フランシス改めレマの扱い
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
シオンは、フランシス大尉、いや今はレマを連れて帆船の客室に入った。部屋には響音が付いていて、シオンが迂闊な発言をしないか監視中である。
「貴方はどうしてシンデンをつけ回すの?」
「貴方には関係の無い事よ。これはシンデンとキャリフォルニア星域、いえシンデンと私との間の話だわ」
「シンデンと私は、今は傭兵のチームを組んでいるパートナーよ。シンデンと貴方だけの問題では無いわ」
「シンデンが保護者となったから貴方は傭兵になった。だからシンデンは貴方の面倒を見ているだけよ。本当は迷惑に思っているでしょうね。私としては貴方のような素人はシンデンの側にいるべきでは無いと思っているの」
「私はもう素人じゃ無いわよ。傭兵ランクもBになったわ。貴方こそ、シンデンと同じ施設出身だから追い払わないだけよ。シンデンは、キッと貴方の事を迷惑に思っているわ」
>『うーむ。なかなか怖いやり取りが始まっているな』
>『本船は人間関係については、関与しませんので。彼女達の仲裁は、バックアップ霊子に一任します』
>『本当は、電子頭脳さんのマスターだったシンデンが原因なんだけどね。シオンはまあ俺も絡んでいるけど、フランシスについてはシンデンが悪いんだよな~』
過去、シンデンは度重なるフランシスのお誘いを全て断っている。どうせなら会うことを断れば良いのだが、そこまでシンデンは非情になれなかった。まあ、俺も非情にはなれないけどね。
「シンデンが、私が来ることを迷惑に思っていることは分かっているわ。でもシンデンは傭兵なんかより星域軍にいるべき人なのよ。この前の内戦で、キャリフォルニア星域軍は良くなったのよ。それにキャサリンがいなくなったことで、シンデンが傭兵を続ける必要は無くなったわ。今シンデンが傭兵をやっているのは、貴方がいるからよ!」
「星域軍って、あんな最低の場所にどうしてシンデンがいなきゃいけないの。シンデンは傭兵で自由に生きていくべきだわ」
二人の仲はどんどん険悪になっていく。このままでは俺では仲裁不可能になりそうなので、意を決して部屋に入る。
「待たせたな」
「シンデン、星域軍に戻って!」「シンデン、こんな人の言う事なんて聞かないで!」
二人が同時にシンデンに詰め寄る。
「二人とも落ち着け。とにかく座って話そう」
シンデンは、二人を押しと止めてソファーに座らせる。シオンは当然のようにシンデンの横に座るので、フランシスが顔を引きつらせる。シオンが露骨に体を密着させようとするので、それは流石に手で制した。シオン(キャサリン)はシンデンの養女ではあるが、今は別人の女傭兵である。フランシスの前でそんな事をすれば、彼女が逆上しかねない。
「まず俺からフランシスに聞きたい事がある。俺達がロンマ恒星系に行く事は誰も知らなかったはずだ。どうやって俺達の居場所を突き止めた?」
「そんな事、どうして話す必要があるのよ。秘密よ、ひ・み・つ」
フランシスは教えてくれなかったが、何か秘密がありそうだ。
>『電子頭脳さん、どうやって俺達の居場所を突き止めたか分かる?』
>『不明です。傭兵ギルド経由で居場所がばれたとしても、こんなに早く来られるわけはありません』
>『つまり、フランシス大尉は、電子頭脳さんが知らない、何らかの方法で、帆船若しくはシンデンの居場所を突き止めているのか。彼女は理力使いだけど、理力にそんな便利な術があるのかな』
>『本船のデータベースには存在しません。可能であれば、バックアップ霊子は、彼女から方法を聞き出して下さい』
>『あの、してやったりという顔を見れば分かるだろ。秘密と言っているんだ、話すつもりは無いんだろうな。念のために言うけど、俺はフランシスから力尽くで聞き出すつもりは無いからね』
シンデンはフランシスをしつこいとは思っていたが、嫌ってはいない。それに女性を荒っぽく扱うことなど俺には無理である。
しかし、凄腕の傭兵であるシンデンが、侮られるのも悔しい。傭兵相手に何度も使った方法であるが、シンデンは殺気を纏わせた気をフランシスに放った。しかしフランシスも軍属の理力使いである。シンデンの気に反応はするが、何とか耐えた。
