ダンジョンのルール
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
イーリア星域のロンマ恒星系、その第三惑星のステーションに帆船と雪風は到着した。傭兵ギルドに移動報告を行い、遺跡調査の依頼を探す。まあ、初心者向けの遺跡なので、手頃な依頼はない。何せ傭兵じゃ無くても駆け出しの冒険者向けなのだ。
「手頃な依頼が無いな。仕方ない、常設依頼で我慢するか」
「シンデン、常設依頼って?」
「個別の依頼じゃなく、素材を持ってくれば買い取ってくれる場所があるんだ。まあ、個別の依頼より安いが、一定の金額で買い取ってもらえる。そこを常設依頼というのさ」
この初心者向けダンジョン、名前は「ロンマ市民の狩り場」というが、そこに出現する生体ドローンは、異星人が狩りの対象としていた生物である。異星人と人間とは味覚に大きな相違が無かった為、生体ドローンは人間も食べて安全だと証明されている。まあ、この遺跡でしか出ない物であるため、モノによっては、希少価値も含めて高額で取り引きされている。
初心者向けなので、中の生体ドローンが刈り尽くされそうな物だが、生体ドローンは、常に一定数が湧き出すらしい。エネルギー源はダンジョンの最下層にあるらしいが、実はまだ発見されていない。最下層の十階層の下にあると思われるが、そこに至る道は発見されていない。
「ふーん。ゲームと同じような価格で買い取ってくれるのね。じゃあ、地下五階まで回って、後は九階と十階を回れば良いのかしら」
「その辺はVRゲームと一緒だったはずだ」
『はい、VRゲームと同じです』
俺達は個人戦闘技術を磨きつつ金を稼ぎたいので、その様なフィールドでの戦いはやりたくない。狙いは九階や十階の生体ドローンとの戦闘である。そしてダンジョンは地下十階と言っても、各階層はかなり広く、草原のように広大な空間や森や湖まで在る階層もある。地道に階層を下っていくと時間がかかるのだ。
そこで、一旦地下五階まで進んで、キーアイテム(謎金属の青いドロップ品)を拾えば、地下一階の中央にあるエレベータが使える。エレベータを使えば好きな階層に行けるのだが、パーティ全員がそのキーアイテムを持っている必要がある。キーアイテムは個人認証も兼ねているらしく、他人が拾った物は使えない。シンデンは既に持っているので、シオンの分をもらいに行く必要がある。
「まあ、VRゲームで訓練した通りにやれば問題無いはずだ。ただし油断はするな」
「分かってるわよ」
シンデンとシオン、そして響音は軌道エレベータで地上に降りると、ダンジョンに向かう。響音が付いてくる事でシオンが文句を言ったが、素材を運びながら戦うのは面倒だ。はぎ取りを響音に任せると説明したら、あっさり了承した。まあ、はぎ取りは俺も嫌だから、その気持ちは分かる。
地上に降りると、VRゲームと同じ石造りの街が見えてきた。VRゲームではNPCがいたが、現実の街ではあまり人がいない。まあ産業がダンジョンからの素材だけなので、そうなのだろう。駆け出しの冒険者風のパーティやBランクに成り立ての傭兵が見受けられる。
冒険者と傭兵の区別だが、冒険者は六人ぐらいのパーティを組んで、その装備も対人戦闘では無く、鎧を着て剣や槍、弓と言った古風な装備が多い。逆に傭兵は、タクティカルスーツを着込んで、銃などの対人戦闘向けの装備を持っている連中が多い。一見冒険者達の装備が貧弱に見えるが、鎧には魔法がかかっている物も有り、下手なタクティカルスーツより頑丈で、銃弾やレーザーを防ぐ物もある。同じく剣や弓も、気功術や魔法、理力を増幅してくれる物があるので、銃より便利な場合もあるのだ。
まあ駆け出しの冒険者とかはそんな物を持っていないが、そこはパーティの力で何とかする。傭兵はおおむねソロか多くても三人程度である
