シオンの船
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
船首像を接舷させて、数体の作業ドローンとシンデン、響音がステーションに降り立った。
>『ヤマト級レリックシップのようなトカゲ人型ドローンは見当たらないな。ヤマト級もだったが、船内に防衛設備をおかないのが普通なのか?』
>『肯定。帆船の創造主も船内に防衛設備をおくのは無駄と判断』
>『まあ、そっちの方が楽で良いけどね。』
『シンデン、気を付けてね~』
『分かっている。油断などしない。お前も回収作業をしっかり見ていろ』
撃破した海賊船(九十二式偵察機)を回収中のシオンに返事を返し、シンデンは作業ドローンを伴い、ステーション…カゲロウ級駆逐艦に乗り込んでいった。
>『ヤマト級と違って、通路は生物的な造形じゃ無いな。どちらかと言えば人類の宇宙船に近い』
>『カゲロウ級駆逐艦の設計者は、ヤマト級と別人』
>『内装は設計者の趣味で変わるのか』
電子頭脳と会話をしながらも、俺達は油断せずにカゲロウ級駆逐艦の電子頭脳がある区画に向う。
>『ここが電子頭脳があった区画か。完全に破壊されているな』
>『肯定。これでは自力での復旧は不可能』
カゲロウ級駆逐艦の電子頭脳が存在した部分は、巨大な穴が開いており何も存在していなかった。
>『このレリックシップはカゲロウ級駆逐艦だっけ?駆逐艦って事は雷撃か対潜水艦の船だよな』
>『肯定。カゲロウ級駆逐艦は敵小型艦艇の迎撃と超光速空間での雷撃をおこなう艦種』
>『霊子力兵器は搭載しているのか?』
>『非搭載艦。ただし、対霊子力フィールドは装備』
>『腕がついてないと言うことは、魔法使い向けなのか?』
>『否定。カゲロウ級駆逐艦は魔法使い、理力使いどちらにも対応可能』
>『腕が無いのに理力が使えるのか?』
>『人類の理力に対する技術が未熟なだけ。聖石があればマニピュレータなど不要』
人類の理力使いは、九字を切る為のマニピュレータを必要である。しかし、帆船の時代には聖石という魔法使いの魔石に相当する物が存在し、それがあればマニピュレータを必要とせずに理力が使えるとのことだった。しかし人類はそれを貴重な宝石として思っているだけで、使い方を知らなかった。シンデンも聖石は宝石ぐらいにしか思っていなかった。電子頭脳は、気功術士であるシンデンにわざわざ教える必要も感じなかった様である。
>『なるほど、もし魔石があればこの船をシオンに使わせるのもありか。電子頭脳さんはシオンがこの船を使っても良いと思うか?』
>『…敵対勢力が設計した艦を僚艦とするのは複雑。できれば否『いえ、これはシオンさんに使って貰うべきです』』
俺と電子頭脳の会話に割り込んだのは、シオンの海賊船回収の補佐のために再起動させた、会計処理プログラムだった。
>『敵対していたとはいえ、カゲロウ級駆逐艦は優秀な船です。今後ヤマト級レリックシップとの戦いを考えるなら、必要な戦力です。何より、人類の宇宙船と違い、燃料が必要ありません。運用コストがゼロな船を使わないとかもったいないです』
マスタープログラムは嫌そうだったが、会計処理プログラム的には、維持コストがかからないことが重要だった。確かに宇宙船の維持コストがかからないというのは、大きなメリットである。俺はヤマト級と異なり、普通の宇宙船に近いカゲロウ級駆逐艦を使う事に異論はない。
>『俺はこの船を使う事には賛成だな。少なくとも人類の作った宇宙船より高性能だし、霊子力兵器への防御もある。だが、ここまで破壊されたレリックシップを修理できるのか?』
>『自己修復機能の暴走を停止させ、帆船の制御下で修理を監視すれば可能です。近くに恒星もあることですし、物資もエネルギーも問題ありません』
>『失われた電子頭脳の代わりはどうする』
>『電子頭脳としては、人類の艦艇向けの電子頭脳ユニットと、今回鹵獲した九十二式偵察機のクローン脳ユニットを再プログラミングして使用します。カゲロウ級駆逐艦の可動であれば問題ありません』
人類の電子頭脳ユニットでは処理能力が足りないが、そこは異星人の作成したクローン脳ユニットを二基追加することで補える。クローン脳を使う事には少し不安も感じるが、そこは電子頭脳を信じるしかない。
>『了解だ。クローン脳の処理は任せる。残るは魔石だが、どうやって調達するかだな。普通の手段じゃ入手できないぞ』
魔法使いが大規模な魔法を使うには魔石を必要とする。星域軍の魔法使いの人型兵器は仮面に付けていたし、ヤマト級も巨大な魔石を持っていた。魔石は大規模魔法に必要な物であるため、市場には流通していない。遺跡から見つかった物が売りに出されても、星域軍が大概購入してしまう。つまり魔石が欲しければ、大金を積むか自分で見つけるしかないのだ。
>『魔石を生成する機能は本船にあります。恒星内のマナを圧縮すれば良いだけなので、修理中に作成します』
>『魔石を作り出せるって、それなら魔石を売るだけで資金が幾らでも手に入るじゃ無いか』
>『バックアップ霊子は、それがどのような結果となるか理解されてますか?魔石を作って売ると言うことは、武器を作って売るような物です。マスターは当然自重しておりました。それに本船に魔石を作成できる機能があると知られたら、全星域国家が本船を狙ってくるでしょう』
