オペレーション・ブレイクショット(1)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
『要塞級に小惑星をぶつけて破壊する準備は整った。今から作戦「ブレイクショット」を開始する。各自指定のタイミングで超光速航法に入ってくれ』
シンデンの号令の元、傭兵達は次々と小惑星を牽引する。
>『バックアップ霊子にしては良いネーミングですね』
>『二日間必死に考えたんだよ。それより超光速航法の開始タイミングは大丈夫なのか?』
電子頭脳が作戦名を褒めるが、俺はそんな事より小惑星の牽引が上手くいくことの方が重要だ。百隻に及ぶ船が小惑星を牽引するのだ、船の大きさや推力などのバランスを考えて配置したが、それが計算通りか確認は必要だ。
>『問題ありません。誤差は修正可能な範囲内です』
本来百キロメートルもある物体を超光速で移動させようとするなら、巨大な超光速航法回路が必要となる。しかし今回はそんな物を準備している暇が無い。そこで電子頭脳が考えたのは、傭兵達の宇宙船の超光速航法回路を同調して駆動させる事だった。帆船の電子頭脳が無ければ不可能な方法であったが、それで小惑星を超光速空間に引き込むことが可能となった。
超光速空間に次々と浮上する傭兵の宇宙船、そしてそれに牽引される形で巨大な小惑星が浮上する。いや、浮上できずに水面下にいるが、何とか超光速空間に存在していた。
>『ギリギリだな。これだけ水面下に沈んでしまったら抵抗が大きくて牽引できないんじゃ無いのか?』
>『そこは雪風と本船が頑張ります』
雪風には超光速空間で使用可能な増速装置が搭載されている。帆船の下にマブチ○ーターのように接続された雪風の推進部がプロペラに変形すると、小惑星を引っ張るだけの推力を生み出した。
超光速航法に成功した小惑星だが、次は目的の地点で超光速空間から離脱させなければならない。離脱させる事は簡単だが、その位置が少しでもズレると宇宙空間では膨大な距離となる。百隻もの超光速航法の同調を繰り返すのは大変なので、離脱のタイミングも難しいのだ。敵の位置から、超光速航法は数分ほどで終了する。
『超光速航法停止!』
『超光速航法停止!』
『超光速航法停止!』
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傭兵の船が次々と沈む中、帆船と雪風は最後まで位置を調整するために残った。そして小惑星は通常空間に出現した。
>『どれぐらいズレた?』
>『計測中…予定ポイントより三光秒ズレましたが、許容範囲内です』
『よっしゃー』
『やってやったぜ』
『うらー』
小惑星の超光速航法は成功した。それを知って傭兵達が雄叫びを上げる。
>『索敵担当の傭兵から通信。「要塞級レリックシップの進路は変わらず」です』
>『まあ、小惑星が現れたぐらいじゃ動じないか。傭兵達の準備はできているか?』
>『あと少しで…準備完了です』
傭兵達の船が小惑星を牽引する為の準備は整った。後は実行有るのみ。
『傭兵諸君、加速を開始してくれ』
『おう、任しとけ』
『エンジン全開だ焼け付くまで回せ』
『全力で引けー』
シンデンの号令(電子頭脳が個別にタイミングを調整済み)で、傭兵達が小惑星を引っ張る。マニピュレータの付いている船は、側面に取り付いて方向修正を行う。予定では六時間ほど加速することで、十分な速度に達する予定だ。そして九時間後には要塞に衝突する。小惑星は電子頭脳の計算通りに加速していった。
★☆★☆
加速を開始してから八時間ほどで、巨大なウニのような形の要塞級レリックシップの姿が光学カメラで見えてくる。未だ要塞の反応は無いが、傭兵達は小惑星の牽引を止めて、その背後に隠れるようにして移動して貰う。
>『ここまで順調だと、怖いくらいだな』
>『そうですね。とっくにこちらの動きは探知していると思うのですが。そろそろ迎撃するか進路変更を行うでしょう』
