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オペレーション・ブレイクショット(2)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 要塞が小惑星に向かってきてくれたおかげで、衝突まで後二十分を切っていた。しかし要塞は大型対艦ミサイルを小惑星に向けて発射する。その数約三千発と、要塞級は全てのトゲ(・・)を発射した。全長一キロを超える大型対艦ミサイル、一発でも命中すれば小惑星は破壊されてしまう可能性が高い。


>『雷網の魔弾、光速の魔弾を撃ち尽くしても、全て迎撃するのは不可能です。必ず撃ち漏らしが発生します』


>『万事休すか』


 バックアップ霊子()と電子頭脳が諦めかけた。


『いや、まだ諦めるには早い』


 そこに割り込んだのは、船首像に乗り込んだシンデン()だった。


『何か手があるのか?』


『全ての大型対艦ミサイルは無理だが、少しの間だけなら耐えることは可能かもしれない』


『それは、もしかして小惑星を気のフィールドで強化すると言うことか?』


『残る手はそれしかない。小惑星全体に長時間気のフィールドを張る事は不可能だ。だからできるだけミサイルは同じタイミングで着弾するように迎撃して欲しい』


 シンデン()は、全長三百メートルの帆船を気のフィールドで包むことができる、優れた気功術士である。しかし小惑星は百キロメートル、帆船とはサイズの桁が異なるのだ。大型対艦ミサイルに耐えるだけの気のフィールドを、小惑星の全面だけとはいえ張る事はさすがに正気を疑うレベルである。


『もう気が狂ってるのか?SAN値は足りてるか?それだけの気を使えば、シンデンは生命力を失って死ぬぞ』


 俺は、シンデン()が既に狂気に陥っているんじゃないかと疑った。


『ヤマト級レリックシップ(遺物船)と戦った時みたいに狂ったんじゃ無い。シンデン()は正気だ。あの戦いの後、シンデンの気功術士としてのポテンシャルが上がったみたいでな。試してみたら小惑星の表面だけ(・・)なら何とか気のフィールドでカバーできそうだ』


>『電子頭脳さん、シンデン()が気のフィールドを張るとして、いけそうか?』


>『…大型対艦ミサイルの軌道を計算しました。着弾するタイミングを揃えるとなると、およそ五百発のミサイルが三十秒の間に着弾します』


『三十秒だ、耐えきれるのか?』


『三十秒か、…ギリギリ耐えられるだろう』


『シンデンが死ぬと困るぞ』


『死ぬまでやる気は無い。無理ならそこで逃げ出すさ』


 バックアップ霊子()シンデン()は同一の魂である。無理をしないだろうと分かった。


>『本船は、全力で大型対艦ミサイルの迎撃を行います。バックアップ霊子()も操船をサポートして下さい』


>『分かった。シンデン()も頑張っているんだ、俺も手伝うぞ』


 電子頭脳がミサイルを迎撃するためにフル稼働するのが俺にも伝わってきた。俺はその間、帆船に向けて突撃してくる小型戦闘ドローンを躱すために操船を担当する。三百六十度全方位からミサイルのように突撃してくる小型ドローンを躱すとか、人間だった頃は無理だが、バックアップ霊子()となった今なら可能だ。


『マスターはカウントダウン後に気のフィールドを張って下さい』


『いつでも初めてくれ』


『バックアップ霊子()、操船権を私に戻して下さい。…気のフィールドを張る為の、カウントダウンを始めます。5、4、3、2、1、0』


 カウントダウンが5の時に、主砲が発射される。主砲は対空散弾ではなく徹甲弾を発射していた。三発の徹甲弾は大型対艦ミサイルを破壊することなく、弾き飛ばして後続のミサイルを巻き込んでいった。まるでドミノの様に、一キロを超えるミサイルが連鎖して動きを止めていく。

 そして3のタイミングで副砲から発射された雷網の魔弾が、衝突を起こしている大型対艦ミサイルを纏めて破壊する。この時点で大型ミサイルの残りは千発まで減少していた。

 残りの千発は着弾地点がバラバラのため、同じ手は使えない。後は主砲と副砲のブラスター砲撃で、着弾タイミングがズレた物のみを狙撃していく。

 カウント0で小惑星全体が、シンデン()によって気のフィールドに包まれた。それにコンマ一秒遅れて最初の大型対艦ミサイルが小惑星に着弾する。


 宇宙空間のため音は聞こえないはずなのに、俺には爆発音が聞こえた気がした。帆船はミサイルを迎撃し続けるが、小惑星の表面に次々と大型対艦ミサイルが着弾していく。この時、要塞に衝突するまでの時間は五分を切った。


