏に近い実力という話であったが、俺が観察していた限りでは、ミヤモトの実力は、あの夜に対峙したササキ氏に遠く及ばない。ゲクランよりは強いが、今のままではアスカにすら勝てないだろう。
ミヤモトの攻撃を受け流し、隙を見つけてシンデンは斬りかかる。しかしそれを待っていたのか、ミヤモトは右手の刀でシンデンの一撃を受け止めると、左手で刀を抜いて斬りつる。このような、不意を突いての二刀流というのがミヤモトの隠し技であるが、俺は既にその手を見抜いていた。シンデンは、足を使ってミヤモトの右側面に体を移動して攻撃を躱し、体勢を崩したミヤモトの背をあえて斬らず、蹴り飛ばすに留めた。
「俺の二刀流を避けただと」
追撃を恐れたのか、地面を転がってから立ち上がったミヤモトは驚くが、俺は追撃などしなかった。
「そんな奇襲が通じると思っているのは、お前だけだ。左右に刀を持っている以上、二刀流だと言っているような物だろう」
俺の知っている侍は、大小の二刀を腰に差していたが、小刀は予備の刀であるため、左に下げている。しかし左右に同じ長さの刀をぶら下げて、一刀だけで戦っているのは、途中で不意打ちをするためだと言っているも同然だ。ミヤモトは、その才能だけで勝ち上がってきた男で有り、技術や戦術の研鑽などしてこなかったのだ。
「馬鹿な、俺の二刀流を防げる奴など、ササキぐらいだ」
「初見殺しの奇襲が通じるのは、格下相手だけだ。自分の才能に胡座をかいていただけの奴の奇襲など、俺に通じるわけが無い」
「傭兵ごときが、俺より実力が上だと」
シンデンに挑発されたミヤモトは、逆上して二刀流でがむしゃらに斬りかかってきた。気を乗せた二刀流を一刀で捌くのは大変だが、それでも対応はできる。ミヤモトの二刀流を見てしまったが、まあササキ氏ほどの脅威は感じない。拍子抜けも良いところであった。
「そろそろ決着を付けさせてもらおう」
長引かせると、誰かの横やりが入るかもしれない。ミヤモトの猛攻をしのいで、距離を取ったシンデンは、気を使って長い気の刀身を作り出した。その気の刀身は、ササキ氏が使っていた物干し竿と同じ長さであった。
「そんなこけおどしを」
ミヤモトは、シンデンが振り下ろした気の刀身を十字受けで止めようとした。しかしシンデンは、気の刀身がミヤモトの刀に触れる瞬間、一瞬だけ気の刀身を短くしてミヤモトの防御をすり抜け、そして再び長く延ばすと、踏み込んでの切り上げで奴の体を股間から頭頂まで、真っ二つに切り裂いた。変則的な剣筋ではあるが、極端なVの字を描くこの技は、ツバメ返しに近い剣技である。
「ぎゃあぁ」
気の刀身で着られたミヤモトが、悲鳴を上げて倒れる。しかし、斬られたはずのミヤモトの体には、傷一つ付いていなかった。それなのにミヤモトが倒れたのは、シンデンが斬ったのは、ミヤモトの肉体ではなくチャクラだったからである。
気功術士として一番重要な部分であるチャクラのみを切り裂く。これもシンデンに気を教えてくれた老人が授けてくれた奥義の一つだ。
「気功術士殺し…本当に実在したとは」
ゲクランが、驚いた顔でそういった。彼はシンデンが何をしたのか、理解したのだ。「気功術士殺し」と言われる、この技も、シンデンが気功術士としてレベルアップしたことで使えるようになった技である。
「勝者、シンデン」
チャクラを切り裂かれたミヤモトは、気絶している。あの時、本当に切り裂いて殺してしまえと思った奴もいただろうが、俺はアスカに人を斬り殺す場面を見せるつもりは無かった。そして、ミヤモトには、死ぬより辛い目に遭って貰うために、「気功術士殺し」を使ったのだ。
「シンデン様、どうしてミヤモトに止めを刺さないのですか」
アスカがそう言ってくるが、シンデンはミヤモトに止めを刺す気は無い。
「ミヤモトはこれから、死ぬより辛い目に合うだろう。もう奴は気功術を使う事ができない。つまり、ただの人になったのだ。今まで気功術の才能だけで生きていた者が、それを失ったらどうなるか。今のアスカなら分かるだろう」
チャクラを切り裂いた事で、ミヤモトはもう二度と気を使う事は出来ない。ミヤモトは普通の人として生活出来るだろう。だが気功術士としては再起不能だ。シンデンはミヤモトの気功術士としての命を絶ったのだ。