そう電子頭脳が言った途端、要塞から何かが飛び出した。
>『要塞級から大型戦闘ドローンが発進しました。その数五百隻です』
要塞まであと一時間というところで、大型戦闘ドローンが出てきた。戦闘ドローンと言っても大きさは百メートルを超えるサイズだ。傭兵達の宇宙船より大きい。そんな大型戦闘ドローンが五百隻ほど小惑星に向かってきた。
『大型戦闘ドローンが、五百隻か。俺達で勝てるのか?』
『戦力差は五倍か。こりゃ撤退しかないだろ』
『戦いもせずに逃げ出すなんて情けないよ。私はシンデンを信じるわ』
小惑星を引っ張った勢いでここまで来たが、傭兵達は敵の戦力を見て逃げ出す事を考え始めた。五倍の戦力差なら当然の判断だ。
>『ようやく動き出したか。あの大型戦闘ドローンで小惑星は破壊できると思うか?』
>『破壊は不可能ですが、対艦ミサイルを小惑星の構造の弱い部分に撃ち込まれると、小惑星が欠けて、質量弾の威力が減少します』
>『なるほどな。対艦ミサイルが発射されたとして、雪風と傭兵達で迎撃可能か?』
>『トーサン星域軍から提供されたデータでは、大型ドローンの対艦ミサイルの搭載数は二十発です。傭兵達と雪風で十分に対応可能です』
>『ミサイル攻撃なら迎撃で、大型ドローンが傭兵を狙い始めたら敵を引きつけながら撤退させよう』
シンデンは作戦内容を傭兵達に伝え、ミサイルの迎撃をさせるために、小惑星の背後から側面に移動させた。逃げ出す奴もいるかと思ったが、全員作戦通りに動いてくれた。どうやらシオンの一言が聞いたらしい。
>『対艦ミサイル攻撃が始まりました』
大型戦闘ドローンから、一機当たり十発の対艦ミサイルが発射される。五千発のミサイルは、電子頭脳の予想通り小惑星の中心を狙っているようだった。全弾発射しなかったのは、最初の攻撃で、どれだけ小惑星が破壊されるか確認するためだろう。
『傭兵は、電子頭脳が割り振った指定のミサイルを迎撃しろ』
星域軍と異なり、傭兵達の船の武装は統一されていない。各船の武装に合わせてどのミサイルを狙うかは、電子頭脳が割り振ってくれる。しかし集団行動になれていない傭兵達では、当然撃ち漏らしも出てくる。
『シオン、傭兵が迎撃に失敗したミサイルは、雪風で破壊しろ』
『分かったわ!』
『雪風、任せましたよ。私のコピーなのですから、無駄撃ちは許しませんよ』
『了解です。操縦者の技量不足は私がカバーします。無駄撃ちなどさせません』
帆船の電子頭脳が雪風の電子頭脳に命令する。雪風の電子頭脳のマスタープログラムは、シオンとの相性から会計処理プログラムがベースとなった物である。船の損傷や物資の無駄使いにうるさいが、帆船のマスタープログラムのような、危険な行動は取らないので安心できる。そして雪風は駆逐艦級とはいえレリックシップである。帆船には及ばないものの、傭兵の宇宙船とは桁違いの威力を持つレーザーで、対艦ミサイルを撃破していく。
俺の目の前には、大型戦闘ドローンから発射された五千発の対艦ミサイルが、次々と撃破される様子が表示される。
>『対艦ミサイルの迎撃は成功したな。次にやってくるのは…』
>『傭兵達の排除を狙うでしょう。それから残りのミサイルで攻撃。要塞級からの増援も来るかもしれません。…大型戦闘ドローンから、小型戦闘ドローンの発進を確認しました』
対艦ミサイルを全て破壊された大型ドローンが次に取った戦術は、小型ドローンによる傭兵達の排除である。全長二十メートルの芋虫のような小型ドローンが、大型ドローンから飛び立つ。その数は二万機と、とてつもない数である。さすがに傭兵達だけでは、この数の戦闘ドローンを倒すのは難しい。
>『数で圧倒するか。まあ予想通りの戦術だな。傭兵と雪風だけでは対応できない。帆船も出すぞ。要塞級に小惑星が命中するまで後五十分と二十秒。持ちこたえるんだ!』
