面倒な奴との再会
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
俺とシオンは、初心者向けダンジョンを攻略した。まあいろいろイレギュラーな事があったので、少し不完全燃焼な部分もあった。特にシオンは、通常のボスの素材が入手できなかった事が不満だったらしい。
「もう一度ダンジョンに入りたい!」
「俺はもう十分だと思うのだが」
「それなら、私だけでも入る」
「シオンだけでは、何かあった場合に困るだろ」
「それなら、私が一緒に行きましょう」
「お前が?一体何が目的だ?」
「もちろん、ボスの素材が欲しいだけですよ」
レマの目的は通常ボスの素材だった。レマの目を見れば分かる、瞳にドラゴンステーキが浮かんでいる。彼女は食欲に忠実なだけだった。
今回入手した特殊個体の素材は、帆船に持ち込んで解析中だが、恐らく食材として使えないとのことだった。つまりご褒美予定だったドラゴンステーキは無しだった。俺もガッカリしたが、一番ガッカリしていたのはレマだったようだ。
>『二人と響音だけで大丈夫かな』
>『マスターが入らなければ、遺跡の特殊機構は発動しないと思われます。現にマスター達の後に入った傭兵が、通常ボスの素材を持ち込んでいます』
>『うーん、大丈夫か。しかし不安は残るな。…シンデンに似せて作ったドローンがあったな。アレはどの程度改造してある?』
>『響音ほどではありませんが、人類種の人型ドローンであれば、余裕で勝てるだけの改造は施してあります』
>『剣術も行けるよな』
>『マスターの剣技は入力済みです』
>『もし、イレギュラーな個体が出た場合は、対消滅グレネードで処分させれば良いか』
>『…それで問題ないと思われます』
電子頭脳は、大丈夫という結論を出した。まあ俺が行かなきゃ変な生体ドローンは発生しないはずだし、それならVRゲーム通りである。
「もう一体の人型ドローンも護衛に付ける。見たことの無い生体ドローンが出たら、人型ドローンがグレネードで処分するからな。素材より命を大事にだ!」
「シンデンは心配性ね。分かったわ」
「もう一体の人型ドローンって。…これ、シンデンにソックリじゃない。どうしてこんなモノ作ったのよ」
「俺が動けない時に、俺の顔が必要な時の仕事の為に作ったんだ。こら、触りまくるな!」
レマが、俺に似せて作った人型ドローンを触りまくるので、拳骨を落とす。
「痛っ。拳骨は酷いわ」
レマはむくれるが、シンデン型ドローンに触りまくるのは、セクハラだ。怒って当然である。
「お前達、とにかく無理はするなよ」
「はーい」「当然ですよ」
二人を見送ったシンデンは、まあ帆船で待機だ。ロンマ恒星系は初心者向けダンジョン以外見るべき物は特にない。暇なので、持ち帰った特殊個体の素材解析を行った。
>『銀色の竜の素材は、目新しい技術はありません。頭部の重力子光線を射出する機構に付いては、生体部品で作り出した事には感心しますが、本船でも再現は可能です』
>『引力光線って重力子を発射していたのか…』
>『引力光線とは変な名称ですね。まあ、物体を引き寄せたり突き放したりもできます。ですが、本来の目的は、命中させた相手に重力を作用させることで、動きを制限する為の仕掛けでしょう』
>『へー』
>『それよりも、この液体金属の方が素晴らしいモノです。液体金属に見えますが、ナノマシンですね。レアメタルを惜しみなく使ったナノマシンで、これを使えば本船の機能も向上させられる可能性があります。船首像の素材に近いので、気功術で扱えるかもしれません』
帆船から見ても、特殊個体の素材は興味をそそられるモノらしく、特に液体金属が良かったようだ。
>『なるほど。やはりメタル○ライムは倒しておいて正解だったか。試してみるか』
シンデンは液体金属に気を流してみる。
>『うん、気がもの凄く通りやすい。船首像の素材より良い感じだ。これを大量に作る事はできそうか?これがあれば面白いことができそうだ』
