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緊急依頼

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 元の形状を考えると、完全に新規建造に近い改造を受けたカゲロウ級駆逐艦雪風は、帆船の下部に接続した姿で恒星から出てきた。その形状を一言で言うなら、水上艦のプラモデルの下に接続して駆動する水中用モーターである。


「帆船の下にマブチ○ーターとか、プラモデルの世界だな」


「マブチ○ーター、プラモデル?シンデン、それって何?」


「いや、気にするな。シオンが知らない世界の話だ」


 俺の感想にシオンは首をかしげているが、この世界ではプラモデルは既に絶滅している。模型作成というジャンルは残っているが、金持ちの道楽の世界であり、もうバ○ダイやタ○ヤは存在していない(と思われる)。ちなみに、俺がマブチ○ーターを知っているのは、親父が水上艦のプラモデルに付けて遊んでいたのを見たからである。


 改造されたカゲロウ級駆逐艦雪風は、全長百メートルほどの楕円筒形の船体で、後部に巨大な推進機がついている形状である。旧式の垂直打ち上げ型のロケットか魚雷のように見える形だが、民間船や海賊船でも使われているデザインである。ロケットや魚雷と異なるのは、中央から少し後ろの方向に向けて大きめの安定翼がついて点だろう。尾びれの無いコバンザメの様な形である。


 帆船と雪風は合体した形で恒星から出てきたが、この時代の宇宙船は別な宇宙船と合体するという機能を持つ物も多い。何せ超光速航法を行えるパイロットが少ないのだ、合体して一つの宇宙船になれば、超光速航行を行うパイロットは一人ですむ。運搬船もコンテナを連結して超光速航行するのだ、船同士が合体する事は傭兵や海賊でも当たり前の機能であった。つまり、帆船の下に雪風が接続されていてもおかしくは無い。


「シオンの船も完成した。さっさと傭兵ギルドに戻るぞ」


「はーい」


 船首像は帆船と合体すると、恒星系を後にした。


 ★☆★☆


 シオンの船を登録する為に、俺達はトーサン星域でも最も田舎のカント恒星系にある傭兵ギルドに向かった。なぜ田舎の傭兵ギルドに向かったかというと、田舎のステーションの方が新規で船を登録する際の審査が甘いからである。今回の依頼である海賊退治は別な傭兵ギルドで受けたが、完了報告もそこで行う必要は無い。カントの傭兵ギルドの依頼も何度かこなしているので、ここでも海賊を撃退したデータを提出すれば依頼は完了と認められる。


 雪風の登録のために訪れたカント恒星系第二惑星のステーションだが、到着早々にステーションの様子がおかしいことに気づく。田舎のカント恒星系なのに、傭兵の船がステーションの宇宙港だけじゃなく外にも停泊していた。また星域軍の船を護衛に付けて、ステーションから移民船のような巨大な宇宙船出港していく。まるで惑星の住民全ての引っ越し…いや夜逃げのようであった。


 ステーションに船を着ける場所も無かったのだが、帆船を見たステーションの管理職員が慌てて場所を空けてくれた。


「傭兵の船が多い。それに惑星から人が逃げ出しているようだな」


「そうね。もしかしてカントが爆発でもするのかしら」


「カントは安定した恒星だ。爆発などしないだろう。まあ傭兵ギルドに行けば事情も分かるだろう」


「そうね。とにかく依頼の完了報告と、雪風の登録を行わなきゃ」


 シンデン()とシオン、そして響音(おとね)は傭兵ギルドに向かった。見ると、ステーションの中の店はほとんどが閉まっており、まるでゴーストタウンのような有様であった。そんな中で唯一活気のある場所が傭兵ギルドだった。


 傭兵ギルドの扉を開けると、そこは戦場のような有様であった。


「はい、直ぐに住民の避難船の護衛をつけますので、しばらくお待ちください」


「BBランクのキャプテン・ダッグ様、緊急依頼の受け付けが終了しましたので、傭兵ギルから連絡があるまで待機お願いします」


「Cランクのローソン様、緊急依頼の受け付けが終了しました」


「マジかよ、俺今日傭兵登録したばかりなのに」


「ギルドの規則ですので。もし逃亡したらどうなるか『傭兵の基礎』を良くお読みください」


「まだ受け付けされていない方、早く受付をお願いします」


「他の恒星系からもっと傭兵は集められないの。うちのギルドだけじゃ、あれの進路を変更できるか不安なのよ。星域軍にも戦力を派遣するように要請しろって、とっくにしてるわよ!」