「いよいよ遺跡に入るのね」
「ああ、気を引き締めていけよ」
『遺跡内は本船との通信は不可能です。お気を付けて下さい』
ゲームと同じように、ダンジョンの入り口を守る戦闘ドローンにIDタグをかざして、シンデンとシオン、響音はダンジョンに入っていった。
VRゲームで訓練を行った甲斐も有り、地下五階でキーアイテムを拾うまでは問題無く進んだ。
「明日からエレベータで九階に挑めるな」
「はい。マスターと一緒であれば問題無いと思います」
「シンデン、どうして人型ドローンに聞くのよ。私に聞いてよ」
「シオンの個人戦闘の先生は響音だからな」
「そうだけど、うーん、納得できないよ~」
シオンがむくれるが、シンデンも俺も剣術と剣道という気功術士に合った戦い方しかできない。それにシオンは女性だ。男のシンデンとは体の使い方が違う。その点、響音は人型ドローンだが、骨格や筋肉まで人間の女性を模倣して作られているので、シオンに体術を教えるのは最適であるのだ。
そんな話をする余裕がある程、俺達には余裕があった。出てくる生体ドローン(体長三メートルのオーガや飛行する巨大コウモリ、直立する豚の様なオーク)などを片付けながら進んでいる。
問題が発生したのは、三階まで戻ったところであった。オークの集団(六匹)に襲われている冒険者のグループを俺達は見つけてしまった。最初は無視しようと思ったのだが、冒険者のグループの装備があまりにもお粗末で、しかも年齢が若い。十五歳前後の冒険者のグループは、オークの集団に苦戦していた。
「(さて、困ったな。俺は助けるべきと思うが、シンデンの知識では無視なんだな~)」
ダンジョンで死ぬような連中は、事前の情報収集もできない馬鹿なので、助ける必要もない。それが冒険者とか傭兵の中でもルールである。まあ救助を頼まれれば、その場で報酬の交渉を行ってから助けるのが通常である。
「(しかし、あの冒険者は俺達に報酬なんて払えないだろうな)」
シンデンはAAAランクの傭兵である。初心者向けダンジョンで、それも木を尖らせた槍や棍棒だけで武装した冒険者が報酬を払えるわけは無い。こちらをチラチラと見ているが、助けを求めないのはそれが理由だろう。
未来になっても、貧困層は存在する。このダンジョンが在るロンマにもにもそんな人達がいて、ダンジョンに入っているのだ。入場料に関しては、貧困層の冒険者に対して免除等の救済措置が取られているが、装備や実力までは考慮されない。つまり今目の前にいる冒険者達のように、死亡する人は少なからず存在する。
「シンデン、助けないの」
「宇宙空間であれば、助けるのだが。この様なダンジョンだと、相手が助けを求めるまで手を出さないのが、傭兵や冒険者のルールだ。彼等もそういったことを理解して、ダンジョンに入っている」
「でも、このままじゃ殺されちゃうよ」
「う、うむ。このまま戦えばそうなるだろうな」
「私は、傭兵のルールとか分からないよ。見捨てずに助けたいよ」
「(シオンに傭兵や冒険者の厳しい世界を見せるか、それとも偽善ではあるが助けるか)」
俺は迷ったが、十二歳のシオンに、世間の厳しさの中でも「一番嫌な部分を見せたくない」という気持ちに負けてしまった。いやそれを理由に俺は自分が彼等を助ける理由を探していたのだ。
「俺達は、今から通路を通るのに邪魔な連中を排除する。それだけだ」
「う、うん?」
シンデンは刀に気を込めると、気の斬撃を放った。冒険者を襲っていたオークの集団うち、三匹が吹き飛ばされ壁に激突する。残りの三匹も返す刀の斬撃で同様に壁に吹き飛ばされた。オーク達は死んではいないが、動けなくなる程度にはダメージを負った。後はあの装備の冒険者達でも倒すことは可能だろう。
「誰も助けてくれとは言ってないぞ!」
冒険者グループのリーダーらしき少年が、シンデンにそう怒鳴ってくる。