>『…なるほど。確かにそうだよな。シンデンと電子頭脳の判断が正しい。すまん、ついこの前まで資金不足だったから、そこまで考えが及ばなかったよ。だが、一つぐらいなら、海賊の巣で見つけたとか言って売っても良いかなと思うんだけどね』
>『マスターは、レリックシップを所持している事で傭兵内でも目立っております。その上、魔石や聖石を売ることは、悪目立ち過ぎます』
>『それじゃ、この船をシオンが使うのも不味くないか?貴重なレリックシップが更に増えることになるぞ』
>『肯定。マスタープログラムは、カゲロウ級駆逐艦の破壊を提案』
>『問題ありません。カゲロウ級駆逐艦をそのまま復元すれば目立つでしょうが、魔法使いのための船として偽装すれば良いのです』
>『バックアップ霊子が判断』『バックアップ霊子が判断して下さい』
マスタープログラムと会計処理プログラムの意見が対立したが、そこは俺が判断することになった。
>『うーん、俺の判断か。敵対勢力の船をマスタープログラムが嫌うのは分かるし、悪目立ちすることは避けたい。だが、この前の事件でシンデンは既にヤマト級のレリックシップを破壊したことが知られている。…もし帆船の敵対勢力のレリックシップが封印から解除されていたなら、いつかは襲ってくるだろう。その場合、シオンが戦力として戦えるようになってくれれば助かる。帆船で戦うという案もあるが、選択子は増やした方が良い。つまり、会計処理プログラムの案に賛成だ!』
>『残念』
>『やはりそうですよね』
>『だが、条件がある。このカゲロウ級駆逐艦を修理するなら、水上艦のような形状は駄目だ。人類が開発した宇宙船の形状、特に海賊が作った宇宙船に似せてくれ』
>『了解しました』
電子頭脳とカゲロウ級駆逐艦の対応を決めた俺は、後はジェネレータや操縦席などの区画を見て回った。ジェネレータは無傷であったが、操縦席は破壊されており作り直す必要があった。当然操縦者をコントロールする装置などは付けない。
一通り見回って問題無いことを確認すると船首像に戻り、海賊船を回収したシオンと合流して、シオンにステーションがレリックシップであることを教える。
『えーっ、あのステーションってレリックシップだったの。凄いお宝だよね』
『ああ、だが今は壊れているので修理が必要だ。修理はこの船で可能だが、レリックシップだと知られれば、俺達は二隻のレリックシップを持った傭兵になって目立ってしまう。だからあのレリックシップは元の形で復元せず、海賊船という形で修理する』
『目立つのが駄目なら、売れば良いんじゃないの?』
『いや、改造した船はお前が使うことにする。だからレリックシップとは分からないように改造するのだ』
『私が使うの?私はシンデンと一緒の船が良いんだけど』
『今すぐとは言わないが、俺達は、シオンを掠ったレリックシップと同じような船と戦うことになるだろう。そうなった場合、帆船だけでは戦力不足だ。そして人類の作った宇宙船では、戦力にはならない。このレリックシップを、お前が使いこなしてくれれば、お前が帆船に乗るより戦力アップになる。すまないが、そうして欲しい』
『…シンデンがそう言うのなら。分かったわ』
シオンは嫌がるかと思ったが、意外とすんなりと受け入れてくれた。
『シオンが決心してくれたのなら、直ぐに改造に入ります。そこでこの船の仕様について、シオンに相談があるのですが』
『電子頭脳が相談ってなに?私宇宙船の事なんて知らないよ。ああ、帆船みたいな操舵室だけは止めてね。どうせならシンデンとおそろいの船にしたいな』
シオンはそう言うが、さすがに俺とおそろい(帆船)は不味いので、止めさせた。シンデンのレリックシップをまねた帆船型宇宙船というのは存在する。しかしシンデンが退治した海賊がそれを持っているというのは出来すぎである。俺とシオンは電子頭脳と相談して海賊船らしいデザインの中で船の形を決めていった。
電子頭脳がシオンに船のデザインを尋ねたのは、魔法使いが使う服と一緒で、船も魔法使いが納得した形の方が魔法の威力が上がるからだった。
そして、最後にできあがったデザインを見て、俺は頭を抱えていた。いや、俺も悪のりした部分はあるが、少し自重すべきだった。
★☆★☆
カゲロウ級駆逐艦の修理と改造には二日ほどかかるとのことだった。修理の間は恒星にこもることになるので、その間俺とシオンは船首像で待機していた。まあ、シオンがシンデンにべったりとしてくるが、まあ適度にあしらっておく。
「しかし、あんなデザインで良かったのか。もっと普通の船にすれば目立たないのだが」
「どうせシンデンと一緒に居るんだもの、目立つわよ。それにあの形ならシンデンの船とも合っているでしょ」
「まあ、合わないこともない…か。俺も了解したのだからな。それで船の名前は決めたのか」
「うん、決めたよ。船の名前は『雪風』よ。何でも地球という人類発祥の地の船で、幸運艦って呼ばれる船の名前らしいの。星域軍でも同じ名前の船があるみたいだけど、古文字である漢字じゃ誰も登録してなかったみたい」
『なるほど『雪風』か。良い名前だな』
そうして二日後に、帆船は修理を終えたカゲロウ級駆逐艦、いや雪風を伴って恒星から出てきた。
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