初心者向けダンジョンの罠
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
フランシス大尉改め、傭兵のレマがチームに加わったが、まあ当面やることは、シオンの個人戦闘技術向上のために、ダンジョンに入ることである。レマがキーアイテムを持っていなければ、置いていくという話もできたのだが、何故か持っている。
>『準備が良いな。シンデンも持っていたし、キャリフォルニア星域軍は訓練でここを使っているのかな』
>『個人戦闘技術の向上が行えて、資金も稼げる場所です。訓練に使用しているのでしょう』
>『フランシスが俺達の行き先として選んだのもそれが理由かな』
>『そちらについては、まだ情報不足です』
「俺達は地下九階に向かうが、レマとは連携訓練もできていない。今回は俺とシオンの戦いを観ているだけにしてくれ。まあ、自分の身ぐらい守れるだろう」
「手を出さないでね」
「ええ、今回はシオンさんの力を見せていただきます」
響音も含めて、四人はエレベータに搭乗すると、地下九階に降りた。響音は人型ドローンなので、キーアイテムは不要だ。じゃあ人型ドローンだけで探索できるのではと思うだろうが、人型ドローンだけではエレベータは動かない。狩りをするためのダンジョンなのに、ドローンで得物を取るのは禁止という意味があるのだろう。
「早速来たぞ。倒すのに時間をかけると、彼奴は仲間を呼ぶからな、気を付けろ」
「分かっているわ」
エレベータを降りた途端、襲ってきたのは、頭に山羊の様な角を持ち小さな翼を背負った三体の巨人だった。巨人は、三メートルを超える巨体から繰り出される攻撃も脅威だが、魔法も使ってくる厄介な奴だ。そして、自分達が不利となると、仲間を呼ぶという嫌らしい行動をする。しかも人の会話を理解しているので、迂闊な戦闘指示は相手に対応されてしまう。つまり、この巨人と戦うには、素早く、そして各自が自分の役目を理解して戦う事が要求されるのだ。
「行くぞ」
「ファイア・アロー!」
シンデンは気を纏った刀で巨人の一体に斬りかかり、一刀のもとに斬り捨てた。シオンは後ろから、ファイア・アローを放ち、残りの敵を牽制する。
「グギャ」
「ギャギャ」
巨人にとって、初級のファイア・アロー程度は牽制にもならず、巨人はシンデンに殴りかかってくる。その手にはナイフのような爪が付いており、直撃すればタクティカルスーツといえど切り裂かれてしまう。
「おっと、危ない」
二体の巨人の攻撃を躱して、シンデンは一旦後退する。初級魔法が聞かないと分かったシオンが、中級魔法を唱え始める。シンデンはそれに合わせて、次のターゲットを決めて斬りかかる。こちらも問題無く斬り捨てたのだが、残りの一体が魔法を唱えた。
「グギャーグギャギャ」
巨人を中心に魔法陣が展開される。本来ならシオンがこの巨人を攻撃するはずなのだが、彼女は慣れない魔法の詠唱に手間取っていた。魔法陣の規模から、シンデンは魔法が範囲魔法と見て取る。
「シオン、直ぐに防御魔法を使え。響音は範囲外に逃げろ!」
「防御魔法ね、それなら」
シオンは攻撃魔法を中断し、即座にシールドの魔法を発動する。巨人が使ってきたファイア・ストームの範囲魔法は、パーティ全員を効果範囲に収めていた。響音は本来なら余裕で範囲外に逃げ切れていただろうが、荷物が邪魔になって効果範囲から抜け出せていなかった。帆船が魔改造したメイド服ではあるが、魔法に対しては何処まで防御できるか不明である
「こっちの心配はしてくれないのかな~」
指示を出さなかったが、レマは九字を切って、響音と自分に理力フィールドを張っていた。シンデンは、自前の気のフィールドで魔法を防ぎ、範囲魔法が消えると同時に巨人を切り裂いた。
「お前に心配など不要だろう。まあ、響音を守ってくれた事には礼を言うぞ」
「うーん、これは信頼されているって事で良いのかな。シオンには指示を出していたし…」