「俺は邪魔な連中を排除しただけだ!」
「クソッ。裕福な傭兵。俺達を哀れむのか」
「何を言っている。哀れむだと。お前達は、そんな事を言っている余裕があるのか?そんな暇があるなら、さっさと得物を仕留めろ。それがお前達が選択した生き方だろ」
「分かった。だが助けて貰うつもりは無い」
そう言って、リーダーはオークにとどめを刺す仲間の元に向かって行った。
「ふん、そんな物は期待していない」
オーク達にとどめを刺す冒険者達を残して、シンデンとシオンは三階を後にした。
「アマモやシンデンもいたし施設で育てられた私は、恵まれてたんだよね」
シオンは自分が恵まれていたと言うが、あの施設で育てられた孤児は皆星域軍に入隊を強制される。それに対して先ほどの冒険者のグループは、貧困層でも他の仕事を選ぶことはできるのだ、ダンジョンに潜ることを選んだのは、彼等の自由意思である。その点は明確な違いがあるのだが、今のシオンにそれを伝えても、シンデンの気持ちは伝わらないだろう。
「シオンは優しすぎる。傭兵はもっとシビアにならなければならない」
「シンデンだって、あの子達を助けたじゃ無い」
「まあ、助けられる命は助ける。しかしもし、彼奴らがオークを俺達に擦り付けて逃げていたら、俺はオーク共々冒険者を斬っただろう。傭兵とか冒険者はそんな世界で生きてるのだ」
「うぁー。オークを他人に擦り付けて逃げるとか、そんな事考えても無かったよ。分かったよ、今度から気を付けるよ」
シオンは素直にシンデンの話を聞いて納得してくれた。しかし、話している俺自信がそんな覚悟は持っていない。凄腕の傭兵であったシンデンを、平和な日本に住んでいた大学生が演じるのは難しい。
★☆★☆
貧困層冒険者とのやり取りはあったが、とにかく一日目で地下五階まで順調に攻略は進められた。響音も、はぎ取りと物資の運搬に活躍してくれた。おかげで、かなりの額(五百万クレジット)を稼げた。あの冒険者もオークを六匹も売れば、真面な装備を買えるだろう。
そろそろシンデンに書き込まれた霊子の限界も近いため、軌道エレベータでステーションに戻ると、さっさと帆船に乗り込もうとしたところで、シンデンは肩を掴まれた。
「見つけたわよ」
「フ、フランシス。どうしてここに」
肩を掴まれたシンデンは驚く。
>『電子頭脳さん、フランシスの接近にどうして気づかなかったんだよ』
>『今到着した中型の宇宙船に乗っていたのです。船長の名前は確認していたのですが、偽名でした』
>『それって、犯罪じゃないの』
>『もちろん偽名ですが、キャリフォルニア星域が正式に発行したIDなのです。つまりフランシスは、現在レマ・ラノールという傭兵という事になっています』
>『つまり、フランシスがここに来ている事に、キャリフォルニア星域軍が関係しているって事だよね』
>『恐らくそうでしょう。恐らくキャリフォルニア星域軍の諜報部が絡んでいるでしょう』
「今はフランシス大尉じゃ無くて、傭兵のレマ・ラノールよ。シンデンなら、その意味ぐらい分かるでしょ」
フランシス改めレマは、軍服では無く傭兵が着るようなタクティカルスーツを着込んでいた。
「理力使いのお前が、どうやって諜報「ストーップ」…」
フランシスは、俺の口を慌てて押さえる。俺もそこで迂闊な会話をした事に気づいて口をつぐんだ。
「とにかく、詳しい話は俺の船で聞かせて貰おう。シオン、俺は船首像に少し用がある、この人を客室に案内してくれ」
シンデンはそろそろ限界が近い。一旦帆船に戻らないと不味いのだ。ここで時間を取られるわけにはいかない。
「分かったわ」
シオンは不満そうな顔だが、シンデンの指示に従ってくれた。
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