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魔石の調査(3)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 お茶の道具を片付けた後、アスカの気の訓練を始めた。本当は胡座の方が良いが、和服の女性に胡座は無理なので、正座で座って貰う。


「アスカさん、先ほど気で活性化させたチャクラですが、まだ感触は残っていますか?」


「はい、まだジンジンとしております」


「自分が、今からそのチャクラを自分の気で回します。気功術士はチャクラを回して気を練るのです。今から自分がする行為は、その気を練る行為を補助する為の行動なので、誤解しないでください」


「はい」


 シンデン()はアスカの背後に回ると、気を練って右手の先に集めた。そして右手の先をアスカの首筋に当てる。


「はぅっ」


 シンデン()の気で、体内の気を操作されたアスカが、切なそうな声を上げる。


「今、自分の気でアスカさんの気を操っています。今からチャクラを回して気を練ります。その感覚を覚えるのです」


 少々強引な方法だが、これならよほどの鈍感な馬鹿でも無い限り、気の使い方を体感して習得できる。何せ自分の体で気を感じるのだ、感覚でそれが出来てこそ、気功術士なのだ。要は「考えるな、感じろ」のである。


「は、はい」


 シンデン()は、右手を首筋からお尻の辺りまでそっと動かし、そして今度は頭の上まで持っていく。この動作を繰り返しチャクラを回すことで、気が練られ、アスカの気が高まっていく。


「はぁっ、はぁっ」


「呼吸を乱さないように。それではせっかく練った気が拡散してしまいます。そう、落ち着いて息を整え、そして体内の気を集めて、自分の体に纏うようにしてください」


「はい、やってみます。」


 アスカは、シンデン()の指示通り、気を体の周りに纏わせようとした。しかし、初心者のアスカには、気のフィールドを纏うのは無理だった。体内から出た気は、体表で止まらず、外に拡散してしまった。


「ああっ!」


 アスカは失敗した事で悔しそうな顔をするが、あと何度か練習すれば直ぐに気を纏う事が出来るようになるだろう。しかし、今日はもうアスカの体力が残っていない。汗だらけのアスカの肢体がそう告げていた。


「大丈夫、失敗しても良いのです。…ですが、今日はもうアスカさんは気を使うだけの体力が残っていない。続きは、明日にしましょう。明日も教えに来て宜しいでしょうか?」


 シオンとスズカが依頼を終えて帰ってくるまで、まだまだ時間がある。道場とお茶は残念であったが、ここまでアスカに教えたのだ、何とか気を纏うところまでは教えたい。シンデンは、明日もアスカに気功術を教えようと思った。まあ、抹茶でも良いので、お茶が飲みたいというのもある。


「明日も来ていただけるのでしょうか」


 気の制御に失敗して、息も絶え絶えのアスカだが、シンデン()が明日も来るというと、嬉しそうな表情を浮かべた。


「シンデン、明日もここに来るって、貴方一体どうしたのよ?」


「シオン達が帰ってくるまで時間もある。ここまで気功術を教えたんだ。もう少し教えても良いかと思ってな」


「怪しい」


 レマはシンデン()を横目で睨むが、明日ここ(・・)を訪れるのは、本当に気功術教えるためだけだ。それ以外の目的は無い。


「シンデン様、ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」


「ああ、今日は疲れただろう。早く風呂にでも入って寝ておくんだ。ぐっすり寝て、疲れを取ってください。それでは、明日、こちらの時間で、九時頃に来ます」


「はい、待っております」


 アスカに別れを告げて、シンデン()とレマはステーションに戻った。シオンとスズカの乗った雪風は、無事護衛任務を遂行中と超光速通信が届いていた。まあ、バックアップ霊子()が居るので、通信に応答可能だが、それをやってしまうとシンデンが二人存在してしまうことになる。二人への返事はシンデン()が居るときに作っておく。こういった地味なアリバイ工作は重要だ。


 ★☆★☆


 ステーションは、二十四時間営業中のため、昼夜という概念がない。軌道エレベータが設置されている場所には、当然惑星の自転に合わせた昼夜が存在する。レマが休息を取るために自分の船に戻ると、シンデン()は、ステルススーツを着て、軌道エレベータの最終便に潜り込んだ。もちろんアスカの屋敷に潜入し、貴重な魔石の行方を探るためだ。その為に、アスカに早く寝るように念を押したのだ。


