超光速空間での逃避行
短めです
帆船は星域軍の追跡を逃れて何とか超光速空間に入ることができた。
超光速空間に入った事で、傭兵ギルドに通信で事件のあらましについて連絡を取ろうと思ったのだが、超光速空間からは通常の通信は送る事ができないと電子頭脳に言われてしまった。
通信が不可能となれば、直接傭兵ギルドのある星系に出向くしかない。そして向かう傭兵ギルドのある星系だが。
『キャリフォルニア星域の傭兵ギルドに向かうのは悪手だな』
『ピッ、肯定。星域軍が手を回している可能性大』
と俺と同じように電子頭脳は判断していた。
『となれば、他の星域まで足を伸ばす必要があるわけだが、どの星域が良いか教えてくれ』
『ピッ、キャリフォルニア星域と隣接するハーウィ星域を推奨』
『隣接する星域はやはり仲が悪いからか』
『ピッ、肯定』
地球の歴史をひもとけば分かるが、隣接する国家の仲が良いことは少ない。一見仲が良いように見えたとしても、その裏ではいがみ合ってたりする。いがみ合う中であれば、今回のキャリフォルニア星域での件を持ち込んでも闇に葬られずに正しく取り扱ってくれる可能性が高い。
『ハーウィ星域の軍事力は、キャリフォルニア星域に比べてどの程度だ』
『ピッ、現在のデータから推定すると、ハーウィ星域の軍事力はキャリフォルニア星域の半分以下』
『半分じゃ、下手すりゃハーウィ星域が潰されるだけじゃないか?』
『ピッ、ハーウィ星域を含むキャリフォルニア星域と隣接する各星域は同盟関係。キャリフォルニア星域はその同盟に取って仮想敵』
『なるほど、大国であるキャリフォルニア星域は周囲から嫌われているのか』
『ピッ、肯定』
宇宙図を見るとキャリフォルニア星域はそれ以下の中小星域と隣接していた。過去にキャリフォルニア星域は幾つかの中小星域を武力で併合した事があった。その為周囲の中小星域は軍事同盟を結んでキャリフォルニア星域に対抗していると言う状況であった。
『じゃあ、進路はハーウィ星域の傭兵ギルドだな。チャートから航路を設定して…。かなり難所が多いな』
『ピッ、難所が多いため、ハーウィ星域は安全』
超光速空間での難所とは、ブラックホールや中性子星などの重力源による大渦や浅瀬の事である。障害物が多い場合、超光速空間上では航路が設定難しい。難所を迂回する航路を取るか、超光速空間から離脱して通常空間で重力源を回避してから再度超光速空間に入ると言った方法を取る必要が出てくる。今回目的とするハーウィ星域はキャリフォルニア星域側に難所が多数存在し、普通のチャートしか持たない船であれば、大きく迂回する航路を取る必要があった。
『この帆船のチャートなら迂回航路を取る必要はないと言うことか』
『ピッ、肯定』
『シンデンも傭兵なんか止めて運送業でもやれば良かったのに…』
『ピッ、マスターはスリルの無い生活を否定』
『そういう人か。よし航路を決定した。航海の開始だ』
航路を決めて、超光速空間の海原を進み始めたのだが。
『ピッ、後方に艦艇の出現を確認。その数三隻』
『やっぱり追ってきたのか』
超光速空間は超光速航法を行う船が進入する共通な空間である。同時に超光速航法に入れば、間近で超光速空間に出現する事になる。今回の場合は超光速航法の軌道に時間差があるため、この空間では数十メートルという至近距離に追ってきた戦艦は出現した。
『このままじゃ同じ場所で超光速空間から離脱されるか。そうなったらそこで戦闘になるのか』
『ピッ、否定。ハーウィ星域でのキャリフォルニア星域軍の戦闘行為は重大な国際問題』
『それじゃ、このまま追跡を放置して進めば終わりか』
『ピッ、否定。超光速空間の移動速度は追跡中の三隻の方が上。このままでは接舷の可能性大』
『はあ?超光速空間で接舷って、そんな事が起きるのか』
『ピッ、可能。接舷して移乗攻撃される』
超光速空間を進む宇宙船の速度は、超光速航法回路を駆動する力で上下する。つまり駆動する精神力によって速度が決まると言って良い。シンデン、いや生身の体であれば、帆船は追跡する戦艦以上の速度を出せるのだが、バックアップ霊子である俺の力では生身の体ほどの速度が出せない。その為戦艦に追いつかれてしまうという現象が起きてしまう。船の接触は重大な事故であるため、それを避けるように速度を調整したり航路を修正するのだが、追跡してきた戦艦はそのつもりは無い。逆に接舷して船が接触してしまえば、超光速空間とはいえ相手の船に乗り込むことも可能なのだ。
『接舷されるまでの時間は?』
『ピッ、三分後に接触予定。よってバックアップ霊子に、本船のメインマストに帆を張る事を推奨する』
『へっ、メインマストに帆を張るって。それって戦闘状態に入れということか?』
『ピッ、否定。戦闘状態にて張られる帆ははったりであり、特に意味の無い物。本来メインマストは超光速空間で使用される帆が張られる為に存在』
『はぁ?…まあ、今電子頭脳から概念が伝わってきたから理解したが、作業ドローンに指示させて帆を張れば良いのか?』
『ピッ、肯定』
『必要なら、電子頭脳が勝手にやってくれれば良いのに』
『ピッ、否定。本電子頭脳は、本船の機能維持をする以外の行動については、マスター若しくはその代行者の許可が必要。前マスターからの様々な指示は有効状態だが、帆を張る行動は許可されていない』
『つまり、接舷されても対応はできるって事か。だが接舷されてしまえば最悪人が乗り込んできて、人が死ぬ。それは俺の言った人を殺さないって事に反するからか。…了解だ、メインマストに帆を張ってくれ』
『ピッ、了解』
帆船の電子頭脳は賢く何でも実行してくれると思っていたが、色々と制約があるようだった。とにかく帆を張れば問題が解決するなら、実行しない手は無い。作業ドローンが船乗りよろしくロープを張って帆を張っていく。
『まさか超光速空間でセーリングができるとは思ってもみなかったぜ』
メインマストに帆が張られると、帆は超光速空間の風を捕えると、帆船の航行速度がみるみると上がって、追跡する戦艦との距離を広げていった。
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