>『了解です。では船首像を分離しますので、後の制御はお願いします』
>『慣性制御装置の制御か~。電子頭脳さんの補助が無いのが不安だが、頑張るよ』
『がんばれよ、俺』
『ああ、狂気に陥る前に何とか戻ってきてくれ』
船首像を残して帆船は小惑星から出て行く。今まで帆船が居たのは小惑星の中心である。小惑星の慣性制御を行うためには、装置はその物体の重心付近に設置しなければならない。準備に二日もかかったのは、小惑星の中心まで穴を掘って慣性制御装置を設置する為だった。
船首像と分離した帆船が小惑星の表面に出た頃には、傭兵達は小型戦闘ドローンに追われるように後退していた。殿は雪風が勤めている。小型戦闘ドローンの殲滅は、駆逐艦だった雪風の得意分野だ。水上戦艦というより潜水艦の様に見えるが、船体の各所に回転レーザー砲塔が顔を出して、小型戦闘ドローンを撃破している。
今のところ傭兵達に犠牲者は出ていない。危なくなったら超光速航法で逃げ出せば良いと傭兵には言ってある。
>『敵の注意をこちらに向ける。俺の船は敵小型ドローンに向けて、対空散弾を使用する。傭兵は砲撃に巻き込まれないように注意しろ』
>『了解しました。戦闘モードに移行、主砲を発射します』
主砲が甲板にせり上がると、対空散弾が装填される。傭兵と雪風が安全圏にいることを確認して、主砲から巨大な砲弾が発射される。
旧日本軍の使った三式弾は約千発の散弾をばらまくが、八十センチ、五十口径の主砲から放たれた対空散弾は、一万五千発の散弾をばらまく。三発の散弾は、小型戦闘ドローンの編隊の中で爆発すると、周囲の小型ドローンが一斉に火球となり破壊される。今の一撃で、およそ千機の小型ドローンが宇宙のゴミとなった。
>『たまやー…って気分だな』
>『汚い花火ですね』
>『まあ、そうだな』
攻撃されて帆船の存在に気づいた小型戦闘ドローンは、その半数が進路を変えて向かってきた。
>『敵の中に突っ込むぞ。主砲は傭兵に向かっている小型ドローンを対空散弾で狙え。副砲は本船に近づく奴を撃破しろ』
>『了解しました』
主砲が連続で対空散弾を発射して、傭兵を追いかける小型ドローンを撃破する。そして帆船は小型ドローンの衝突を物ともせず小惑星の表側に回り込んだ。
>『大型ドローンからの対艦ミサイルとレーザー砲の攻撃が来ます』
>『雷網の魔弾で対艦ミサイルを攻撃。レーザーは避ける必要も無い!』
再び小惑星を狙った五千発の対艦ミサイルは、雷網の魔弾が発生させた、巨大な雷の網に絡め取られ爆発していく。レーザー砲の攻撃は帆船の装甲に吸収され、帆船のエネルギーとなってくれる。
>『さすがに五千発全ては迎撃できなかったか』
>『申し訳ありません』
雷網の魔弾をかいくぐった数十発の対艦ミサイルが、小惑星に命中してその一部分を破壊する。
>『要塞から新たに五百隻の大型ドローンが出撃しました。また要塞級の進路が変更されました』
>『小惑星から逃げるつもりか?』
>『いえ、こちらに向かってきます。姿勢制御スラスターの噴射口と推測された部分は、大型対艦ミサイルと判明。要塞は、それを小惑星に撃ち込むつもりの様です』
ウニに見える要塞の突起部分は、星域軍の分析では姿勢制御スラスターと思われていた。しかし帆船がこの距離でスキャンした結果、全てが大型の対艦ミサイルだった。
>『大型対艦ミサイルとか、そんな物を隠していたか。まあ、進路を変更させたから作戦は成功だ。しかし、傭兵達に要塞を攻略すると大見得を切ったのに、失敗するのは悔しいな』
>『小惑星を破壊できる兵器が無いと判断を誤ったのは本船です。マスターの責任ではありません』
電子頭脳が自分の判断ミスと言うが、それを信じたのは俺である。責任は俺が取るべきだ。
>『起死回生の一手がほしいな』
俺は無い知恵を振り絞る。
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