宇宙怪獣との戦い
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
サン星域軍は海王星軌道を少し超えた宙域で、母艦級宇宙生物と戦いを開始した。
母艦級の宇宙生物は、五百年前のデータでは二十キロのクラゲのような形状だったが、今目の前にいる宇宙生物は、サザエの口からタコの足が出ているという違いがあった。色彩も虹色というか極彩色であり、宇宙生物と言うより宇宙怪獣と言いたくなる姿である。
星域軍のAI戦艦が近づくと、母艦級は子供である小型の宇宙生物を吐き出した。人間同士の戦いと同じく、最初は小物同士、戦闘ドローンと小型宇宙生物との戦いが始まった。双方レーザーを打ち合い、宇宙に数百、数千の爆発が発生する。
>『うーん、これは不味いな。どうやらあの宇宙生物、五百年前の奴より強いぞ』
五百年前のデータでは、小型宇宙生物はクラゲのような姿であった。しかし今回出現した宇宙生物は、イカのような姿である。クラゲからイカに進化したことで、速度もレーザー砲の火力もパワーアップしていた。
それに対するサン星域軍の戦闘ドローンは、AIは最新式の物に変わっているが、ハードウェアが古く、進化した宇宙生物に対応できていなかった。戦闘ドローンが劣勢のため、AI戦艦が主砲で小型宇宙生物を狙うが、エンジン出力が不足しているのか、ほとんど撃墜できていない。そして小型宇宙生物が近づくと、AI戦艦の対空レーザーでは撃破することが出来ず、船体に取りつかれてしまっている。このままでは船体が小型宇宙生物に食い尽くされてしまうだろう。
>『宇宙生物が、これほど急激に進化した事例は今までありません。異常事態です。このままでは、有人戦艦まで被害が出てしまう可能性大です』
>『つまり星域軍では対応不可能と言うことか。分かった、加勢するぞ』
電子頭脳が言うからには、宇宙生命体がここまで急激に進化することは、滅多にない事なのだろう。俺は、有人戦艦に被害が出る前に帆船を戦闘に参加させることにした。
『シオン、サン星域軍は劣勢だ。加勢するぞ』
『分かったわ』
『ザップ提督、今の星域軍ではあの宇宙生物、いや宇宙怪獣には勝てない。いまから本船も戦いに参加する』
『若造め、出しゃばるな。我が軍はまだ戦えるぞ!』
ザップ提督はやる気を見せているが、どう見てもこのままでは負け戦確定である。AI戦艦が落ちる前に介入しなければ、帆船だけでは対応が難しくなる。
『お爺ちゃん、無理は止めて』
『ぬう、こんなお嬢ちゃんにまで言われるとは…。グッ、持病の高血圧が…』
シオンの通信は逆効果であった。ザップ提督は顔を真っ赤にしてしまい、倒れてしまった。
『『『ザップ提督!』』』
ブリッジ要員が慌ててザップ提督に駆け寄る。ザップ提督の健康は心配だが、提督が倒れている今なら主導権を握れるだろう。
『仕方ない、ザップ提督が倒れたんだ、こちらは勝手にやらせて貰うぞ』
『分かりました。こちらは後方に下がりますので、後はお願いします。無理そうであれば、直ぐに撤退して下さい。最悪、小惑星帯に過去の戦闘衛星がありますので、そこで時間を稼げれば、他の星域から救援が来るでしょう』
ザップ提督の副官は戦況を正確に把握していたらしく、俺達の参戦を許可してくれた。今のサン星域に他の星域から救援が来るかは不明だが、まあ俺が倒してしまっても良いのだろう。
『ああ、無理をするつもりは無い。可能であれば、AI戦艦の指揮権を渡して欲しいのだが…』
『はい、指揮コードを送ります』
AI戦艦の指揮権など帆船がハッキングすれば奪えるが、正式に貰った方が後々問題にならない。AI戦艦を支配下に置いた帆船と雪風は、本格的に宇宙怪獣との戦いに突入した。
『要塞戦ほどでは無いが、小型宇宙怪獣の数が多い。対空散弾とシオンのチェーンライトニングの魔法で数を減らすぞ』
『チェーンライトニングの魔法だと、星域軍の戦闘ドローンも巻き込んじゃうよ?』
『どうせこのままでも戦闘ドローンは全滅するだろう。とにかく数を減らさないと、後退している有人戦艦に取りつかれてしまう』
『分かったわ』
雪風が帆船から分離すると、魔法格闘戦モードに変形する。帆船も戦闘モードに入り、主砲を出すと対空散弾を撃ち始める。AI戦艦にも被害が出るが、船体に取りついた小型宇宙怪獣は、対空散弾で蜂の巣にする。そして、AI戦艦の後退を待ってシオンが魔法を放つ。
