巨大戦艦との戦闘
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
-雪風・操縦席-
『最後の傭兵が超光速航法に入りました。本艦も直ぐに超光速航法に入ります』
「えーっ、そうするとシンデンだけで要塞と戦うことになるよね。傭兵もいなくなったし、私達も本気で戦っても良いんじゃない?加速魔法ももう少し効果が続くし、戦略級魔法を使えば、戦闘ドローンとか纏めて破壊できるでしょ」
雪風が単独で多数の戦闘ドローンと戦えたのは、レリックシップとして攻撃力や防御力が高いからだけだけではない。その秘密は、シオンの加速魔法という支援魔法のおかげでもある。加速魔法によりシオンとクローン脳ユニットの思考が加速され、武器の連射速度も向上したおかげである。
『ですが、要塞内部の超巨大宇宙船が、本船を狙っています。直ぐに超光速航法に入る方が安全です』
「大丈夫だって。敵の攻撃なんて私のシールド魔法で防げるわよ。早く魔法格闘戦モードに変形して!」
実際の所、シオンと雪風であれば、戦略級の魔法でも受け止められる様に帆船は設計していた。
『了解しました。ただし、超光速航法の準備は行いますよ』
「もう。操縦者の私より、シンデンや帆船の言うことの方が優先なのはどうしてよ」
電子頭脳を失ったカゲロウ級駆逐艦だった雪風は、電子頭脳の代わりとして人類製作の電子頭脳(に見える帆船が製作した電子頭脳)と、九十二式偵察機に積まれていたクローン脳ユニットが搭載されている。その為、シオンが回路を駆動しなくても超光速航法に入ることが可能である。雪風はシオンに命じられて、魔法格闘戦モードに船体の変形を開始すると共に、超光速航法回路を駆動する準備を始めた。
その時である、
『…敵要塞内に重力異状を検出。攻撃はエネルギー兵器では無くマイクロブラックホール砲と推測されます。これはシールドの魔弾では防げません。雪風は直ぐに超光速航法で待避をして下さい。いえこのままでは間に合いません』
『シオン、避けろ』
帆船とシンデンからほぼ同時に通信が届く。これは電子頭脳の速度で通信が届いたため、音声通信としてシオンには直接伝わっていない。
『(今からでは、超光速航法でマイクロブラックホールを避けられません。シールドの魔法では、受け止めるのに失敗すれば、運が良くて大破。最悪本船は消滅してしまいます。…マイクロブラックホールの大きさであれば、シオンがあの魔法を使えば消せるはず。加速魔法の効果がある今なら、まだ間に合う)』
雪風の電子頭脳は一瞬でそこまで判断すると、超光速航法回路の駆動を取りやめ、魔法格闘戦モードへの変形を加速させた。雪風の船首の装甲が開くとシオンとよく似た乙女の上半身が顔を出し、装甲はそのまま腰の辺りに移動して下半身を覆うドレスのような形となった。変形を終えた雪風は尾びれこそ無いが、ドレスを着た人魚のような姿となる。
この姿が、雪風の魔法格闘戦モードである。支援系の魔法であれば通常の状態でも使えるが、攻撃魔法を使う場合はこの魔法格闘戦モードへ変形する必要があるのだ。通常なら変形に五秒ほどかかるのだが、加速魔法の効果中のため変形を一秒で完了する事が可能だった。
『シオン、直ぐに私の言う魔法を行使して下さい』
「シールドの魔法じゃ無いの?」
『いいえ、早くディスインテグレイションの魔法を唱えるのです。もうそこまでマイクロブラックホールが迫ってきているのです!』
『わ、分かったわ。ディスインテグレイション!』
シオンはヤマト級によって強制的に覚えさせられた、「ディスインテグレイション」の魔法を唱える。この魔法は精神力とマナを大量に消費するが、命中させられればそのマナの消費量に応じた大きさの物質を消滅させる魔法である。そして雪風に内蔵された魔石は、ヤマト級に匹敵するサイズの物を積んでおり、マナは大量に蓄積されている。
シオンが叫ぶと同時に、乙女の胸の辺りから小さな光の弾が飛び出し、漆黒のマイクロブラックホールに衝突した。もし小さな光の弾が物質や反物質であれば、そこでマイクロブラックホールは蒸発して膨大な熱量が発生していただろう。そしてエネルギー放出系の魔法であれば、マイクロブラックホールに吸い込まれて終わりだった。しかし全ての物質を消滅させてしまう「ディスインテグレイション」の魔法は吸い込まれることも無く、マイクロブラックホールを跡形も無く消し去った。
『ふう。良く分からないけど、敵の攻撃は防御できたのね』
『はい、ギリギリでしたが上手く迎撃できました』
『良し!』