 軌道エレベータの最終便が地上に着いたのは、現地時間で二十三時。この惑星は、地球と同じ自転速度で回っているので、軌道エレベータの周辺は明るいが、アスカの屋敷のある辺りは暗く寝静まっている。


>『さて、アスカはシンデン()の言いつけ通り、早く寝ているかな?』


 シンデン()は、アスカの屋敷の壁際に近づいて、屋敷内部の様子を窺う。外から見る限り、屋敷は真っ暗であり、ホームセキュリティのセンサーだけが、アスカの屋敷を見張ってた。もちろん気で周囲の様子を探ることも忘れない。熟練の気功術士でも無ければ分からないような、気の波動を放ち、アスカ以外の生き物が屋敷にいないことを確認する。

 シンデン()は、音もなく屋敷の壁を飛び越え、屋敷の屋根に飛び乗った。そこから二階の窓を開けて(方法は秘密だ)屋敷の中に忍び込む。屋敷の内部を土足で歩き回るが、もちろん足跡など残らない。ステルススーツに抜かりは無いのだ。


>『よしよし、ぐっすり寝ているな。念のために催眠ガスも使っておこう』


 アスカがぐっすり寝ていることを確認し、念のために無色無臭の催眠ガスを吸わせる。これで四時間は、たとえ屋敷に雷が落ちてもアスカは目覚めない。もちろん、催眠ガスは無害であり、後で検査されても証拠など残さないというハイテクな物だ。


 シンデン()は、屋敷に入った時に、スキャンで目星を付けておいたササキ氏の書斎に忍び込んだ。ステルススーツの端末をホームコンピューターに接続詞、ローカルストレージのデータを調べたが、魔石の行方についてはデータは存在しなかった。書斎の中には、紙に書かれた書類があったので、其方も調べる。まあ、シンデン()が書類を見た瞬間、電子頭脳が中を精査するので、書斎の調査も一時間ほどで終わった。


>『書類にも魔石について情報が無い。電子頭脳さん、ササキ氏が持っているというのは本当なのか?』


>『スミスのデータが確かならササキ氏が持っているはずです』


>『屋敷内に手がかりは無い。こうなると、残るのは道場だけだな』


 シンデン()は屋敷を出ると、道場に向かった。道場の扉のロックは、古風(・・)なダイヤル式の南京錠だ。道場に入るときに、四桁の番号は記憶していたので、開けることに問題は無い。南京錠を開けて、シンデン()は道場に侵入した。


「(誰かいる!)」


 道場に入ったシンデン()は、そこに人がたたずんでいるのを察知して、驚いた。シンデン()は屋敷内に入る際に、ステルススーツのセンサーと気で、アスカ以外の人が居ないことを確認済みである。たとえ人型ドローンであっても見逃すことはない。


「アスカが気功術に目覚めたと聞いて、驚いて駆けつけてみれば、こそ泥が屋敷内にいるとはな。儂もなめられた者だ」


 病院の入院患者が着るような服を着た人影は、そう言って腰から物干し竿のような長い刀を抜きはなった。道場の窓から漏れる月明かりが、その人の顔を照らした。


>『ササキ氏だよ。病気で入院していたはずだろ。どうして道場に居るんだよ』


>『バックアップ霊子()、病院から抜け出したと言っていましたよ。しかし、ステルススーツのセンサーとマスターの気の探索から、自分の存在を隠し通すとは…。彼はマスター以上の気功術士かもしれません』


 ササキ氏は、夕方にアスカから「父上、私、気功術が使えるようになりました」という連絡を受けて、驚いて病院から抜け出し来たのだった。そして、シンデン()が屋敷で魔石の情報を調べている間に、屋敷まで走って戻ってきたらしい。そして屋敷の中に、シンデン(侵入者)がいる事に気づき、そして必ず道場に来ると思って待っていたのだ。南京錠が開けられていなかったのは、道場には裏口があったからである。裏口は電子ロックだが、ササキ氏なら入る事が可能である。


