巨大戦艦の最後
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
帆船と雪風が大型戦艦目指して動き出した事は、戦闘ドローン達も気づいていた。しかしそれを阻止しようにも、船の能力が違った。戦闘ドローンは無人であるため、人が乗る船より加速性能は高い。だが帆船と雪風はレリックシップである。現生人類と同程度の技術で作られたドローンの性能では、正面からならまだしも、側面や背後からでは二隻に追いつけない。
正面に立ち塞がる小型船や対艦ミサイルは、「チェーンライトニング」で破壊され、大型戦艦は帆船の主砲で打ち抜く。もちろん雪風のレーザー砲塔や副砲も盛大に撃ちまくって、周囲に多数の火球を作り出していた。遠くから見れば、それは大型船に向かって燃え進む導火線のようだったろう。
もちろん帆船も雪風も攻撃は受けている。全方向からレーザーやブラスターなどが撃ち込まれるが、数千のドローンから一点に集中して撃ち込まれでもしない限りは、帆船と雪風にとってはエネルギーになるだけだ。帆船と雪風は大型戦闘ドローンを盾にするような進路を選んで進んでいるので、一点集中の攻撃など不可能である。敵にキロメートル級の大型戦艦でも存在すれば、壁として進路を遮ることもできただろうが、巨大戦艦以外は最大でも百メートルクラスの戦闘ドローンしかいない。つまり巨大戦艦には、俺達の進撃を止めることはできない。
ドローンの中を突き進む帆船と雪風。それに対して大型戦艦は、マイクロブラックホール砲を発射せず、船首(マッコウクジラの額)から広範囲に広がる円形のビームをはき出した。その巨大な円形ビームは拡散し、味方のドローンごと帆船と雪風を飲み込もうとする。巨大戦闘ドローンを一瞬で溶かすほどのビーム攻撃を受ければ、帆船もただではすまない。拡散するビームから逃げることは難しいが、こちらにはシールドの魔弾がある。シールドの魔法で円形ビームを防いで二隻は進撃を続ける。
『マッコウクジラは超音波で攻撃するって聞いたことがあるが、それをまねているのか?』
『現生人類の故郷の海には、ビームを発射する生命体が存在したとは知りませんでした』
『そんな生物がいるわけ無いだろ。とにかく、奴の攻撃で道が開いた。全速で突っ込むぞ。合体しろ雪風』
味方を巻き込んだ巨大円形ビームの攻撃で、巨大戦艦まで遮る物がいなくなった。こうなれば一気に進むだけだ。
『了解です』
『シンデン、雪風の操縦者って私だよね』
シオンが少し悲しそうだが、このチャンスを逃すわけには行かない。魔法格闘戦モードを解除した雪風が、帆船に合体する。そして、帆船の船尾の緊急加速スラスターが再び火を噴く。全力で加速した二隻は、あっという間に巨大戦艦の前に辿り着いた。
『きゃーっ。このままじゃ衝突しちゃうよ』
シオンの言う通り、このまま衝突すれば、幾ら帆船が頑丈でも圧倒的な質量差で押しつぶされる。しかし、シンデンは気功術士である。
『シオン騒ぐな。衝角モード起動。全力でぶち抜くぞ』
船首像の腕が超巨大なドリルに変形する。質量や体積を無視したような変形であるが、そこは船首像がレリックシップとしての能力である。別に天元突破しているわけではなく、人類がまだ到達できていない技術で、船首像の体積や質量を増やしているのだ。
帆船は気を纏ったドリルを回転させると、巨大戦艦のマイクロブラックホール砲(マッコウクジラの口)に突撃する。気で強化されたドリルが、ガリガリと音を立てて巨大戦艦の腹の中を食い破っていく。
『これは?』
巨大戦艦の中を突き進むが、その途中で俺は違和感を持った。無人であるこの船に生命体はいないはずなのに、気のような物を感じ取ったのだ。
>『電子頭脳さん、これはもしかして』
>『そうですね、恐らくバックアップ霊子の想像通りの物でしょう』
>『どうする、このままだと破壊してしまうぞ』
>『別に破壊しても良いとは思いますが。そんな物より、この船の動力源の縮退炉の方が貴重です。破壊すると面倒ですし、貰ってしまいましょう』
