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最後の依頼とアフターサービス

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

>『データ削除を完了しました』


 きっかり二十四時間後に電子頭脳からデータ削除作業完了の報告が来た。その間、暇だったシンデン()は、マーロ恒星系のニュース番組をチェックしていたが、やはりトップは遺跡の破壊についてだった。まあ一番の観光スポットが消えてしまったのだから当然であろう。そして「聖なる星」の各宗派のトップのコメントや、傭兵ギルドの公式見解や戦いに参加傭兵達へのインタビューが報道されるが、そこにシンデン()の名前が出てくることは無かった。

 もちろん戦闘時の映像は出てこない。報道するに耐えうる情報が消えてしまったことで、遺跡が破壊されてしまった事が、「聖なる星」の神の手によるものだという噂から、本当にあった出来事になりつつあった。


 恒星間飛行を行えるだけの科学力がある世界において、神が存在して、現実世界に影響を及ぼしたことに、他の星域のマスコミは興奮しているようだが、本当の事を知っている傭兵ギルドや傭兵達に撮っては、笑い出しそうな内容であった。まあ、シンデン()としてはそれで良いのだ。


 シンデン()は見ていた報道番組を消すと、ソファーから立ち上がった。


「そろそろハサに戻るか」


「分かったわ。最初は私が超光速航行するわ」


 シオンはそう言って、リビングから雪風のコクピットに滑り込んでいく。それを見送った後、シンデン()はレマを個人端末で呼び出した。報道番組を見ていたリビングには、シンデン()とシオンしかいなかった。


『レマ、俺達はハサに戻るが、お前はどうするつもりだ?』


『私はもうしばらくマーロに残って、今回の件についての情報を集めます。貴方達は先にハサに向かって下さい』


 レマは、キャリフォルニア星域軍の諜報部員として、マーロで起きた事件の情報を一生懸命集めていた。ステーションやマーロ恒星系、そして傭兵の船のデータは全て削除完了済みだ。だからレマは、戦闘に参加した傭兵達から必死に情報を集めている。傭兵達から、「遺跡を破壊したのはシンデンだ」という話は聞けるかもしれないが、それを裏付ける証拠は出てこない。だから報告するのは難しいだろう。


『まあ、頑張ってくれ』


 帆船と雪風の出港許可は直ぐに下りた。遺跡が破壊され、聖地が消え去った為、イエル、サジア、エプト、アリシ星域の戦争の危機は消え去った。その為、戦争目的で集まった傭兵達も、イエル星域から去っていく。その傭兵達の船に混じって、帆船はイエル星域からロスア星域に向かった。

 何故ロスア星域のハサ恒星系に戻るのか。それは、スミスが暗号キーを送ってこないためである。依頼は一応達成したのだ、報酬は支払われるべきだ。つまりスミスを捕まえて報酬を得るために向かっている。後、オルワ氏の最後の依頼もサクラから聞き出して受けるつもりだ。それもロスア星域に関連しているはずだ。


 ★☆★☆


 超光速航法に入り、ロスア星域に航路を取った所で、俺はオルワ氏の依頼を果たすべく行動を起こした。俺としては、オルワ氏の最後の依頼なんて受ける義理も無いが、シンデンという人間であれば、受けるだろうと思っている。サクラから依頼の内容を聞いて、問題が無ければ、シンデン()は依頼を受けるだろう。まあ面倒な理屈をこねているが、シンデンという人間を演じているからには、やらざるを得ない。


 シンデン()が客室に入っても、サクラはオルワ氏の脳ユニットを抱えて動かなかった。その姿は、イエル星域に来るまでと同じだが、その顔は人形のような無表情ではなく、泣き疲れた幼い子供のような表情を浮かべていた。


「オルワ氏の最後の願い。彼は、お前から話を聞けと言った。依頼に付いて、俺に話すつもりがあるのなら、話してくれ」


「…」


「お前の姉妹達を救いたいという話だろ。お前が話さなければ、俺には何もできない。つまりお前の姉妹達は、救えない」


「…分かりました」


 サクラは俺に、彼女、いや彼女達の置かれた状況を話し始めた。


 サクラとその姉妹達は、オルワ氏によって作られた、とある聖女のクローンであった。オルワ氏は、ロスア星域で聖なる力を使って同志を増やしていたが、やはりそれだけでは彼の望む世界の実現は難しかった。仲間が増えるに連れ、有力者達はオルワ氏に接触(・・)することを避ける様になったからだ。まあオルワ氏と握手しただけで、それまでと異なった主義主張をし始める人もいたのだ、避けられて当然だろう。そこでオルワ氏は、聖女のクローンを作り、彼と直接接触をしない有力者の元に送り込んでいった。


 医療行為以外のクローンの作成、それも同一クローンを大量に作り出す事は、禁忌技術すれすれの行為であった。ロスア星域は魔石の産地であり、採掘時の負傷による欠損部位の治療行為でクローン技術が積極的に使われていた。その為クローン技術を禁忌技術とは指定していなかったから可能だったのだ。もちろん、クローンから脳ユニットを作り出してしまえば、禁忌技術として摘発されるが、クローンも一人の人間として扱うなら許されたのだ。


