ストーカー
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
ステーションの宇宙港は、今度はカント恒星系に戻ってくる宇宙船でごった返していた。それに逆行するように帆船と雪風はステーションを離れ、トーサン星域以外を目指す事になる。
「さて、次は何処に行くかだな」
「できれば、キャリフォルニア星域の近くが良いな。アヤモさんに会いたいし」
超光速航法可能地点へ向かうまでの間、シンデンとシオンは次に向かう星域を決めようとしていた。
「俺はキャリフォルニア星域には入れない。それに個人戦闘力の低いシオンだけで、キャリフォルニア星域に入るのは不安だ。響音を護衛に付けるなら認めるが…」
「あの人型ドローンと一緒は嫌よ。シンデンにソックリの奴は駄目なの?」
「俺とソックリな人型ドローンを連れて行ってどうする。とにかく響音との訓練に合格するまでは駄目だ」
「…分かったわ。頑張るわ」
「それで、新しい活動場所だが…俺としては、サン星域にしようと思う」
「サン星域って、トーサン星域より更に田舎だよね」
「ああ、そうだ。今回の要塞級レリックシップの話題が出なくなるまで、隠れるのが目的だ」
「ふーん。まあ私はシンデンの選択に従うわ」
シオンはキャリフォルニア星域が絡まないのであれば、興味が無いようだった。
>『バックアップ霊子、サン星域には現生人類発祥の恒星系がありますね。そこに行くつもりですか?』
>『今の地球がどうなっているか見てみたくなったんだ』
サン星域は、地球を含む太陽系恒星系を首都とする星域である。人類発祥の地と言うことで有名ではあるが、それ以外では特筆すべき点が少ない。何せ人類が宇宙に進出するために真っ先に開拓されたことで、資源や遺跡などが取り尽くされている。今は観光と地球産ブランドの農産物の輸出のみが収入源の星域である。よって、星域として規模も小さく、流通も限られているため海賊も皆無である。よって星域軍や傭兵もほとんどいない。しばらく身を隠すなら丁度良い星域である。
「たまには観光も良いだろう」
「えっ、観光?シンデンが仕事をしないとか、おかしいよ。体の具合でも悪いの」
シンデンが「観光」と言い出したので、シオンが驚く。確かにシオンが入ってから休み無く働き続けていたが、別に俺はワーカーホリックではない。単に金が無かったから働いていたのだ。しかし要塞級レリックシップの件で大金が入る予定だ。しばらく休みを取っても問題は無い。
「お前に人類発祥の地、地球を見せてやりたいと思ってな」
「うーん、別に歴史には興味ないのだけど」
「いや、歴史を学ぶのは大事なことだぞ」
シオンは歴史と聞いて嫌な顔をしたが、俺は自分の故郷がどうなっているか知りたいのだ。そこは譲れない。
「まあ、シンデンがそこまで言うなら…」
「では、行き先はサン星域で決定する」
かなり強引ではあるが、地球を目的地として出発することにした。
★☆★☆
トーサン星域からサン星域までの超光速航法での航路だが、一旦キャリフォルニア星域の近くを通り過ぎて、そこから進路を変更して向かうことになる。キャリフォルニア星域の近くといっても、星域内を通り過ぎるわけでもなく、隣の星域の中を通るだけである。
『ねえ、私一人で超光速航法をする必要ってあるの?』
『当たり前だ!お前は傭兵として独り立ちする必要がある。一人で、超光速航法ぐらいできないでどうする』
『独り立ちって。私はシンデンの所から出て行かないわよ。それに一人って、退屈なんだもの』
サン星域までの超光速航法は、全てシオンに任せることにした。別に俺が楽をしたいとかではなく、シオンの経験のためである。退屈な依頼をこなすためにも、一人で超光速航法をできるようにしないと、この前の新米傭兵のような失敗をする。
>『シオンが操船中に、俺は地球の資料を見ておくか。できれば俺の家族がどうなったかぐらいは知りたい』
>『地球は宇宙生物の襲来とか星間戦争とかで滅びかけてますからね。千年前の情報はほとんど残ってませんよ』