『それじゃ行くよ。チェーンライトニング!』
シオンが魔法を放つと、戦闘ドローンを巻き込んで小型宇宙怪獣が次々と焼き上がっていく。宇宙空間で無ければ焼きイカの美味しそうな臭いが漂いそうな光景である。
チェーンライトニングの威力は凄まじく、五回ほどで小型宇宙怪獣の八割方焼き尽くされた。小型宇宙怪獣が減った所で、母艦級から全長百メートルほどの中型宇宙怪獣が、五十匹吐き出された。中型宇宙怪獣は、オーム貝の様な殻を持った姿をしていた。
『魔法が防がれた?』
シオンが驚くのも無理はない。宇宙怪獣が魔法を防いだという記録は電子頭脳も持っていなかった。中型の宇宙怪獣は、そしてチェーンライトニングの魔法を殻の部分で受けて防いでいた。この宇宙怪獣は進化の過程で、なんと魔法を防ぐ手段を身につけたのだ。
『中々厄介な奴だな。魔法を防ぐなら、ブラスターで焼き上げてやる』
帆船の主砲のブラスターが中型宇宙怪獣に命中するが、それも殻の部分をほんのりと暖める程度で効果がなかった。
『厄介な殻だな』
『攻撃するときだけ、足を出すみたい』
中型宇宙怪獣は、小型宇宙怪獣とは比べものにならない威力のレーザー攻撃と、墨のような黒い質量弾を放ってきた。レーザーは帆船の装甲を打ち破るほどの威力は無いが、黒い質量弾は装甲を溶かすほどの危険物質だった。
『黒い質量弾を大量に受けると不味いな。雪風は命中しないように気を付けろ。ブラスターが駄目なら、次は徹甲弾を撃ち込め』
中型宇宙怪獣に徹甲弾を撃ち込むが、それも殻に弾かれてしまう。
『本当に固いな。もしかして二百五十六発撃ち込まないと駄目な奴か?』
『シンデン、どうして二百五十六発なの?』
『いや、何となくだ』
元ネタのシューティングゲームでは、そんな都市伝説があったが、徹甲弾を二百五十六発も中型宇宙怪獣に撃ち込むのは、弾数的に無理である。
『残るは、光速の魔弾しかないな。雪風、黒い質量弾の迎撃を頼む』
『分かりました』
『だから、私に言ってよ』
帆船の副砲は背後の有人戦艦を護る為に、黒い質量弾を迎撃していたが、その役目を雪風に任せる。電子頭脳が、五十体の中型宇宙怪獣を次々とロックオンする。
『撃て!』
副砲から放たれた光速の魔弾が、次々と中型宇宙怪獣に命中する。光速の魔弾が弾かれた場合は、気を使っての格闘戦を行うしかないが、五十匹もの相手を倒すのはかなり面倒である。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ
帆船から放たれた光速の魔弾が、徹甲弾を弾いた殻を貫き、中型宇宙怪獣に風穴を開けていった。しかし、中型宇宙怪獣はしぶとく、光速の魔弾一発では死なない。数発撃ち込む事で、ようやく中型宇宙怪獣は活動を停止した。
帆船が中型宇宙怪獣を全部倒したところで、シオンが残りの小型宇宙怪獣をチェーンライトニングで掃討してしまった。
『残るは、母艦級だけだが。彼奴も殻を被っているな』
『そうですね。中型宇宙怪獣より強固な殻と推測されます。光速の魔弾でも打ち抜けるか不明です』
『試してみるか』
主砲のブラスターと光速の魔弾が、母艦級の宇宙怪獣に撃ち込まれる。結果として、殻の外に出ている手足は破壊できたが、ブラスターも光速の魔弾も殻を破壊することはできなかった。そしてちぎれた手足は、どのような原理か不明だが瞬く間に再生してしまった。
『再生持ちとか、面倒な奴だな。殻を割らない限り無限に再生しそうだ。いっそ、ラムアタックでぶち抜くか』
『あれだけの再生力を持った相手に、単なるラムアタックでは意味が無いと思われます。確実に急所を狙う必要があります』
『タコなら目の間なんだが、普通はあの殻の部分が重要な部分だろうな。光速の魔弾で貫けない殻を、俺の気で貫けるかだが…。彼奴とは接近戦はしたくないな』
多分やれるとは思うが、殻を割った後の帆船の姿を考えると、あまりやりたくない。
『シンデン、私が戦略級魔法で倒しちゃ駄目?』
『光速の魔弾で破壊不可能な装甲です。戦略級魔法で破壊できるかは不明です』
『サン星域軍がいるんだ、シオンが戦略級魔法を使えることを見せたくない』