>『ササキ氏、これで俺が屋敷を調べるだけで帰っていたら、待ち損じゃ無いの?』


>『彼は、マスターが魔石の事を調べていると思ったのでは?この屋敷で価値があるのは、それぐらいです。そして道場に魔石を隠しているのであれば、マスターが道場に来ると推測しても間違っていません。つまり、道場に魔石か、その情報があるのは確実です』


>『スキャンしても、魔石は見つからないが…』


>『スキャンを通さない物体が、あの小さな建造物にあります。そこに魔石の情報が隠されていると推測します』


 電子頭脳の言う小さな建造物とは、武道場に必ずある武芸神棚である。宇宙世紀でも、道場に武芸神棚を設置する風習があることに、ここを訪れた時は感心した。まあ道場が、「板の間で無かった」事の驚きの方が先に出てしまって、武芸神棚に貴重品が隠されている可能性を見落としていた。


「さて、当道場を訪れた姿無き者よ、お前は、一体何が目的でこの屋敷を探った。その答えによっては、儂は、お前を斬り捨てなければならん」


 ササキ氏は、そう言って物干し竿(長刀)を上段に構えた。ササキ氏、名前ジロウというが、年齢は五十五歳。病気のためか青白くやせ気味だが、身長は百九十センチ前後と大柄な剣士だった。そして、病人とは思え無いほどの強大な気が、彼の体から放たれていた。

 普通の人なら振るうことも不可能な物干し竿(長刀)だが、彼ほどの気功術士なら容易く扱えるだろう。実際に伝わるツバメ返しとは、虎切りという剣術であるが、それならばまだ間合いに入っていない。しかし、気功術士ならば、某格闘ゲームの様な気の斬撃を飛ばす技も可能だ。つまり、シンデン()は、既にその気の斬撃の間合いに入っていた。


「(不味いな。気が足りない。それにこのままでは、刀を抜く隙が無い)」


 完全に無人だと思っていた為、シンデン()は気をそれほど練っていなかった。そして、腰の刀(シンデンの愛刀ではなく、グルカナイフの形状)も鞘に入ったままである。


「答えぬなら斬り捨てるまで、チェストー!」


 ササキ氏は、無言のシンデン()に斬りかかってくる。気で脚力を上げ、物干し竿(長刀)に気を込めて突進する様は、バックジャンプでツバメ返しを放ってくる病弱な剣士ではなく、覇王○に近い。


>『このままでは、ササキ氏の攻撃を防げない。一旦光学迷彩を解いて、ササキ氏を驚かせ、その隙に離脱するぞ』


 一瞬で光学迷彩を解いたシンデン()は、○レデターな外見を月明かりに晒した。


「なっ!こそ泥では無く、物の怪の類いであったか」


 ステルススーツの外見に驚いたササキ氏は、俺の予想通り、突進を止めて、辞めて後ろに飛び退った。熟練の気功術士かつ剣士であるなら、「明らかに人では無い外見のステルススーツに警戒して、飛び込んでこない」という俺の予想は当たった。


 ササキ氏が飛び退った事で、シンデン()は撤退の隙を見いだした。シンデン()は、腰の丸い玉状のスタングレネードを手に取り、そしてステルススーツの口の部分を開いて、奇声を上げた。


「グギャグギャ」


 ステルススーツの口の部分は、人外の構造を模倣しており、発生する音声は意味の無い謎の叫び声である。そして自分が人では無いと見せつけて、シンデン()は、スタングレネードを道場の床にたたきつけた。

 大きな爆発音と閃光が道場を包んだ。ササキ氏は気のフィールドで体は守っているため、爆発音による影響は受けないが、閃光は流石に防げなかった。


「待て、化け物め」


「(待つわけないだろ)」


 シンデン()は道場の扉を抜けて、屋敷の外に飛び出す。既に光学迷彩を発動して姿は消しているため、ホームセキュリティに姿は残らない。深夜の轟音に、周囲の家も騒ぎ始める。ホームセキュリティが呼び寄せた警備ドローンが跳んでくるのも見て取れた。


