ダンジョンへ
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
母艦級宇宙怪獣を退治した後、卵が何処にも残されていない事を確認し、宇宙怪獣の退治は完了したと確認された。ザップ提督は持病の高血圧で倒れたが、医療ポッドで静養中で、今のところ問題は無いという話だった。
『宇宙生物退治、ありがとうございます。ザップ提督の方は我々で何とかしますので、あまりお気になさらないで下さい』
「了解した。ザップ提督には「お体の方御自愛下さい」と伝えて欲しい」
「御免なさい」
シオンの一言で血圧が上がって倒れるとは、彼女も思っていなかった。しかしザップ提督が倒れてくれたおかげで、サン星域軍の被害も最小限(戦闘ドローンは全滅したが)で抑える事ができた。まあ、結果だけ見れば「良し!」だろう。
宇宙怪獣の死骸は中型の物を回収してある。電子頭脳が魔法を防御したあの殻を解析する予定だ。残りの小型宇宙怪獣の死骸は、サン星域軍に提供することになっている。今までに例の無い進化をした宇宙生物の死骸であるので、宇宙生物を研究している学者や研究所に売れば、それなりの金になるだろう。それにサン星域は人類発祥の地である為、他の星域からも復興援助も在るだろう。戦闘ドローンとAI戦艦はその金で購入して貰うしか無い。
『ところで、あの母艦級宇宙生物を倒した兵器は、一体何だったのでしょうか』
「まあ、俺の船の秘密兵器だ。この船はレリックシップだからな、それぐらい持っている」
『なるほど、レリックシップの秘密兵器ですか。凄い物ですね。それはどのような兵器でしょうか』
「申し訳ないが、本船のとっておきの秘密兵器なのだ。詳細は話せない」
『なるほど。傭兵に取ってその様な兵器は必要でしょうね。了解しました』
ザップ提督の副官が、母艦級を倒した秘密兵器(ブラックホール)について、詳細を聞きたかったようだが、それはお断りする。いや、縮退炉(ブラックホール)を持っているとはおおっぴらに言うことはできない。そんな物を持っていると分かれば、ステーションどころか恒星系への侵入を拒否される可能性があるのだ。
戦闘の映像を、見ればブラックホールと気づかれるかもしれないが、俺達が提出する戦闘データは改竄してある。ザップ提督が倒れた後は、有人戦艦は戦闘データを取る余裕も無かった様だ。AI戦艦は指揮コードを正式に貰ったので、其方も改竄済みである。
『取りあえず、宇宙生物の退治は完了と言うことで、緊急依頼は完了と傭兵ギルドには報告しました。我々は戦場の後始末がありますので、シンデンさんはお先にステーションに戻って下さい』
「了解した」
「ザップ提督には『お爺ちゃん呼ばわりして御免なさい』と伝えて下さい」
『いや、我々は十分お爺ちゃんですので。お嬢さんもお気になさらないでね』
副官は苦笑して、ステーションに戻る俺達を見送ると、宇宙怪獣と戦闘ドローンの回収作業に戻った。
★☆★☆
ステーションに戻ると、傭兵ギルドで緊急依頼の完了受付を行う。まあ、緊急依頼なので報酬は雀の涙なところが悲しいが、色々得るものはあった。
「流石AAAクラスの傭兵さんだ。母艦級宇宙生物も二人で倒したんだってね~」
「母艦級と言っても、所詮宇宙生物だ。大したことは無かった。それより俺達は直ぐにサン星域を出ていくつもりだ。緊急依頼の完了手続きを進めてくれ」
ギルドマスターは、俺達に宇宙怪獣退治の話を聞きたいようだが、俺は話すつもりは無い。まあやりたかったことは終わらせた。後はフランシスが戻ってくる前にサン星域から逃げ出すのだ。
「若い人はせっかちね~。はい、これで緊急依頼は完了と」
そう言いながらも、ギルドマスターは完了手続きを終わらせる。
「確認した。では失礼する」
「また来て下さいね~」
「ああ、機会があれば寄らせて貰う」
今回の地球観光で食べきれなかった物が多くあるのだ、俺は必ずそれを食べ尽くすと誓って傭兵ギルドを後にした。
ここで俺が自分のいた時代に付いてもっと詳しく調べていれば、良かったのだ。しかし、宇宙怪獣と日本食、そしてフランシスから逃げる事で頭がいっぱいだった俺は、その事を忘れていた。
★☆★☆
「さて、次は何処に向かうかだな」
『もう緊急依頼はこりごりです』
「うーん、魔法が思いっきり使えるのは楽しかったけど、お金がもらえないのは駄目ね」
会計処理プログラムとシオンは、緊急依頼を受けたくない様だった。いや二連続で緊急依頼を受ける俺達がおかしいのだが、俺もそう感じていた。
「たまには違う事をやるか…。そうだな、シオンの個人戦闘技術の向上を考えるか」