『本当に持つのか』


『…』


 シンデン()から返答は無い。それだけ気の制御に意識を持って行かれているのだろう。


>『要塞が進路を変更しました。このままでは小惑星との衝突軌道から外れます』


 小惑星の軌道を制御していたシンデン()は、今は気の制御で手が離せない。帆船が船首像経由のリモートで制御するが、このままでは小惑星は要塞の横をギリギリすり抜けてしまう。


>『ここまで来て逃すかよ』


 俺は電子頭脳から船の制御を奪うと、帆船を小惑星に押しつけて進路を変えようとする。船体がきしむ音が聞こえるが、構わずに小惑星の進路を変えて、要塞との衝突コースにずらす。


>『レリックシップ(遺物船)は伊達じゃない所をみせろ!』


>『了解しました。リミッター解除、緊急加速装置をオーバーブーストさせます』


 普段は慣性制御で移動している帆船だが、緊急加速のためのスラスターが船尾にある。船尾から飛び出した巨大な推進ノズルが長い噴射炎を吹き出すと、小惑星が少しずつ動き要塞との衝突コースに向かっていく。衝突までの時間が一気に減っていく。緊急加速していた時間は、数十秒だったが、俺には一時間程に感じられた。


 大型対艦ミサイルを撃ち尽くした要塞に、小惑星が斜めに衝突する。正面衝突はしなかったが、巨大な質量の物体がぶつかった衝撃が、帆船に伝わってきた。要塞にも慣性制御装置があるだろうが、さすがに小惑星の衝突の衝撃まで吸収はできないだろう。


 小惑星はその大質量で、要塞級レリックシップ(遺物船)を砕いていく。小惑星も同時に崩壊するが、その破片によって大型と小型ドローンが次々と破壊されていく。


『これで終わりだな。もう気を練るだけの力も無いぞ』


 崩壊する小惑星から飛び出した船首像のシンデン()が、そう言って帆船に合体した。


>『フラグを立てるな。それより、シオンと傭兵の方は大丈夫か?』


 シンデン()バックアップ霊子()が同期して、同一人物となる。


>『戦闘ドローンとまだ戦闘中です』


>『要塞があの状態で、それでも戦闘ドローンは戦闘を継続中?おかしくないか』


>『そうですね。確かにおかしいです。要塞が破壊されては、ドローン達も困るはずです』


 現在進行形で、小惑星は要塞を押しつぶし砕け散っている。それを顧みることも無く、傭兵達を追いかける戦闘ドローンの行動はおかしいと俺は思った。


>『巨大要塞か、まさかな…』


 俺は過去に見た映画を思い出す。巨大要塞は破壊されて終わるパターンもあるが、そうじゃない奴もあるのだ。リメイクされる前の奴は、親に見せられた記憶がある。


>『要塞内部から、巨大な熱源反応を確認。それと、要塞の内部構造では無い物体を確認しました』


 電子頭脳が要塞の中に動力炉らしい熱源を探知する。要塞の外壁が壊れた事で、スキャンされたそれは、巨大な宇宙船らしい形をしていた。


>『おいおい、要塞の中にどうしてそんな物(巨大船)があるんだよ。あの要塞の電子頭脳って、もしかして大帝だったりするのか?』


>『電子頭脳に大帝という階級は存在しません。要塞は、内部にある宇宙船を隠すための偽装だったようです。小惑星によって外装が壊れた為、内部の宇宙船が活動を開始したようです』