>『電子頭脳さん、探している魔石だけど、大きさを考えると、武芸神棚には入っていないと思う。だけどあの武芸神棚には何か秘密があるらしい。それが魔石の行方なら良いんだけどね…』


>『魔石の行方の調査は必要です。ササキ氏が病院から戻ってきたなら、直接尋ねた方が早いかもしれません』


>『明日…いやもう今日か。アスカさんに気功術を教える時、ササキ氏がまだ屋敷に居れば、さりげなく聞いてみるか。いや、そのさりげなくが難しいのだが』


 ササキ氏の道場の騒乱を後に、シンデン()は軌道エレベータに向かった。ステルス状態のまま物陰で仮眠を取り、朝一の便でステーションに向かった。

 一晩、バックアップ霊子()は、どうやってササキ氏から魔石の行方を聞き出すか、その方法を考えたが、思いつけなかった。


 ★☆★☆


 シンデン()は、帆船に戻ると、シャワーを浴びて着替えを行い、アスカの元に向かう準備を行う。そうしている間に、レマが帆船にやって来る。


「おはようございます。今からあの道場に向かうんですね。ついて行きますよ」


「好きにしろ。だが気功術の訓練の邪魔はするなよ」


訓練の邪魔(・・・・・)はしません。シンデンが余計な事をしないか監視するだけです」


「余計な事などしないぞ」


 レマとそんなやり取りをしながら、軌道エレベータで地上に降り、アスカが待つ道場に向かった。


「何かあったのでしょうか?道場の周りに人が集まってますね」


「ふむ。確かに人が多いな」


 人が集まっているの原因は、昨晩のシンデン()の侵入だろうと思い、屋敷に近づいて門から覗くと、アスカや星域軍の軍服を着た男達が道場の周りに集まっていた。


「シンデン様…」


 シンデン()を見つけたアスカが、泣きはらした顔で俺に駆け寄ってきた。


>『アスカ、どうして泣いているんだ?』


>『これが原因でしょう』


 電子頭脳が見せたのは、この惑星のニュースサイトの記事だった。そこには「昨晩、ジロウ・ササキ氏が道場にて死体で発見される。警察は殺人事件として捜査中」と書かれていた。


>『ササキ氏、どうして殺されているんだ?』


>『…彼は、マスターと戦った後、別な人に襲われたました。犯人の目星はもうついているようです。もちろんマスターではありません。現在、惑星の警察機構が、犯人を捜査中です』


 犯人がシンデン()と疑われていない事に安堵する。しかし、ササキ氏が殺されてしまったことに驚かされた。あの時対峙したササキ氏は、シンデンに勝るとも劣らない気功術士で剣の達人だったのだ。


「アスカさん、一体何があったんだ?この様子では、今日は訓練どころではないようだな」


 既に事情を知っているが、シンデン()は素知らぬふりでアスカに尋ねる。


「父が、道場で殺されていたのです。私があんなメッセージを送ったばかりに…」


「アスカさんのお父上は、入院中だったはず」


「それが…私が昨晩、『気功術を使えるようになった』と連絡を入れたしまったのです。ええ、嬉しくて父に早く知らせたかったのです。それを聞いた父が、まさか病院を抜け出して家に来るとは思わなかったのです。私は訓練の疲れもあって、ぐっすりと眠っており、父が戻ってきた事に全く気がつかなかったのです。それで、朝、道場に向かうと父が殺されていたのです」


「…自分がアスカさんに気功術を教えてしまったことで、その様な事に。申し訳ない。それで、ササキ氏を殺した犯人は分かっているのでしょうか?」


「はい。ホームセキュリティに残っていた記録から、犯人は二人組だと。一人は監視カメラにほとんど写っておらず、誰か分かりませんでした。もう一人は、父が星域軍時代の同僚であった、ミヤモトという男です。ミヤモトが道場から血まみれの刀を手に出て行く姿が、監視カメラに写っておりました。父を手にかけたのはミヤモトという男で間違い有りません」


「なるほど。それで星域軍の方も集まってこられたのですか」


「はい。父の門下生の方が来て下さったのです…」


「アスカさん、その男が貴方に気功術を教えたという傭兵ですか?」


 アスカと話していると、星域軍の軍服に身に纏った男が近づいて来た。


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