「シオン、魔法にこだわらず、銃も使え。このダンジョンの生体ドローンなら銃撃でも倒せる。魔法にこだわるな」
何かぶつぶつ言っているレマを放置して、俺はシオンに助言を行う。今の戦いでは、残りの一匹は魔法ではなく銃撃でも十分倒せた。VRゲームでは、魔法攻撃を受けてもさほど痛みは感じず、行動が遅延するだけだった。その為シオンは慣れない詠唱付きの魔法攻撃にこだわり、敵に範囲魔法を使われてしまった。シオンからすれば不満だろうが、これからは実力を隠して戦う事に慣れて貰わないと困るのだ。
「分かった。魔法だけじゃ無くて、銃も使っていくわ」
「九階は五階とは敵の強さが違う。初級魔法で牽制するだけじゃ無くて、銃で相手を倒す事の方が助かる。それと攻撃より防御を優先で行う様にしろ。ダンジョンでは負傷するのが一番厄介だからな」
多少の負傷なら、怪我を治すポーション(魔法的なレリックを再現したもの)で治療はできる。しかし重度の火傷や骨折は治せない。負傷した仲間を連れて行動するぐらいなら、見捨てるという傭兵や冒険者すらいるのだ。宇宙とは違って、ダンジョン探索はそれだけ危険な場所である。初心者向けだからこそ、そんな注意ができるのだ。
シオンに助言をしている間に、響音が巨人のはぎ取りを終わらせてくれた。はぎ取る部位は角と舌である。角は薬の材料、舌は高級食材らしい。まあ現物を知っている俺は食べたくないが、金持ちの間では珍味として珍重されている。
初戦を何とかくぐり抜けた俺達は、同様な戦闘を数回行った後、最下層の十階に降りた。
「どうしてこんな所にウサギがいるの?」
「私も、ウサギがいたとは聞いたことが無いのですが…」
階段を降りた所で、シオンはウサギを発見した。ダンジョンの最下層にウサギとはおかしいと思った様だが危険とは感じていなかった。しかし、俺は其奴の危険性に感づいていた。
「二人とも、油断するな」
「きゃっ」
ウサギは、迂闊に近づいたシオンの首筋めがけて、前歯を光らせて飛びかかった。もちろんこのウサギも生体ドローンである。しかしVRゲームでは出てこなかった敵のため、シオンはウサギの危険性を知らなかった。
ザシュッ
シオンの首を狙った、首狩りウサギをシンデンがとっさに切り払う。
「(まさかあのゲームの知識が役立つとは思わなかった。しかし、首狩りウサギはVRゲームに出てこなかったよな。電子頭脳も何も言わなかったし…)」
ダンジョンでは電子頭脳とは通信できないため、首狩りウサギがどうして出現したのか聞けない。レマも知らなかったという事は、レアな敵だったのかもしれない。しかし、レアでも出現することが分かっているなら、電子頭脳が注意するはずだ。それに響音も動かなかったと言うことは、危険な生体ドローンとして登録されていなかったのだ。
「シンデン、ありがとう」
危うく即死する所だったシオンが、顔を青くしてシンデンにお礼をいう。
「シンデンは良く分かったね。知っていたの?」
「いや、何となく、やばい奴と感じたのだ。今の攻撃を見たら分かるように、首を狙って襲ってくる。可愛い姿に騙されるなよ」
「うん、見かけに騙されない」
「この情報は星域軍に上げて良いのかな?」
俺は二人に首狩りウサギの危険性を話す。前世のゲーム知識では、一定確率のクリティカル攻撃で首をはねて(即死)くるだけだが、リアルでは確実に殺しに来ていた。ゲームとは違うのだ。
「響音、ウサギを見つけたら、お前も積極的に処理しろ」
「了解しました」
響音の反応速度なら、首狩りウサギにも対応可能だ。シオンを守る位置に響音を配置して、俺達は先を進む。十階は一方通行の迷路だ。出てくる敵を倒して先に進むしか道は無いのだ。
「今度は…えーーーーっ」
「ちょっと、あれは一体どういうことでしょうか。遭難した人でしょうか」
次に出てきた敵を見て、女性の二人は思わず顔を逸らしてしまう。
「いや、遭難しただけであの姿は無い。あれも敵だ!戦うぞ」