「ササキ氏も同じ事が出来たはずだ。彼がミヤモトとの決闘に勝利した時、ミヤモトを殺さず、気功術士としても止めを刺さなかったのか、それは俺にも分からない。だが、ササキ氏はミヤモトを殺さなかった。だから、俺もミヤモトは殺さない。奴はこれから自分のしてきた事を後悔しながら生きていくだろう」
「シンデン様は、斬るべきはミヤモトの命ではなく、その才能を斬るという選択をされたのですね…」
アスカは、シンデンが何をしたのか理解して、体を振るわせた。つい一週間前まで、気功術を使えず苦しんでいた彼女には、これからミヤモトがどういう苦しみを抱えて生きていくか理解できたのだ。
★☆★☆
決闘がシンデンの勝利で終わり、道場は大騒ぎとなった。ミヤモトはそのまま病院に運ばれたが、彼が今後どのような人生を歩むかは不明だ。電子頭脳が集めた、星域軍との癒着の証拠が有る限り、実家はミヤモトを助けないだろう。そして、気功術士として再起不能となったミヤモトが、アスカさんに手を出すことは不可能だ。いやササキ氏の門下生も、それを見逃すほど甘くは無いだろう。
ミヤモトが消えた後、俺はアスカさんと「報酬」について、道場にて二人だけで話す場を設けた。空気を読んで、星域軍の連中は道場から出て行った。ついでにレマも連れて行ってくれたので助かった。
「これで、自分がアスカさんに教えることは無くなった」
「そうですね。今日が最後の日です。…それで、報酬の件ですが、シンデン様からまだ、何も聞いていおりません。シンデン様は一体何を報酬に望まれるのでしょうか」
アスカはちょっと期待しているような顔をしているが、俺は、それを裏切らなければならない。
「報酬だが…あの武芸神棚の中身を調べさせて貰いたい。この道場を最初に訪れた時から、自分はあの中が気になっていたのだ」
「武芸神棚の中身ですか?」
アスカは残念そうな、そして驚いた様な表情を浮かべた。まあアスカの気持ちも分かるが、シンデンは三十半ばのオッサンだ。だからアスカが期待するような事は起こさない。そう、シンデンはストイックな傭兵なのだ。
「駄目だろうか。確かに不信心な行為であるが、どうしても気になるのだ」
「いえ、それぐらいであればどうぞ。しかし、その様な事であれば、いつでも仰って下されば良かったと思うのですが」
アスカとしては、武芸神棚の中身など、シンデンに払う報酬にはふさわしくないと思っているのだろう。
「いや、この報酬に付いては、誰にも知られたくなかったのだ。中身次第では、大きな問題となるからな」
アスカの許可を得て、シンデンは武芸神棚の中に隠されていた小さな金属ケースを取り出した。そこにはササキ氏の手書きであろう、手紙が入っていた。内容は、アスカへ当てた遺言状の様な物だった。何故アスカに気功術を教えなかったか、彼女の母親が死んだ理由、そしてササキ氏の残した貴重な財産である魔石の行方に付いて、書かれていた。
そして手紙の別に、ササキ氏が気功術士として会得した奥義に付いて書かれたメモ帳が残されていた。さっと目を通したが、ササキ氏が若気の至り…厨二病…を煩っていたことが分かる奥義だった。いや、シンデンも知っている奥義もあったので、気功術士は全員厨二病を煩っているのかもしれない。
>『魔石は、アスカさんの母親の墓に埋められているのか。アスカさんの母親は、星域軍の魔法使いだったようだな。ササキ氏はその母親のために貴重な魔石を入手したのか』
>『アスカの母親の墓の位置を特定。しかし、本船から魔石の情報をスキャンすることは不可能です』
>『現地に行くしか無いか』
>『マスター、お願いします』
シンデンはアスカにササキ氏の手紙を渡す。アスカはその内容を読んで、泣いていた。
★☆★☆
アスカが泣き止んだ後、シンデンは彼女と共に道場を出た。泣きはらしたアスカの顔を見て、中で何があったか知りたそうなレマを放置して、シンデンはタクシーを呼んだ。
タクシーに乗り込んだのは、シンデンとアスカと、レマとゲクランの四人だった。本当なら、レマは置いていきたかったが、強引に乗り込んできた。
「事情は話して貰えるんですよね」
「シンデン様と、父の残した遺産を確認しに行くだけです」
「本当にそれだけなのですか?何か特別な約束とかしていませんか?」
「本当に、ササキ氏の遺産を確認しに行くだけだ」
レマがしつこく尋ねるが、本当に貴重な魔石が残っているかを確認しに行くだけである。