>『小惑星が衝突しているんだ、宇宙船も一緒に潰されてくれないかな』


>『今のままなら潰されるでしょう。ですが宇宙船を稼働させたのです。何か手があるのでしょう』


 崩壊する要塞と小惑星。纏わり付く小型ドローンを迎撃しながら、俺と電子頭脳は何が起きるのか待つしか無かった。


>『内部の宇宙船の中央部に熱反応を確認。何らかの指向性のエネルギー兵器を発射するようです』


>『指向性のエネルギー兵器だと。何処を狙っているんだ。この船か?』


>『船の先端から発射されるとしたら、雪風と傭兵達が狙われています』


 要塞内部にいる巨大な宇宙船は、戦闘ドローンを引きつけて後退している。普通のエネルギー兵器なら射程外の距離であるが、狙っているからには届くのだろう。


>『シオンと傭兵達に、直ぐに超光速航法に入るように伝えてくれ』


>『既に送信済みです』


 巨大宇宙船は未だ要塞内にいる。そのため帆船でも、どのようなエネルギー兵器を発射しようとしているか判断できない。エネルギーを溜めている事による熱量は分かるが、どの段階で発射するとかは不明なのだ。戦闘ドローンに搭載されていた兵器から、要塞と宇宙船は、現在の人類と同程度の科学力で作られているだろう。その基準で考えるとして、レーザーやブラスターであれば、帆船でも直撃したら不味いほどの熱量(エネルギー)が中央部に集まっている。


>『シールドの魔弾で防げそうか?』


>『エネルギー兵器の種類が分からない為、発射のタイミングが分からないのです』


 シールドの魔弾は、発動した瞬間に魔法の盾を生み出す物だ。しかしその盾も無限に存在するわけではない。タイミング良く発動させないと意味が無い。せめてどんな兵器か分かれば良いのだが。その為には要塞を破壊するしか無い。


>『傭兵達の待避状況はどうなっている?』


>『傭兵の七割が超光速航法に入りました。雪風は最後まで残るようです』


『シオン、無理せずに早く超光速航法に入れ』


『駄目よ。雪風が超光速航法に入ったら、残った傭兵がドローンに倒されるわ』


 実際、要塞の戦闘ドローンが傭兵の船を一隻も沈めていないのは、雪風がいるおかげである。追いすがってくる小型戦闘ドローンの七割を雪風が撃破し、残りを傭兵が撃破しているのだ。そして傭兵達が超光速航法で離脱すると、それだけ戦闘ドローンの攻撃は雪風に集中する。


>『帆船と同じ素材を使っているから大丈夫と分かっていても、あれだけ攻撃を受けるのを見ると怖いな』


>『大丈夫です。戦闘ドローンだけなら雪風で対応可能です』


 元となったカゲロウ級駆逐艦の装甲は、帆船の装甲ほど頑丈ではなかった。そのままでは帆船と合体させても、雪風が弱点となってしまう。そこで帆船が自分の装甲材を提供して雪風は製作された。つまり帆船と同じく、戦闘ドローンの攻撃は全て装甲材が吸収し、エネルギーへと転換される。つまり戦闘ドローン達は、自分の放った攻撃をレーザーとして跳ね返されているともいえる。


 帆船は雪風の援護に向かって移動中だが、戦闘ドローンがそれを阻止するように攻撃を強める。エネルギー兵器や対艦ミサイルの効果が無いと分かると、体当たりしてくるドローンが増えてきた。おかげで帆船の周りはドローンの破片が渦巻いている。どうやら要塞の電子頭脳は、帆船と雪風が合流するのを防ぎたいようだ。


>『どうして雪風との合流を妨げるんだ。合流してから攻撃した方が効果的だろ?』


>『理由は不明です。ですが敵の準備している兵器が、本船には通用しないと考えているのでしょう。それを元に兵器を推測します』


 電子頭脳が巨大宇宙船の兵器を推測している間にも熱源は大きくなるが、発射されない。

 そして何事も無く、最後の傭兵の宇宙船が超光速航法に入る。「これで雪風も逃げ出せる」と俺がそう思ったとき。


>『…敵要塞内に重力異状を検出。攻撃はエネルギー兵器では無くマイクロブラックホール砲と推測されます。これはシールドの魔弾では防げません。雪風は直ぐに超光速航法で待避をして下さい。いえこのままでは間に合いません』


 電子頭脳が警告を出すが、その警告と同時に巨大宇宙船からマイクロブラックホールが発射された。


 帆船と同じ装甲といえど、マイクロブラックホールの重力とホーキング輻射熱には耐えられない。帆船であれば、シンデン()の気功術という物理法則を曲げる力があるが、シオンは魔法使いだ。マイクロブラックホールを受け止めるのは不可能だ。唯一の可能性として、シオンのシールドの魔法であれば、受け止められるかもしれない。

 しかし、マイクロブラックホールの重力と熱量は、ある意味物理法則の限界を示す攻撃だ。もしシールドの魔法での防御に失敗すれば、雪風は蒸発してしまうだろう。


『シオン、避けろ』


 俺も雪風に向かって叫ぶが、それが不可能に近いことは理解していた。


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