シオンがサムズアップするが、それを見ているのは雪風の電子頭脳だけであった。
★☆★☆
>『シオンは、どうやってマイクロブラックホールを消滅させたんだ』
雪風に命中する直前のマイクロブラックホールが、突然消失してしまった光景を見せられて、俺は驚いてた。霊子が書き込まれていたシンデンは、冷や汗を流していた。
>『雪風の電子頭脳が機転を利かせました。「ディスインテグレイション」の魔法を使ったようです』
>『「ディスインテグレイション」の魔法って、敵を消し去る魔法だな。そんな便利な魔法があるなら、ヤマト級はどうして戦略級魔法を使ったんだ?』
>『「ディスインテグレイション」の魔法は、物理法則を無視して対象を消滅させますが、魔法が消滅させる対象は、質量ではなく体積なのです。雪風が増幅したとしても、その体積は小型ドローンを消す程度の威力しかありません。』
>『なるほど、だからヤマト級は使ってこなかったのか。つまり、マイクロブラックホールが小型ドローンサイズ以下だったから、「ディスインテグレイション」で消せたと』
>『はい。流石雪風の電子頭脳です。私のコピーですから優秀ですね』
>『はいはい、電子頭脳さんは優秀ですよ。それで、敵は要塞から出てきたけど、二発目を撃たれる前に倒せるか?』
>『レリックシップといっても、本船より劣った船です。通常攻撃で破壊可能です。しかし戦闘ドローンが邪魔ですし、巨大なだけに、砲撃だけで破壊するのは時間がかかります。このままでは、雪風を狙って再びマイクロブラックホール砲を発射するでしょう』
小惑星と衝突中の要塞から出てきたのは、漆黒の装甲を纏った巨大な宇宙戦艦だった。全長は二十キロ以上あるだろう。船体の前面にマイクロブラックホール砲と思われる巨大な砲口があるその姿は、マッコウクジラのような姿をしていた。今はマイクロブラック砲のクールダウン中なのか、エネルギーを蓄積している様子は無い。
>『ウニからマッコウクジラが出てくるとか、デザインを海産物シリーズで揃えているのか』
俺が、戦闘ドローンもよく見れば魚の形に似ていることに気がついた。雪風も魚類に近い形状だし、それであの戦艦は雪風を狙ったのかもしれない。
>『次も雪風が狙われる可能性が高いか』
>『敵戦艦も移動を開始しました。半壊した要塞から大型戦闘ドローンと小型戦闘ドローンが大量に出てきました。総数は二千万機を超えると思われます』
>『小惑星の衝突で八割は潰したか、それでも二千万、さすがに二隻で倒すのは無理じゃ無いか?』
>『そうですね。本船も物理的に移動不能になれば、超光速航法に入るしか無いでしょう』
>『まあ、敵の進行方向は変えたんだ、依頼は成功だよな。これなら撤退しても良いだろ。カント恒星系と反対側に誘導すれば、そっちに進路を変えるよな』
>『巨大戦艦が、雪風を狙っているのであれば、カント恒星系とは反対の方向に逃げ出せば、進路を変更するでしょう』
>『まあ、もし向きを変えたら、その時はトーサン星域軍に頑張って貰おう。協力依頼が来たら高値で引き受けようぜ』
>『そうですね。マイクロブラックホール砲を持った巨大戦艦の討伐依頼です。高値が付くでしょう』
電子頭脳も依頼達成を判断してくれたので、俺は撤退することに決め、シオンに通信を送る。
『シオン、このまま戦い続けても意味が無い。撤退するぞ』
『えーっ、せっかく今から全力で戦えると思ったのに、撤退するの?もっと戦いたい』
シオンがシンデンからの撤退命令に反対する。ついさっきまで死ぬ瀬戸際であった事を彼女は知らないのだ。
『シオン、お前は死ぬ間際だったのだ。敵の数を見ろ。俺達二隻で、どうやってあの数のドローンを倒すんだ』
『敵の数が多いのは、魔法で何とかなりそうなんだけどな~』
『戦略級魔法でも撃つつもりか?「ディスインテグレイション」を使ったばかりだ、精神力が持たないだろう』
『戦略級魔法じゃないよ。もっと良い魔法があるの。それを試して、駄目だったら撤退しよう』
シンデンがこれだけ言っても、シオンは戦いたいようだ。マイクロブラックホール砲以外では、雪風も破壊されることは無い。
『雪風、魔法に関しては、俺よりお前の方が詳しい。シオンが使う魔法は、この状況を打破できるのか?』
『はい、試してみる価値はあるかと』
『分かった。シオン、やって見ろ』
『シンデンは私より雪風の判断を信用するのね!』
シオンはむくれた顔をするが、十二歳の子供より電子頭脳のコピーである雪風を信頼するのが当然だ。
『俺も電子頭脳の判断を信用しているからな。とにかく魔法を使ってみろ。その結果を見てからだ』