「えーっ、それってあの人型ドローンと訓練するの?」
「いや、それよりももっと実践的な奴だ。シン…俺もやった事がある。まあ、危険はあるが、金にもなる」
「実践的って、誰かの護衛依頼でもするの?」
「いや、ダンジョンの探索だ」
「ダンジョン?」
シオンはダンジョンと聞いてもピンと来ないようだ。この時代、娯楽としてのRPGゲームのような物はあるが、施設ではVRゲームは禁止だった。だからシオンはダンジョンとは何か知らないのだ。
「まあ、遺跡を探索して、危険生物を排除する。そしてお宝を見つけるという仕事だ。今回の緊急依頼でシオンのランクもBになったからな。遺跡調査依頼も受けられる。個人戦闘技術を実戦で磨くのには最適だな」
『シオンの訓練であれば、こちらの遺跡が最適と思います』
「イーリア星域の遺跡か。初心者向けというが、それで良いのか?大したお宝は無いと聞くが」
『いきなり危険な遺跡に言っても危険です。まずは手慣らしです』
「そうだな、シオンがいるなら、そこが妥当か」
「シンデン、遺跡とかダンジョンとか、私には理解できないのだけど、そんな所に行って大丈夫なの?」
『あの遺跡をモデルにしたVRゲームが存在します。シオンには、イーリア星域までそれで訓練をして貰いましょう』
「ああ、俺もそれをやりたいな。パーティの連携とか先にやっておいた方が良いだろう」
『了解しました』
「VRゲームって、施設じゃ駄目って言われてたんだけど。私がやっても大丈夫なの?」
『大丈夫です。専用の部屋を使えば問題ありません』
実は魔法使いや気功術士がVRゲームをやると、現実世界で魔法が発動してしまう可能性がある。その為施設では禁止にされているが、帆船の内部であれば、魔法や気功術が発動しても問題の無い環境を準備してくれるようだ。
「準備ができたら、言ってくれ。フランシスに見つからない様に、通常空間で時間をかけて練習しよう」
「シンデンと二人で練習できるの…。私頑張る」
シオンはシンデンと二人で練習できる事が嬉しいようだった。まあ二人とは言っていないが、そこは黙っていよう。
★☆★☆
ステーションを出ると、イーリア星域に向けて出発する。イーリア星域への航路の途中、誰もいないような空間で帆船と雪風は超光速航法を停止した。周りには何も無い宇宙空間。電子頭脳が準備してくれたVRシステムは医療ポッドの様な形をした繭のようなシステムだった。シンデンとシオンが入る。本当はシンデンはVRシステムに入る意味が無いが、シオンとシンデンが別な場所で訓練するのもおかしいので、仕方がない。
『では、ゲームを開始します』
「ああ始めてくれ」
「ドキドキしてきた」
VRゲームなので、本来はキャラクターメイキングから始まるのだが、そこは実際の能力を反映させる形で電子頭脳がキャラクターを作成してくれる。容姿も当然同じだ。装備に関しても、シンデンは何時もの刀を持った皮の鎧を着た戦士で、シオンは魔法使いらしいローブを羽織って魔石のはまった杖を持っていた。
『パーティを組むにはギルドで待ち合わせる必要があるのですが、そこは省きますね』
『お約束イベントはスキップなのかな』
『バックアップ霊子の言うお約束イベントとは不明ですが、パーティは既に組んでいるので不要でしょう。直ぐに遺跡に向かって下さい』
「シンデン、この杖って必要なの?」
「ああ、魔法使いは個人戦闘時は魔石を持って魔法を使うからな。シオンも、人前で魔法を使うなら魔石を使った装備を持つ必要がある。しかし杖だと面倒だな、指輪とか腕輪にできないか?」
『ゲーム上は、レベルが上がれば購入できるのですが、面倒ですね。では現実的な装備に変更します』
電子頭脳が操作して、シンデンとシオンの装備を変更する。服装が何時ものタクティカルスーツに変更され、シンデンの装備も刀以外に大型の拳銃やハンド・グレネードが追加される。シオンは魔法のステッキではなく、右手には魔石のはまった銃を持ち、左腕には魔石のはまった腕輪がはまっていた。これは帆船が持っている装備をゲームに反映させた物だろう。
『これで準備は完了です』
「分かった、ではダンジョンに入ろう」
「この銃の使い方は…ああ、HELPがあるのね」
古めかしい石造りの建物が並ぶ街の中心に、初心者向けダンジョンに向かって二人は歩き出した。
ダンジョンへの入り口には軍用のドローンが立っており、そこでIDタグを見せることでダンジョンへのゲートが開く。入場料は一人十万クレジット。実際の初心者向けダンジョンも、同じように入場料が取られる。入場料はダンジョンを管理する為の資金ともなっているのだ。
