魔石の行方
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
テッドとの戦いを終えて二十分ほど過ぎて、ようやく帆船が恒星から出てきた。
『遅くなってすまなかった。…相手は、なるほどテッドか。シンデンの因縁の相手だったのか』
『遅い。こっちは死ぬ思いだったんだぞ。何をしてたんだ』
『シンデンの方が大変だったと思うけど、こっちも、あのメタル○ライムの素材の複製で、大変な目に遭ったんだ』
メタル○ライムの素材である液体金属だが、帆船で複製するまでは順調だった。しかし、一定量作り出した途端にメタル○ライムとして活動を開始してしまったのだ。電子頭脳は液体金属の製造に全リソースを使っていたため、メタル○ライムの対応はバックアップ霊子が作業ドローンを使って行う羽目になった。船内を逃げ回るメタル○ライム達を倒す事は、困難な任務であった。何しろメタル○ライムは、帆船の装甲材を喰うのだ。放置はできない。それでシンデンからの通信に対応する事ができなかったのだ。
『シンデンの通信を聞いて、やばそうと思ったから、取りあえず仕留めた奴を砲弾に詰めて送ったんだ。それで使えたんだろ?』
『ああ、もの凄く助かった。それにこの船首像についても、新しく分かったことがある。まあ話すのも面倒だから、さっさと霊子を同期してしまおう』
帆船と船首像は合体すると、シンデンとバックアップ霊子が同期する。
>『なるほど、やはりあの液体金属は魔法を無効化したか。そして、船首像のブラックボックスから謎の力が出たと…。電子頭脳さん、知っていた?』
>『本船にはその様なデータは残っておりません。初代マスターも知らなかった事でしょう。何せ開けることができないからブラックボックスなのです』
> 船首像のあの金色モードは、電子頭脳も知らない機能であった。あの力が発動している時に帆船がその場にいたなら、その力も解析もできたかもしれないが、まあ後の祭りだ。再度ブラックボックスが動き出すまで待つしか無い。
>『液体金属を量産する目的は達成したし、テッドも倒した。さっさとステーションに戻ろう』
>『了解しました。本船も、あの素材が何に使えるか研究します』
>『そうか、期待しているよ』
テッドの人型機動兵器の残骸は、そのまま恒星に送り込んで焼却処分とした。燃え尽きる残骸に、俺は犠牲になった気功術士の冥福を祈った。
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帆船がステーションに到着してから二時間ほどで、ダンジョンに入っていたシオン達が戻ってきた。
「ただいまー。ボスの素材を取ってきたよ」
「苦労しましたよ」
「マスター、任務完了を報告します」
「…」
響音は俺に素材の詰まった袋を渡す。ボスの素材の詰まった巨大な袋を渡されても困るのだが、シオンの目の前で情けない姿を見せるわけにはいかない。シンデンは気で体を強化して受け取った。シンデンに似せて作った人型ドローンは無言だが、まあ頑張ったのだろう、装備させたグレネードが消費されていた。
「グレネードを使ったのか…」
俺は、人型ドローンの記録を読み取り、何が出現したのか把握した。
「えっ、何が分かったの」
「あの連中が出てきたんだろ。それ以外でグレネードを使わないだろ」
「そうなんですよ。また彼奴らが、それも複数人で出てきたんですよ。私とシオンは戦えなくて、人型ドローンがグレネードで始末しちゃいました。人間型の生体ドローンの素材とか売れませんからね。あんな変態は焼却処分で十分です」
どうやら全裸忍者は、俺が居なくても地下十階で出現する事になったようだ。異星人製作の電子頭脳としては、人間も狩りの対象ということだろう。鎧武者も出現していたのだ、全裸忍者が増えたぐらいは誤差の範疇と言うべきだろう。傭兵ギルドと冒険者ギルドに、新しい生体ドローンが出現することは伝えたので、後は頑張って攻略して欲しい。重火器を持ち込めば何とかなるはずだ。
「シオンがボスまで倒せたんだ、この星域でやることも終わったな。次に行く場所を決めないとな…」
「その前にドラゴンステーキを食べようよ」
「そうだったな」
「それが目的でダンジョンに入ったんです。忘れないで下さい」
「分かったよ。響音調理を頼む」
「了解しました」
ドラゴンステーキは全自動での調理は難しい。響音がドラゴンステーキを焼き上げるが、その大半は女性二人の胃袋に収まった。シンデンは二三枚しか食べられなかった。ドラゴンの肉は確かに美味しかった。牛で言うなら大学の合格祝いで食べたA5クラスの牛肉より上の味わいだった。銀河の金持ちが、こぞって買いあさる理由がわかる。