「「無理です!」」
シオンとレマがそう叫ぶのも無理は無い。出てきたのは顔をマスクで隠した以外は素っ裸の男性だ。これを直視して戦える女性、いや男でもそれほどいないだろう。
「(どうして、VRゲーム以外の敵が出てくるんだ。このダンジョンに何が起きているんだ)」
敵は素っ裸の男一人。俺だけでも戦えるだろうが、もしアレであれば、とてつもない強敵である。
「チェストー」
シンデンは気を使って移動速度を上げると、裸の男に斬りかかった。普通の生体ドローンなら、斬り捨てて終わりだが、男は気で強化された刀を真剣白刃取りで受け止めた。
「嘘だろ」
避ける事を想定していたシンデンは、敵の次の攻撃に対応できなかった。どれだけ体が柔らかいのか、真剣白刃取りの状態から、足が俺の首を狙ってくる。いや、それは避けるが、その後に来るモノが体に触れてしまう。
「マスター、助太刀します」
俺が恐怖に硬直する一瞬の間に、響音が割り込んだ。特別製のちりとりがモノをたたき落とすと、敵は悶絶状態になってしまった。
「(気持ちは分かるが)情け無用。響音、処分してしまえ」
シンデンの命令で、響音は竹箒を取り出すと、男を粉みじんに切り裂く。そしてちりとりで焼却処分としてしまった。素っ裸の男の惨殺死体など、シオンに見せてはいけない。本当は俺も見たくは無かったが、謎を解くためにも我慢して見ていた。
「終わったぞ。まあ、戦えなかった理由は分かるが、敵から決して目を逸らすな」
「「無理です!」」
再び二人から絶叫が漏れるが、これは重要な事だ。何せウサギ以上に厄介な敵なのだ。
「…分かった。彼奴が出てきた場合、俺と響音で始末する。お前達はシールドの魔法や理力フィールドを張っていろ」
俺の命令に頷く二人。シオンはまだしも、レマが対応できないとは情けないと思う。まあ嫌だという気持ちは分かるが、軍人だろ。
彼奴も一人なら、響音とシンデンで対応できるが、複数出てきた場合は、流石に無理がある。その場合は、念のために持ってきた対消滅グレネードを使おうと俺は決意して、先に進む。十階から抜け出すには、最後まで進む必要があるのだ。
「(予想外の敵ばかり出てくるよな。次は一体何が出てくるんだ)」
次に出てきたのは鎧武者であった。その背後には液体金属のような物体もいた。
「(鎧武者はVRゲームにもいたな。だが、その後ろにいる液体金属って、まさか…)」
「シオン、響音、鎧武者はお前達に任せた。俺は後ろの奴に攻撃する」
「裸じゃ無いなら大丈夫」
「Yes,Master」
鎧武者もシンデンが相手をすべきだが、後ろの液体金属の敵が気になる。想像通りなら、倒してしまいたい。いや経験値が存在しない世界だし、素材とか落とすのか不明だが、逃がすくらいなら倒してしまいたいというそんな気持ちになってしまったのだ。
シオンは今度は魔法では無く銃を使うが、鎧武者は非常識にもレーザーを刀で受け止めた。響音が竹箒で斬りかかるが、それも躱してしまう。もの凄い剣豪である。ただ、二人で戦いをすることはできていた。
一方シンデンは、二人の戦いを横目に、逃げ出そうとする液体金属を追いかけた。いや気を使って速度を上げたシンデンから逃げ出すほどの速度を出す液体金属とか、どんな原理で動いているのだろう。このままでは逃げられてしまう、そう思ったところで、液体金属は理力フィールドに包まれて動けなくなった。どうやらレマがやってくれたらしい。
「貰った」
理力フィールドの上から、液体金属の目の間を刀で突き刺す。それで液体金属は動かなくなった。
「後は…」
響音と切り結んでいた鎧武者を、背後から一刀両断にする。鎧の中身は空っぽであった。鎧武者の刀は業物であり、高く売れる。しかし液体金属の残骸は、買い取りリストにも無い謎の素材であった。
「ねえ、どうしてシンデンはあの液体金属を狙ったの?」
「そうですね。逃げ出す敵を斬るとか、貴方らしくありませんね」