俺というか気功術士としてのシンデンが、メタル○ライムの素材に対して何かを感じ取っていた。
>『そうです、レアメタルの合成にはエネルギーが必要ですので、恒星に入れば複製可能です』
>『シオン達が戻ってくるまで待機状態だし、作っておくか』
>『了解しました』
雪風にメッセージを残して、帆船はステーションを離脱した。まあ恒星に潜るのは帆船だけだが、俺も船首像の操作を少し練習したかった。恒星の近くには航路は無いし、ノイズが多いので宇宙船のセンサーも感度が落ちる為、隠れて練習するには最適な場所である。惑星のステーションと恒星を挟んで反対の宙域で、帆船と船首像は分離した。
>『三時間ほどで戻ります』
>『わかった』
久しぶりの船首像単独での行動だ。シンデンは気を巡らせて、船体の動きを確認する。
「シンデンの気功術のレベルが上がったからか、動きが良くなったな。それにあのブラックボックスの部分も、今日は調子が良いみたいだ」
船首像には、帆船の電子頭脳も解析できないブラックボックスが存在している。解析できないのは、そこを壊してしまうと船首像が崩壊してしまう恐れがあるからだ。この船首像は帆船の初代マスターが収集したレリックシップである。建造された年代や目的も不明で、船体の質量や体積を自在に増やす機能もブラックボックスが関係している。魔力や理力反応が無いことから、何かの科学技術でそれを成し遂げているのだが、帆船の創造主にも模倣はできなかった。超光速航法の回路もそのブラックボックスに入っている。
しばらく船首像で、シンデンの剣技を練習する。生身での練習はやっているが、船首像でやるのはレベルアップしてから初めてである。少し気合いを入れて機体を動かしたが、特に問題は無かった。
しばらく休憩を挟もうと動きを止めた時、センサーがエネルギー反応を捕らえた。それはレーザー砲のエネルギーであった。かなりの出力であったが、船首像の装甲を破壊するほどの威力は無い。しかし明確に船首像を狙った攻撃だった。
「海賊…の訳は無いか。一体誰だ?」
シンデンは、レーザー砲を撃ってきた宇宙船をモニターで拡大表示する。
「あの宇宙船が攻撃してきたのか。識別コードは…不明か。シンデンを狙う奴は多いが、あんな宇宙船乗りは記憶に無いな」
センサーが捕らえたのは、全長六十メートルの宇宙船…いや船首像より一回り大きい人型兵器だった。近くに母艦がいないという事は、あの人型兵器は単独でここまでやって来たのだろう。つまり超光速航法可能な巨大人型兵器である。顔には魔石を埋め込んだ仮面を付けていることから、魔法使いの船と思われるが、手にはレーザー砲らしき兵器を持っていた。魔法使いであれば、その様な科学的な兵器は使わないはずだ。
『警告も無しに攻撃してきたという事は、賊と見なして良いのだな』
シンデンは共通周波数で通信を送る。
『何を言ってやがる。お前の方が犯罪者だろうが』
返信の声を聞いて、シンデンの記憶が反応する。この声は知っている。そう、彼奴だ。
『テッド・サンダース、どうしてここにやって来た!』
人型兵器の操縦者はテッド・サンダース。キャリフォルニア星域軍の気功術士である。シンデンと同期の軍人だが、とにかく性格が悪い奴だった。手柄を独り占めするために、作戦を無視したり、味方を見殺しにしたりするのは当たり前という不良軍人である。しかし気功術士としての腕はシンデンと互角であり、特殊部隊では実力重視だったために、成果を出し続けている限り罪に問われなかった。そんな性格のテッドとシンデンが対立しないわけもなく、事ある毎にテッドはシンデンを殺そうと画策してきた。
しかし、その特殊部隊も十年前に壊滅した。テッド・サンダースもその時、数々の悪事(シンデンが告発した)を追及され、軍刑務所に入っていたはずなのだ。そんな奴がイーリア星域に、それも人型機動兵器でやって来た理由が分からない。