「秘密を…喋る気は起きてこないか」
「当たり前でしょ。シンデンとどれだけ付き合ったと思っているの。この程度の殺気なんて慣れちゃったわよ」
フランシスはそう言うが、冷や汗を流して耐えていたことは、電子頭脳と俺には分かっていた。このまま気を当て続ければ喋りそうだが、その光景はシオンの教育に良くないので、今は諦めた。
「それで、傭兵のレマさんは、俺に会ってどうするつもりだったんだ」
「別に、傭兵だから何処に行っても自由でしょ。たまたまシンデンと一緒の恒星系に来ただけよ。そうね、遺跡に入ったことが無いから、入ってみようと思っただけよ」
「初心者向けダンジョンにか。そうじゃないだろ。素直に諜報部に何を頼まれたのか話せ」
「シンデンは相変わらず、せっかちね。…ふぅ、分かったわ。私が頼まれたのはシンデンの監視よ。穏健派が主導権を握ったキャリフォルニア星域軍としては、シンデンを星域軍に呼び戻したいけど、私が『無理』って答えておいたわ。それで次に出た命令が、『監視』よ。まあ、アマモさんを人質に取るとか、厄介な事を言い出す連中もいたんだけど…ちょっと、そんな強く殺気を出すのは止めて。シオンも魔法を放つのは止めてね。私は全力でそれは阻止したからね。だから諜報部に移動になったのよ!」
シンデンは、アマモさんを人質に取られる状況も考えていた。その場合は、まあ帆船の全力がキャリフォルニア星域に向くことになるだろう。軍拡派の上層部にはそう伝わっていたはずだが、穏健派の上層部には、まだ馬鹿が残っていたようだ。
シンデンに殺気を向けられ、シオンに魔法を放たれる直前だったフランシスは、とっさに九字を切って理力フィールドを張っていた。
「それで、監視とは俺の何を監視するつもりだ?」
「まあ、ぶっちゃけると、軍拡派のレリックシップを破壊したこの船とシンデンの行動の監視よ。それに、カント恒星系とサン星系でも、シンデンは派手な活躍していたじゃない。あんなことして、他の星域の諜報部が興味を持ったらどうするの?見る人が見れば、この船が超危険なレリックシップだって分かるわよ。今回はキャリフォルニア星域軍の諜報部が後始末をしたのよ」
フランシスは二つの緊急依頼で、俺達がやった事を知っているようだった。そして後始末までしたという。そこは分かるのだが…
「いや、レリックシップは危険物だろう。今更では無いか?」
「危険度合いが違うわ。軍拡派のレリックシップの撃破も問題だけど、たった二隻で数千万の戦闘ドローンと巨大戦艦を破壊して、その次は母艦級の宇宙生物を○○消し去ったでしょ。そんな兵器を持っているレリックシップって、この銀河にどれだけいると思っているの?実際、係わっている人達ですら信じられない事だから、誰かに話しても嘘つき呼ばわりされるだけだからね。だからそこまで広まっていないんだけど、うちの諜報部は知っているからね!」
>『どうやら、キャリフォルニア星域軍の諜報部は、俺達がしてきたことを正確に把握しているようだな。シンデンの記憶でもかなり警戒すべき部署…いや人がいるのか』
>『情報が漏れる前に、諜報部を消すべきでは。今ならブラックホール砲で首都星ごと消せます』
>『いや、それはやっちゃ駄目だろ。しかし、俺達のやって来た事はやっぱり噂になるか。ヤマト級の仲間のレリックシップに知られたくは無いからな。後始末をしてくれた、キャリフォルニア星域軍の諜報部には感謝するしか無いか』
>『まあ、情報が漏れなかったことは感謝しますが、だからといって下手に出ては駄目ですよ』
>『ああ。まあこの船の情報はある程度広まっているのは仕方ないだろう。それよりシオンの情報が、諜報部に漏れてないかを聞かないとな』
「俺がやった事を諜報部が知っているとして、シオンについては何か聞いているか?」
「さあ。『軍拡派のレリックシップから、貴方が助けた魔法使いの田舎者』という話しか聞いてないわよ。『可能ならスカウトして来い』と言われたけど…そんな気は無いでしょ?」