シオンとレマにそう言われるが、理由など答えられるわけもない。
「鎧武者は事前情報にあったが、液体金属は今まで聞いたことの無い生体ドローンだ。確実に仕留めてその情報を売る。傭兵や冒険者ならそういう稼ぎ方もあるのだ」
初心者向けダンジョンの情報はもう出尽くしているはずだが、そこで新しく出現した生体ドローンの情報は高く売れると言い張る。まあ売れるかどうかは分からないが、その場はそう言い訳して二人を納得させた。まあ、情報を出しても俺以外には二度と出現しない気がする。
「(何となくカラクリが分かってきたな。これはVRゲームじゃ再現されていなかった機能けだな)」
恐らく、このダンジョンは、十階では、入ってきた人が、戦いたいと思っている敵を出すという機能が付いているのだ。狩猟民族が作ったダンジョンだ、最後は強敵と戦いたいという要望をかなえるための機能なのだろう。
レマが知らなかった事から、一定の強さを持った人が十階に入った時のみ動作する機能と思われる。ダンジョンは、シンデンを強者だと認めたのだ。そして俺の意識を読み取って、戦い体と思った生体ドローンを作り出したのだ。
普通の冒険者や傭兵は、そこそこ稼いだ後は、初心者向けのダンジョンは卒業してしまう。後輩を育てるとしても、シンデンほどの達人が入ることはない。だから誰もこの機能に気づいていなかったのだ。
「(といっても俺は、全裸忍者と戦いたいとは思ってないのだが…)」
ダンジョンの選択基準は謎だが、嫌な敵が出てくる。これで最後が大魔王○ーンとかだったら、どうしようかと思ってしまう。いや、俺のそんな思考をダンジョンは拾って敵を作ってしまう可能性がある。気を使えばストラッシュは再現できるだろうが、天地魔闘の構えを崩す自信は無い。
「とにかく、余計な事を考えず、VRゲーム通りに行くぞ」
ダンジョンのこの特別仕様を説明してしまうと、今まで出てきた敵について、レマが説明を求めてくるだろう。シンデンが昔戦った敵という言い訳が通じるかもしれないが、諜報部が調べれば嘘だと分かってしまう。こうなったら、VRゲーム通りの敵が出てくることを念じながら進むしかない。
★☆★☆
VRゲームの敵を思い浮かべながら進むことで、イレギュラーな生体ドローンは現れなかった。いや、途中で響音に似た女性の敵が出たが、シオンが速攻で蜂の巣にしていた。もちろん素材は取らなかった。
そして後は最後の敵を倒して、ダンジョンから脱出するだけとなった。
「最後の敵だ、油断するなよ」
「分かっているわ」
「まあ、彼奴なら楽勝でしょうね」
最後の敵はVRゲーム通りなら、全長五メートルほどの巨大なトカゲである。炎のブレスを出すからドラゴンと言いたいが、姿は直立したトカゲで翼もないし、鱗も頑丈では無いので普通に銃弾でも殺せる。そして食材として高額に買い取ってもらえる美味しいボスである。食材としては、ドラゴンステーキという奴になるらしい。三人とも食べた事は無いので、実は食べるのを楽しみにしていた。
ボスがいる場所は、他の生体ドローンと異なり、扉の付いた部屋となっていた。俺は扉に「営業時間は~」とか書かれていないことを確認する。いや、書かれていたら困るけどね。
ガチャリ
扉を開けて、中を覗く。扉を開けただけでは襲ってこないことは、VRゲームで確認済みだ。
「(最後にとんでもない奴来たーっ。二つ首の銀色のドラゴンと赤い背びれの付いた恐竜って!。お前ら、仲は最悪だろ。どうして並んで待っている)…シオン、ちょっと来い」
シンデンは冷や汗を流しながら、シオンを呼んだ。
「シンデンどうしたの。早く入って倒そうよ。帰ったらドラゴンステーキでしょ」
シオンは、どうやらドラゴンステーキが待ち遠しいようだ。
「お前のグレネードを全てよこせ。今回ボスの素材は諦める」
「…シンデンがそう言うなら、残念だけど諦めるわ。そうよね、又来れば良いんだし」
「何言ってるんですが、ボスの素材が一番高いんですよ」