 カウンターの受付嬢だけではなく、通信端末に向かってギルド支部長が怒鳴っていた。とてもシオンの依頼完了を告げるような状態ではない。


「シンデン、緊急依頼って何?」


「ああ、傭兵ギルドがだす特別な依頼だ。滅多に出されないが、大規模な海賊団が星系を襲ったとか、危険な宇宙生物(・・・・)が大量発生したとか、まあ星域軍でも手が足りない場合に傭兵ギルドが出す強制的な依頼…だ」


 俺は、シンデンの知識からそこまでシオンに話したところで、気づいてしまった。現在このステーション、いや恒星系が何か緊急事態に襲われており、傭兵ギルドが緊急依頼を出しているのだ。


『シオンの船を登録するのに田舎のギルドを選んだが、これは失敗したか』


 シオンに説明したように、緊急依頼はその恒星系または星域に滞在する傭兵全てに出される、強制的(・・・)な依頼である。既に依頼を受けてしまっている傭兵を除き、フリーの傭兵は全てその依頼を受ける必要がある。もし依頼を無視すれば、傭兵ギルドから大きなペナルティ(除名ではなく、ただ働き)が課せられるという、厄介な物である。宇宙船の修理や補給は無料だが、報酬は雀の涙だ。


>『電子頭脳さんなら緊急依頼が出ていたことに気づいていたでしょ。どうして教えてくれなかったんだよ』


>『もちろん気づいてました。報酬から考えると緊急依頼を受けない事も考慮しました。ですが、マスターであれば、緊急依頼から逃げるという選択はしなかったでしょう。だから、あえて(・・・)バックアップ霊子()には伝えませんでした』


>『つまり、緊急依頼から逃げるような行動は、シンデンは取らないって事か。しかし緊急依頼って事は、危険な依頼だろ?』


>『…この依頼内容であれば、本船は大丈夫です。シオンと雪風の試運転には最適な依頼です』


>『分かった。どの道ここまで来たら逃げられないんだ、雪風の試運転がてら、カント恒星系を救ってやるよ』


>『本船と雪風なら可能です。バックアップ霊子()は頑張って下さい』


 電子頭脳にそう言われて、俺は思考をシンデンの方に戻した。


「シンデン、強制的な依頼って、危険な依頼なの?」


 シオンが心配そうな顔でシンデン()に聞くが、雪風の試運転に最適な依頼だとは言えない。


「まあ危険な依頼が多い。とにかくギルドの連中に依頼の内容を聞かないとな」


 シンデン()はそう言って、手空きのギルド職員がいないか見回したのだが。


「シンデンちゃん、良いところに来てくれたわ」


 めざとく俺を見つけたギルド支部長が、地獄で仏に会った様な顔をして手招きする。


「緊急依頼の内容を聞いてくる。シオンは依頼の完了と雪風の船体登録を済ませろ。響音(おとね)はシオンを護衛だ」


「うん。私も受付の人に緊急依頼について話を聞いてみるよ。後、人型ドローンの護衛なんていらないよ」


「緊急依頼で傭兵達は気が立っている。お前の安全の為だ、我慢しろ」


 シオンが響音(おとね)を嫌っているため普段は連れてこないのだが、今日はステーション内が騒がしいので護衛にと連れてきた。シンデン()が側に居れば間違いなど起きないのだが、ギルド内は厳つい傭兵達で溢れかえっている。シオンが誰かと揉めて魔法でも使ってしまえば問題となる。それを避けるために響音(おとね)がシオンを守る…いや実際は傭兵の方を守っているのだ。


「私の安全のため…うん、我慢するわ」


 受付を済ませるため、傭兵達の列に並んだシオンを見送り、俺はギルドマスターの所に向かった。


「シンデンちゃんが居てくれて助かったわ~。これは神様の思し召しかしら~」


 針金のような手足にアフロヘア、そしてとどめにハートマークのサングラスをかけたギルド支部長が、シンデンの肩を叩いて喜ぶ。彼の服装のセンスは、ギルド支部長と言うより、芸人に近い。