複数の魔法使いが協力して実現可能な戦略級魔法を、シオンと雪風だけで実現できることを知られると不味い。何しろ雪風はレリックシップではなく、通常の海賊船だという扱いなのだ。今戦略級魔法を使えば、シオンが個人として戦略級魔法を使える事になってしまう。そうなれば、シオンは各星域軍から勧誘されるだろうし、危険人物として入国拒否されたり、最悪暗殺まで警戒する必要が出てくる。
シンデンはレリックシップを持ったときに、その手の策謀を全てはね除けてきた。だから凄腕の傭兵としてやって行けているのだ。俺と帆船であれば、シオンは守れるとは思うが、無理なリスクは負わない方が良い。
『じゃあ、どうしよう。地道に削っていくの』
今現在も、帆船と雪風で母艦級の宇宙怪獣には攻撃中である。中型、小型宇宙怪獣がいなくなった事で、母艦級は卵を射出してきている。雪風は卵を撃墜し、帆船は母艦級へブラスター攻撃を続けている。手足は未だ再生し続けている。
卵は、現状帆船と雪風をターゲットとして射出されているが、手足の再生ができなくなると、自棄になった母艦級が全周囲に卵を射出してしまうかもしれない。そうなると、二隻だけは卵を全て撃墜することは不可能だ。数百年後に、太陽系の何処かで宇宙怪獣が出現してしまうだろう。
『こういうこともあろうかと、新しい兵器を開発しておきました』
『ふむ。電子頭脳がそんな物を開発しているとは知らなかった』
シンデンはそう言うが、俺は電子頭脳がその兵器を作っている事を知っていた。何しろシンデンがいないと使えない兵器である。
『以前の戦いで、本船には雑魚を始末する為の兵器が少ないとマスターが文句を言われましたので、急遽開発しました。これを使えば、あの母艦級共々、卵も全て破壊可能です』
『そんな便利な兵器を作らないでよ、私の出番が減るじゃない』
シオンが悲しそうな事を言うが、彼女の魔法は威力の調節が可能だ。しかし、今回帆船が作った新兵器は、威力の調整ができない。数百キロの小惑星、いや下手をすれば惑星でも一撃で破壊可能な物である。恐ろしい兵器を作ってしまった気がするが、ヤマト級などのレリックシップに対抗する為の兵器でもある。丁度良い機会なので、その試射を宇宙怪獣相手でやってしまおうと決めたのだ。小型や中型に使わなかったのは、この兵器が一発しかないためである。
『よし、使用を許可する』
『了解しました。効果範囲内に、有人艦艇、有人惑星がいない事を確認。発射シーケンスに入ります』
帆船の右舷、副砲が顔を覗かせている部分から少し下の装甲が展開すると、巨大な砲身が姿を現す。
『総員、耐ショック耐閃光防御。目標、母艦級宇宙怪獣。発射します』
主砲と異なり、巨大な砲身は轟音も立てず、静かにラグビーボール型の弾を発射した。今回は帆船から数十キロ離れた地点で、そのラグビーボールは展開し、内部のブラックホールを解放する。解放されたブラックホールは、そのまま進むと周囲の卵を全て飲み込み、母艦級の宇宙怪獣に衝突する。
カッ
一瞬、宇宙が閃光に包まれるが、その後は何も残っていなかった。母艦級の宇宙怪獣も卵も全てブラックホールに吸収されてしまった。
>『後はシンデンが、再度ラグビーボールに詰め込んで終わりと…』
気を纏った船首像が、漂うブラックホールを掴むと、ラグビーボール型の縮退炉に詰め込んだ。帆船の科学技術でも、一旦解放された縮退炉のブラックホールを回収することは不可能であった。つまりこの兵器は、気功術でブラックホールを掴み取れるシンデンがいないと再使用できない兵器である。
気が物理法則を無視するとは言え、ブラックホールをお手玉の様に操るのは、自分ながらおかしいと思う。しかし、実際に出来てしまうのだから凄いとしか言いようが無い。
ブラックホールを収めた縮退炉は、再び帆船の砲塔に装填される。
『目がー目がー』
耐閃光防御と言っていたのに、シオン光を見てしまった様だ。まあ、雪風が人の体に害にならない程度まで光量を落としているはずなので、フラッシュを見てしまった程度の被害である。
こうして、宇宙怪獣の退治は終わったのであった。
縮退炉から放出されたマイクロブラックホールの挙動はおかしいですが、まあ帆船のテクノロジーで何とかしたと思って下さい。
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