「さて、地下一階へ行くぞ」
「分かったわ」
遺跡は町並みに合わせて、巨大な四角の石で作られた通路であった。これで3Dワイヤーフレームなら、某有名古典RPGだが、足からリアルな石の感触が伝わってくる。
「さて、最初の敵は…彼奴か。定番過ぎるな」
「あれ、なに?子供かな?どうして遺跡に子供がいるの?」
「いや、あれは子供じゃ無い。まあ遺伝子改良で作り出された、生体ドローンだな」
木の棍棒を持っている化け物は、いわゆるダンジョンでお約束のモンスター、ゴブリンである。なぜ宇宙に人類が進出している時代に、ダンジョンにゴブリンがいるかだが、それは異星人の作ったテーマパークだからである。
このダンジョンを作った異星人は、肉食の生命体が進化した種族であり、得物を狩るという本能消せなかった厄介な種族だったらしい。しかし種族全体で狩りを行えば、当然得物が尽きてしまう。そこで、このようなダンジョンを作り、狩りの欲求を満足させていたらしい。
ダンジョンは単純な通路の連続で有り、その途中で出てくるのは狩りの対象となる生体ドローンだ。それを倒しながら通路を進み、下層に向かうだけのダンジョンである。ゲームのダンジョンと同じく、下の階に行けば行くほど敵は強くなる。個人戦闘の技術を磨くには最適な場所だ。そしてダンジョンで倒した化け物の素材は、高額で売れる。まあゴブリンと呼ばれるような連中の素材は二束三文だが、最下層に行けば美味しい素材を落とす生体ドローンがいるのだ。
「え、子供じゃ無くて生体ドローンなの?でも人みたいだし」
「まあ、人に見えなくは無いが、顔をよく見ろ。あれが人間か?人型ドローンだと思って戦え」
このダンジョンが発見された時、ゴブリンを含め知能がありそうな生体ドローン達を知的生命体と認めるか議論があった。しかし彼等は知能は在って、会話が成り立ったとしても、戦うことしか知らない作られた生命体であった。その為、人類は、ダンジョンの生物は知的生命体として認めないことに決めたのだ。
「うーん、人間とは違うね。肌も緑色だし。分かった。ファイア・アロー!」
一階に出てくるような敵は、子供でも倒せるレベルだ。シオンのファイア・アローを受ければ、一撃で即死する。
「威力が大きすぎるな。ゴブリンが、真っ黒焦げじゃ無いか。これじゃ素材が取れないぞ。敵に応じて最適な威力を心がけてくれ」
本来はゲームなので、倒すとゴブリンは消えてアイテムをドロップするが、そこは電子頭脳がリアルに近い形に修正してくれた。個人戦闘能力を試すだけなら良いが、ダンジョンのメインは、素材の回収だ。入場料が一人十万クレジットなのだ、素材を回収しないと当然赤字になる。
「うう、分かったわ」
そうやって、シンデンとシオンはダンジョンを進む。このままVRゲームで訓練してしまえば、シオンの個人戦闘技術も上がると思われるだろうが、それは間違いだ。初戦はゲーム。本当のダンジョンとは異なる。この辺は実際に戦って見ないと分からない感覚だ。現実と寸分違わぬVRゲームで訓練した兵士より、実戦で鍛えた兵士の方が強いという結論は出ている。
数日かけて、シンデンとシオンはダンジョンを攻略した。まあ十階までしか存在しない、簡単なダンジョンだ。気功術士と魔法使いの二人でクリアは可能である。俺もシオンも互いの戦い方や連携方法を覚えた。
「どうだ、ダンジョンでの戦いに慣れたか」
「うん、戦うのは慣れたけど、素材を剥ぐのはちょっとまだ無理かな…」
「まあ、これでも随分とリアル度は下げてあるんだがな。確かに厳しいな」
得物を倒して素材を剥ぐという処理は、やはりシオンでは無理なようだ。そりゃ十二歳の子供に生き物を切り刻めというのが酷だった。その辺は俺も苦手であるが、シオンに気取られないように頑張った。
>『はぎ取りは、人型ドローンを連れて行くか』
>『その方が素材が綺麗にはぎ取れます。ですが、遺跡内は通信が遮断されますので、いざという時を考えると、普通の人型ドローンでは無く、掃除ドローンを連れて行くことを推奨します』
>『響音を連れて行くとなると、シオンが嫌がりそうだ。まあ、素材のはぎ取りと物資の運搬役と言えば、納得するかな』
>『そこはバックアップ霊子にお任せします。マスターに書き込まれた霊子が、発狂する前には戻って下さい』
>『分かっている。もう一日ぐらいは持つようになった。初心者ダンジョンなら余裕でクリアできるだろう』
こうしてVRゲームで訓練を行った俺とシオンは、改めてイーリア星域のダンジョンに向けて出発した。
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