「緊急依頼を聞くのは久しぶりだ。何かあった」


「それがね、どうも野良戦闘ドローン群体が襲って来るみたいなの。それも、後一週間ほどでカント(ここ)に来るらしいわ」


「野良戦闘ドローン群体か。星域軍なら簡単に片付けられるだろう。傭兵ギルドが緊急依頼を出したり、惑星の住民まで避難させる様な事にはならないはずだが?」


 野良戦闘ドローン群体とは、何らかの理由で人類の制御を離れたAI戦艦や戦闘ドローンの事である。現在のAI戦艦や戦闘ドローンは、指揮する有人戦艦が破壊されたり逃げ出したりすると、待機状態になるように設計されている。しかし過去に作られた兵器の中には、有人戦艦が破壊されると、味方と識別できない全ての宇宙船やステーション、星にまで攻撃をするAIが搭載されている物が存在する。


 しかし、過去のAIで制御された兵器など、最新のAIで制御された戦闘ドローンに取って雑魚も同然である。傭兵ギルドに緊急依頼を出すような話ではない、星域軍が戦えば良いのだ。


「それが…どうやら野良戦闘ドローン群体の母体が要塞級らしいの…」


要塞(・・)級だと。AI制御の要塞とか、そんな物が存在した話は聞いたことが無いぞ。何かの間違いじゃないのか?」


「間違いだったら良かったんだけど…」


 ギルド支部長の話によると、要塞級の野良戦闘ドローン群体を見つけたのは、冒険者ギルド所属の宇宙船だった。カント恒星系から新しい恒星系への航路を調査中に、休憩のために超光速航法を解除したのだが、そこで全長百キロメートルを超える巨大な建造物に出会ってしまった。最初は未発見のレリック(遺物)だと思って大喜びしたが、近づくと多数の戦闘ドローンが襲いかかってきた。慌てて超光速空間に逃げ込んで、冒険者達は逃げ出した。


 冒険者ギルドから連絡を受けた星域軍は、情報の真偽を確かめるために偵察部隊を出した。そして冒険者ギルドの情報通り、野良戦闘ドローン群体を発見した。そして強行偵察の結果、それは人類が作り出した物ではなく、異星人が残した物、要塞級のレリックシップ(遺物船)だと判明したのだった。


レリックシップ(遺物船)といっても人類の戦闘ドローンと同じぐらいの戦力らしいの。単体なら勝てない相手じゃないのよ。ただ数が途方もなくてね」


「全長百キロメートルの要塞ともなれば、搭載されているドローンの数は億は超えるな。確かにトーサン星域軍では勝てない」


 トーサン星域は辺境の星域である。隣の星域と領土問題も抱えておらず、星域軍は海賊や密輸を取り締まる程度の数しか揃えていない。要塞級の戦艦を持つ星域国は、両手の指で足りるほどしかないだろう。


「状況は分かった。だが、俺は要塞級と正面から戦って勝てるとは思ってない。そんな依頼であれば断る」


「分かっているわよ。シンデンちゃんに頼みたいのは、要塞級の進路を変える事よ。星域軍の偵察部隊の報告だと、戦闘ドローンと戦った際に、要塞の進路が少し変わったようなの。つまり要塞級は、カント恒星系じゃ無くて、敵を探して彷徨いているだけなの。だから敵を作ってやれば…」


「カント恒星系から進路を変えるか。分かった。だが、相手が無人機なら、傭兵が避難民の護衛をして星域軍が戦うべきだろ。なぜ傭兵が戦う事になったんだ」


「星域軍の装備で勝てるならそうするわ。でも勝つんじゃなくて敵を引きつけるの。そんな事AI戦艦や戦闘ドローンには無理だわ。それに傭兵の船ならいざとなれば超光速航法で逃げられるもの」


「トーサン星域軍は、AI戦艦や戦闘ドローンより、傭兵の命の方が安上がりと判断したのか。そんな事をすればトーサン星域に傭兵が寄りつかなくなるぞ」


「そうなったら、私も困るのよ。だからシンデンちゃんがいて良かったって。貴方なら傭兵達を纏め上げてくれるでしょ。できれば傭兵の被害は最小限にして欲しいの」


 ギルド支部長がきらきらした目でシンデン()を見てくるが、それは元のシンデンへの期待である。その期待に俺が応えられるとは思えない。もう帆船だけで戦った方が良いのだが、そんな事は言えない。


「善処する」


 シンデン()はそう言ってシオンの元に向かった。


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