★☆★☆
ドラゴンステーキを食べ終えた後、少し休憩することになった。俺はシンデンの霊子を書き換えて、帆船の私室で液体金属の使い道を考えていた。まあ、面白い素材だから色々アイデアが浮かんだので、それを試していると、ドアを激しく叩く奴がやって来た。まあ彼女が俺の所に来るのは予想していたので、ドアを開けてやる。部屋に入るなり、レマは俺に向かって叫んだ。
「シンデン、テッドが研究施設から脱走したって連絡が来ました!」
「ああ、奴とは会った」
「会ったって、どういうことですか」
「いや、それだけだ。奴と会って、俺がここにいる。そういう事だ」
「二人が会えば…まあ、そうなるわね。うーん、このことは上に報告しても良いのかな~」
「まあ、後腐れの無いように恒星で焼却した。他に見ている連中も居なかった。『キャリフォルニア星域軍が処分予定のモノを俺が代わりに処分した』と言えば長官も分かるだろう」
「分かったわ、長官にはそう報告するわね」
レマはそう言って、部屋を出て行った。あの長官なら、シンデンが生きていて、そして他の星域にテッドの人型機動兵器の情報が流れていないことから、俺がテッドを始末した事ぐらい分かるはずだ。いや、俺に始末させるために、わざとテッドを送り込んだ可能性もある。諜報部長官は、そういう男なのだ。
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「さて、次に向かう星域を決めたいと思うが、シオンは何がやりたい?」
「うーん、輸送船の護衛は楽で良いけど、少し退屈なんだよね。海賊退治はやったし、遺跡調査は今回やったから、しばらくやらなくても良いかな。シンデン、傭兵の仕事って他に何があるのかな」
「それ以外の仕事か…。要人警護とかあるが、結構面倒だ。何せ要人だからな。失敗したら違約金ももの凄い額になるし、成功しても失敗しても命を狙われる場合がある」
「えーっ、そんな仕事やだな~」
「傭兵ランクが上がると。指名で要人警護の依頼が来るときがある。断り切れない依頼の連中ほど、厄介な場合が多いんだ。シオンも要人警護とか受けるときになったら、其奴の背後関係をしっかり調べておくんだな」
シンデンも何度か要人警護依頼を受けたことがある。傭兵に依頼する人物は、常識外れな連中が多い。そんな人物でもなければ、要人なのだから星域軍なりが護衛するのが普通なのだ。
「後は戦争に参加ってのもありますよね。キャリフォルニア星域もいま募集中ですよ~」
レマが戦争の募集兵依頼に付いて話す。レマ(フランシス大尉)の立場なら、その依頼を受けて欲しいのだろう。
「シオンを戦争に参加させるつもりは無いぞ。キャリフォルニア星域の紛争は星域軍が始末を付けろ」
俺は、レマの意見を却下する。シオンに人殺しをさせる(可能性のある)依頼は受けたくない。ダンジョンに出現した忍者は、生体ドローンであり人型ドローンが処理したのでセーフである。
「そうなると、残るは貴重品の運搬になるか。そうなると、ロスア星域辺りになるかな」
「ロスア星域は今隣の星域と領土紛争中ですよ。大丈夫なんですか?」
「まあ紛争中というからには危険だな。しかし紛争中だからこそ、傭兵に貴重品運搬の依頼がやって来るんだ。特に俺のような高ランクのレリックシップ持ちの傭兵に依頼がやって来るんだ」
領土紛争で星域軍が出払っている状況だと、貴重品である魔石の運搬に護衛が少なくなる。そうなると運搬会社は、自前の戦力または傭兵に護衛を頼む事になる。低品質の魔石ならそれでも良いが、最高ランクの魔石(雪風が搭載しているような物)となると、ただの運搬船で運ぶより、信頼の置ける傭兵に直接輸送して欲しいという人もいる。
まあ、そんな依頼(魔石)は滅多に出ないのだが、現地に行ってみないと依頼の有無すら分からない。貴重な魔石の話だ、傭兵ギルドでも他の星域に依頼は回ってこないのだ。
「ロスア星域軍が戦争で傭兵を徴発しそうなら、逃げ出せば良い。今のところそこまで紛争は悪化していないはずだ」
シンデンは電子頭脳にロスア星域の状況を調査させたが、今のところロスアが隣接星域に攻め込んでいる状態だ。傭兵の募集はあるが、徴発はされていない。
「このステーションからロスア星域まで、幾つか護衛依頼もあるわ。シンデンが勧めるならやってみたい」
「私としては、シンデンにはロスアへは行かないでほしいのですが」
「レマはロスア星域に向かうのは反対と。それはキャリフォルニア星域軍の都合だな。だから却下だ。俺達はロスア星域に向かうことで決定だ」
「はーい」
「分かりました。ロスア星域に向かうことは、上に報告しても良いでしょうか?」
「いちいち俺に許可を求めるな。お前が判断しろ」