シオンは素直にシンデンの言うことを聞くが、何故かレマが文句を言う。しかし、シンデンはレマの抗議を無視すると、シオンの対消滅グレネードを受け取り、自分の分も含めて部屋に投げ込んだ。後は扉を閉めて待つだけである。
「良いか、世の中には戦っちゃ駄目な奴もいるんだ。初心者向けのダンジョンとはいえ、真面に戦ったら駄目な奴もいるんだ」
「初心者向けのダンジョンにそんな生体ドローンがいるわけ無いでしょ」
レマが文句を言うが、俺はそれを無視する。シオンが素直に聞いてくれるし、響音は俺の味方だ。
ダンジョン《遺跡》の壁や扉は、対消滅グレネード程度では破壊できないことは確認済みだ。流石にあの生体ドローンも対消滅グレネードには耐えられまい。俺はそう思って、数分待った後に、扉を開けて中を確認した。
「(まさか生き残っているとは)」
対消滅グレネードを二発も喰らって、生き残れる生命体がいるとは驚きである。しかし銀色の奴は首が一本取れて、羽は取れている。恐竜も、体中から血を流して半死半生だった。
「仕方ない、速効で倒すぞ。シオンはライトニングボルトの魔法を詠唱しろ。銀色の奴にそれを撃ち込め。レマは理力フィールドで、俺達全員に防御を頼む。俺は残った恐竜を殺るから、響音はそいつを処分しろ」
「えっ、二体もいるんですか?それに銀色とか恐竜とか何ですか?」
「シンデン、分かったわ。マナよ我が手に集いて雷となれ…」
レマは俺の命令に驚くが、シオンは素直にライトニングボルトの呪文を詠唱し始めた。
「レマ、一番強力な理力フィールドを張ってくれ。響音は俺が始末した恐竜の素材を、始末しろ」
「承りました」
「良く分からないけど、やるわよ、臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前、遮蔽陣!」
俺はシオンの呪文の詠唱とレマの理力フィールドの準備が整うのを待ってから、扉を蹴り開けて部屋に入った。
「ライトニングボルト!」
俺の後に筒いたシオンは、部屋に入るなり、ライトニングボルトを銀色の竜に放つ。設定通りなら、銀色の竜は恐竜よりは弱い。狙い通り、ライトニングボルトの魔法を受けてると、銀色の竜は倒れてしまった。残るは赤い背びれの恐竜だけだ。
「うぉーっ」
流石にダンジョンも俺のイメージだけで、実物サイズの生体ドローンは作れなかった。全高十メートルの恐竜は、背びれを光らせて何かブレスを吐こうとしていた。アレを吐かれたら、理力フィールドで防いでも危険かもしれない。シンデンは必死に気を高めると、恐竜に向かって突撃した。もちろん気のフィールドは展開している。
斬!
シンデンの実力か、生体ドローンでは再現不足だったのか、恐竜の首は、あっさりと切り落とされた。しかし、恐竜はそこで死んではいなかった。首と胴体が繋がろうとする。生命力は本物並みだ。俺はどうやって始末しようかと考えたが、そこにやって来たのは響音だった。
「お掃除しますね~」
俺に続いて駆け込んだ響音が、再生を始めようとした恐竜の体を竹箒でズタズタに引き裂く。そして肉片を欠片も残さずちりとりで燃やし尽くしてくれた。
恐竜の死骸を燃やした後のゴミは、ちりとりが吸収する。電子頭脳が魔改造したちりとりなら、放射能も漏らさないだろう。念のために帰ったら全員医療ポッドに入ることにしようと俺は心のメモに書き込んだ。
「シンデンさん、これは一体何なのでしょうか?」
レマがライトニングで倒された銀色の竜を指さす。
「知らん。レアなボスなのだろう。一応、其方の素材は確保しておくぞ」
流石に響音でも十メートルもある巨体全てを持ち運べないため、無事であった頭と尻尾、そしてモモ肉だけを採取する。残りは響音が片付けた。
こうして、俺達の初心者向けダンジョンの攻略は終了した。
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