長距離のタクシー乗車になったが、問題も無くアスカの母が眠る墓地に着いた。何故道場からこんなに離れた墓地に、ササキ家の墓があるかというと、アスカの父母の故郷だったからだった。道場は、星域軍の門下生が訪れやすいように、軌道エレベータの側に建てられた。
「お母さん、お父さんも亡くなって私一人になってしまったわ」
アスカは、墓前でそう呟くと、また泣いたしまった。俺にも責任はあるので、墓前に手を合わせて、自分の不始末をお詫びした。
>『それで、魔石は見つかったの?』
シンデンが墓前で手を合わせている間に、俺と電子頭脳は、魔石が存在するかスキャンを行っていた。
>『それが、魔石は見つかりません。手紙には墓の中に安置したとなっていますが、反応はありません』
>『行方不明って事か』
>『ササキ家の墓が移転されたという情報もありません。目的の魔石の行方は分からなくなりました』
アスカの了承のもと、シンデンとゲクランが墓の扉を開けた。日本式というには広い墓の中には、魔石が収まるだけのスペースはあった。しかし、手紙に書かれていたササキ氏が所有していたという魔石は存在しなかった。
「父が残した魔石は何処に消えたのでしょう。ゲクランさん、父から何か聞いていませんか」
「俺も知らない。それにその武芸神棚に手紙が残されていた事すら、俺達門下生は知らなかった」
「シンデンは、どうして手紙のありかを知っていたの?」
こうなると、怪しまれるのは手紙のありかを知っていたシンデンだ。三人がシンデンを見るが、俺も魔石が見つからないことに困っている状態だ。
「俺が、武芸神棚に興味を持ったのは、昔訪れた道場で、武芸神棚に奥義書が隠してあった事があったからだ。だから、ササキ氏の奥義書が武芸神棚に隠されているなら、アスカさんが受け取るべきと思って調べさせて貰ったのだ。手紙や魔石の存在を知っていたなら、調べなかっただろうし、アスカさんをここまで連れてこない」
「へー、そんな事もあるのね。気功術者とか面倒な事をやるのね」
「確かに、師匠は奥義に関しては門下生に教えてくれませんでした」
シンデンは、運良く隠してあった奥義書を元に、適当な話をでっち上げた。まあ、武芸神棚に奥義書が隠されているというのは、未来世紀でもありがちな設定なので、皆納得してくれた。
多分だが、ササキ氏がゲクラン達門下生に奥義を伝えなかったのは、それだけの腕前を持っていなかったからだろう。アスカなら、ササキ氏の奥義を引き継ぐだけの才能を持っている。まあ厨二病全開の奥義だが、アスカが道場主となって、しっかりと後世に伝えて欲しい。
こうして貴重な魔石の行方は分からないまま、俺はアイレス恒星系を去ることになった。アスカや門下生達は、出発当日にわざわざステーションまで見送りに来てくれた。そこでアスカと門下生は、シンデンが実はAAAランクの傭兵であり、船がレリックシップであることを知って、驚いていた。
「シンデン殿がAAAランクの傭兵とは知りませんでした」
ゲクランがそう言って謝罪する。まあ傭兵はならず者の集まりであり、アゼルチン星域軍だけでなく、大概の星域軍は傭兵を見下している。だからゲクランを含む星域軍の門下生が、シンデンの事を知らなくても不思議では無い。
「シンデン様がAAAランクの傭兵だとは…。そのような方を一週間も雇っていたとなると、もの凄い依頼料になるのでは?」
アスカさんは、傭兵ギルドでAAAランクの傭兵の依頼料を聞いて愕然としていた。確かに高額ではあるが、それは指名依頼を出す場合の金額である。それに今回は、シンデンからアスカさんに気功術を教える話を持ちかけたのだ、「金額は気にしないで下さい」と念を押しておいた。
現実を見れば、AAAランクでもそれに見合った依頼がほいほい転がっているわけが無い。俺達も移動をかねて、格安の護衛依頼を受けてばかりだ。
シオンとスズカは、シンデンを見送りに来たアスカに興味を持ったようだが、レマが「何も無かった」と言うと、ホッとしたようだった。実際アスカとは何も無かったのだから、シンデンを詮索するような目で見るのは止めてほしい。
アスカ達に見送られ、俺達は次の(貴重な魔石がある)恒星系目指して旅立った。
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