>『縮退炉より、あっちの方が大事だろ。衝角モード解除。刀身モードに切り替えるぞ』
帆船は停止し、船首像の手がドリルから巨大な刀に変わる。俺は左右の刀を振るって、慎重に巨大戦艦の内部を切り裂いていった。
そして目的の区画に着くと、帆船から作業ドローンが飛び出して、目的の物を回収する。回収するときに停止しないか気掛かりだったが、嬉しいことに非常動力が付いていた。非常動力が停止する前に、電子頭脳が規格に合う動力を作ってくれるだろう。
それから帆船は更に慎重に船尾に向かって進んで行く。中心部より少し後ろの当たりに、十メートルほどの巨大なラグビーボールのような物体があった。どうやらこれが縮退炉らしい。
マイクロブラックホール砲を搭載していたことから、電子頭脳は縮退炉を搭載していたと見当を付けていたようだ。この縮退炉一つで、キャリフォルニア星域の首都星のエネルギーがまかなえるのだから、もの凄いエネルギーを秘めている。
現生人類は、実験レベルでは縮退炉を作り出したが、製造に必要なコストが膨大なことから、実用レベルでは存在していない。よって、他のレリックシップが搭載していなければ、これが現在唯一の縮退炉だろう。
>『まあ、本船も作り出せますが、製作には時間がかかります』
>『時間って、どれぐらい』
>『恒星に十年ほどこもれば作り出せます。その代わり、恒星が消えてしまいますけどね』
>『なるほどね。そりゃ貴重品だ』
そんな話をしながらも、帆船の作業ドローンは安全に縮退炉を外すための作業を行っている。縮退炉の中にはブラックホールが入っているため、破壊されると超危険である。ここで縮退炉を破壊していれば、カント恒星系にブラックホールが流れていく可能性もあるのだ。危ないところだった。
>『もう拾う物は無いな?』
>『この船を作り出した異星人の技術は理解しました。後はお好きにして下さい』
『シンデン、もうこの船爆発しちゃうよ。早く逃げないと』
シオンは不安そうに言うが、帆船と雪風は対艦ミサイルの直撃にも耐える強度を持つ。巨大戦艦の爆発に巻き込まれてた程度ではびくともしないだろう。(ブラックホールは除く)
まあ、このまま艦尾まで切り裂いても良いのだが、俺はシオンにシンデンの格好いい姿を見せることにした。
『シオン、面白い物を見せてやる』
『えっ?それより早く逃げだそうよ』
シオンは、シンデンの言葉を聞いていなかったが、まあ今から放つ秘剣を見れば驚くだろう。
『ふぅ、円月斬』
左右の刀身から伸びた、気で作られた刃が円を描くように巨大戦艦を切り裂く。巨大戦艦の胴体の直径はおよそ六キロメートル。シンデンは気の刀をそこまで延ばして、巨大戦艦を輪切りにした。後は、船首像のキック(乙女がする行為では無い)で、巨大戦艦の下半身を蹴り飛ばす。そうやって、帆船と雪風は巨大戦艦の中から脱出した。
『つまらぬ物を斬ってしまった』
『巨大戦艦はつまらない物ではありません。縮退炉を持った貴重な船でした』
電子頭脳とのくだらないやり取りはさておき、帆船と雪風の後ろで、二つに分かれた巨大戦艦が小爆発を繰り返して沈んでゆく。
『…シンデンって凄いのね』
シオンの驚く顔をみて、俺はシンデンの格好いい姿を見せられたことに満足する。まあ、シオンと雪風がいなければ、巨大戦艦を破壊するなど無理だったが、最後の見せ場はシンデンがもらった。
『さて、残ったドローンはどうなっている。こちらに攻撃を仕掛けてくるつもりなら、逃げ出すぞ』
『うーん、みんな止まっているみたいだけど。どうする?私はまだ魔法は使えるよ』
要塞と巨大戦艦は破壊したが、俺達の周囲には大量の戦闘ドローンが残っていた。電子頭脳によると、その数一千五百万以上。シオンはまだ戦えるとアピールするが、無駄に破壊するのはもったいない。
『巨大戦艦が破壊された事で、待機状態になったか』
『その様ですね。今なら本船でハッキングして操る事も可能です』
『凄い。シンデンがこのドローンの大軍を指揮するの?』