『分かったわよ。見てなさい。私の凄さを見せてあげるから』
シオンはそう言うと、初めて使うであろう魔法を唱えた。
『チェーンライトニング!』
雪風の乙女の指から細い雷撃が放たれた。それは雪風に攻撃を仕掛けていた小型戦闘ドローンに命中すると、小型ドローンは雷撃を受けたように動きを止めた。それだけであれば一度に十機のドローンを破壊するだけだが、この魔法は命中したドローンから二つの雷撃を発生させて、次の小型戦闘ドローンに命中して更に分裂を繰り返した。
雪風を狙っていた小型ドローンの数は二万機以上だったが、それがたった一回の魔法で全て行動不能となっていた。
>『あの魔法は自己増殖する魔法なのか?』
>『「チェーンライトニング」の魔法は、集団で固まっている敵に対して効果を発揮する魔法です。しかし通常は分裂したとしても二~四回程度なのですが、シオンの放った魔法は、最大で十二回は分裂していました。それも十発の並列で放った「チェーンライトニング」の魔法でです。流石ヤマト級が操縦者に選んだ個体です』
>『な、なるほど。シオンは凄いんだな』
電子頭脳の蘊蓄に俺は頷くことしかできない。シンデンの記憶からみても、シオンのやった事は普通の魔法使いでは不可能だと理解できる。
『シオン、良くやった。しかしこれだけの魔法だ、連発は不可能だろ。無理はするな』
『大丈夫よ。まだまだ行けるわ。それに相手が小型ドローンで、それもあんなに密集しているなら、簡単に倒せるわよ!』
シオンはやる気に満ちあふれている。一度の魔法で二万機のドローンを破壊したのだ、彼女で無くても調子にも乗るだろう。
『もう一度行くわよ。シンデンは避けてね』
『待て、一体どこを狙っている』
『チェーンライトニング!』
シオンは、帆船を取り囲むドローンの集団に向けて魔法を放った。
>『シールドの魔弾で防御します』
帆船はシールドの魔弾を放って、雷撃を防御する。何千、いや何万にも分裂した雷撃が、帆船の周囲の小型ドローンを仕留めていく。
>『バックアップ霊子、惚けていてはいけません。退くのか戦うのか決めて下さい』
シオンが放った魔法で倒されるのは、小型ドローンのみである。大型ドローンはまだ動いていた。そして小型ドローンもまだ二千万から数万隻減っただけだ。敵はまだまだ残っている。
『雪風、シオンは後何回「チェーンライトニング」を発動できる』
『そうですね…あと、十回程度でしょうか』
クローン脳を搭載した雪風は、シオンの精神力を管理できる。どうもバイオセンサー的な能力がクローン脳にあるようだ。おかげで、シオンの魔法使用回数の管理がしやすい。
>『電子頭脳さん、本船にMAP兵器とか搭載してませんか。本船から周囲6ヘックス以内の敵だけ攻撃できる便利な兵器とか隠してませんか?』
>『残念ながら、本船はタイマンに特化しておりますので、その様な兵器は持っておりません。それに6ヘックスという単位は知りません』
>『タイマンって、何故そこだけヤンキー用語なんだよ。まあ、この船の武器は威力はあるけど、シオンの魔法のような雑魚掃除に向いた兵器が無いって事は分かったよ』
霊子力兵器は完全にマップ兵器だが、あれは機械には通じない。つまり、シオンの「チェーンライトニング」の魔法だけで雑魚を蹴散らすしか無い。先ほどの攻撃で、「チェーンライトニング」の魔法は最大八万機の小型ドローンを倒せることが分かった。それを十回使ったとして、八十万機。敵の数は二千万機で、シオンの魔法だけで全ての敵は倒せない。
>『こうなったら、俺達が狙うのはあれだな。そう一騎駆けでボスへの突撃しか無いな』
帆船が目指す先は、大量のドローンに囲まれた巨大戦艦である。そこに至るまでの敵だけを破壊するのであれば、何とかなる。
『雪風、こっちに来い』
『雪風じゃ無くて、そこは、シオンでしょ』
シオンの「チェーンライトニング」で帆船と雪風の周囲のドローンは行動不能となっている。二隻は合流すると、そのまま真っ直ぐ巨大戦艦に向けて進み出した。
『シオンは「チェーンライトニング」で小型ドローンを破壊、大型戦闘ドローンはこの船が粉砕する。最後は俺が決める』
『分かったわ』
シオンが「チェーンライトニング」を放ち、巨大戦艦に向けて道を作る。途中に立ちふさがる大型ドローンは、帆船の主砲が纏めて粉砕する。大型戦艦向けての一騎駆け(二隻だが)を俺達は開始した。
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