 サクラを含めた聖女のクローン達は、聖地でクリスタル(異物)を触れば聖なる力を授かり、信者を増やすことが可能だった。だが、オルワ氏はサクラ達を聖女として扱わなかった。オルワ氏がやった事は、サクラ達と接触し、仲間とすることだった。これはクリスタル(異物)が与える聖なる力…霊子力通信の裏技的な使い方だった。恐らく、オルワ氏とサクラの元となった聖女が出会ったことで発見したのだろう。


 通常、聖者、聖女が信者に霊子力通信のパスを作ると、それは聖者、聖女から信者への一方通行な通信となる。それに対して、クリスタル(異物)に触っていない聖者、聖女が、聖者、聖女と接触して霊子力通信のパスを作ると、双方向の通信が可能となる。

 その裏技を知ったオルワ氏は、聖女のクローンを作り、サクラの姉妹としてロスア星域の有力者にばらまいたのだ。霊子力通信は、通信に特殊なデバイスなど不要であり、そして人類の技術では盗聴も探知できない。そして宇宙空間でも超光速空間でも通信できる。これほど優秀な通信技術を持ったスパイは存在しないだろう。


 サクラの姉妹達を送り込んだロスア星域の有力者が、彼女達をどう扱っているか、もちろんオルワ氏には分かっていた。双方向に通信できるのだ、彼女達がどう扱われているか、筒抜けである。それでもオルワ氏は、彼女達を使って、勢力を拡大した。サクラ達は、オルワ氏の理想の世界を作る為に犠牲となったのだ。


 しかし今回の事件で、オルワ氏は死んでしまった。そして霊子力通信のパスも全て失われてしまった。つまり、ロスア星域に散らばったサクラ達はもう不要の存在となってしまった。つまり、オルワ氏が頼んだのは、もう必要とされなくなったサクラ達の救済だった。


「なかなか厄介な依頼を言ってくれる。それでお前の姉妹は、何処に何人いる?」


「ロスア星域内に全員居ます。人数は私を除いて、百八人となります」


「ロスア星域内と言うが、正確な居場所は分かっているのか?」


「誰が姉妹を所有しているかは分かりますが、今となっては正確な居場所は分かりません」


「誰の元にいるのか分かれば、交渉は可能だろう。居場所も、ロスア星域内に限定できるなら、探すのもできるだろう。後は交渉で解放してもらえるかだな」


「それは…分かりません。でも私が何とか説得します。そうしないと、義父が亡くなった今、姉妹達がどう扱われるか分かりません」


 サクラは姉妹達の身を案じていた。その気持ちは分かるが、百八人の少女を助け出すのは、俺一人でやるにしても時間がかかりすぎる。ここは、何とかオルワ氏の仲間の力を頼るべきだろう。その場合、養女であったサクラがオルワ氏の跡を継ぐことが出来るかにかかってくる。もし、サクラがオルワ氏の跡を継ぎ、仲間の力を使っても取り戻せない姉妹が存在するなら、シンデン()が助ける。それがシンデンらしい行動だろう。


「サクラ、お前はオルワ氏の跡を継ぐのだ。そしてその力を使って、姉妹達を助けるんだ。俺ができるのは、その手伝いだ」


「私が義父の後を継ぐのですか?」


「お前はオルワ氏の養女だ。つまり、オルワ氏の財産を相続するのに法的に問題は無い。後は、オルワ氏が亡くなった後、彼の同志がお前に協力してくれるかだ。今度は『聖なる力』無しで同志に協力して貰う必要がある」


「そんな…私には無理です」


「それでは、お前の姉妹を全員助け出すことなど不可能だ。無理と言うな、お前がやるんだ!」


「…」


「ロスア星域に戻るまで一ヶ月かかる。それまでにオルワ氏の同志を説得しろ」


 シンデン()は、サクラにそう言って客室を出て行った。後はサクラ次第である。


>『サクラの姉妹を助けるだけなら可能だけど、それをやってしまえば、サクラ達はシンデンに依存することになる。それじゃ困るからな。厳しいがサクラに頑張ってオルワ氏の跡継ぎになって貰おう』


>『バックアップ霊子()の考えは分かりました。確かに、マスターも同じ事を考えたでしょう。しかし、それは彼女一人では難しいと思います。そうですね、人型ドローンをサポートに付けましょう。ええ、マスターの姿をした人型ドローンを改造して、会計処理プログラムをインストールすれば、オルワ氏の作った組織を維持できるでしょう』


