二人の今後
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話が通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
先に投稿した話の方も随時修正していきます
残された二人の姉妹を救出できた事をサクラに伝える。スミスに関しては、オルワ氏の同志ではあるが、本人が「報告の必要が無い」と言ったので、救出したことを伝えなかった。要塞でスミスの居た部屋は爆破したので、スミスは死んでしまったと偽装できているだろう。
>『「二人のことをお願いします」…か』
俺は最初から二人の面倒を見るつもりだった。しかし、助け出した二人は、それぞれ問題があった。
スズカは悲惨な状況に置かれていたことから、精神にダメージを負っており、心を閉ざしている。カエデは、「聖なる力」を研究するために、「元の研究所の戻せ」とシンデンに要求してくる。
>『スズカもカエデも預かるとして、どちらも今のままじゃ不味いよな』
>『本船としては、早く魔石の行方を調査したいのですが?』
>『電子頭脳さん、少しは俺の苦労も察してくれよ』
>『あの二人に関しては、バックアップ霊子が対応を決めて下さい』
電子頭脳は、人間関係に関しては無関心というか、対応を考えてくれない。シンデンが生きていたときも同じだったのか、彼の記憶を調べたが、まあシンデンも孤独を愛する男だったので、人間関係を電子頭脳に相談することなどほとんど無かった。
>『一介の大学生だった俺に、あの二人を何とかしろってのが無理難題なんだよ。シンデンの記憶だと、…「親友がPTSDになった時は、精神科に通わせた」か。後、「新型人型兵器の開発のテストパイロット時代にマッドな研究者に遭遇したが、まあ開発を終わらせたら解放された」か。うーん、こんな方法はあの二人に生かせないよな~。スズカは確かに精神科医に診せるべきだが、シンデンが知っているのはキャリフォルニア星域軍の軍医だからな、無理だよ。普通の精神科医にスズカを見て貰うかしかないか。カエデの方は、「聖なる力」を研究したいという話だから、それは叶えさせてやれない。困ったな』
>『キャリフォルニア星域軍と言えば、レマが戻ってきていませんが、どうしますか?』
>『諜報部専用超光速通信機が壊れたから、修理の為に一旦キャリフォルニア星域に戻ったんだろうな。俺達の所に戻ってくる前に、連絡ぐらいするだろ。何しろ俺達がどの宇宙空間を漂っているか、誰も知らないからな。…それより、あの二人の状態を何とかしたい。少なくとも、あの二人には新しい個人IDが必要だよ。それが無ければ、二人はこの船から出るのも難しいよ』
>『個人IDの偽造ですか。シオンの時はアールランド星域の辺境惑星出身として、マスターが保証人となって個人IDを作りましたよね。同じ方法では駄目なのでしょうか?』
シオンの個人IDは、アールランド星域の開拓地出身というストーリーで、傭兵ギルドで俺が保証人として作った。今回も同じ方法が使えるが、この短期間にシンデンが新人傭兵の保証人になるのは不自然だ。傭兵ギルドに怪しまれてしまう。そうなれば、シオンの素性も疑われてしまう。
>『あの二人が、サクラの姉妹だって事は、キャリフォルニア星域の諜報部に隠し通すことはできない。それならもういっそ、シンデンと一緒の施設に居た孤児という事で、個人IDを作ってしまおう。まあ、事後報告になるが、レマが戻ってきたら、諜報部にお願いするように言おう。まあ、駄目だった場合は、その時別な手を考えよう』
個人IDの偽造で、キャリフォルニア星域軍の諜報部に借りを作る事になるが、レマを監視に付ける対価としてねじ込んでみよう。そうすれば、レマも頑張って対応してくれるだろう。
>『了解しました。ロスア星域外のステーションに立ち寄った際に作成しますね』
スズカとカエデは、キャリフォルニア星域の施設出身者として個人IDを作成することになった。顔がそっくりなので、双子という設定で、スズカ・マクドゥガルとカエデ・マクドゥガルという偽の個人情報が作られた。
>『さて、まず話ができるカエデから何とかしよう』
>『バックアップ霊子、頑張って下さい。くれぐれも霊子力については、研究させないようにしてお願いします』
電子頭脳は、「お願いします」というが、俺が説得できなかった場合、電子頭脳はカエデをどうする積もりだろう。
>『頑張って説得するよ』
カエデを監禁している客室に、シンデンは向かった。ドアを開けるときは、もちろん声をかけてから入る。女性の部屋に入るのだから、それぐらい気を使うのは当然だろう。
「早く私を研究所に戻してよ。私は「聖なる力」について、研究したいの。それが私の使命なのよ」
シンデンが部屋に入るなり、カエデは枕を投げつけてきた。
「そのことで話に来たんだ。まあ、俺の話を聞いてくれないか」
「私を拉致した人の話を、どうして聞かなきゃいけないのよ。私を早く解放してよ」