フランシスに「スカウトされる?」って聞かれたシオンは、腕を罰点にして当然首を横に振る。
「シオンについては、本当にそれだけだよな。彼女は普通に被害者だからな。俺の事に巻き込むなよ」
「もちろんよ。シンデンとチームを組んだ、ラッキーな魔法使い程度の扱いよ」
シンデンはフランシスを見定めるが、彼女が嘘をついている様子は無かった。フランシスはその性格から、嘘をつくのが下手だ。だから彼女が話したことは、恐らく本当だろう。後はキャリフォルニア星域軍の諜報部が何を考えているかだ。
>『シンデンの記憶じゃ、諜報部の長官はかなり厄介な人らしいな』
>『キャリフォルニア星域の利益になるなら、何でもする人です。軍拡派、穏健派どちらにも組みしてなかったのは、ヤマト級がキャリフォルニア星域に取って、利益になるかどうか見極めようとしていたと推測します』
>『ヤマト級がいなくなれば、軍拡派は邪魔か。シンデンを誘うのは、長官はこの船を手に入れたいと思っているからか?』
>『そのつもりなら、フランシスを送ってこないと判断します。本船を入手したいなら、マスターの暗殺を考えるでしょう。しかし、それに失敗すれば、どうなるかも分かっているはずです。少なくともマスターは、そう容易く暗殺される人ではありません』
>『いや、本当は死んでるけどね。それで、フランシスを送ってきたって事は、何かのメッセージだろうな。俺には分からないけどさ』
俺は頭を捻るが、巨大な星域国であるキャリフォルニア星域軍、その諜報部の長官の考えなど、大学生に理解できるわけも無い。シンデンの記憶からも、「何を考えているか分からない奴」というイメージしか出てこないのだ。何せ、十年前の事件で、シンデンとキャサリンの扱いを決めたのは、軍上層部ではなく、諜報部の長官だとシンデンは知っている。
「そうか、シオンは『ラッキーな魔法使い』か。まあそれが正しい情報だ。長官にはそう伝えてくれ」
「いや、そんな事伝える必要は無いよ。それより私としては、シンデンを監視するために傭兵としてチームに加えて欲しいんですけど」
「何言ってるんですか。スパイ活動する人を、どうしてチームに入れるんですか。シンデン、そんな事しませんよね」
フランシスのドが付くほどのストレートな要求に、シオンが慌てる。
>『フランシスを送り返したら、別な人がやって来るよな』
>『そうですね。シンデンの知り合いは、キャリフォルニア星域軍には大勢いますから』
シンデンの記憶から、彼の知り合いで諜報部に回りそうな人物を洗い出す。
>『駄目だ、これは詰んでる。恐らく長官もそれでフランシスをシンデンの所に送り込んだんだ』
シンデンの知り合いで、彼の元に来るような連中では、フランシスが一番真面な人だった。まあシンデンをストーカーする程だが、それでも他の奴よりましである。
「シオン、フランシス…いや今はレマだな。こいつをチームに加えるぞ」
「えーっ、どうしてこんな女性をチームに入れるのよ。スパイでしょ」
「こいつを送り返すと、いきなり決闘を挑んできたり、背後から撃たれたり、所構わず色気仕掛けをする様な奴らが来る。それに比べればフラ…レマは普通の理力使いなだけ、マシだ」
「…シンデン、どうして冷や汗をかいているの?」
「キャリフォルニア星域軍の諜報部の長官は、そういう奴だからだ。もう俺が彼女を受け入れるしか無い、それしか選択肢が残っていないと言ってきているんだ」
「マシとは酷いですよ。確かに私が拒否された場合の話は聞いています。シンデンが予想している人が送られて来ますよ~」
「シオン、ここはレマを受け入れるしかないのだ。諦めてくれ。まあ、その代わり俺達が何かをやらかしたときは、キャリフォルニア星域軍の諜報部が何とかするだろう。それぐらいは期待させて貰うぞ」
「ぐぐっ、シンデンがそう言うなら分かったわ」
シオンはフランシスを睨みながらも、シンデンの判断を受け入れた。
「ええ、期待して下さい。良かった。これで私も傭兵としてシンデンと仕事ができますね」
フランシス大尉改め、傭兵のレマはにっこりと微笑んだ。
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