>『シンデンの姿をした人型ドローンを使うのか。他の奴じゃ駄目なのか?』


>『他の人型ドローンでは、威圧感が足りません。マスターの姿であれば、それだけで威圧感を出せますし、サクラさんも安心するでしょう』


>『それって、シンデン()に依存することになるのと一緒では?』


>『マスターと本船の能力は使いません。だから、マスターに依存することになりません』


>『そういう話じゃ無いのだが…。まあそれで済むなら良いか。それで、あの人型ドローンは、サクラさんを守れる程度には強いんだよね?』


>『はい。お掃除ドローンほどではありませんが、通常の人型ドローンや船内制圧ドローンより強いです。サクラさんの身を守る事は可能です』


>『分かった、人類の技術の範疇で収まるように、彼奴を改造してくれ』


>『了解しました』


 サクラのフォローは、人型ドローンにコピーされる会計処理プログラムで対応することに決まった。そう言えば、雪風も会計処理プログラムがコピーされている。会計処理プログラムはシンデンがインストールしたのだが、元は誰が作ったのだろう。

 シンデンの記憶を探ると、会計処理プログラムは、キャリフォルニア星域軍の情報処理部隊の人間が趣味で作った物と分かった、それをコピーしまくって著作権やセキュリティ(バックドア)など問題は無いのかと思うが、帆船の電子頭脳が警告しないのだから、その手の問題は無いのだろう。シンデンもプログラムを渡されたとき、著作権等の注意はされていなかった。


>『しかし、俺は電子頭脳に直結しているのに、プログラム関係は全く手つかずだったな。シンデンにはそんな知識は無いし、レマも脳筋だからな。シオンは魔法の方を勉強すべきだろうし、ここは俺が頑張ってみるか』


>『本船がアックアップ霊子()に、ハッカーとしての教育をしましょう』


>『…お手柔らかにお願いします』


 バックアップ霊子()は、電子頭脳から人類世界と帆船時代のハッカーについて教育を受けた。人類の中には電子頭脳を上回る凄腕のハッカー(スミスとか)も存在する。全て電子頭脳任せにしない程度には、俺も力を付けるべきだ。まあ、ロスア星域まで一月のゆっくり旅なので、暇つぶしもかねての勉強だったのは内緒である。


 ★☆★☆


 ロスア星域までの一ヶ月の間、電子頭脳によって、サクラとバックアップ霊子()の教育が行われた。サクラは人型ドローン(シンデン)がサポートに付くことで、オルワ氏の後継者に慣れるよう頑張った。オルワ氏の同志は、霊子力通信による支配など関係無く、彼の思想に共感していた人達が多かったのだ。どうやらオルワ氏は、なるべく彼と同じ気持ちを持った人達を選んで同志にしていた。だから、サクラがオルワ氏の後継者となることに、同志のほぼ全員が強力してくれた。まあ、協力しなかった同志の行く末はサクラには伝わってこなかった…。


 残る問題は、サクラの姉妹の行方であった。オルワ氏の同志の協力があっても、助け出せたのは百名であった。六名は既に死亡しており、残り二人は、交渉しても解放は難しい相手が所持していた。一人は、ロスア星系の裏組織のボスが所有しており、もう一人は、ロスア星域軍の研究所に所有されていた。まあ、引き渡せない理由は分かるが、助け出すのはかなり厄介である。


 ハサ恒星系に付くまでに、サクラと残り二人の救出について話を付けた。助け出す相手が相手だけに、傭兵ギルドも通せない秘密の依頼となる。


「サクラ、残ったお前の姉妹だが、俺が取り戻す。だが、彼女達がそのままお前の元に戻ると、問題となるだろう。だから暫くは、俺が預かることになる。それで問題はないか?」


「…はい。その二人が、私の所にいれば隠しきれないでしょう。シンデンさんの所で預かっていただければ、二人の安全は確実でしょう。もちろん、シンデンさんには、きちんと報酬をお渡しします」


「分かった。しかし報酬は、支払う必要は無い。これはオルワ氏の依頼に対する、俺なりのアフターサービスだ。俺が勝手にやることに報酬は不要だ」


「…そうですか。ありがとうございます」


 シンデン()は、生真面目な顔でサクラの感謝の気持ちを受け取る。シンデンならそうするという演技もあるが、実は救出する二人の一方には、シンデン()としても用事があったのだ。


 依頼が終わったのに、スミスが暗号キーを送ってこないので、俺達は彼の行方を捜していた。するとスミスは、裏組織のボスの所に捕まっていた。まあ、情報屋だから裏組織とは繋がりがあって当然だ。

 スミスが裏組織のボスの所にいるのは、オルワ氏のやらかした事に付いて喋らされているからだろう。もしスミスが霊子力通信の事まで知っていて、それを誰かに話していたら、大問題である。そうなったら、帆船の電子頭脳は、裏組織を壊滅させると言い出すだろう。いや、情報の有無を確認せず、最初から壊滅させるとか言い出すと想像できる。


 裏組織の構成員など、碌な人間ではないが、だからといって壊滅までやりたくはない。そこで。俺はサクラの姉妹を救出と同時に、スミスが何を喋ったかを調査して、そして彼から暗号キーを聞き出すのだ。


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