>『なるほど。もう俺の知っている地球じゃ無いみたいだな。観光名所もほとんどがレプリカか』
>『その様ですね。それに貴重な物は地球から持ち出されたりしてますので、バックアップ霊子が期待するような物が残っているかは不明です』
>『しかし、俺の脳は持ち出されて霊子力兵器に使われていたよな。地球で霊子力兵器が開発されたんだろ』
>『そこは不明です。バックアップ霊子の霊子の元となったあの脳ですが、霊子力兵器に使えたのが奇跡とも言える状態でした。あのユニットには脳内電位パターンが記録された媒体が添付されていましたが、それが在ったから霊子力兵器として成り立ったと思われます』
シンデンに使われた霊子力兵器であるが、電子頭脳の分析では作動するはずの無いレベルの出来だったらしい。冷凍保存された俺の脳は、帆船の科学力でも正常な修復は難しく、修復するよりクローンを作った方がましなレベルであった。しかし、クローンを作っても、脳は交換できない。脳として機能し始めた時点で、別な霊子が宿るのだ。つまりクローンを作っても、俺の霊子は書き込めないとのことは確認済みだ。
まあ、帆船以上の技術力を持ったレリックが存在する可能性もある。「諦めたらそこでゲームセットだよ」と安西先生も言っていた。つまり、自分を復活させるための努力(遺跡探査)はするつもりだ。
閑話休題
シオンによる超光速航法は順調に進んでいる。もちろん適宜休憩は挟んでいる。その時はシオンはシンデンにべったりだが、まあ養女に何かするわけも無し、普通に家庭の団らんである。そんな普通の旅路だったが、キャリフォルニア星域に近づいた当たりで、異変が発生した。
『シンデン。あの宇宙船、ずっと着いてくるんだけど?』
『ふむ。キャリフォルニア星域発のサン星域へ向かう宇宙船か。まあ、存在しても普通だろう』
『そうだけど、何かおかしな気がするの』
『何が問題だ?』
『キャリフォルニア星域軍が絡んでたりしない?』
『可能性はあるが、もしキャリフォルニア星域軍だとしても、他の星域で攻撃なんてしよう物なら、正当防衛で撃破するぞ。それぐらい連中も分かっているはずだ』
『そんな直接的な事じゃ無い気がするんだけどね…』
『俺には分からん?』
『女の勘みたいな物かな』
シオンはそう言って、俺達の後を付いてくる宇宙船を睨んだ。
>『電子頭脳さん、何か分かる?』
>『…あの宇宙船ですが、当初トーサン星域を目的地としていましたが、途中でサン星域に目的地を変更した様です。明らかに本船を追跡してますね』
>『なるほど。それで、脅威になりそうなレベルかな?』
>『民間の宇宙船ですので、本船の脅威になるとは思えません。しかし、マスターやシオンが観光をする際には注意が必要でしょう』
>『シオンの機嫌が悪くなるけど、響音をボディガードとして付けておくか』
>『いっそ、サン星域に行くのを諦めて、航路を変更して逃げ出せば良いのでは?』
>『いや、ここまで来てそれは出来ないな。地球へ行く事は諦めないぞ』
追尾してきた宇宙船は、トーサン星域からサン星域に進路を変更したことから、キャリフォルニア星域軍関係者が乗っているのだろう。その目的はシンデンであることは明白だ。電子頭脳の言う通り、逃げ出してしまうのも手ではある。しかし、俺は今の地球がどうなっているかこの目で確かめたいという欲求の方が強い。
まあ、本当に危険であれば電子頭脳が警告を出すだろう。帆船はキャリフォルニア星域軍の追跡者を引き連れて、サン星域に入った。
『ここが人類の発祥の地、太陽系なのね。宇宙船もほとんどいないし、寂れているって本当なのね』
『そうみたいだな』
帆船は、太陽系で通常空間に降りた。そこで俺は変わり果てた太陽系の姿を見ることになった。
>『本当に土星も、木星も無い。これ、本当に太陽系なのか。俺は実は未来じゃ無くて、異世界に転生したんじゃ無いのか?』
>『間違っておりません。ここが現生人類発祥の地である太陽系です。バックアップ霊子が異世界から来たと主張するのは勝手ですが、それはあり得ないでしょう。僅かに残った人類のデータベースから、バックアップ霊子の名前が確認できました』