レマがいちいち俺に報告の確認を取ってくるが、俺の了解など取る必要は無い。報告されたくない内容なら、レマに話さない事ぐらい分かってほしい。
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>『さて、些か強引だがロスア星域に向かうことに決めたけど、本当にそれで良かったのか?』
>『はい。ヤマト級のレリックシップであれば、封印を解除して動かすのに最高ランク魔石を必要とします。各レリックシップの封印場所が不明な今、そういった魔石の流れを追えば、封印が解除されたかをある程度推測することができます』
>『なるほどな。まあそのロスア星域で、ヤマト級のレリックシップが解放されてなければ良いんだけどな。もし解放されていたら、紛争地帯で霊子を収集しているだろ。そうなれば最悪だな』
>『それを確かめるためにもロスア星域に行くのです』
>『シオンやレマ(フランシス大尉)にはヤマト級レリックシップの案件には係わって欲しくない。しかしヤマト級は放置すれば人類の存亡に係わる。俺達以外に対応できる奴は居ないんだろ?』
>『バックアップ霊子の言う通りです。霊子力兵器の使用は、知的生命体に取って最悪の結果をもたらします。だから我々は帆船やヤマト級は封印されたのです。人類がそれを解放したのであれば、本船は他のレリックシップを破壊するだけです』
>『電子頭脳さんの暗黒面が出てるよ…』
>『霊子力兵器の拡散を防ぐのも、本船の存在意義の一つです。バックアップ霊子は邪魔をしないで下さいね』
>『しがないバックアップ霊子の俺が、電子頭脳に反抗できる分けないだろ。だが、シオンやアヤモさん、それに無関係の一般人が死ぬような事になるなら、俺はシンデンを使ってでも、帆船の行動を阻止するからな』
>『分かりました。私も現生人類を殺したいわけではありません』
シオン達が知らない、電子の世界では、俺と電子頭脳でまあ色々やり取りが行われていた。まあ電子頭脳も人類を殺さない方針なのは分かるが、それでも霊子力兵器を使ってしまうかもしれない。俺ができるのは、電子頭脳が霊子力兵器を使わなくても良いように頑張ることだけだ。
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ロスア星域まで一週間。ついでに受けた護衛依頼も何の問題も無く終わった。まあ海賊が一度襲ってきたが、帆船が威嚇砲撃するだけで逃げ出した。レマが追いかけようとしたが、捕まえても面倒なので捕まえずに、星域軍に海賊の出現場所を報告するだけで終わった。
「ここがロスア星域なのね。まるで宝石箱みたいな所ね」
「他の恒星系と違って、青系の恒星が多いからな。それに星間物質も多い。だから綺麗に見える」
電子頭脳の受け売りの知識をシンデンは話す。それに主な輸出品が魔石だから特にそう思えるのだろう。
俺達が船を止めたのは、ロスア星域でも一番魔石を多く産出する、ハサ恒星系の第六惑星であった。人類が居住するには少し平均気温が低めで、北海度の最北端か、アラスカに近い気候の星である。
ステーションは賑わっているが、地表には魔石の採掘者とその家族以外はほとんど人は住んでいない。魔石の盗掘予防の為もあるが、やはり気温が低い事が問題なのだろう。
「魔石が出る星ってどうやって決まるの?」
『それは恒星と惑星の鉱物資源によって決まるのです。恒星からあふれ出すマナが、惑星の特定の鉱物に長い時間をかけて蓄積されて、魔石となるのです』
「へぇー」
「ええっ、そんな魔石って、そんな原理でできるんですか?」
シオンは素直に頷くが、レマは電子頭脳の解説に驚く。どうやら魔石が作られる原理を知らなかったようだ。まあ、学者レベルなら分かっているのだろうが、孤児上がりの軍人の彼女が、そんな知識をもっているわけも無い。
>『電子頭脳さん、レマにレリックシップの常識を教えてない?』
>『それぐらい分かっています。人類の常識の範疇で話しています』
>『それなら良いけど。それで、目的の魔石の出荷先とか直ぐに調査できるの?』
>『このステーションだけでも膨大な数ですからね。しばらくかかりそうです』
>『分かった、そっちは任せた。俺はシオン達を連れて傭兵ギルドの方に行ってみる』
>『はい。しばらくここで調査したいので、依頼はなるべく受けないで下さいね』
>『分かった』
「おい、傭兵ギルドに行くぞ」
「はーい」
「ついてきます」
まあ、違う星域に移動したら、傭兵はギルドに移動を伝える必要がある。俺達は、ステーションの傭兵ギルドに向かうのであった。
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