人になれていない野良猫みたいに、「シャーッ」っと、カエデはシンデンを威嚇する。確かにその通りだが、カエデが「聖なる力」について、研究をしないように説得できなければ、彼女は解放できない。
「俺は、オルワ氏とサクラさんに、君の救出を頼まれた。だから、カエデさんを研究所から救出したのだ。拉致と言うが、そこは依頼主の頼みだから仕方ない。それに、カエデさんは、『聖なる力』を調べる為にあの研究所に送られたと聞くが、今はもう『聖なる力』は消えてしまった。だからカエデさんがあの研究所に戻っても研究することはできない」
シンデンはカエデに対して、丁寧に説明する。
「『聖なる力』が消えてしまったって…、それはどういうことなの。私、そんな事聞いてないわよ?」
カエデは、『聖なる力』が消えてしまったと聞いて、唖然としていた。今まで普通に使っていた力が、突然消えたと聞かされたのだ、驚くだろう。
「『聖なる力』が消えてしまったことは、調べれば直ぐ分かるだろう。そして、これから話す内容は、俺の仲間とサクラさんしか知らない内容だ。誰かに話しても、証拠は一切残っていないから、誰も信じないだろう。まあ、俺の話を信じるかはカエデさんの自由だ。とにかく俺の話を聞いてくれ」
そう前置きを入れて、俺はイエル星域の遺跡と聖地の機能と、オルワ氏のやった事を話し始めた。もちろん「聖なる力」が霊子力通信とか言うわけもなく、クリスタルが持っていた謎の力という事で話をする。そしてサクラから、スズカとカエデの救出と保護を依頼された事を伝える。
「それは本当の事なの?義父様がそんな事をしてしまったの…」
「ああ、本当の事だ。サクラさんに聞けば分かるだろうが、今、俺達は君を拉致した誘拐犯だ。サクラさんに合わせろとか、超光速通信を繋げることは許可できない。それは全て、カエデさんやスズカさん、そしてサクラさんの姉妹達の安全を考えての処置だと分かって欲しい」
「少し考えさせて…」
カエデは、そう言ってソファーに座り考え込んでしまった。
「結論が出たら、俺を読んでくれ。まあ、この部屋の端末は、俺の個人端末にしか繋がらない。」
シンデンはそう言って、カエデの前から去った。後は、シンデンの話を聞いたカエデが、どのような決断をするか待つだけだ。
★☆★☆
カエデの決断待ちの間、俺は、スズカについて、何かできることが無いか考えていた。スズカは、救出されてから、食事もせず寝たきりであった。このままでは体を壊してしまうので、今は強引に医療ポッドに入れてある。
「スズカちゃん、大丈夫なのかな。話しかけても、返事もしてくれないし…。私、どうしたらよいのか全然分からないわ」
シオンが心配と不安が混じった顔で、シンデンに相談してくる。しかし俺もシンデンもPTSDの治療法など知らない。
>『電子頭脳さん、霊子や記憶を保存する技術がこの船にはあるよね。その技術は、マスターのシンデン以外にも使えるものかな?』
>『霊子のバックアップには、特別なレリックを必要としますので、マスター以外に使う事は不可能です。記憶の方は、メモリーさえ在れば良いので可能です。現生人類の脳の記憶容量は二十テラバイト程です。本船のメモリーであれば、数十億人ぐらい余裕で記録可能です』
>『確か、霊子力兵器のために霊子は溜めていたよね。それなのに、バックアップにはレリックが必要って、どういうことなの?』
>『霊子を保存するだけなら、技術的には簡単です。しかし霊子を正常に保ったまま保存することは難しいのです。バックアップ霊子を正常に保存するために、本船は特別なレリックを使用しています。つまり、バックアップ霊子が正常でいられるのも、そのレリックのおかげなのです』
どうやら、霊子の保管だけなら簡単らしい。某銀河超特急九九九というアニメでは、人間から簡単に魂を抜き出したり、魂をエネルギーとして活用していた。帆船を作り出した創造主達の技術を使えば、アニメの様に霊子の抽出や保管も可能らしい。創造主達ができなかったのは、保管した霊子を正常な状態に保つことだ。霊子はオリジナルの肉体(脳)にしか書き込めない。つまり、肉体と切り離された霊子は、不安定な存在なのだ。しかし、帆船は不安定な霊子をバックアップとして正常に保つ機能を持っている。それは帆船の初代マスターが持っていたレリックを使って実現している。その為、他の船では実現できていない帆船だけの機能だった。
>『霊子は駄目だが、記憶は何とかなるか…』
>『記憶を改変することも可能です。ですが、記憶を改変すると、人格などにも影響が出てしまいます』
>『スズカの状態が、あれ以上悪くなる可能性があるのか?』
某リアルロボット物アニメで、記憶を操作された人が苦悩する描写があったが、スズカに同じ様な事が起きてしまうのなら、記憶の操作などやらない方が良い。
>『記録をどう改竄するか、その内容次第です。…スズカの場合は、ある時点からの記憶を全て消してしまえば良いでしょう。その代わり、精神年齢が、記憶が残っている時点まで戻る事になります。それで問題が無いのであれば、本船でも処置は可能です』