『はぁ?そんなもの、お前を倒すために決まっているだろうが。星域軍の研究所の奴がお前が指名手配になったって教えてくれたんだ。これで遠慮無く、お前を殺れるぜ!』
『キャリフォルニア星域軍との話は付いたはずなのだが…。こんな奴野放しにするな』
キャリフォルニア星域軍の軍拡派は、他の星域に戦争を仕掛けるため、新兵器の開発を積極的に行っていた。ヤマト級を使った禁忌技術のドローン開発だけではなく、気功術士や魔法使い、理力使いのための新型機体の開発も行っていた。通常は新型機のテストパイロットには優れた資質の軍人が試験を行う。しかし、禁忌技術を使ったような開発では、普通の軍人は使えない。そこで白羽の矢が立ったのが、テッドだった。
研究所は秘匿されていて、存在を知っている者は軍拡派の上層部だけである。諜報部の長官なら場所ぐらいは知っていたかもしれないが、その研究内容とテストパイロットまでは把握していなかったようだ。
『ああん?俺はお前がキャリフォルニア星域に指名手配されと聞いて、喜んで飛び出してきたんだぜ。どうして止められるんだよ』
『ここはキャリフォルニア星域ではなく、イーリア星域だぞ。こんな所でキャリフォルニア星域軍人が民間人を襲ったら、どうなるかぐらい分かるだろうが』
『なにを言ってやがる。イーリア星域軍ごときが、俺を捕まえられるわけがないだろ。何せこの船は最高だからな。シンデンを倒したら、俺とこの機体の素晴らしさをみんな理解するだろう。そうすれば俺も軍に返り咲けるってもんだ』
そう言って、テッドは舌なめずりしていた。
「(ああ、もう狂ってやがるな)」
シンデンは、テッドが既に狂気に陥ってると気づいた。テッドがシンデンを倒したところで、キャリフォルニア星域軍が彼の軍務への復帰を認めることは無い。軍拡派が勝っていればその可能性もあっただろうが、穏健派が主流の今、テッドを復帰させるメリットなど一つも無いのだ。
『さあ、十年前の決着を付けようぜ』
そう言って、テッドはレーザー砲を撃ちながら突っ込んできた。
『馬鹿が、そんな巨大な人型兵器、お前に使いこなせるわけが無いだろ』
シンデンは船首像に気のフィールドを纏わせると、テッドの乗る人型機動兵器に向かっていった。レーザー攻撃は正確に船首像に命中するが、気のフィールドを貫くほどの威力は無い。そして、テッドでは船首像を超える大きさの人型機動兵器を扱えるだけの気は使えない。
『これで終わりだ』
テッドの人型機動兵器と船首像が交差する。シンデンは気で作り上げた剣で、テッドの人型機動兵器を切り裂いた。
『馬鹿な』
『へへっ、なにが終わりだよ』
シンデンが放った気の斬撃は、テッドの人型機動兵器が纏った理力フィールドで防がれてしまった。
『馬鹿な。お前に理力使いの素質は無かったはずだ』
『へへっ、もちろん俺はただの気功術士だ。だけどな、便利な物がこいつには付いてるんだよ』
『クローン脳ユニット…禁忌技術を使ったのか』
軍拡派はクローン脳ユニットを使ったドローンを使用していた。つまり、研究所でその活用法も研究しているのは当然だった。テッドがここまで人型機動兵器だけでたどり着けたのも、クローン脳ユニットのおかげだろう。
『たかが理力フィールドを纏った程度で俺に勝つつもりか』
『それだけじゃ無いぞ』
テッドの人型機動兵器の背後から、千手観音の様に十本の手が出現する。その一つから魔法陣が出現し、巨大な火の矢が船首像に向かって放たれた。
『魔法まで使えるのか』
船首像は回避するが、魔法は追尾してくる。仕方なく気の剣で切り裂いて魔法を消し飛ばした。
『いったろ。こいつは最高な機体だぜ』
十本の手からそれぞれ異なった魔法陣が現れる。どうやら魔法を使えるクローン脳ユニットを十個搭載しているようだ。そうなれば戦略級魔法も放つことが可能だろう。
そんな化け物にシンデンは勝機を見いだせずにいた。
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