『傭兵個人がそんな大戦力もってどうする。星域軍に睨まれるだけだぞ。それに、俺にはこれだけのドローンを超光速航法で移動させる方法を持っていない』
『大小合わせて一万五千機以上のドローン。辺境のトーサン星域軍では持て余すでしょうね。こうなればいっそ他の星域に売りに出しますか。ドローンもレリックシップですが、技術レベルは人類と大きく変わりません。本船の脅威にもならないので売り払っても問題無いでしょう』
『ふむ。それは良い考えだ。今回の強制依頼で、傭兵達に支払われる依頼料は雀の涙だ。これだけのドローンを売り払えば、かなりの金になる。ドローンを売って得た金を、依頼を受けた傭兵達と分けることにしよう』
『シンデン、気前よすぎだよ。もったいないよ。』
『シオン、確かに金は大事だが、それよりももっと大事なのは仲間との信頼だ。今回の作戦は、傭兵達の協力が無ければ成功しなかった。最後に活躍しただけの俺達が独り占めしては駄目なのだ』
『うう、そうね。お金は大事だけど、仲間との信頼も大事なのは分かる。やっぱりシンデンは凄いな~』
シオンが、シンデンの言葉に感動している。
しかし、シオンが感動している裏では、
>『バックアップ霊子、そこは独り占めするところでしょう』
>『いや、シンデンなら、独り占めしないだろう』
>『そうですが。要塞を撃破する作戦と立案して、最後に巨大戦艦を倒したのは本船と雪風ですよ。その程度の役得があっても良いのでは?』
>『役得が大きすぎる。後、傭兵達に金をばらまくのは、口止め料代わりだ。つまり、傭兵達と協力して大戦艦を倒したことにすれば、俺達の戦力も少しは過小評価されるだろ』
>『うーん、もったいないですが、確かに本船や雪風の戦力は隠しておきたいところです。バックアップ霊子の判断の方が良いと判断します』
俺と会計処理プログラムとの交渉が行われていた。シンデンを高潔な人物と信じているシオンに、傭兵達に金を分配する事が、口止め料代わりだとは言えない。
『大至急超光速航法に入って、傭兵達に合流するぞ』
『了解しました』
超光速航法で逃げ出した傭兵達は、まだ戻ってきていない。作戦では帆船と雪風が戻るまで超光速空間で待機する事になっている。帆船と雪風は、超光速航法に入り、そこで俺達を待っていた傭兵達と合流した。
『シンデン、遅かったな』
『沈められたかと、思ったぞ』
『お嬢ちゃんは無事なんだよな』
傭兵達から大量の光通信が届く。このまま超光速空間で事情を説明するのも面倒なので、要塞の撃破と戦闘ドローンが待機状態になった事をメッセージで送り、全員で通常空間に戻った。
『うはー。こりゃ凄い数のドローンだ』
『本当に、俺達でこれを山分けして良いのか?』
『ああ、お前達の協力が無ければ、要塞は倒せなかったんだ。俺とシオンは最後まで残っていただけだからな。全員の力で彼奴を倒したんだ。だからこのドローンを売り払った金は、全員で山分けするのが当然だろ』
シンデンがそう言うと、通信に画面の傭兵達は、感動したように頷く。
『そうだ、俺達だって頑張ったぞ』
『小惑星を超光速航行させたし、戦闘ドローンとも戦った』
『百機ぐらいドローンを倒したからな』
『ああ、俺達全員の勝利だ』
傭兵達は口々に自分の戦果を自慢し合う。リーダー各の傭兵は、シンデンが意図したことを読み取って、仲間の傭兵達の戦果を褒めていた。これで俺の目論見通り、要塞級レリックシップの撃破は傭兵達全員でやり遂げた事になるだろう。
『それじゃ傭兵ギルドへ報告に行くか』
>『戦闘ドローンの売却について、トーサン星域軍にも話を付ける必要がありますね。何せこれだけの数です。星域軍の許可は必要でしょう』
>『そこは支部長に頑張って貰おう』
待機状態のドローンの管理を傭兵達に任せて、帆船はカント恒星系に向けて超光速航法に入った。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたらぜひ評価・ブックマークをお願いします。