記憶を操作する上で一番の問題は、改竄された記憶の辻褄を合わせることである。つまり、ある人の記憶だけとか、嫌だった事や苦しかった事の記憶だけとか消すと、その消された部分が、他の記憶と辻褄が合わなくなってしまい、それで人格に影響が出てしまうのだ。
しかし、スズカの場合は、裏組織のボスの所に送られた後の記憶を消してしまえば、改竄内容のつじつま合わせなど不要だ。オルワ氏の元で育った記憶だけ残して、後は消してしまえば良いのだ。オルワ氏が最後に送ったメッセージも記憶から消えてしまうが、それでも嫌な記憶を持って精神を病んでいるよりましである。肉体年齢と精神年齢が合っていないのは、サクラ達はクローンであるため、元々精神年齢と肉体年齢は合っていないのだ。
>『記憶の消去をしてしまおう。一応、問題があった場合を考えて、今の記憶のバックアップは取っておいて暮れ』
『了解しました』
スズカの精神の対応は記憶消去という事に落ち着いた。嫌な記憶など持たない方が幸せというものだ。俺もあの医者との記憶は消し去りたいが、バックアップ霊子の記憶は、霊子に刻まれたモノで、帆船の技術でも消すことはできない。本来バックアップ霊子に記憶など無いのが普通である。つまり、俺のような存在は、帆船にとってイレギュラーである。
まあ、俺は霊子力兵器として使われた霊子が、強引にバックアップ領域に書き込まれた結果なので、「このようなイレギュラーな状態の原因は、本船の創造主でも分からないでしょう」と電子頭脳は言っていた。
★☆★☆
アシベリ恒星系から数光秒離れた何も無い宇宙空間で、帆船は一週間以上浮遊していた。そろそろ超光速航法で、別な星域に出発してもいい頃合いでと考えていた。レマからの通信が無いが、電子頭脳の「魔石を探したい」という要求が激しいのだ。その圧力に負けて、超光速航行に入ろうとしたとき、カエデがシンデンを呼び出した。
「私、『聖なる力』の研究は諦めるわ。でもできるなら、何か研究をして生活したいの。そうするには、どうすれば良いのかしら?」
カエデはかなり悩んだが、結局「聖なる力」の研究を諦めてくれた。まあ、研究を続けると言い出したら、スズカと同じ処置をすると電子頭脳が脅すので、思い直してくれて助かった。
「研究か。一体何を研究したいのだ?」
「それは決めてないわ。できれば「聖なる力」を与えてくれたレリックの様な物を研究したいんだけど、それが可能な場所って分からないわ」
「レリックの研究か…」
>『電子頭脳さん、この船には、レリックが沢山あるよね。その中にカエデに研究させて良いレリックとかないかな?』
>『初代マスターのコレクションのレリックですね。それをカエデ研究させるのですか?』
>『いや、カエデも当分この帆船に居て貰わなきゃ駄目だから、その間にこの船が持っているレリックを研究して貰えばよいかなと思ったんだ。何もさせずに放置したら、また「聖なる力」を研究するとか言い出すかもしれないだろ』
>『カエデも、記憶を消してしまった方が早いのでは?』
>『電子頭脳さんは、そういうと思ったよ。それは最後の手段だ。研究に使えそうなレリックが在るなら、それを研究して貰おうよ。この船の初代マスターの残したレリックって、この船の創造主達も真似できなかった技術の塊でしょ。それが解明できたら、船の戦力アップになるからさ』
>『バックアップ霊子の提案は、一考の価値があります。…分かりました、カエデには、本船の戦力を向上させる可能性のあるレリックの研究をして貰いましょう』
カエデは、帆船の所持しているレリックの研究をしてもらう事になった。カエデは、帆船の一室を研究室にして、帆船が提供するレリックを研究する。人型ドローンが監視するので、間違いは起こさないだろう。そしていつかレリックの機能を解明して、「こんなこともあろうかと」と言ってもらいたい。
★☆★☆
数日かけて、スズカの記憶は改竄を終えた。記憶をなくしたスズカは、シオンと響音が教育中である。オルワ氏が亡くなった事を教えたら泣き出したが、当然の反応だろう。スズカはこのまま帆船のクルーとなって貰うつもりだ。身元が確かで、唯一の知り合いがサクラとカエデだけである。帆船の秘密もシオンレベルで教え込んで問題は無い。他の人には喋らないようにシオンと響音で教育する。
>『スズカを傭兵にすると聞いて、シオンも「後輩ができた」って嬉しそうだな。それで電子頭脳さんが探したいとご要望の魔石だけど、どの魔石を探しに行くか決めてあるの?』
>『スズカを傭兵として鍛える事も考えて、アゼルチン星域に向かうことに決めました』
>『アゼルチン星域?シンデンもよく知らない星域だな。そこに電子頭脳さんが危険と思うような貴重な魔石があるのか』
『はい、ロスア産の貴重な魔石が複数アゼルチン星域に送られています』
『なるほどね。じゃあ、そこに向かうことで決定だな』
そうして、俺と電子頭脳は、帆船の行き先を決めたのだった。
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