どうやら日本の戸籍データが残っていたようで、俺の名前をその中から見つけ出したようだ。そして死亡した日時を見れば、ここが太陽系であることは間違いないようだった。
>『本当に変わっちまったんだな~』
土星と木星は、宇宙生物襲来時に兵器として転用されたらしく無くなっていた。火星はテラフォーミングされて人類が居住可能となっている。しかし砂だらけの火星より、もっと住みやすい星が銀河には多数あるため、今は住人がほとんど居なくて、ゴースト惑星となっていた。結局、太陽系で人が住んでいるのは地球とステーションだけである。
帆船とキャリフォルニア星域の船は、地球の衛星軌道上にあるステーションに停泊した。
「シオン、傭兵ギルドに行くぞ」
「ええっ、こんな所に傭兵ギルドあるの?」
「ああ、もちろんあるぞ。まあ、ほとんど休業状態だろうが、移動してきたからには挨拶は必要だ」
「なるほどね。確かに傭兵ギルドがあるのね。それも最初期に作られたギルドなのね」
ステーション内は、寂れた温泉街の土産物のような店が並び、お年寄りが数人いるぐらいである。それでもここには傭兵ギルドがある。傭兵なら、まず傭兵ギルドに出向くのが当たり前であるとシオンに教える。
「シンデン、待ちなさい」
シンデンとシオンが、傭兵ギルドに向かって歩きだそうとしたその時、背後から声がかかる。
>『厄介な人が来たな』
>『ええ。マスターはあの方を苦手に思ってました』
キャリフォルニア星域の宇宙船から下りてきたのは、星域軍の制服を着た女性だった。名前はフランシス・ベルテロ。赤毛を短く刈り込んだ、体は筋肉質だが、マッチョと言うよりモデル体型の美人である。歳はシンデンより若く二十八歳。そして、彼女はシンデンと同じ施設の出身である。要は子供の頃からの顔見知りという奴だ。
そして、シンデンが星域軍を止めて傭兵になった後も、合う度毎に「星域軍に戻って来い」と言ってくる人である。同じ施設出身でもあるため、シンデンも迷惑だが会うことは拒んでいないという間柄だ。そして、シンデンの居場所を知ると、有休を消化してまで会いに来るというストーカーでもある。
「フランシス中尉、いや今は大尉か。俺に何か用事があるのか」
「もちろん、貴方を星域軍に連れ戻すために追いかけてきたのよ。トーサン星域にいるって聞いたから、向かおうとしたら、途中で帆船を見つけたので追跡したのよ」
「俺はもうキャリフォルニア星域軍とは無関係だ」
「あの事件からもう十年。そして軍拡派はいなくなったわ。シンデンが戻ってきても文句を言う人はいないわ」
「俺は星域軍には戻らない」
「そうよ、シンデンは私と一緒に傭兵をやるんだからね」
シンデンとフランシス大尉の間にシオンが割って入った。
「後、この娘は誰?貴方、仲間は作らないって言ってなかった?」
フランシス大尉は、シオンを指さしてシンデンを睨み付けた。
「うむ。本来は作らないつもりだったが、たまたま、この娘が傭兵になる必要があってな。その保証人となってしまったのだ。だから仕方なく面倒を見ている」
「ちょっと、シンデン。仕方なくって酷いじゃ無い」
「貴方、私の時は『俺は仲間はもう作らない。お前は星域軍人として生きろ』とか言っていたくせに、どうしてなの。もしかしてこんな娘が好みだったの」
何か、だんだん話が恋愛ゲームの修羅場のようになってきた。シンデンの記憶を見ても、彼はストイックで有り、女関係の噂とか無かったはずなのに、どうしてこうなった。
>『フランシス大尉って、もしかしてシンデンの事を好きだったのか?』
>『私に聞かれても回答不能です』
>『シンデンは余計な物を残していったな~』
この状況をどうやって収束させるか。俺は頭をフル回転させる。
>『ギャルゲーの様に、選択肢が出ないかな』
女性経験の無い俺やシンデンの知識では、無理だと降参することになった。
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